動き出す組織
旧世界と魔法世界。
旧世界は魔法を使えない人間が多く住んでいる世界。
魔法世界は、名前の通り魔法使いや魔物が住んでいる世界。
この2つの世界は隣り合わせで存在している。存在しているだけで、普通には見ることも行くこともできない。
その2つの世界の間には、空間のねじれがあり、ねじれのせいでお互いに干渉できない。
が、片方の世界にねじれが出現し、片方の世界から魔物や魔法使いが現れる事がある。逆もまた然り。
ねじれは自然に発生するものか、人工的に発生させられるものなのかは、両世界ともわかっていなかった。
しかし、今魔法世界ではねじれから旧世界に現れた、一人の女を捕えることができた。 旧世界の二人の魔法使いによって手がかりを得ることができ、二人に王国が勲章を送った。
今、王国の研究者達はねじれの研究にあけくれようとしている。
・・・・
旧世界ではない世界。つまり魔法世界のどこかで、会議が行われていた。黒い長方形の机を囲むように座る、フードを被った八人。
「今日集まってもらったのは、ドルチェが王国に捕らえられた事についての会議だ。」
リーダー格の男が説明を始めた。
「ドルチェは、ねじれを使って旧世界に行き、そこで二人の魔法使いによって倒され、連行された。」
ふぅ、とため息をついて言った。
「へへっ!どうせ本気出す前に格下で油断してやられたんだろ。」
不気味に笑いながら隅に座った男が言った。
「で、どうするんだい?アイツを“尋問”して、あたしらの計画がバレるのは時間の問題だよ。」
その男の向かい側に座った女が言った。
「もちろん手は打つさ。まだ計画がバレるわけにはいかんのでね。」
男がテーブルに肘をついて、フードで隠れた顔の前で手を組んだ。
「旧世界と魔法世界。旧世界に行くのはお前だ。ドルチェを捕えた2人を調べ、害になるようなら殺せ。」
リーダー格の男の右側に座っていた男が頷き、闇に消えた。
それを見て、フッと笑って、
「次にお前達は、オレと一緒にハイライト王国に行って、ドルチェを奪還する。」
リーダー格の男の左側に座っていた三人に言って、三人は頷き闇に消えた。
「残ったお前達は、計画の準備をしろ。」
三人も闇に消えた。
最後に、リーダー格の男が闇に消え、テーブルに置いてあったロウソクの火が一斉に消えた。
・・・・・・・・・・
周りが木や、草に囲まれた目立たない広場。そこに2人、並んで立っていた。1人はグローブを手につけ、もう1人はタクトのような杖を構えている。
「なぁ、神楽。もうやめて、遊びに行こうぜぇ?」
呪文を唱えて、自分の回りに12個の球状の光を出現させ、空に向かって放った。
本を読んで覚えた、放出される魔力を球状にして留め、対象に向けて放ち、属性によって効果が変わる魔法である。火であれば、当てた対象をしばらく燃やしたり、風であれば、対象に無数の切り傷をつけ、雷であれば、電気を流し麻痺させる事ができる、魔法使いであれば初めに習う魔法である。ただ、すぐには使えず、球状に維持するのが難しく、感覚を掴むのに1〜3年かかる者もいる。
神楽は、俊貴の魔法を見て同じように呪文を唱えて、球状にして空に飛ばした。
「何で本読んだだけで、一発で、しかもぶっつけ本番で成功できるかなぁ…?私1年半かかったのに…。」
頬を膨らませながらぶつくさ俊貴に文句をいった。
それを見て、俊貴は苦笑いしながら、
「そんなこと言われてもできちゃったもんはしょうがないじゃん。」
やれやれと言う感じで言った。
この前、ドルチェと戦った時に俊貴が使ったのを見ていじけている神楽。
それをなんとかなだめようとしている俊貴。
今はそんな感じである。
そこへ、2人の目の前にねじれが顕れた。ねじれは、トシキの高さを越え、中からこん棒をもったオークが出てきた。身体中傷だらけで。
「何か強そうだな…。」
トシキが、オークに近い位置にいた神楽の前に立った。身体中の傷を見て言った。
