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彼の進む道  作者: けやき
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修行

ハイライト魔法学園の裏側に位置する森。そこには、比較的穏やかな動物が生息し、魔物があまり出現しない。魔物があまり出ないために、力の弱い動物たちが集まってくるのだ。


そんな森に轟音が響く。木が倒れ、砂煙が空に上がる。鳥たちが一斉に空へと飛び立っていく。


「止まるなと言ってるだろう!」


金髪を煌めかせた少女が、宙に浮き怒声を上げる。ハイライト魔法学園の学園長、ミトス・フィーズ。


その怒声を浴びる地面に手をつき、学園長を見上げる青年。


「くっ…」


青年、坂井俊貴が苦い顔をする。トシキが肩で息をしているのを、学園長は平然と見下ろす。


「まぁ、少しは持つようになったのう。」


学園長がトシキの前に降りてきて背を向ける。修行を始めて既に1ヶ月が立っていた。始めたばっかの時は、一分も持たなかったが、今は三分は持つようになっていた。


「そ、そうですか?」


トシキにはそんな実感はなかった。必死にやっているため、そんなことを気にしている余裕は全くなかった。


今のトシキが何とか戦えてる程強い学園長。


オレじゃなくて学園長が戦えば良かったんじゃ…


そんなことを思いながらも修行に励んでいるトシキ。学園長の役目が有り、そんなことできないのはわかっているが、ふと思ってしまったトシキは自分が許せなくなった。

そうやって、逃げようとする自分の心に腹がたつ。


「さて、五分休憩したらまた始めるぞ。」


「はい、師匠!」


トシキは学園長を勝手に師匠と呼んでいた。学園長かミトスさん、は呼びづらい、そう思い呼びやすい師匠にした。トシキ自身が師匠と呼んでみたかった、と言うのもあった。

師匠と呼ばれることに初めは嫌がったが、次第に気にならなくなり、今では何処か心地よくなっていた。


厳しくも、割りと仲睦まじく修行が行われていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


教室の黒板を前にして、三人の少女と先生が講義を行っていた。

首の長さ程で切り揃えられた黒髪の少女クロエと、黒髪を横で結ぶサイドポニーの少女桜、茶髪ポニーテールの明日菜の三人と、先生である。

今は、魔法使いになりたての明日菜の魔法の基礎の講義中だった。


既に1ヶ月たっているため、基本は何とか教わり、応用に入り出したばかりだった。そのため、クロエと桜も講義に集中する。

「魔法を使うにあたって、魔力の練りと効率が重要になります。特に、運用効率を良くすることで魔力消費を最低限に抑えることができます。」


先生が魔法を使い、杖の先に火を灯す。


「これは魔力を抑えず、普通に使った火です。」


先生が三人に見せた後、火を消す。


そして、再び火を灯す。


「これが、魔力の運用効率を良くした火です。」


杖の先には、先程の火と全く変わらない火が灯っている。見た目何も変わった感じはなく、素人が見たら違いがわからないだろう。


「ふむ」


桜が先生の作り出した火を見て顎に手を添える。


「へぇ、流石は三国一の技術力を持ってる学園だ。」


クロエも感嘆の声をあげる。

二人ともそれがわかっているようだ。


「…」


が、明日菜には今一よくわかっていなかった。


「いきなりできるとは思ってません。お友だちも一緒ですので、協力してやってみたください。」


そういって、実習を開始させる。


基本を学んだ後、次に教わるのは魔力の運用効率だった。運用効率を良くすれば、魔力を最低限に抑えれて、魔法をより多く使うことができる。それは、人助けにも戦闘でも大きな効果を持つ。特に戦闘では、魔力を最低限に抑えることで、強力な魔法を何度も使うことができるため、ハイライト魔法学園では、応用で一番始めに教えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


トシキの愉快な仲間達はそれぞれに与えられた修行をこなしていた。


アイギスは格闘術の得意な先生とひたすら実戦を行っていた。無駄な力が多い、型が適当すぎる等、注意をかなり受けているようで、むくれつつも真面目に受けていた。


神楽は召喚を得意とする先生が誰もいないため、召喚についての教本をもらい、解る範囲でキャロルに教えてもらっていた。そのかいもあり、簡易召喚を少し使えるようになった。簡易召喚とは、精霊を召喚する根本的な部分は同じだが、時間が短く強力な技を使った後は、魔力が切れもう一度召喚しなければならない。

だが、簡易召喚は召喚よりも魔力を消費せず、出が早いため使い勝手がいい。使いこなせればかなりの力となる。


霊紗はそれぞれの属性の得意な魔法を使える先生に戦闘用の魔法を教えてもらっていた。霊紗は光が得意なのだが、魔符に限界を感じ、それ以外の属性を合わせた魔法を使い幅を増やそうとしていた。


