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彼の進む道  作者: けやき
40/63

アカツキの任務

「揃ったな」


机に足をのせて偉そうにタバコを吸う男。


旧世界の裏組織アカツキのボス。本名は不明。ボスだからボスだ、と自分の事を言う。


「何だよ、任務か?」


「…」


ボスと机を挟んで立つ二人の男女。サイトとサキである。


「あぁ、任務だ。ウチのエースであるお前ら二人にお似合いのな」


ニヤリと笑うボス。


「内容は?」


「西の大陸で魔物討伐だ。」


一枚の紙を差し出す。


それをサイトが目を通し、サキに渡す。



「依頼主 …伯爵って貴族か。討伐目標は…、魔法使い!?」


サキが驚く。


「あ?何でっけえ声だしてんだ?」


ボスが迷惑そうな顔をする。


「え?だって、魔物じゃなくて人ですよ、この討伐目標!」


サキがボスに紙を見せる。


「…何を言ってんだ?俺達は魔物を倒すんだって、始めに教えたよな。」


「…」


訳がわからない。


「まぁいい。俺達は旧世界人だ。」


頷くサキ。


「魔法世界の人間は、魔物だ。」


「は?」


予想外の言葉に固まるサキ。


「俺達旧世界人以外の魔法使いは、魔力を持った魔物だ。」


説明終わり、とタバコをくわえる。


「…そ」


サイトが言葉を発しようとしたサキを止める。


「行くぞ」


サキの腕を掴み、部屋から出ていく。


「…」


その様子を煙を吐きながら見るボス。


・・・・・・・・・・・


サイトはサキの腕を掴んだまま、建物から出た。


ある程度進んでから、サキはサイトの手を振りほどく。


「何で…」


サキがうつむき、拳を震わせる。


「俺達の組織は人を消す依頼も受ける。」


「知ってる!でも、だからって魔法世界の人間を魔物だなんて…」


「あいつらは魔物以上に酷いことをする。知識があるから尚むごい。」


サイトが拳を握る。


「…、皆が皆そうじゃない。」


「それはわかる。だけど、上の方はそんな事考えない。歯向かうだけ無駄だ。」


「サイトはそれで良いのか!?必死に人を守るために戦ってるだろう人を消して!」


サキの口調が強くなる。


「…逆に聞くが、そいつが人を傷つけているとしたら?」


「!」


サキがビクッと体を揺らす。


「オレは躊躇い無くそいつを消す。この世界を守る、それが俺達アカツキの理念だ!」


サイトの目が真っ直ぐサキを見る。


「…でも、サイトは何人この世界を守ろうとして戦ってきた魔法使いを消してきた?」


「…」


「そのなかに本当に、この世界を守ろうとして戦ってきた魔法使いがいたかもしれないのに」


「…」


うつ向くサイト。

今までそんな事考えて任務を受けていなかった。上から悪いやつだから、酷いことをするやつだから、と言われうのみにして任務をこなしてきた。


サキの言う通り、中には旧世界を守ろうとして戦ってきた魔法使いがいたかもしれないのに。


「お前の言ってる事は正しい。だけど、旧世界人を食い物にして生きる外道がいる限り、オレは魔法世界の人間は許さない!」


魔法を使い、旧世界人を脅して、殺したり、金のある場所へ売ったりする魔法使いの事をサイトは許せない。

ただ、それをしているのは旧世界人でもいる。


「…私は、どちらの世界の人も関係ない。悪い事をしてるやつは許せない。魔法使いであろうと無かろうと。」


「…」


「私は弱い者も強い者も、どっちも守る!世界が、とかなんて関係ない!」


「!」


サキに気圧されるサイト。今のサキの目を何処かで見た気がした。


「…なら、俺とも戦うのか?」