「…。」
オークについていた傷から、青色の血が流れていた。
(傷がまだ新しい…?それに、ちょっと興奮してる気がする。)
オークの状態を不思議に思いながら、トシキは戦闘体勢に入った。
神楽が前に立ったトシキの服の裾を掴んだ。
「大丈夫。やれるよ。だから援護は任せたよ!」
そう言って、裾を握っていた神楽の手を取って、一瞬だけ握りしめて離した。
「…うん!私だってやれるんだから!」
そう答えて、呪文を唱えた。
水の一閃を思いきりオークにぶつけた。
オークは水圧によろめき膝を着いた。
「もらった!」
トシキが予め唱えていた魔法を使い、手に球状になった光を集めてオークを思いきり殴った。
オークは呻き声をあげ、殴られた顔を大きな手で押さえた。
が、魔法の追加効果で、風属性の呪文を唱えていたため、顔を中心に切り傷を受けた。
ウガアァァァ
オークは呻きながら塵と化した。
(…何で傷だらけで現れたんだろう。)
トシキは首を傾げた。
「どうかしたの?首傾げて。」
神楽が顔を覗き込むようにして聞いた。
「ん、あぁ。あの魔物やた…。」
「へぇ、やるねぇ。キミ。」
トシキの言葉を遮って1人の男が2人に近づいてきた。
「おぉっと、敵じゃないぞ。私は一応味方だよ。味方。なぁ、神楽?」
身構えたトシキを見て、そう言い神楽に近づいていった。
「ミ、…ミゲル?」
「そう、ミゲル。ミゲル・ワルトマンだ。神楽と同じ年に魔法学校を卒業した魔法使いだよ。」
そう言って、トシキに右手を出した。
それを見て、どうも、っと言ってミゲルと握手をした。
「聞いてるよ、サカイトシキ君。ねじれから現れた魔法使いを捕えたんだってねぇ。やるじゃないか、まだ見習い程度の知識と経験しかないのに。」
そう言って、トシキに笑いかけた。
「…そりゃどうも。」
ミゲルに言われ、ちょっと照れながらも答えた。
「ところで、何でミゲルがここにいるの?」
2人のやりとりを見ていた神楽が聞いた。
「それは、キミとよりを戻そうと思ってね。ついでに王国の任務を遂行するつもり。」
「…えっ!?」
トシキと神楽の2人が同時に声をあげた。ミゲルの予想外の言葉に2人とも一瞬とまった。
「…よりをもどす?」
神楽よりも早く頭が働き始めたトシキが聞いた。
「そう、よりをもどす。僕は元恋人さ。」
そう言って、ミゲルは神楽に微笑んだ。神楽は少し顔を赤くして小さくうなずいた。
「ふーん…。なるほど…。」
トシキがあまり納得していないような感じで答えた。
「で、神楽。どうだい?私とよりをもどす気はないか?」
そう神楽に聞いた。
神楽はトシキを横目でチラッと見た。トシキも神楽を見ていたため目が合い、神楽は思わず顔を俯いた。
「…?」
トシキはチラ見されて、顔を俯かれたのを不思議に思いながら神楽の言葉を待った。
(…オレ場違いじゃね?ってか、何だコイツ…。)
そう思って顔を曇らせ、少し苛立っているのがわかった。
「今すぐに答えは聞かないどこう。当分私はここにいるし、答えが出たら教えてくれないか。」
そう言って、神楽に微笑んだ。
「…当分ここにいる?」
トシキが聞いた。
「ん?ああ、私は今日からここでキミ達と一緒にねじれを対処するよう、王国に命じられたんだ。」
(それがコイツの任務か…。)
そう思いながら、トシキは、ふーん。と相づちをうった。
ふと神楽を見たら何か悩むような表情をしていた。
(…さすがにすぐ答えはでない、か)
そう思ってミゲルの方を見ると、ミゲルはトシキを見て笑みを浮かべていた。
「…何?」
ぶっきらぼうに聞いた。
「いや、別に何もないさ。」
そう言って、腰にぶら下がっていた剣を抜き、トシキに向けた。
「ねじれなんて“そうそう現れないから”、暇潰しに私と手合わせ願おうか。」
そう言って、また笑みを浮かべた。その笑みにカチンときていたトシキは、
「…オレ手加減とかできないけど、それでもいいなら。」