カガリは、エルフで魔力がトシキよりも大きい事もあり、中級以上の火の魔法とトシキの得意な風の魔法を教わっていた。


アイギスや神楽達も、魔力の運用効率を良くするために、明日菜と一緒に講義を受けることもあった。


桜とクロエは、他のメンバーと違い地がしっかりとかたまっているため、割りと戦闘の実習が多い。が、座学もそれなりに入っているため中々ハードだった。


トシキも学園長と実戦をしながら、学園長の仕事がある時は霊紗達の講義に混ざったりしていた。


幸いにも、ハイライト魔法学園には優秀な先生が多いため、能力の底上げには持ってこいだった。

ハイライト魔法学園は、三国一の技術力を誇り優秀な魔法使いを生み出している。トルガイア王国もシェルアクア王国も優秀な先生がいるが、ハイライト王国よりも教育に余り力をいれてはいなかった。


そのために、我が子を優秀な魔法使いにしようと、他の二国からわざわざ入学させる親も少なくない。


そんな魔法学園との繋がりを持つトシキはかなりの幸運だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


学園長室にトシキ達と学園長とキャロルがいた。

その日の修行は終わり、クタクタになっているトシキ達。


「トシキ君、これがあなたに頼まれた資料よ。」


キャロルが脇に抱えた茶封筒をトシキに渡す。


「ありがとうございます。」


キャロルに微笑み封筒を受けとる。


中身を見るとA4用紙大の紙が三枚と、二つ織りにされた紙が一枚入っていた。


「何それ?」


神楽がトシキの横にきて、封筒を覗く。


「オレ達がでた大会の過去のデータと、最近出てきた黒いロボットの被害データだよ。」


トシキが紙に目を通す。


「…」


霊紗もトシキの横に来た。


「んー…」


二つ折れにされた紙を開き、交互に見る。


「何でそのデータがいるの?」


神楽が首をかしげる。


「仮説だからまだ確定してないけど、黒いロボットの狙いが何か解るかな、と思ってね。」


トシキがA4用紙の紙を机に二枚置く。去年と一昨年の二年の武道会データだった。

その紙を霊紗と神楽が一枚ずつ手に取る。


魔法使いと、一般人で分けられた分かりやすい名簿が載っている。


「このデータはどうやって?」


トシキが、今年行われた武道会の名簿を見ながら聞く。


黒いロボットの被害者が、武道会に出たメンバーと一部一致している。


「このデータは、国の諜報部が集めた物ですので、出所はわかりません。」


旧世界も魔法世界どちらとも、情報は諜報部

が集めてくる。

魔法学園にも独自の情報源があるのだが、そこから情報を得ることが出来なかったためやむ無く国に情報提供を求めた。


「じゃあ、この名簿はキャロルさんが?」


「いいえ、私が受け取った時からその状態だったので、そのままあなたに渡しました。」


キャロルが首を横に振る。


一般人と魔法使いの区別が付いてる。国の諜報部が纏めたからか?


キャロルが纏めたと思っていた。


「それが何か?」


キャロルが不思議に思う。


「この名簿が元の名簿のコピーだとしたら、どう思います?」


トシキが学園長とキャロルを見る。


「…確かに、無くはないのぅ。となると、その大会の主催者側はキナ臭いぞ。」


学園長が机に肘をつく。


「ですね。」


トシキが頷く。


「で、坊やの結論は出たかの?」


学園長が笑う。


「えぇ、まぁ。」


トシキが苦笑いする。確信はないのだ。


「黒いロボットの被害者と、あの武道会に出たメンバーが一致しました。それ以外に襲われた人達がよくわかりませんが。」


「ふむ。」


学園長が頷く。神楽達もトシキの話に耳を傾ける。


「ただ、規則性がないんですよ。ロボットだから命令された内容で動くと思ったんですが、魔法使いを殺してるかと思ったら、旧世界人も殺してる。魔法使いを殺さず、その魔法使いが行方不明。」


「何が目的なのか今一解りづらい。」


トシキの答は、でない。謎を増やす結果になっただけたった。


抵抗した者を殺すとすれば、解らなくもないが、クロエの時は交渉すら無かった。殺された被害者の共通点…


トシキの指を擦る癖がでる。


旧世界の兵器…

魔法使い…

旧世界人…

大会関係者…


何となく引っ掛かる事はあるけど、もう少し様子を見るか


「時間も遅いし、そろそろ部屋に戻りなさい。」


キャロルが腕時計を見た後に言う。


「はーい」


神楽達が返事をして、学園長室から出ていく。


「坊や」


トシキも出ていこうとしたら、学園長が呼び止める。


「何ですか?」


振り返るトシキ。


「何となく黒いロボットの事がわかってきてるんじゃないか?」


トシキに微笑みかける学園長。皆がいる時には見せない様な笑顔だった。


「…はい。何となくですけど、思い当たる所があります。」


頷くトシキ。


「ふむ、ではここへ行ってくると良い。修行が終わってからな。」


と、一枚の紙を差し出す。


「!」


それを受け取り、文字を見る。そこには、一つの組織と思われる名前と、注意事項の様な物が書かれていた。


「良いか?最後に書いてあることは特に注意して欲しいんじゃ。」


「はぁ…」


理由はわからないが、意味があるんだろうと頷く。


「ふん、話は終わりじゃ。戻ってよいぞ。」


「はい、お休みなさい。師匠。」


学園長に挨拶してトシキが出ていった。


「キツくなるのはこれからじゃぞ、坊や」


学園長が窓の外に浮かぶ月を見上げた。


こんにちわ。

今回で第二部前編終了です。

まだしばらく旧世界です。



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