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彼の進む道  作者: けやき
33/63

武道会Ⅳ

第3回戦開始前


武道会会場の周りに林が生り、その林への入り口にトシキ達が座っていた。日陰を選んで木にもたれる様にして休んでいる。


「にしても、ダムドってヤツ堂々と魔法使ってたわね。」


トシキの隣に座った霊紗が、優しく吹く風に髪型を崩れない様抑える。


「えぇ、流石にあんな堂々と使われて焦りましたよ。」


桜が苦笑いする。


前回の試合で服が所々破れており、破れた箇所を確認している。桜がトシキの方をチラチラ気にしながらも、見られて恥ずかしい箇所が破れてないことに安堵する。トシキも服が破れているが余り気にしていない。


「無詠唱はルール破ってないから良いんだけど、あれは流石にオレも驚いたよ。」


トシキが苦笑いする。今までの試合で魔法を使う者が居ても、ダムドの様に派手に使った選手は他に居なかった。


「まあ、主催者側が何とかするでしょ。じゃなきゃこんな魔法使いが存在するってバラしちゃってる大会を開く意味がわかんないわ。」


霊紗がため息をつく。


「ところで、何であなたがいるの?」


アイギスの隣に座るクロエに神楽が聞く。

クロエがトシキをジト目で見る。


「あぁ、オレが呼んだんだよ。」


トシキがクロエの視線を受けつつ、クロエの代わりに答えた。


「クロエはもう敵じゃないし、1人は淋しいだろ?それに昨日の敵は今日の友って言うじゃん。」


と、トシキが立ち上がる。

日陰から日向に出て、武道会会場を見上げる。


「私が邪魔なら出てくよ。」


クロエも立ち上がり、神楽達に背を向けた。アイギスが慌ててクロエの服を掴む。


「邪魔じゃないわ」


意外にも霊紗がクロエを直ぐに呼び止めた。それに神楽達が驚く。トシキは逆に嬉しそうに笑顔だった。


「…ふん」


クロエが振り返り、またアイギスの隣に座り込む。アイギスが嬉しそうに笑う。トシキとアイギスの笑顔を横目でチラッと見て照れるクロエ。


「あ!トシキだ!!」「え!?嘘ー!どこー!?」


と、2人の女性の1人がトシキを指差す。


「ん?」


トシキ達が声のした方に振り向く。トシキの元に駆け寄ってくる女性2人。


「あの!試合すごかったです!!」

「次の試合も頑張ってください!私たち応援してますから!!」


女性2人が嬉しそうにトシキに話しかけ、握手を求めるのを見て、霊紗と神楽、明日菜がしかめっ面をする。


「ありがとう。」


照れた笑顔で2人に握手をするトシキ。それを見て霊紗が立ち上がり、トシキの元に近寄っていく。


「そろそろ試合が始まる時間よ。」


顔は平静を装っているが、声が氷の様に冷たい。


「え?そっか、わかった。ありがとう。」


そんな霊紗の様子に全く気づかず、トシキが桜とアイギス、クロエを呼び、2人に手を振り、神楽達にも手を振って会場の方に歩いていった。

2人の女性が嬉しそうに手を振って会場へ駆け足で向かっていく。


「…ったく!」


霊紗がイラつきながら会場へと歩き出した。


「ちょっと霊紗!待ってよ!!」


慌てて霊紗に付いていく神楽達。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第3回戦1試合目


休憩も終わり、舞台を囲むように観客席が観客達で埋まる。

舞台上に実況兼司会の男が真ん中に位置どる。


「さぁお待たせいたしました!第3回戦Aグループの試合を始めます!」


観客達が盛り上がり、歓声が響く。


「選手の入場だー!」


実況者の叫びが観客達を煽り、更に歓声が響く。

そんな中、舞台にトシキと対戦相手の才人が上がってきた。

ツンツンした黒髪に、ヤンチャそうな顔、服装をしている。



「相手が誰でも容赦なし!坂井俊貴選手!」


慣れてしまった実況者の紹介に、苦笑いするトシキ。


「対するは、今までの試合を無傷一撃で勝ち進んだ実力者!幾月才人選手!」


トシキと反対に、良いことしか言ってない事にも慣れてしまっていた。才人が得意気な顔をしているのを、トシキは気づかず精神を落ち着かせていた。


(今回は始めから思い切り行こう…!!)