そう言って、指輪を日本刀の様な片刃の刀に変え、ミゲルに向けた。2人の武器がクロスを描いた。
「じゃあ、よろしく!」
そう言って、ミゲルはいきなりトシキと距離をとって後ろに下がった。
トシキは放心している神楽のいない方向に移動した。
それを見て、ミゲルはトシキの近くに軽く風を起こした。
「!」
トシキは風によって体勢を崩され、地面に手をついた。
そのスキにミゲルは呪文を唱え始めた。
が、頭上から小さな球状になった雷が、12個ミゲルに降ってきた。
トシキはただ移動しただけでなく、移動しながら呪文を唱えていた。
「…やるなぁ!」
そう言って、詠唱を邪魔されたミゲルはトシキに向かっていった。
ミゲルはトシキに向けて突きをしてきた。
それをトシキは刀で受け流し、反撃に出て、受け流した刀を斬り上げようとした。
ドン
ミゲルに腹を蹴られて体勢を崩した。そこへすかさずミゲルが追撃を加えた。
トシキはミゲルの追撃を捌くだけで手一杯になってしまった。
「く…。」
(今までで一番強い…!コイツ…)
今までトシキが剣道で戦った相手の中で一番強い腕をミゲルは持っていた。
「え?何やってるの!?」
今ごろ放心状態から戻ってきた神楽があたふたし始めた。
「何って、手合わせさ!」
神楽にそう言いながらも、トシキに対する攻撃を緩めなかった。
「手合わせって…!ミゲルが勝つに決まってるでしょ!!王国魔法騎士隊の副隊長が何言ってるの!!」
そう言って、その場で一層あたふたし始めた。
そりゃ強いわけだ、と思いながら剣を防ぐトシキ。
ミゲルは、攻撃を緩めるどころかより激しくした。
「そろそろフィニッシュだろう。」
そう言って、攻撃を繰り出しながら呪文を唱え始めた。
「魔法がきます!」
刀になっているテリルが言った。
攻撃に合わせて、リズムよく呪文をミゲルが唱えていた。
「ぅ…、わかってるよ!」
そう言いながらも、刀で受けるのが精一杯で呪文どころか、反撃にもでられない。
「では、終わりにしよう。エアーハンマー!」
呪文を唱え終わったミゲルが言った。
ガン
トシキは風で作られた塊をモロに受け、空き地の端まで吹っ飛ばされた。
「トシキ!」
そう言って、神楽が走り寄っていった。
「あぁ!頭から血が出てる!それに全身に切り傷も…。」
神楽は、スカートのポケットからハンカチを出して、トシキの頭の血をふきだした。
「…。ドルチェを捕まえたやつがこの程度か。使えないやつだ。」
2人には聞こえない様な声で呟いた。
「トシキ、キミでは神楽は守れない。私より強いやつ等はゴロゴロいるぞ。」
ミゲルは冷たく言いはなった。目が、と言うより、全身からでるオーラが冷たい、とトシキは感じた。
「悔しかったら、今よりもっと強くなれるように精進するんだな。」
そう言って、ミゲルは神楽を見た。
「さぁ、神楽行こうか。」
「トシキをほっとけない!」
「今は1人にさせてやるべきだと、私は思うよ。」
そう言って、後ろに向き直って歩き出した。
「…うぅ…。」
小さく呻き声をあげながら、トシキを見て、ハンカチを渡して走り出した。ミゲルとは逆方向へと。
トシキはただそれを見ているだけだった。
・・・・・・・・・
「…くそっ!」
トシキは足元に転がっていた石を思いきり蹴った。
ミゲルと試合をしてから、もう夕方になっていた。試合が終わって、三時間以上たっていた。
「全く攻撃できなかった…。」
初めは同等かと思っていたが、途中からは力の差が歴然とした内容だった。
魔法使いになってから今まで、トシキは苦戦はしても、負けはなかった。その事もあり、少し調子にのっていて、相手を完全に甘く見ていた。
その油断1つで、この結果だ。実戦だったら確実に死んでいた。それを痛いほど身に染みて感じた。
「まだまだだな、オレも。もっと強くなるために帰ってから修行の計画を立てよう。」
そう言って、グッと右手を握った。ふと、握った手を見たら、血は流れていないが、切り傷ができていた。
