暗躍する機械兵
いつも通り、朝の鍛練を済ませトシキ達は神楽達の部屋にいた。
「ねぇ、トシキ」
「ん?」
「何か最近ねじれがかなり少なくない?」
「…そうだねー」
神楽の言うとおり、最近減ったねじれが、更に起こらなくなった。両世界の魔力バランスがちょうどいい、と言うのが原因で、ねじれが起こらず魔力の吹き溜まりに魔力が溜まりつつあった。
そのおかげで、旧世界のねじれ被害は減少し、平和が訪れ始めていた。
「でも、ヴァニタス達がいつ来るかもわからないから、気を緩めすぎるなよ」
トシキが念のため釘を指す。
オレ達は監視されてるだろうし、気を付けないと…
武道会の事が一般に知らされていないことに、トシキは未だ疑問を感じていた。
それに、あの場にガイがいた…
ゲートがまだ復旧中なのにも関わらず、魔法世界にいるはずのガイが旧世界にいた。
そこがどうも引っ掛かる。
「あんまり頭ばっか捻っててもわかんないもんはわかんないわよ」
霊紗がトシキの眉間を指でつつく。無意識に難しい顔をして、眉間にシワがよっていたようだ。
あたっ、と眉間をさする。
「そうだな。」
ありがとう、と言って微笑む。
「別に、あんたのためじゃないわ」
そっぽをむいて、頬をかく。トシキの方からは、霊紗の顔が赤くなっているのが見えない。
ま、今は誰が何をどうしようとしてるのかわからんし、下手に動くのは良くないか
トシキが立ち上がり、伸びをする。
「どっか行くの?」
神楽が立ち上がったトシキを見上げる。距離が近いせいで、胸元の空いた服を着ている神楽の大きな胸の谷間がよく見えた。
うっ…、またでかくなったか?
すぐに目をそらすトシキ。神楽は気づかなかったが、霊紗は気づき、やっぱ胸か…、と呟いた。
「ちょ、ちょっと散歩に行ってくるだけだよ。」
自分の方を見ずに答えたトシキに首をかしげる神楽。
「私も行くわ」
霊紗も立ち上がった。
それに神楽がムッとする。
「私も行く!」
神楽も立ち上がった。
な、何だ…?ただそこら辺を歩こうと思ってたのに…
目の前で霊紗と神楽がにらみ合う。
仲が悪い訳では無いのに、にらみ合う原因が判らず戸惑う。自分が原因だとも知らずに。
(アイツ、この手の話に疎いのか)
クロエが遠い目でトシキを見る。
自分の部屋も用意され、その部屋に居てもいいのだが、暇だし行くか、と神楽の部屋に来ていた。
クロエは気づいていなかった。トシキ達といると楽しい、気が楽だ、と言うことに。
「なら、私も行くのじゃ!」
カガリも、トシキは私の夫じゃ!と、立ち上がった。
「んー、じゃあ私もー!」
アイギスがノリでその波に乗った。
な、何だ…この状況は…!?
目の前で睨み合う三人と、その間で跳ねるアイギス。
「うふふ、ならトシキに選んでもらえば良いんじゃない?」
と、悠里がクスクス笑いながら提案する。
その通りじゃ、と神楽達がトシキの方を一斉に向く。
「ひっ!?」
その剣幕に体をびくつかせたトシキ。
「さぁ、トシキ。選んであげなさい。」
悠里が促す。
くっ…!?どうしてこうなった!…あ、オレのせいか
そう思いながら、律儀に一緒に行く人を考える。
あの三人は外そう…
霊紗達が初めに除外された。
ふと、クロエと目が合った。
「…!クロエと行くよ!クロエの事よく知らないし」
と、トシキ。クロエは驚き、組んでいた腕をほどく。霊紗達三人がトシキを睨み付ける。やっぱ胸か…!と霊紗が拳を震わせた。
「あんた、女で行きなさいよ」
霊紗が指をつきだす。
「…は?」
い、意味がわからない…。いや、言ってる事はわかるが、意味がわからん…
トシキとクロエが呆然とする。
ふむ、と頷き悠里が小さなねじれを作り出し腕を突っ込んだ。
「じゃあ、はい。」
悠里がねじれからだしたのは女物の服だった。
サキとして生活していた時の服だった。
「いや、でも」
「クロエを選んだんだから、これぐらい良いでしょ」
霊紗が笑顔で悠里から服を受け取り、トシキに突き付ける。
笑っているが、恐怖を感じる。
「で」
「はい!」
有無を言わさず服をトシキに渡す。
はぁ…、抵抗するだけ無駄だな
ため息をつき、トシキは諦めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いつもこんな感じなのか?」
クロエがまじまじとサキを見る。
「んー…、今日みたいなのは初めてだけど、だいたいそうかな。」
苦笑いするトシキ。
「ふーん…、ところで何故私を選んだんだ?」
「あの三人の内一人を選んだらヤバイ、そう感じて、どうするか考えてたらクロエと目が合ったんだ。」
「…、アイギスでも良かったって事?」
クロエが少しムッとする。
「…否定はしない。でも、これから一緒にやってく仲間の事をよく知らないのはダメかなとも思ったのも本音。」
サキが申し訳なさそうに言う。
「それで、私を選んだのか…」
クロエが俯く。
「あ、迷惑…だった?」
サキまでうつむいた。
「いや、迷惑じゃないわ。前はそんな風に関わった事なかったから、ちょっと戸惑ってるだけ。」
クロエがぎこちなく笑う。
「そっか…。まぁ、迷惑じゃないなら良かった。
」
サキの笑顔に思わずドキッとするクロエ。なぜか、トシキの笑顔が頭に浮かんだ。
元々、同一人物でもあるため、無理もない。
「…一つ聞いていいか?」
一緒に行動するようになり、気になる事がクロエにできたようだ。
「何?」
サキが、何だろう?とクロエを見る。
「トシキはあの中に好きな娘がいるのか?」
「いっ!?」
サキが顔を赤くする。クロエもなぜかドキドキしてきていた。
「…」
クロエの顔をチラッと見ると、期待をしたような表情。
くっ…、何だこれ!公開処刑!?