真剣に聞くサイト。


「戦う。戦いたくないけど、サイトが関係ない人を傷つけるなら、私は立ち塞がる。」


サキも真剣に見る。


「…そうか、なら戦わないことを祈るよ」


サイトが笑う。


「…」


そんなサイトに少し驚き、微笑むサキ。


「だがな、アカツキはそうもいかない。与えられた任務は絶対だ。」


「…うん」


「ここで生きなくんなら、覚悟を決めろ。ダメなら辞めた方がいい」


「…ん、ありがとう」


サイトが前を向く。


「勘違いするな。お前は相棒だからな。居なくなられたら張り合い無くなるし、お…面白くない」


ふん、とサイトが前を向いたまま言う。


「そか…、そうだね」


そんなサイトの背中を微笑んで見るサキ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


西の大陸のとある小国。

そこは他の大陸の国とは違い、かなり小さな国だった。そこは、武力も政力も弱く、犯罪が頻繁に起こっている無法地帯。犯罪者が彷徨き、家なき子が放浪するスラムのような場所だった。


その国は元は、ちゃんとした国だった。というか、一つの大きな国だっ。だが、犯罪が絶えず、武力も弱い国に犯罪者は増える一方だった。

そこへ、他の国の力と魔法使い達の力を借り、犯罪者たちを一つの場所に押し込めた。家なき子や職のない人達もまとめて。


そして、その部分以外の場所はしだいに栄えだし、武力も向上。国で犯罪者が出れば、すぐにその小さな国へ送りこむ。


そんな事をしていて、その小さな国は犯罪者が闊歩する無法地帯となった。


そこは今でも犯罪者が絶えず送り込まれ、子供女が売り飛ばされ奴隷となる。

周りの国は、汚物だと見て見ぬふり。そこの奴隷を雇う始末。


そんな小国にサイトとサキが潜入していた。

ターゲットの魔法使いはここに潜伏している、との情報だった。


「…ひでぇな」


周りを見渡すサイト。

道路にはゴミが散乱し、汚れた服を着てさ迷う子供。建物のあちらこちらにペイント書きがされ、破壊されている。


「…っく!」


サキが堪らず子供の方へとかけ出そうとする。


が、サイトが腕を掴み止める。


「あの子だけ助けるのか?」


「いや、全員助ける!」


「ここでさ迷ってる子供たちが何人いるのか知ってるのか?百人は越えているんだぞ!」


「…っ!でも!!」


サキが子供の方を見る。頬が痩せこけ、体のあちこちに痣、服も所々破れている。


「軽くあいつらを助けるなんて言うな。生半可な気持ちで助けたら、あいつらを逆に傷つける。」


「…ぅ!」


「アカツキで保護なんてできない。だから、これ以上あの子と同じ様な子を出させないために、元を断とう!」


サイトが笑う。


「…、わかっ、た。」


子供の方に手を伸ばすが、止めてサイトに向き直る。その顔は、悔しさで溢れている。


「…もしかしたら、ターゲットが原因かもしれないだろ?」


ポンポンと頭に手を載せるサイト。


「!…そう、だね。」


少し活力がサキに戻る。


「おう、おう!昼間っから見せつけてくれんじゃねーか!!」


六人の柄の悪い男たちがサイト達の前に現れた。ニヤニヤしながら、サキの方を見る。


「はぁ?」


サイトが男達に詰め寄る。


「お!いい女じゃねーか!!」


男達がサイトを無視してサキを囲う。


「なっ!…」


男達に囲まれたが、隙間からサキがサイトを静止させる。


「なぁなぁ、俺らと遊ばねーか、ねーちゃん!」


「いーだろ?行こーぜ!」


「用事がある。」


無表情で男達に答えるサキ。ローブで腰の銃と刀は見えていない。


(イラついてるようだし、ストレス解消になればいいか)


