談話
神楽の部屋に刀と二丁のハンドガンを横におき正座するトシキ。トシキの腕にしがみつく翠と、トシキの頭に顎を乗せる美琴。
トシキ達と向かい合うように神楽達がジト目でみている。
「…あの」
「あんたの課題って、女を拾ってくることなの?」
トシキの言葉を遮る霊紗。怒気が半端ない。
「いや、ちが」
「あ?」
「…違います」
「何が違うの?」
「課題は違うけど、放っておけなかったんです…」
何だこれ…
人助けして怒られるとか、オレ間違ってる?あれ、もうわかんねーや
涙目になるトシキ。
「おにーちゃんをいじめないで!」
翠がトシキの前に立ち、壁になる。
「…みどり?」
驚いて翠を見るトシキ。
「…ガキはすっこんでなさい。」
霊紗がうっとーしそうな表情をする。
「ガキじゃないもん!あたしは13歳だもん!!」
なん、だと!?
もっと下だと思ってた…
「…で?」
霊紗の目が怖い。
他にもカガリの目が怖い。神楽達は、怒気が抜け苦笑い。
「えっと……、ぅ」
翠がその表情にビビり顔が泣きそうになる。声や体が震えているため、トシキも様子の違いに気付く。
「ふえぇぇ…」
泣きながらトシキの胸に飛び込む。
「おっと、どうした翠?」
トシキの服を掴み泣きじゃくる翠。
「怖いよー、あのおねーちゃん怖いよー!」
と、霊紗を指差す。
「なっ!?」
指差された霊紗が驚く。泣かせるほど怖い顔してたのか、と焦る。
「よしよし、もう大丈夫だよ。」
優しく話しかけながら、翠の頭を撫でる。
「……ふ」
「あっ!?」
撫でられながら、霊紗達の方を見て笑う翠。
それを見た霊紗、神楽達も顔をひきつらせる。
(あの子、黒いわね)
(うん…)
と、神楽と霊紗の謎のテレパシー。
「じゃあ、翠の代わりに私が説明しましょー!」
と、立ち上がる美琴。
「は?」
急に立ち上がる美琴に驚く霊紗達。
「トシキは、奴隷として売られそうになった私たちを助けてくれて、家まで用意してくれたんです!」
と、胸を張る美琴。それなりにある胸が強調される。
「…くっ!」
霊紗が苦い顔をする。成長したとは言え、まだそれほど大きくない。
「家って?」
神楽が首を傾げる。
霊紗が隣の部屋だと言うことを知ってるだけで、神楽達は知らない。(前話参照)
「隣ですよ。その隣も私達の部屋です。」
「!?」
驚く霊紗達。
「私達も入れて八人ですから、四人ずつで暮らしてるんです。」
「なるほど…」
二部屋ある理由に納得。だが、一つ疑問。
「お金はどうしてるの?」
「さぁ?」
何の事ですか?た首を傾げる。
「師匠に相談したら、出してやるって言われた。」
「学園長…、何だかんだでトシキに甘いわね」
霊紗が呆れる。
「いずれオレが何とかするけど、今は頼るしかないから…」
自分の力のなさに拳を握る。魔力が高いとか、ちやほやされるが個人の力は弱い。アカツキの様に組織の後ろ楯もない。
「…あっそ」
霊紗はため息をつく。
「…?」
なぜか不機嫌になった霊紗に疑問を感じる。
「で、あんた1週間何処にいたの?」
「あ…」
そのことを忘れていた。
「アカツキに捕まってた。」
サラの事は言わなくてもいいか、ってか言いたくない。
「はぁ!何で!?」
意味がわからないって顔をする霊紗。
そりゃそうか、仲間を捕まえとく意味がわからないしな。得な事はない。
「魔法世界のスパイだって疑われてたんだよ。そんな時に、変装してバレないようにしてたんだけど、‘オレ’だってあの時バレちゃったんだ。」
サイクロプスの時の事を思い出す。全滅させた後、トシキと思われるローブの人をいきなり現れた女の人によって拐われた。
「…‘あんた’だったのがまずかったわけね。」
と、理解した霊紗、桜、クロエ。
それに、頷くトシキ。
「…どういう事?」
理解できてない神楽達。
「トシキさんの周りの存在がまずかったんですよ。」
と、桜。
「周りの存在?」
アイギスが首を傾げる。
「旧世界の裏の組織でトシキさんやあなた達の事を知らない所はないんですよ。」
