異界の門
東の大陸の神楽達がいる街。そこはどうやら魔物が出現しやすい場所らしい。
普段は誰も立ち寄らない山。その山は真ん中に巨大な丸い穴を空けてたたずんでいる。
元から空いていた穴ではなく、テロリストの一人シュバルツによって空けられた物。だが、それを知ってるものは神楽達だけで、一般的には突如空いた穴として知られており、不気味がられている。
異次元の穴、地獄の問等名前までつけられるほどに。
その山の穴から、一筋の小さな黒い光が、街の外の山を照らす。
その光は円形に広がり、地面に穴を空ける。そこから、三メートルを越える魔物が一体現れる。そこから、また次々と同じ魔物が出現し始める。
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サイトとサキがビジネスホテルから出てくる。
「さて、今日はどうする?」
サイトが伸びをする。
ホテルで軽く朝食をとり、まだ店も開いている時間ではない。
「…、森や山周辺に絞って動くべきだと思う」
魔物が堂々と街中を闊歩するとは思えない。だから、隠れ場所の多い山や森に絞った方がいいんじゃないか、と判断。
「ほー、確かにな。なら近くから回っとくか」
サイトが周りを見渡す。近くにある山は、ホテルの左側に位置していた。不運にも、穴の空いた山とは、正反対に位置する山だった。
「行こうか」
サキがその山に向かって歩き出した。
「あいよー」
サイトもその後に続く。
その後ろ姿を、建物の上から見下ろす人影も二人を追うように移動する。
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「ねぇ、何か違和感ない?」
と、霊紗。
何処かから何か変な感じがする。
「確かに感じますね。」
桜が頷く。それにクロエモ頷いた。
「何かすごく嫌な予感がする…」
霊紗が自分の体を抱く。
「うーん…、適当に街を回ってみようか」
と、提案する神楽。
「そうじゃな、回ってみよう」
頷くカガリ。
いい暇潰しを見つけて気分が上がる。
「分散する?」
アイギスもテンションが上がっている。
「効率いいけど、嫌な予感するから集団で行くわ」
と、霊紗。
「そっか、じゃあ準備できたら行こうか」
皆が頷き、準備に取りかかる。霊紗は穴の空いた山の方を見る。
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「ねぇ、これどういう事だと思う?」
空に浮くクロエが隣に浮く桜に聞く。
二人は空を飛べる様になったため、空から周りを探索する。その下には神楽達が目視で探索している。
「あれは…、バカな!?」
桜が焦る。
二人の視線の先には、森の中をゆっくりだが、着実に街の方へと進んでいく集団。
「マズイ!あのまま進ませたら一般人に危害が及ぶ!」
「私が先行する!神楽達に知らせてこい」
「クロエ!」
桜が止めようとしたが、クロエは森の方へと向かっていた。
「くっ!」
焦りつつも、速く援護に、と神楽達の元へ急ぐ。
「クロエどうしたの?」
二人を見てた霊紗が聞く。
「マズイです。サイクロプスの群れが街に向かってます!クロエが一人で先行してしまいました」
「な、なんですって!?」
霊紗が焦る。
「サイクロプス?」
明日菜が首をかしげる。
「桜は先に行ってて、私達もすぐ行く。明日菜にも教えないといけないし」
「わかりました、なるべく急いでください。私達二人じゃ持たないかもしれない」
苦笑いして、桜はクロエの援護へとむかう。
「サイクロプスは、一つ目の巨人と言ったら分かりやすいかな」
霊紗達が、二人の向かった方へと走る。
「一つ目の巨人?」
「そ、前に戦ったオークよりも強いわよ。巨人族の中で、それほど力は持ってないけど巨人族だけあって、私達じゃ一発攻撃食らうだけで体が潰されると思って。」
「え!?」