予想外の質問にうろたえる。が、頭には黒髪にリボンでポニーテールを結った少女を思い浮かべる。
「気になる人がいる、と」
トシキの表情を読み取ったクロエ。
「いや!…うーん、まぁ、その、あれだ。うん。」
「…その通り」
否定をしようとしたが、見抜かれてる事に気づき、認めた。
「自分の気持ちを伝えないの?」
「…まだよくわかってないんだ。その娘の事も自分の事も」
サキが苦笑いする。
「まぁ、後悔しない選択をしなよ」
クロエがサキの背中を軽く叩く。
「…そうだね」
サキが頷く。
・・・・・・・・・・・
サキとクロエの二人は神楽達のいるマンションまで帰ろうと帰路につく。
クロエを連れていった目的である、クロエをよく知るため、たわいない会話に時間を掛けすぎ、既に夕方。
辺りは夕日に照らされて、二人の影と木々の影を伸ばす。
「思ったよりも、長い時間外にいたみたいだな。」
トシキが頬をかく。
「…あぁ、まさか夕方になるとは」
クロエも苦笑いする。
それにしても、クロエが21だとは…、年上だと思ってたけど、大人び過ぎじゃ…
トシキがクロエを見る。首のまん中辺りで揃えられた黒髪黒眼の凛々しい顔立ちをしている。
「…何だ?」
クロエがジッと見てくるサキを訝しげに見る。
「いや、何も」
慌てて顔をそらすサキ。
急に、木々がざわつく。風も出てきた。
「…」
何か来たな…
そう思い、風の流れを読む。北の方から冷たい嫌な風が流れてくる。
「気づいた?」
サキが、違和感を感じたであろう、隣に立つクロエを見る。
「あぁ。だけどこれは…」
クロエが警戒する。
「おかしいな。魔力を感じない」
近づいて来てるだろう、何かから魔力を感じない。
魔法使いじゃない?じゃあ、何だ?
「!」
風を切る音を聞き、クロエを突き飛ばし、その反動で無理矢理体を反らす。
サキの胸、すれすれをレーザーの様な物が通りすぎた。
「あ、危なかった…」
サキが地面に手をつき体勢を整えた。クロエも立ち上がり、攻撃の来た方向を睨み付ける。
「…ありがと」
顔は動かさず礼を言う。
どういたしまして、とサキも立ち上がる。
近づいてくる気配はするが、まだ姿が見えない。
長距離の攻撃?結構正確だった
ふと、自分達の前にあるはずのない小さな影に気づく。
「…!上だ!」
そう言って、サキはエレメンタルブレードを右手に握り、振り向く。
クロエも腰に提げた剣を握り振り向く。
「なっ…!」
二人の間に棒が振り下ろされた。
アスファルトにあたり、高い音を響かせる。
「なんだ、こいつ…!」
サキが二人の間に棒を振り下ろした者を見て戸惑う。
真っ黒の鎧とヘルメット。全身黒で統一された特殊部隊の様な格好をした人間(?)。手には恐らく鋼鉄の棒、腰にはアサルトライフルの様な銃、背中にバズーカの様な銃器を装備している。
さっきのレーザーは、あのどっちかの銃からか…、オールマイティーに戦える装備だ
棒をサキの方へ、横に振る。
「おっと…!」
体勢を低くしかわす。髪の毛をかすった。
そのままの体勢で、足払いをする。
「!」
脚を払われ、地面に倒れる。
「動くな!動けば首を落とす。」
首の横にクロエが刃をたてる。
黒いヘルメットがクロエの顔を写す。
動く気配がない。
人が着てるのか…?