よく見ると、全身に切り傷ができている。
「…?何か…?」
そう呟いたが、
「…まぁ、いいか。」
何か引っ掛かりながらも家に向かって歩き出した。
「ハンカチ、洗って返さなきゃな…。」
血で真っ赤になってしまった、神楽のハンカチを握りしめた。
・・・・・・・・
「どうしよう…。」
神楽は自分の部屋の隅っこで体育座りをしていた。
ミゲルの告白にどう返事をするか、トシキの怪我は大丈夫だろうか。
一ぺんに事が起こりすぎて、頭が全く働かない。
「トシキだったらどうするの?」
そう言って、トシキの事を考えた。出会ってからまだ、日が全然経っていないが、契約した人。
ゴーレムと戦った後に、私を必要といってくれた人。
今日も、オークと戦った時、一瞬でも強く手を握って、励ましてくれた人。
ミゲルと戦ってボロボロになってしまった、いつの間にかホントに大切になっていた人。
「…何だ、答え出てたよ。トシキ…」
いつの間にか目に涙が溜まっていた。
「明日すぐにトシキに会いに行こう!」
そう言って、夜空に浮かぶ月を見た。
・・・・・・・・
「あれ?トシキいない?」
トシキの家に、さも当然の様にあがってトシキの部屋に神楽はいた。
部屋中見回しても、特に変わった感じもなかった。原付きも車庫に置いてあった。
「…空き地かなぁ?」
そう言って、空き地に向かった。
「…ここにもいない。何処にいっちゃったんだろう…。」
そう言って、後ろに向き直って歩き出した。
「ここにいたのか、神楽。」
空き地の入り口から入ってきたミゲルが言った。
「…ミゲル。」
「ふふっ、まだ早いとは思うが、答えはでたかい?」
そう言って、ミゲルは微笑んだ。
「…。悪いけど、私はあなたとよりを戻す気はないわ。」
そう言って、ミゲルを見た。
「いくらあなたがかっこよくて強くても、あなたが“前”から変わったとは思えないもの。」
神楽がミゲルと付き合ってた時、ミゲルの尻軽さと、時折りみせる冷たい態度、自分一番の性格のせいで、2人は別れた。
それがなおっているとは、ミゲルを見ても思えなかった。
だから、答えはNO。
「…聞き間違えたかな?もう一回言ってくれる。」
顔は微笑んだままだが、声がさっきよりも冷たくなっていた。
「私はあなたと付き合えない、と言ったの。」
神楽は答えた。
「はっ!そうかい、それがキミの答えかい!せっかく人が救済の処置をとろうとしたのに。」
ミゲルは態度を急に変え、顔を手で抑えた。
「キミが悪いんだ!私は助けようと思ったが、キミが断ったためにキミは死ぬんだ。」
そう言って、一瞬で神楽に詰めよって、神楽の首を掴んで持ち上げた。
「あ…ふ…」
苦しそうに声をあげながら、神楽がじたばたした。
「…。フフっ…、キミのナイトは来ないよ。昨日身体的にも、精神的にもボロボロに打ちのめしたからね。キミを手にいれるためにね!」
そう言って、不気味な笑みを浮かべた。
「う…、トシキは、そ、なに、よわ…、くなん、か、ない!」
必死に首を掴む手に抗いながら言った。
「残念だよ。キミには召喚という特殊能力があるのに…、強大な力が仲間にならないなら消すしかないじゃないか。」
そう言って、神楽を地面に叩きつけた。
「あ…、」
小さく呻き声をあげて、気を失った。
「…、このまま殺すのもつまらないな。犯してからにするか。」
そう言って、神楽に近より上着を破って、スカートを裂いた。
「肉体的にも力的にも惜しいな。やはり、付き合っているうちに手を出しとくべきだった。」
付き合っていた時、2人は何もしていなかった。手を繋いだぐらいである。
「まぁいい、めちゃくちゃにしてから殺す。」
そう言って、神楽の下着が覆っている大きな胸を触ろうと手を伸ばした。
チャキ
「そこまでだ。それ以上汚ねぇ手を伸ばすなら首を落とす。」
ミゲルの首筋に刀が当たり、血が流れる。