明日菜が思わず止まる。
「…そのままそこにいてもいいわよ。動けないならいない方がマシ」
霊紗は気にせず走っていく。霊紗の言う通り、動かずに殺されるよりはここで止まってる方が怪我をしないで済む。
霊紗は仲間を気づかっているが、表には出さない。
「確かに霊紗の言う通りだけど、サイクロプスの群れを私達だけじゃ厳しいんだよね…」
神楽が苦笑いする。
サイクロプスはオーク三体分の強さを誇る。その巨体から繰り出される攻撃は、車を簡単に潰す程の一撃。
ただ、知能はそこまで高くないため、連携攻撃などは行わず、動きもトロいため隙が大きい。
「行くよ。いつまでも皆に頼ってばっかじゃだめなんだ」
明日菜も覚悟を決め、霊紗の後についていく。
神楽達も微笑み、その後に続く。
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「?」
サキが振り帰る。
その先には、穴の空いた山。
「どうした?」
サイトも同じ方を向く。
「…あそこに行こう」
山の方を指差す。
「あの山か?」
「うん。あれ」
「…まぁ、いいか。行こう」
どうせ行く所ないしなぁ、と笑いながら目的の山へと向かう。
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サイクロプスへと先行したクロエ。
サイクロプスの群れの一体が、クロエに気付き雄叫びをあげる。そるに他のサイクロプスも反応して、クロエの方を向く。
「くっ!」
もっと接近してから気づかれると思ってたのが、以外にも距離がある所で見つかる。
剣を引き、魔力を集中する。
一番戦闘のサイクロプスが手に持った巨大な櫂の棒を引く。
「…く!」
飛ぶスピードを急に上げて、一気に間合いを詰めサイクロプスを切り裂く。
「!」
戦闘の一体は真っ二つになり絶命したが、すぐさま隣と後ろにいた二体が櫂の棒を降りおろす。
それをバク転でかわし、距離をとる。
「…」
地上に降りてみるとその大きさがよくわかる。空からだと見えていた顔が、地上からだと木の先っぽと同じぐらいの高さで見えない。その威圧感は半端なかった。
(あいつら遅い…!)
一人でこの群れは流石に捌けない。数は十をゆうに越えるが、後ろの方にまだいるのだろう。ゆらゆらと影が揺れている。
「クロエ!」
桜がクロエの隣に降り立った。すでに戦闘態勢に入っていた。
「霊紗達は?」
「まだ時間がかかります。」
サイクロプス達が目の前に立ち塞がる二人を標的と定める。
「深追いはせずに、距離をある程度とれば何とかなるかも」
と、クロエ。
「ですね。二人で無理せず、皆が来てからが勝負、ですよね?」
クロエに微笑む桜。
「あぁ」
クロエもほほえむ。修行ですっかり仲良くなった二人。
二人同時にゆっくりこちらに近づいてくる先頭のサイクロプスを切り裂く。
・・・・・・・・・・・
「クロエ!桜!」
霊紗達がやっと着く。
「っ!」
が、目の前のサイクロプスの数に驚く。何個か青い水溜まりができているため、倒している様だが、それでもまだ後から出てくる。
「遅い!」
クロエと桜が霊紗達の前に来た。
二人とも既に肩で息をしている。
「十体は倒したはずなのに、まだ現れ続けてます」
桜が汗を拭う。
「どういうこと?」
魔符を二枚、先頭のサイクロプス付近の木に飛ばして貼り付ける。
すると、魔符が光サイクロプスを阻む壁となる。魔符で囲った範囲を封鎖する結界符である。ただ、あまり長くもたない。
「出所を抑えないとマズイですね…」
息を整える桜。
「その出所は?」
結界符の方を見ながら聞く。
サイクロプスが壁を叩きはじめた。
「…わかりません。数が多すぎて此処からでは」
「なら、桜とカガリでそれを探してきて」
「何故私じゃ?空を飛べんぞ。」
カガリが不安げな顔をする。
「クロエと行かれたら前衛がアイギスだけになる。流石に一人はキツいでしょ。」