と、サイトは成り行きを見守ることにした。


「んなもん後で、俺らとイイコトしようぜ!」


「さ、行こう!」


下品な笑みを浮かべ、サキの腕を掴む。


「さわ、るな!!」


腕を掴んだ男を思いきりぶん投げ、建物に衝突する。


「な、何しやがる!このアマ!!」


一人が殴りかかろうとするが、サキは手で弾き顔面に蹴りを入れる。


「な…、よーし!全員で一斉にやっちまえ!!それから、好きにやるぞ!!」


男たちが一斉にサキへと襲いかかる。


が、サキは手前の男の腕を掴み、左の男へとぶつけ、後ろの男の股間を蹴りあげ、最後に右の男の顔面を思いきり殴り地面に叩きつけた。


「ふん」


手をパンパンと払い、髪を払う。

澄んだ青い髪が綺麗に揺れる。


「お疲れ」


サイトが、サキの倒した男達を見ながら近づく。


「ここはこんなんばっか?」


ため息をつくサキ。


「あぁ、そうだな。こんなんばっかって聞いたぞ。」


サキへと笑う。


「…めんどくさい」


「はは、行こうぜ」


サキが頷き、スラムの中へと入っていく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


サイトとサキ達は、絡んでくる連中を軽くあしらいながら、ターゲットについて聞いて回っていた。


ターゲットは、サイトの予想通りここら辺の子供女を拐い、貴族の奴隷や、風俗店へ売り飛ばしていた。

その売った金で、自分は豪邸を買い、実質このスラムを牛耳っている存在となっていた。


サキとサイトはその豪邸の前に来ていた。


「ここか」


サイトが豪邸を見渡す。門番に二人、庭に四人確認できた。豪邸内にはもっと護衛がいるだろう。


ローブに手を突っ込むサキ。


「待て、まだ動くべきじゃない。」


サイトがサキを止める。

いつもは逆の立場だが、サキは頭にきてるため冷静になれていない。


「頭にきてるのは分かるが、正面からは行くな。何があるかわからん。」


「…ならどうやって」


サキがサイトを睨み付ける。かなりイラついているようだ。


人間を売って、その金で自分はのうのうと暮らしているのが、サキには許せなかった。


「そういえば、今日も新しい子供女が売られに来るっていってたな。」


「それに紛れて潜入するのか?」


「あぁ、そうだ。」


今夜、この豪邸で風俗店へと新たに売る女子供が送られてくる、と倒した男達に聞いた。


それに紛れて中に潜入しよう、とサイトは言う。


「確かに、それなら簡単に潜入できるけど、どうやって紛れ込む?」


二人はその子達が今何処にいるのか、どうやってここまで来るのか知らない。

初めから豪邸の中に居るとしたら、その作戦は無意味だ。


「ちょっと聞いてくる」


「そうか。……は?」


サイトが気づいた時には遅く、サキは門番に話しかけていた。

手で顔を抑えるサイト。まさか、聞きにいくとは思ってなかった。


「教えてくれた」


「当たり前だろ!教えてくれるわけ……え?」


固まるサイト。


「…教えて?ってしたら教えてくれた」


潤目の上目使いでサイトを見上げるサキ。気づいていないが、サキは気づいてないが、ローブの隙間から大きな胸の谷間が見えている。


「うっ…!」


ドキッとしてしまったサイト。何となく門番の気持ちがわからなくもない。


「…で、何だって?」


顔を背けるサイト。


「?…、子供たちはこの町の馬車で送られてくるんだって。酒場近くの馬車屋で、子供六人と女の人二人が送られてくる予定。」


顔を背けるサイトを不思議に思いながら話すサキ。


「子供は男の子も?」


「女の子だって」


「ってことは全員女か…」


サイトが腕を組む。


「…、私は馬車に潜り込む。」


「ふむ、で?」


サキの作戦を聞く。


「適当に頃合いを見つけて、サイトが正面突破。」


「…で?」


苦笑いするサイト。


「その隙に、私は子供達を安全な場所へと移動させる。」


「うん」


「で、サイトが暴れてる所に私も合流して、二人でその魔法使いをボコボコにする。」


「…まぁいいか。その作戦にしよう。」


他に作戦を思い浮かばないし、暴れていいなら暴れたいサイトは頷く。



作戦通り、馬車屋から女子供を乗せた馬車が豪邸に向かって出発した。その馬車の中に、六人の子供と、女の人二人、サキの九人。


ガタガタと揺られながら、豪邸へと進んでいく。


「あなたは誰?」


一人の女の人がサキに聞く。長い黒髪をポニーテールでまとめる、二十歳前後の女の人。

子供達と一緒で、汚れた服装をしている。


「私はサキ。あなた達を助けるついでに、ここのボスを倒しにきた。」


「は?…何でそんなことを?」


意味がわからない、と言う顔をする。


「私の所属する組織の任務でここのボスを倒せって命じられてね。」


「何故赤の他人がそんな事を?私たちを助けてなんの特があるの?」


理解できない、と言う女の人。


「…」


「もしかして、取り引きを邪魔して別の所へ高額で売り飛ばすの?」


サキは一つの事に気付く。目が死んでいるのだ。誰も信じていない、言われるがままなされるがまま、人として扱われず物として扱われる。そのせいで、人の温もりを感じずに生きてきたこの子達は、誰も信じられなくなっていた。


「…無理に信じろとは言わない。でも、手間をかけさせないで。」


「私達は物。買い手の指示に従う。」


「なら、私の指示に従ってもらうわ。」


女の子達がサキの方を見た後、すぐ視線を自分の足元へと戻す。


絶対助けるから!