「プライドも体もボロボロにしてやったのによく立ち上がれたもんだね、キミも。」
横目で後ろを見た。
「…あぁ、ボロボロにされたさ。だけど、生憎オレは負けず嫌いでね。」
「フフっ、そうかい。面白いね、キミ。どうだ?私の仲間にならないか?キミなら即戦力だ。キミの高い魔力は滅多にないからね。」
そう言って、微笑んだ。
「…。ふざけた事を言ってんじゃねぇぞ…、神楽をそんな目に合わすようなヤツの仲間になんかなるか!!」
そう言って、刀を思いきり振り抜いた。
ミゲルは、振り抜かれた刀をひらりと避けた。
「…キミも馬鹿なヤツだ。人が助けてやろうとしているのに…。神楽と一緒に殺してあげるよ、トシキ。」
そう言って、腰から剣を抜き構えた。
トシキは神楽を守る様に、神楽の前に立った。
「…どちらにせよ、お前の仲間になんかなるつもりはねぇよ。お前だろ、昨日オークをオレ達に吹っ掛けてきたのは。」
トシキはミゲルを睨み付けた。
トシキの睨みに、一瞬恐怖をミゲルは感じた。
「…何故そう思った?」
冷静を装いつつミゲルは聞いた。
「アンタのエアハンマーでできた傷と、オークの全身の傷ほとんど一緒なんだよ。」
そう言って、テリルをいじり、昨日のオークのホログラムを出現させた。
「魔法だから、確かに傷は似てくるかもしれない。でも、タイミングが良すぎるんだよ。風を得意とする魔法使いがひょっこり出てくるなんて。」
「クククっ!お前は私が思っていたよりも使えるようだな!だが、お前は敵だ!消さないといけない!!」
そう言って、剣を振り上げトシキに突進をした。
トシキは、ミゲルの剣を刀で受け止めた。
「そうだ、私がお前たちを襲わせるようにたきつけたんだ!力を見るためにな!」
そう言って、トシキを思いきり押した。それによって、のけ反ったトシキ。
「そして、私はお前たちが前に倒した女、ドルチェの仲間だ!」
そう言って、トシキに追撃をかけた。
「フハハハハ!どうした!昨日とまた同じ状況だぞ!」
嘲笑いながら、刀で受け流し続けるトシキに攻撃をする。
「エアハンマー!」
さりげなく呪文も唱えていた。
トシキは昨日と違い、刀で直撃を避け、魔法障壁をはって防いだ。
「マジックシールドか…。」
そう呟きながら、距離をとって剣を構え直した。
トシキも態勢をたてなおし、構えた。
「ん…、あれ?私…。」
そう言って、神楽が目を覚まし起き上がった。
「あ!トシキ!…ミゲル!!」
自分を守る様に立っているトシキに気づき、トシキと向かい合って立っているミゲルを見た。
「トシキ!ミゲルは…」
「わかってる、敵だろ!」
「あ、うん…」
「いいから、安全な場所で隠れてて!オレが何とかするから!!」
「う、うん…。」
そう言って、立ち上がった。が、ミゲルに裂かれたスカートがずり下がり、足にもつれて転んだ。
「いったぁーい!もぅ…、って何よコレ!」
そう言って、自分の格好に驚いて言った。
「うるさいな、黙っていろ。お前から殺してやろうか?」
そう言って、ミゲルは呪文を唱えた。
「神楽!逃げろ!」
呪文詠唱に気付いたトシキが言ったが、神楽は起き上がったばかりで魔法が直撃した。
「キャアァァァ!」
悲鳴をあげ、風の塊の直撃で横に吹き飛んだ。
「カグラあぁぁ!」
トシキが叫んだが、神楽はその場でピクリともしなかった。ミゲルがいるため近寄れず、生きてるのかすらわからない。
「てめえぇぇ!今のが惚れたヤツにやることかよ!!」
ミゲルを睨んで叫ぶように言った。
ミゲルはその気迫にたじろった。
「クハハハハ!私がホントに惚れていると思っているのか!私はその女に興味はない、力が欲しいのだよ!強力なね!」
嘲笑いながら言った。
「てめえぇぇぇ…!許さねぇ!神楽を騙してたのか!」
完全にキレた。
トシキが攻めに出た。
ミゲルは、トシキの威圧感で反応が遅れた。
そのため、よけるのが遅れ、身体を切られたが、傷はそれほど深くはなかった。
(浅かった…!)