「それに、ウチのトップ3が抜けるのはキツいわ。片方に一人がいないとアレは対処できない」
神楽達の中で、ずば抜けているのはトシキ、桜、クロエの三人。トシキは今いないため、桜とクロエの二人だけ。二人を出所の対処に回すとしても、神楽達がもたない可能性が高い。探してる間にもサイクロプスはどんどん沸いてくるのである。そるに、昼とはいえ森の中は暗い。そんな中沸いてくる場所を探す
のに時間がかからない訳がない。
したがって、一人ずつ配置する方が、少しはもつ可能性がある。
「神楽は召喚があるからこっちのがいい。明日菜はまだ経験が浅いから、その場の判断力にかける。私は指揮を執る。」
「で、後はあんた。経験も実力も申し分なし。」
「ふむ…」
満更でもない顔をするカガリ。
「もう破られるわ。頼むわよ」
霊紗がいつもどおり魔法の球を出現させる。
「わかりました」「うむ、任せろ」
二人は頷き、桜の手をカガリが握り空へと飛んでいく。
「さ、私達も時間を稼ぐわよ」
神楽達が頷く。
神楽が召喚の詠唱に入る。明日菜も役に立とうと震える手で杖を握る。アイギスが手枷を外し、手をプラプラさせる。クロエも‘ブレイブ’を発動させた。
・・・・・・・・・・・
サキ達が、神楽達のいる方へと屋根伝いに走る。
ふと、森の方で爆発音がした。
「!?」
「先客がおるみたいだな」
サイトが手をバキバキならす。
二人とも見当はついている。
「……」
サキがフードを被る。
「フードを被る必要があるのか?」
と、サイト。
「…」
黙ったままスピードを上げたサキ。
・・・・・・・・・・・
「くっ!キツい…」
霊紗が苦い顔をする。
既に二十体は倒したはずなのに、減った感じがしない。
一体倒す時間が三分だとして、沸いてくるのが一分強。減った気がしないのは当然である。
「流石にヤバイよ!このままじゃ、魔力が尽きちゃうよ!」
神楽が焦り出す。
召喚で普通よりも魔力を消費するのに、一向に減らない魔物。
段々と体力、魔力が減っていき弱気になってくる。
「くっ…!」
霊紗の目の前に櫂の棒が降り下ろされた。
「はっ!」
距離を取りつつ、五個の魔法の球をサイクロプスへと飛ばす。
サイクロプスの一つ目と、体に直撃し低い唸り声を上げて倒れる。
「…なんなのよ、一体!」
イラつき始める霊紗。
・・・・・・・・・・・
空から沸いてくる場所を探すカガリと桜。目を凝らして森の中を見る。
「一体どんだけいるんじゃ…」
サイクロプスの多さに引くカガリ。煙の上がる場所から、それなりに離れたのにもかかわらず、群れをなしている。
「何処なんですかね」
二人は、神楽達を心配しつつも早く見つけないと、と焦りはじめた。
・・・・・・・・・・・
「流石にもうもたないわ…」
霊紗達は遂に息がきれはじめた。
四十体近く倒したのだ、無理はない。だが、サイクロプスの数はあまり変わりがない。
「諦めるな!」
霊紗の前に誰かが立った。
「アイギス、下がれ!」
聞き覚えのある声。
それに反応してアイギスが下がる。
「道をあける!サイト、発生源を断て!!」
「おうよ!」
「喰らい尽くせ!暴風の雷閃光!」
その誰かから放たれた見覚えのある魔法。
その魔法は直線上にいるサイクロプスを纏めて消し飛ばす。
「援護をよろしく!」
マントを被った人が、腰から刀を抜きサイクロプスへと向かう。
直線上に道があき、左右に位置するサイクロプスを斬り裂いていく。
「…、あの人の援護を!」
霊紗がサイクロプスと戦うマントの人を援護する。
その掛け声に頷き、アイギスとクロエがその人の横につく。
「弱点は目。倒せないなら足を潰せ。動きを制限して弱点を狙うんだ」
足にグッと魔力を込め、高く跳びサイクロプスの高さを越える。
宙で体を半回転して刀を引き、回転を利用し刀を振り抜く。
刀から巨大な斬撃が飛ぶ。
その一振りで、サイクロプスの目を的確に狙い、六体のサイクロプスを倒す。
