裏組織アカツキ
魔法学園で修行してから三ヶ月後。
旧世界の南に位置する大陸。そこに広がる森林の中に、二人の人間がいた。
一人はツンツン頭の男で茶色のマントを羽織っている。もう一人は、マントに付いているフードを被っていてよく姿が見えない。フードから覗く澄んだ青い髪と、華奢な体つきから女性と思われる。
「なぁ、ここであってるのか?」
青年が隣を歩く仲間に聞く。
「そうね、目的地は合ってるけど、ターゲットが見当たらないわ。」
紙を一枚青年に渡す。
「んー…、確かに」
紙を読んで頷く青年。
この二人は、所属する組織から任務を受け、南の大陸まで来た。その任務は、魔物の討伐なのだが、その魔物の姿が見えない。
「この辺を縄張りにしてる、ゴブリン達か…」
この辺の森には、ここでしか採れない食材や素材があるため、職人や商人がよく訪れる。だが、最近ゴブリン達の軍団が現れ、安全に採取できない。
そのため、討伐にこの二人が駆り出された。
「はーぁ、たかがゴブリン共を何で相手にしなきゃいけねーんだ…」
青年が文句をたれる。
「人が困ってるのに放置はできない。」
スタスタと青年を置いて先に進んでいく。
「…真面目ちゃんだねー」
ため息をつき、後に付いていく青年。
二人の後ろ姿を睨み付ける目が、木陰から覗く。
・・・・・・・・・・・
森林を駆ける二人。その後には、こん棒や剣、弓矢を持ったゴブリン達が二人を追いかける。
「おい、これは聞いてないぞ!」
青年が隣を走る仲間に怒鳴る。
「サイトも聞いてないのに、私だって聞いている訳ないでしょ!」
怒鳴り声が帰ってきた。
「グゥ…」
サイトと呼ばれた青年が苦い顔をする。青年は幾月才人。前に武道会でトシキと戦っていた。
才人が、後ろを追いかけるゴブリン達の方を見る。
何度見ても、数が減るどころか増えていた。
初めは五頭程だったのが、いつの間にか数が増え、今では五十近くの数がいる。
「…」
仲間が足を止め、ゴブリン達の方を見た。
手には二丁のハンドガンが握られている。
「お、おいサキ!」
ゴブリンに銃を向けるサキと呼ばれる仲間に慌てて近寄る。
「今は逃げるべきだろ!?体勢を建て直すべきた!」
サイトがサキの肩を掴む。
それに、サキの被っていたフードが取れ、綺麗に澄んだ肩まで伸びた青い髪が光を受ける。
「私が残るからサイトは体勢を整えて。」
そう言って、肩から優しく手をどかす。
「んなことできるかー!」
そう叫んで、サキの前に出るサイト。
「オレが前衛、お前が後衛。こうなったらとことんまでやってやる!」
サイトが腹をくくりゴブリン達に向かっていった。
まったく…
小さく笑みを浮かべ、サイトに向かってくる矢を二丁のハンドガンで撃ち落とす。
ハンドガンから、火を纏った弾丸が飛んで、矢を燃やしていく。
魔力を込めることで魔法弾が放てる構造になっているようだ。
「うおらぁ!」
迫り来るゴブリン達を薙ぎ倒していくサイト。
「…」
もうちょっと周りを見て欲しいな
言葉には出さずに、サイトを狙って飛んでくる矢を撃ち落とすサキ。
サイトがドンドンとゴブリン達を薙ぎ倒していく。サキもサイトをカバーしつつゴブリン達を倒している。
その二人の勢いにゴブリン達が押され始める。元より、動きに連携がないためそこまで苦戦はしていないのだが、如何せん数が多い。
倒してもまだ後から流れるようにゴブリン達が来る。
「おい!オレのサポートはもう良いから、お前も前に出ろ!!」
「…わかった」
頷き、サキが前に出る。走っているときに、ハンドガンをしまい、日本刀を構える。
「…」
ゴブリン達が密集している場所に飛び込み、日本刀で回転斬りをする。斬られたゴブリン達が、後ろにいたゴブリン達に倒れかかりドミノ倒し状になる。
すかさず、日本刀を地面に突き刺し、ハンドガンを再び構える。
そして、ゴブリン達に魔法弾を乱射する。爆発と鎌鼬が起こり、周りのゴブリン達がそれに巻き込まれて倒れていく。