そう心に決め、見えてきた豪邸を睨む。


その豪邸の門近くの木陰からサイトが顔を覗かせる。


それを見て、サイトに合図を送る。


合図を見て頷き、再び隠れるサイト。


門まで来て、止まる馬車。


「止まれ、何の馬車だ?」


サキ達の所まで門番の声が届く。


「ご依頼通り、奴隷をお持ちしました。」


馬車の主が答える。


「ふむ、よし通れ」


中をチラッと確認してから門を開ける。どうやらサキがいることに気づいてない。


ガタガタとまた揺れながら、門の中に入っていく。


それを木陰から見送るサイト。


・・・・・・・・・・・


サキ達は豪邸の中の一室に閉じ込められていた。どうやら毎回ここに奴隷となる者達を閉じ込めていたらしい。

あまり綺麗な部屋ではないのだ。街と比べると綺麗ではあるのだが、豪邸の中と比べると汚い。


少女達は知らない場所に来て不安なのか、固まって座り手を握りあっている。

二人の女の子は、パッと見落ち着いているが、手が震えている。


…やっぱ恐いよな、どうにかして安心させたいけどどうすれば


フードを被り指を擦る。


「…」


サキは立ち上がり、二人の女の子の方に近づく。


「何か用………?」


先程のポニーテールの子がサキを見上げ首をかしげる。


「ひゃ!?」「わわ!?」


サキが急に二人を抱き締めた。それに驚き、二人はびくつかせる。


「大丈夫。」


「…?」


二人の女の子がその言葉にキョトンとする。


「守るから。絶対に守るから。だから安心して。」


耳元で優しく話すサキ。それを何処か懐かしく感じる二人。最後に抱き締められたのはいつだろう。懐かしさが込み上がってくる。


「怖くない、大丈夫。」


サキが二人の頭に手を乗せ撫でる。


「あぅ…」「おか……さん」


二人が涙を流しながらサキを抱き締める。

サキが抱き締めた事で、二人は人の温もり、母の温もりを思い出した。目から涙が溢れ、サキのローブを濡らす。


それを見て、少女達がお互いを見合せ、サキに抱きつく。


「おおっと?」


いきなり後ろから抱き締められたサキは驚いて振り返る。


「ちょっとごめんね」


二人の頭を撫で、少女達の方へと向き、何とか六人を抱き締める。その後ろ姿に女の子二人が抱きつく。


「よしよし、大丈夫。怖くないよ。守るから。」


優しく少女達に語りかける。少女たちは体を震わせサキへと必死にすがりつき、体を密着させる。


心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却


サキが頭の中で呟く。

かっこつけて安心させようとしたが、少女達と女の子二人の柔らかい感触が全身にあたる。


「…ん?」


「あ…」


少女の一人と、ポニーテールの女の子がサキの変化に気づいた。


「えーと、ちゃんと説明するから黙っててくれると、嬉しいかな…」


声がひきつっている。


「……いいよ」


少女はよくわかっていないが、ポニーテールの女の子は理解して頷く。


「ごめんね」


ポニーテールの女の子の頭を撫でる。


「ん、そのかわり」


女の子はサキに身を委ねる。


「わかってる、絶対守るから。」


ん、と頷き背中に顔をうずくめる。


「おい、何をしている貴様ら!」


一人のスーツを着た男が入ってきた。部屋の中の状態を見て驚いていた。