「無理はするな!キツいと思ったら下がれ!」
そう言って、サイクロプス達へと向かっていく。
「どう思う?」
霊紗の隣に来た神楽と明日菜。
「…。あいつだろうけど、今はそれどころじゃないわ。」
と、霊紗。その顔には、諦めがなくなっていた。
「そうだね」
神楽も嬉しそうに走る。
・・・・・・・・・・・
「はぁ、やっと見つけた、」
息がきれている桜とカガリ。
出所が見つかったため、地上に降りている。
そこは、地面に円形の黒い穴が開いている。大人が二人は入れる程の穴が開いている。そこからサイクロプスが出てきていた。
が、今は余り出てきてはいない。
「増援が少ないうちに!」
カガリが、詠唱し火炎の槍を穴にぶつける。
火柱を開け、穴に炎が巻き起こる。
「やった!?」
桜がサイクロプスを倒しながら、カガリに聞く。
「…」
火がやむのを待つカガリ。
そして、火がやんだ。
「!」
が、穴は小さくはなったが、消えてはいない。
「小さくなったが、まだじゃ!」
カガリが再び詠唱にはいる。
「くっ!」
焦る桜。
少しは数が減ったが、出てきたサイクロプスも多いためあまり変動なし。
「無事か!」
サイクロプスを倒しながらこちらに向かってくる青年。
「!」
トシキかと思ったが、違った。髪型が違うし、魔力も感じが違う。
「あなたは?」
一旦サイクロプス達と距離を開けた桜の隣にサイトがくる。
「オレを忘れたか?幾月才人を!」
桜に笑うサイト。
「えぇ、覚えてますよ。」
苦笑いする桜。
名乗られるまで思い出せなかった。
「キツそうだな」
桜の表情を見ながら聞く。
カガリの詠唱を守りながらのため、体力は激しく減る。
「まぁ、ゆっくり戦え。オレの仲間が正面から向かってきてる」
サイトがサイクロプスへと駆ける。
「仲間?」
疑問に感じつつ、桜もカガリを気にしながらサイクロプスを倒す。
・・・・・・・・・・・
「大分減ったな」
刀に付いた青い血を払う。
後から、霊紗達が付いてくる。が、距離がある。
前にはサイクロプス。
少し遠い位置にサイト達が見える。かなりサイクロプスを倒せたようだ。
「そろそろ飛ばしていくか」
刀をしまう。
足に魔力を込める。
地面に小さなクレーターを作り、サイクロプスの方へと一気に距離を詰める。
マントから二丁の銃を抜き、サイクロプスの目を的確に魔法弾を撃つ。
その動作で倒したサイクロプス、十体。
着地に合わせて、右手の銃をしまい、刀を再び抜く。
「はぁっ!」
地面に小さなクレーターを作り、再びサイクロプスへと距離を詰める。
そして、通り抜け様に刀と銃でサイクロプスを蹴散らす。
「すごっ…」
思わず明日菜が言葉をこぼす。
彼は一人でサイクロプスを三十体は倒している。だが、その勢いは落ちるどころか、段々と激しくなる。
「…」
霊紗がジッと彼を見る。
彼に追い付こうとしているのに、ドンドン離れていく。それに、何処か苛立ちを覚える。
・・・・・・・・・・・
「さて、穴は何とか塞げたけど…」
カガリが、魔法をぶつけ続けて無理矢理塞いだ穴を見た後に、桜達の方を向く。
「おぉ、数が大分減ってる」
カガリが驚く。
「さ、ラスト…!」
サイトが手刀でサイクロプスの首を落とす。
カガリが穴に苦戦してる間に、サイクロプスは殆んど片付いていた。
「よし、終了」
サイトとマントの人がハイタッチする。
「流石は、トシキね」
と、霊紗が後から声をかける。
「だろ!…っ!?」
マントの人が霊紗の方を向いてから固まる。
「は?」
サイトが思わず聞き返す。
が、いきなり上から人が高速で降りてきて、トシキを抑えつける。
「やっと招待を現しましたね」
その女性はトシキの腕に手錠の様な物をかける。
「!、!?」
もがくが、魔力が使えない。
「では、失礼」
トシキを抱えて空へと跳んでいった。
「…」
「え?」
展開が急すぎて霊紗達とサイトは呆然としていた。