そう思いながら、様子をうかがうサキ。
「クロエを確認。もう一人は不明。ターゲットの一人を排除」
そう機械的な声が言って、手に握られた棒を振り抜く。
クロエが紙一重でかわす。
思わず体勢をくずく。
「大丈夫?」
サキがクロエを受け止めた。
「すまない。」
すぐ体勢を立て直すクロエ。
目の前の正体不明の黒い鎧も立ち上がった。
「どう思う?」
と、クロエ。
「人間、とは思えないかな。ロボットかも」
信じがたいが、可能性が高い答を返す。
「…詮索は後にするか。」
クロエが銃に持ち変えた鎧を見て、剣を構える。
「そうだね。」
頷き、詠唱準備をするサキ。
『全てを焼き切る雷の精 暴風を纏いし風の精 』
サキの右手に魔力が集中する。
クロエが詠唱するサキを守るため、ロボット(?)の注意をひく。
『来たれ 螺旋の雷 焼き払い 吹きすさべ 』
クロエがサキの詠唱に驚く。
(あの呪文…上級魔法!?)
サキの方をチラッと見る。サキと目が合う。
サキが微笑んで頷く。
「はあぁ!」
強引に剣を振り抜き、鎧が体勢を崩す。
『破滅する天空』
サキの詠唱が終了する瞬間に、クロエが後ろに高く跳ぶ。その後、すぐに小さな雷が高速で鎧にぶつかる。
「!?」
小さな雷が当たる刹那、直径5メートル程の雷が鎧に直撃する。
その速さは、目視できない。クロエの目には強く光った後、鎧がズタズタな切り裂かれていた。
「…あんた今のは?」
目の前で倒れる鎧を見ながら聞くクロエ。雷が当たったのだろう、鎧を焼き付くし煙が上がる。雷の当たった腹の部分と、鎌鼬で切り裂かれた鎧。
「新しい呪文」
やり過ぎた…
苦笑いするサキ。
「…ロボットで良かったな」
壊れた鎧から覗くケーブルや電気回路。線が途中で切断され、バリバリと電気が漏れている。
「確かに…」
中身が人間だったら、限界を越えた電圧に耐えきれず確実に死んでいただろう。
…障壁はってなかったのに、あの黒い鎧全部が壊れなかった。あの鎧は何だ?
サキが親指と人指し指を擦り始めた。何か考える時にでるいつもの癖である。
「所で、こいつどう思う?」
完全に機能停止した鎧を見るクロエ。
「うーん…、たぶん魔法世界の物ではないかな。障壁とか、魔力を全く感じなかった。」
戦闘中もこのロボットから魔力を感じることは一度もなかった。
世界を再生するもの達の造った兵器、魔戦車は元が戦車だが、魔法を使うことができるため、魔力を感知できた。それ以外にも、魔法世界の兵器は魔法が使える様になっているため魔力を感知できる。
だから、このロボットから魔力を感知できなかったと言うことは、旧世界の兵器の可能性が高い。
「魔法世界の関与は?」
と、クロエ。
「無いとは言いきれないけど、可能性は限りなく低いと思う。」
顎に手をあてるサキ。
「旧世界の兵器、か」
「多分、ね。」
サキが頷く。
旧世界の兵器が何でオレ達を狙う?それともクロエを?
「そう言えば、クロエをターゲットって言ったよね?」
ロボットが発した言葉を思い出す。
「あぁ。」
「狙いはクロエ…」
大会参加者か?トシキじゃなくサキだったからオレは狙われなかった。それとも、世界を再生するもの達、の元メンバーだから、か?
サキがぐるぐる脳を回転させる。
いきなり、ロボットが爆発をした。
どうやら、機能停止したら自爆するようになっていたようだ。
後かなもなくロボットは消えた。
証拠は残さず、調査もさせない、か
確実にでかいなにかが後ろについてる
だが、それがわからん
「…」
クロエが俯いていた。
「帰るか」
考えてもわからんもんはわからんしな
「…あぁ」
何か考えているのか、声が重い。
二人は、日が半分沈み始め、暗くなってきた道を帰る。
トシキ達は、まだ知らない。旧世界を実質取り仕切っている組織、ドミニオンの事を。
こんにちわ
お久しぶりです。
今回のを合わせて後3つで第二部の中間地点です。
話が濃くなりつつ、トシキと霊紗、神楽、明日菜、カガリ、更にクロエと、桜も加わりカオスと化しました。作者は、あわわとパニクりながらやってます。
最近ペースが速いですが、これからもよろしくお願いします。