「怯えてたので落ち着かせてたんですが、何か?」


ポニーテールの女の子が答える。サキの方をチラッと見る。サキは顔の前で手を合わせて謝る。


「何者かが押し入ってきた!貴様らを至急依頼主の所へ連れて行く!さぁ来い!!」


少女の一人の腕を掴み扉の方へと向かっていく。


「痛い!離して!!」


少女が抵抗する。


「…っこのクソガキがふぅ!!」


サキに殴られ、男がぶっ飛び壁に叩きつけられる。


「汚い手で触んなよ。」


男は完全に気を失っている。


「皆、安全な場所まで守るから付いてきて!」


サキが腰から二丁のハンドガンを取り出す。

それを見て驚く少女達。


「行くよ!」


ポニーテールの女の子がサキの後に付き、他の子を呼ぶ。


それを見て、少女達も後ろに付く。


・・・・・・・・・・・


部屋から出て周りを見渡す。どうやらサイトが上手く陽動しているようで、部屋に来た男以外誰もいない。


「こっち!」


サキが目的の方向を指差し、後ろを振り返る。

少女達も頷きサキの後に付いて走る。


「待て!貴様ら何処へ行く気だ!!」


横から四人の男がサキ達に向かってくる。


「うるさい!」


サキが魔法弾を放つ。

四発全て男達に当たり爆発する。


「キャ!」


少女達が爆発に驚き、止まる。


「待て!」


一番後ろを走っていた少女が男に捕まる。


「いや!離して!!」


少女が叫ぶ。


「くっ!このまま走って、あの門を出ろ!!」


ポニーテールの女の子に指示を出す。


「わかった!」


頷き、少女達を引っ張る。


「頼む、あの子連れてすぐ戻るから!」


サキが一瞬でその場から消えて、男の前に現れる。


「貴様、魔法使いか!?」


男が驚く。


「その子を、離せ!!」


殴られて宙に浮く。

痛みで少女を離すが、サキにより少女は受け止められる。


「はっ!」


腹を蹴られ転がる気を失う男。


「大丈夫?」


すぐに、少女達の後を追いかけて走る。腕にはお姫様抱っこ状態の少女。


「あ、…うん」


ローブの中のサキの顔を見て、少女が恥ずかしそうにうつ向く。


「ちょっと飛ばすよ!」


足に魔力を溜め、一気に解放する。小さな爆発音をたて、風を切り走る。


「!」


先を走る少女達の進路を塞ぐように男達が四人いる。

昼間いなかった門番が、どうやら配置されていたようだ。


しまった、完全に抜けてた…


自分の詰めの甘さに腹をたたせたが、縮地法で一気に距離を詰める。


「止まれ!ここから先は生かせん!!戻れ、奴隷ども!!」


豪邸を指差す男。


「戻りません!私達は自由を手に入れる!!」


ポニーテールの女の子が叫ぶ。少女達も男達を睨み付ける。


「貴様らー!」


男がポニーテールの女の子の方へと一歩前に出る。


「良く言った!」


「ぶほぉ!?」


蹴られた男が門にぶっ飛び、門を破壊する。


「その言葉、オレも手伝うから!」


少女を降ろし、銃を男達に向ける。


「さて、邪魔だ」


笑みを浮かべ、魔法弾を放つ。


・・・・・・・・・・・


門を出て、ちょっと行った所に誰も使っていない建物がある。そこは、犯罪者が集まる夜であっても誰もこない場所。それは周辺調査でチェックずみだった。