「私達有名なの?」
嬉しそうな神楽。
何で嬉しそうなんだ…
世界を再生するものたちを退けた時に、名が売れるとは思ってたけど、本名の方が知れ渡ってる。
それをアカツキで働いていて気づいた。
サキの事を知ってる人は殆どいない。どころか、髪を染めてサキと名乗ったトシキに気づいたのは、ボスだけだった。
「有名ですね。」
苦笑いする桜。
この人達自分の置かれてる状況に気づいてないのか…
「それで、何の関係があるのじゃ?」
結局よくわかってないカガリ達。
「あなた達の事は調べられてるんですよ。すべて」
「へ!?」
神楽が手で体を隠す。
何してんの?この子
「だから、お前達に関わりのある組織も調べられてるんだ。魔法世界のハイライト魔法学園と繋がってる。それで、その学園と繋がるハイライト王国とも繋がってる。」
「え?繋がりなんてないよね?勲章は貰ったけど、それ以外で接点はないし。」
神楽が首を傾げる。
「実際は繋がりはないけど、あっちから見たらそんな事知らないし、疑うのが普通でしょ。」
「なるほど…」
頷く神楽達。
「それで、正体がバレて捕まって尋問されてた。」
はぁ、とため息をつく。
痛いのは最初だけで、後は精神的にダメージを負わせられた。
「尋問までされたの?」
心配そうにする神楽。
「あ…、うん。大したことされなかったから大丈夫。」
あぶね、あやうく話すとこだった…
内心ドキドキしながらも、笑って平静を装う。
「ふーん」
霊紗のジト目が痛い。
「どうして開放してくれたんじゃ?」
と、カガリ。
「オレに割いてる時間が無くなったんだと。」
「…何か起こったの?」
と、霊紗。
「あぁ、翠達を助けた時に、人身売買をしてたヤツを捕まえたんだ。」
「人身売買をしてた…、あの小国の王をですか?」
桜の顔がひきつっている。
「そうだよ。あのおっさんからトシキが、助けてくれたの。」
美琴が再びトシキの頭に顎をのせて、首に腕を回す。
それを見て、アイギスや悠里以外がムッとする。
「そうですか…」
桜が落胆する。小国の事をよく知らない霊紗達は怪訝な顔をしているが、続きを求める。
「で、アカツキにドミニオンって組織が警告として攻撃を仕掛けてきた。」
「!」
「それで、トシキに時間を割く余裕がないと?」
桜が驚いたが、霊紗は普通に聞く。桜はドミニオンを知っているようだ。
「そう。それで、解放されて、こっちに来るついでに助けてきた。」
「で、今に至ると?」
頷くトシキ。
「でも、無事でよかった」
神楽が微笑む。
「あぁ。」
トシキも微笑む。
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トシキが神楽達の元に戻ってきた頃、ドミニオンの拠点ではアカツキの警告についての報告が行われていた。
一人の老人と、一人の男。割りと筋肉質の肉体で、無造作な短い赤い髪、青い目。20前後の青年。
「アカツキへの警告はしたが、例の青年が邪魔に入ったようじゃ。」
ため息をつき、目頭を抑える。
「はぁ、それで俺が呼ばれたのはどういう理由が?」
そんなことを言うために呼んだんじゃないだろ、クソジジイが
顔をしかめる。
「うむ、お前には新型のスーツの実験も兼ねて、青年と戦ってこい」
「スーツが完成したのか?」
嬉しそうに聞く青年。
「後は実際に動かして微調整のみじゃ。それが終わったら、スーツを来て行くのじゃ」
「あいよ、楽しみだねぇー、スーツも、トシキも!」
子供のように笑いながら部屋から出ていく青年。
「…さて、天賦の才か、努力の器か、どっちが上なのかのぅ」
ホッホッホ、と一人笑う老人。
こんにちわ
新作を書いてますので更新が遅くなります。すいません。
新作の方は、とりあえず活動報告に現状を載せているので、そちらをご覧ください。
では、彼の進む道と新作の方共々よろしくお願いします。
コメントも頂けるとありがたいです。