サイトもそれを見て笑い、更に激しくゴブリン達を潰していく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
見た感じ酒場の様な場所に、サイトとサキは無事任務を終えて来ていた。酒場らしくテーブル席にはお客さんがそこそこいる。が、カウンターには何故か誰も座っていない。
そんな酒場のカウンターで、マスターに話しかけた後、カウンター脇の通路に二人が入っていく。
その通路の先には一つの扉があった。
その扉を開け中に入っていく。
「あ、お戻りですね。お疲れ様です。」
と、部屋に入ってきた二人に挨拶する女性。
赤髪碧眼のかわいらしい少女が、二人に挨拶する。
「おう、任務は無事終了だ。」
サイトがその少女に報告する。
「はい、了解です。」
と、机に一枚の紙を置き、サラサラと何かを書き込んでいく。
この部屋は受付のようで、部屋の壁際にカウンターが有り、そこに少女が座っている。側に掲示板があり、何枚か張りつけてある。それ以外に扉が入り口と合わせて3つあるだけの部屋だった。
「…と、よし。報酬はいつもどおり、後程御送りします。」
と、二人に微笑む少女。
「あいよー」
サイトがカウンターの右側の扉に入っていく。サキもその後にゆったりとついていく。
・・・・・・・・・・・
「おう、戻ったか!」
サイト達の入った部屋から、更に部屋を通り過ぎた先の部屋に今いる。
その部屋には一人の男がいた。自分の机の上に足を乗せた偉そうな態度。髭面の中年程の男。
「ゴブリンの数が異常に多かったけど、問題なしだ。」
と、サイト。
「数が多かった?どう言うことだ?」
めんどくせーな、みたいな表情をする男。
この人顔にですぎ…
「さぁ、こっちが聞きたいよ」
サイトがため息をつく。
「最近の魔物大量発生と関係が有りそうだな。」
男がくわえていたタバコを灰皿に擦り付ける。
サキが頷く。
「まぁいい。よくやった。次の任務まで休んでいいぞ。」
懐から新しいタバコを取り出す男。
「あいよ、ボス」
そう言って、部屋から出ようとするサイト。
「おう、ところでお前らもう慣れたか?」
と、ボスと呼ばれた男が二人を呼び止める。
「はあ?」
サイトが訝しげな顔をする。サキもムッとする。
「んー?お前らコンビなんだから仲良くしろよ」
ボスが二人の方に来て、二人の背中をバシバシ叩く。
痛い…
サキが涙目になりつつボスを睨む。
「付き合えっていってる訳じゃねーんだ。コンビとしての自覚を持ちな。ま、付き合うのはお前らの自由だがな。」
と、笑うボス。
「それにこんないい女そうそういねーぞ、サイト!」
サキのローブを外し、サイトの前に差し出す。上下黒いジャケットと短パン、黒いニーソにブーツ。腰に二丁のハンドガンと、背中の方に日本刀を提げている。
ローブで隠れていたサキの凹凸のはっきりした体つきが露になる。
「っ!?」
サキが赤くなりながら、体をかくしボスを睨み付ける。
「うっ…」
サイトがその姿にドキッとする。
「…?うぅぅ…」
サキが自分を見ているサイトに気づき、ボスからローブを奪い取り羽織る。
「美人で強い、そして清楚で可憐!中々おらんぞー!」
豪快に笑うボス。
「…」
サキが部屋からそそくさ出ていく。
「やりすぎだ」
サイトがため息をつく。
「…みたいだな」
頭をかくボス。
・・・・・・・・・・・
自室に戻ってきたサキ。サキがアカツキに入ってから支給された部屋。窓際にベッドがあり、その側に机と椅子、タンスと荷物入れの箱が置いてある。
「…ったく、ここのボスは苦手だ」
ため息をつき、ローブを外す。
ふと、自分の体に視線を落とす。
「またでかくなった…」
自分の胸を腕で持ち上げてみる。フニフニと柔らかい感触が腕に当り、その重さがかかる。
どうしようか…、どうしようもないけど
ため息をつき窓から見える夜空を見る。
「アカツキに入って一ヶ月…。」
サキが服を脱ぎ、ネグリジェを着てベッドに入る。
「うーん…」
もぞもぞベッドの中でしながら、サキは眠りについていった。
その部屋を月明かりが優しく照らしている。