さらに、トシキが追撃に出た。
ミゲルは、今度は反応し剣で受けた。
「怒りで戦ったところで勝てるとは限らないぞ!」
ミゲルは、防御から攻撃に切り替え、攻守が一転した。
「くそっ…!」
剣の腕は確実にミゲルのが上で、受けるので手一杯だった。
(もっと…、もっと攻撃できれば!攻撃!)
そう思いながら必死に防ぐ。
(神楽を傷つけたコイツを倒せるのに…!攻撃さえ…攻撃さえできれば!)
「…!」
ミゲルが急に距離を開けた。
背筋がゾッとする感覚によって距離をとった。
その行動に驚いたが、すぐトシキは攻めに転じた。
「はあぁぁぁ!」
刀を思いきり振り上げて、振り下ろした。
ミゲルは剣で受け止めた。
「…!?」
ミゲルとトシキは同時に驚いた。刀が両刃の刀身が赤い、大剣にいつの間にか変わっていた。柄も両手で持つには長い長さになっていた。
「お前、何だその目は…!?」
ミゲルが言った。
トシキの目が片方だけ色の違う目になっていた。右が黒、左が赤、という色になっていた。
が、トシキからはわからない。何を言ってるんだ、コイツは?みたいな事を思いながら、腹ががら空きになっていたため、腹を蹴りあげた。
「ぐ、しまった…!」
腹に一撃入れられ、態勢を崩し、態勢をたて直そうとしたが、体が動かない。
「な…何だ!?」
「動くわけねぇよ。さっきの蹴りに雷を付加したから、感電して麻痺してるんだよ。」
急に変わってしまった大剣をグローブに変えた。グローブも全体的に赤で、所々が黒という色になり、甲の部分に盾をバックに剣と杖がクロスした紋章がついていた。
トシキは、グローブをした手をギュッと握りしめ、膝をついているミゲルに一撃を加えた。
「ガハッ…!」
ミゲルの体が宙に浮いた。風を付加した一撃だった。
「まだまだぁ!」
そう言って、宙に浮かんだミゲルに追撃をかけた。
人体の急所を打ち続け、地面を蹴って宙に浮くミゲルを超えた位置から踵落としをした。
「くらぁえぇ!」
ミゲルの背中に思いきり当り、ミゲルは地面に打ち付けられ、打ち付けられた場所が少し陥没した。
「はぁはぁ…、やったのか…?」
汗を手で拭いながら、ミゲルの様子を見た。
ピクリとも動かない。
「勝った…!」
そう言った瞬間、トシキは風の塊が当たって、吹き飛ばされた。全身に切り傷がおまけでついてきた。
「ま、まだ負けてはいない…!」
ミゲルがフラフラになりながらも立ち上がった。足がガクガクしている。
「グッ…、しぶといヤツだな…」
そういいながら、トシキも戻ってきた。
お互いダメージがたまっていて、満身創痍である。
(これが、最後の一撃だな…)
フラフラになりながらも、お互いにそう思った。
トシキは、グローブを大剣に変えて構えた。
ミゲルは、それを見て剣を構えた。
トシキが大剣を構えた時、頭に何かが入ってくる感覚がした。
お互いが向き合って、ザザァーっと、風が木を抜けて葉っぱから音を起こした。
音がおさまってから、2人は動いた。
一撃
トシキがミゲルの攻撃を完全に読んでかわし、一撃をいれた。
ミゲルは左肩から腰まで、斜めに大きな傷を受けた。傷から血が流れ出て、膝をついた。
「バカな…!私が負けただと…!ゴフっ」
血を吐き、その場に倒れた。
「今度こそ、オレの勝ちだ…!」
そう言って、大剣を指輪に戻し、神楽に近寄っていった。
「神楽!」
名前を呼びながら、体を揺すった。
首に手をあて脈をはかると、ドクン、ドクン、と、一定の感覚で脈をうつのがわかった。
「良かった、生きてる…!」
そう言って、着ていた防寒着を脱いで神楽に羽織らせて抱えあげた。神楽は、予想よりも軽くて、楽に持ち上がった。