「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」


サキが少女達に声をかける。


「…」


男から助けた少女がサキのローブを掴む。


「大丈夫、必ず戻ってくるから。だから、待ってて」


優しく話しかけ、手を握り少しずつ離す。


「…約束だよ?」


少女が見上げる。


「うん、約束。」


頭を撫でる。

じゃあ、行ってくるね、と手を振り建物から出ていく。

少女達はボウッとその後ろ姿を見つめる。

・・・・・・・・・・・


「ふぅ、大分片付いたかな」


サイトが手をプラプラさせる。サイトの周りには二十人ぐらいの男達が寝そべっている。


「サイト!」


サキがサイトの隣に来た。


「おう、遅かったな」


笑いながらサキを見る。


「まぁね、ちょっと計算外な事が起こっただけ、大丈夫。」


サキが銃を取り出す。


「ほーん、で親玉は?」


「あれ?まだ出てきてないの?」


サイトとサキが顔を見合せる。


「この家ぶっ壊すか」


「そだね」


二人が詠唱を始めた。

二人の足元に魔方陣が顕れる。


「暴風の雷閃光!」

「断罪の業火!」


二人の魔法が豪邸に直撃し、爆発を起こす。


「貴様ら、随分な挨拶をしてくれるではないか!」


一人の杖を持った中年の男が出てきた。所々服が焦げている。


「一国の主に歯向かうとはいい度胸しとるな」


たが、その顔はひきつっている。


「抵抗しなきゃ殺さない。大人しく捕まれ」


サキが銃口を向ける。


「ふ、ふざけるなー!」


男が杖を二人に向ける。


その瞬間、二人の足元から上に向けて水が顕れ、二人を閉じ込める。


「く、口だけか!」


男がひきつった笑顔になる。


「それはあんたでしょ。」


「…な!?」


慌てて振り返る。

後ろには、ローブを脱いだ二人がいた。

水のなかには、二人のローブがあるだけだった。


「ここまでだな。」


サキが銃口を向ける。


「く、くそがー!」


二人に背を向けて走り出す。


「逃がさん」


銃から魔法弾が放たれ、男に直撃し爆発を起こす。


「ーーっ」


男は言葉を発せず気を失う。


「どうするんだ?殺さないと依頼は失敗だぞ?」


サイトが男の頭を足でつつく。


「どうするかな…」


サキが指を擦る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


二人が男を引きずりながら、少女達を待たせている建物に戻ってきた。


「あ、おかえり!」


ポニーテールの女の子がサキに飛び付く。


「あれ?戻ってる」


ボソッと呟く。


「…黙っててね」


サキが苦笑いする。

クスッと微笑み、サキから離れる。


「おい、こんなにどうすんだよ?言ったよな、軽はずみに助けるな、って」


サイトがため息を付く。


「うん…、先に戻ってて。手がない訳じゃないから、この子達を何とかしてから帰る。」


小型通信機を取り出す。


「…あいよ。このおっさんと先に帰らせてもらう」


じゃあな、と手を振り建物から出ていく。

それに手を振って見送る。


「さて、」


サキが通信を始めた。

ホログラムから一人の少女の姿を映す。

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