「傷が残らないといいんだけど…。」
そう言って、神楽の顔についている土をふき、ズボンのポケットからハンカチを取りだし、傷や、汚れを拭いた。
「それにしても、まだアイツみたいに強いヤツがいるのかな…。」
そう言って、倒れているミゲルの方を見た。
「なっ!?」
ミゲルを覆うように、黒い霧状の物がかかっていた。
「何だ、あれ…。」
神楽を抱えていたため、見ているしかできなかった。
次第に霧は薄くなり、霧がなくなった時にはミゲルの姿はなかった。
「何なんだ、いったい…。」
そう言って、辺りを見回したが特に何も変化はなかった。
「…帰るか。神楽の傷を治さないと。」
気になることが多々あったが、トシキは神楽の家に向かって歩きだした。
・・・・・・・・・
ハイライト王国
「ふっ、容易いものだな、侵入も。」
そう言って、ハイライト王国軍の騎士隊の装備をつけた3人が、地下牢に向かって歩いていた。
「長い間戦争がなかったから、たるんでるんですよ、兵士達は。」
「たるみすぎにも程があるぜ。いくらなんでもこれはないぞ。」
地下牢までに見張りは2人。地下牢への門を守る門番だけだった。そこから、地下牢まで見張りも罠もない。
「着いたな。」
リーダー格の男が言った。
目的地に着いた。彼らの仲間の1人、ドルチェが捕われている地下牢に。
「…情けないな、魔法使いになったばかりの小僧に負けて、牢屋に入れられるなど。」
リーダー格の男が言った。
「ま、マゼラン!?」
ドルチェは、自分への訪問客に驚いて鉄格子に近づいた。
「あ…、あたしを殺しにきたのかい?“尋問”される前に。」
声が震えながらも聞いた。
「…、お前にチャンスをやろうと思ってな。また、捕まるようなら殺す。だから、次は油断をするなよ。」
そう言って、懐から杖を取り出した。
「あぁ!絶対に仕返しをしてみせるさ!このままでは済まさないよ!!」
ドルチェが言って、マゼランが牢屋の鉄格子に魔法を使った。
鉄格子が、高温で熱せられたかの様にドロドロに溶け、穴が開いた。
牢屋の鉄格子には、高度な魔法障壁がかけてあり、普通の魔法使いでは、魔法を跳ね返されてしまうぐらいの強度がある。それを簡単に溶かしてしまうほどの魔力をマゼランは持っていた。
「クックックッ…。さぁ、世界の再生のために進み出よう!」
マゼランが、マントを翻して消えた。ドルチェ達もあとに続いて闇に消えた。
誰もいなくなった鉄格子の一部が溶けた牢屋。
ハイライト王国で、初めて誰にも知られずに牢屋から脱出を行われた。
それが知られるのは、翌日の朝になるだろう。
この回での新登場人物です。
マゼラン(27)
詳しい能力は不明。
高い魔力を持ち、「世界の再生」をしようと組織を作る。
ねじれとも関係している。
マントとフードを常に被っているため容姿は見えないが、体格はゴツイ
180cm 75kg AB型
ドルチェ(22)
土属性の魔法が得意。それ以外に火と水も使える高位魔法使い。
格下相手だと油断することがある。そのせいでトシキに倒され捕まったが、マゼランらによって救出される。
外見だけだとかなりの美人で、プロポーション抜群なのだが、性格がドSなため、あまりモテない。
162cm 46kg A型
ミゲル・ワルトマン(20)
ハイライト魔法学校を主席で卒業した、神楽と同期の魔法使い。
魔法学校卒業後、ハイライト王国軍騎士隊副隊長に着く程の能力で、将来を期待されていた魔法使いだが、トシキとの戦闘で負け重体。
見た目イケメンなのだが、女たらしと自信過剰のため、同性からは疎まれる存在。
180cm 65kg B型