トシキが才人の強さを感じとり、魔力を研ぎ澄まして集中する。


「!」


トシキの魔力に反応して笑う才人。

才人も魔力を高めた。


「…」


2人はなにも語らずに笑う。


「では、試合開ー始!」


そそくさと舞台から降りた実況者が合図する。


その合図と共に、トシキが縮地で才人の真横に移動し、才人の頭を狙って蹴る。

「!」


腕で才人がトシキの蹴りを防ぎ、足を掴む。


「な!」


そのまま才人が場外へと投げ飛ばす。


観客達が一瞬視界に入った後、舞台へと視界を移す。空中でトシキが一回転して、片足で場外に着地し、そのまま舞台に跳んだ。



トシキの着地に合わせて、才人が右足で蹴りを繰り出す。


「っ!」


前に跳び蹴りをかわす。

才人の蹴りが空を裂いた。


「はっ!!」


才人が直ぐ様トシキの真上に跳び上がり、拳を振り下ろす。


「くっ!!」


ギリギリで拳を、右足で舞台を蹴って横に転がる様にかわす。

鈍い音を立て、才人の拳を舞台に穴を開ける。


「へー、やっぱり今までのヤツとは桁違いだな。」


舞台から拳を抜き、嬉しそうに才人が言う。

指をパキパキ鳴らす。


「そりゃどうも…」


トシキが体勢を立て直し、才人を見る。


観客達が今の動きに付いてこれず静まり返っている。

それが、トシキには集中しやすくてちょうど良かった。


「流石は“旋風の雷”。戦争を終わらせた功労者の1人だ。」


右手をトシキに向け、腰を落とし左足の踵を浮かせた。

左手をグッと強く握る。


「何でその事を!?」


警戒しつつ話をするトシキ。


「俺たち裏稼業の人間に、お前の存在は有名だ。邪魔で消したら賞金が貰える。」


「!?」


「ま、この戦いは殺し禁止だから殺しはしないが、五体満足でいられると思うな。」


一瞬でトシキの後ろを取る才人。

左手に魔力が集中している。


「!」


右手で才人の繰り出す拳を流し、左手で素早く才人の顔を弾くように打つ。


「ぷっ!」


その速さに付いていけず、パン、と音を鳴らして後ろにのけ反る才人。


そのチャンスを逃さず、トシキが追撃に出る。


右手で腹を突き、怯んだ所を、左手で頭を突く。


「ぐっ!?」


その連撃を思い切りうけて舞台に倒れ込む。


「はあぁ!」


右手に魔力を集中させ、倒れた才人に拳を打ち付ける。


「ぐぅぅっ!!」


苦い顔をして才人が拳を受ける。ギリギリで物理障壁を張り、拳が体に当たるのを防いでいた。


その衝撃で舞台がへこむ。


トシキが距離を開けた。


「才人選手、トシキ選手の連撃にダウン!」


「1、2、3、」


「こんなもんじゃないだろ?」


トシキが倒れた才人に声をかける。


「…へへ」


才人が軽く起き上がる。


「才人選手起き上がったー!しかーし!無傷の記録がここで途絶えてしまったー!」


汚れを払いトシキに向き直る。


「その程度じゃ全然ダメだな。もっと全力で来いよ!」


指を立てて挑発する才人。

だが、トシキはその挑発に目もくれず、舞台上に一陣の風を吹かせる。風の領域である。


「!」


その風を感じ、警戒する才人。


右足でトシキが舞台を蹴り、一気に才人へと距離を詰める。


「ふん!」


才人が拳を後ろに振り抜く。


「っ!」


トシキの腹に強烈な一撃が直撃し怯む。

風の領域で察知出来ていたのにも関わらず、トシキは攻撃をかわすことができなかった。

トシキが戸惑った隙を狙い、背後に回る。才人が拳を握りしめる。


「!しまっ…」


トシキを殴り付け、吹き飛ぶトシキの上に現れ、腹に蹴りつけ追い討ちをかける。


「ぐあ!」


舞台に思い切り叩きつけられ、舞台の石畳が吹き飛ぶ。


才人がニタッと笑い舞台に着地する。

トシキが口から血を流しつつ、起き上がる。風の領域に引っ掛かってはいるのに、かわせない事に戸惑う。


「へへっ、戸惑ってるな。」


「!?」


才人のどや顔を見て苦い顔をする。


「風の領域は俺に通用しなかったみたいだな。」


才人は風の領域の事を知っているようだった。


「旋風の雷も使えよ。じゃなきゃ俺の動きに付いてこれないぜ。」


と、余裕と自信の表情をする才人。


(甘く見すぎたか…)


血をぬぐい魔力を研ぎ澄ます。

トシキの周りに、風と雷が舞う。


「そう、それで良いんだよ」


才人が笑う。

拳を強く握りしめる。


トシキが息を深く吸い込んだ後、一瞬にして才人の目の前に現れた。


「!……へっ!」


先程よりも速く、捉えにくいスピードに焦り、苦笑いする。

ここまでスピードが上がるとは思っていなかった。


焦りつつも横に体を捻り、腹を目掛けて繰り出された拳をかわす。そのまま、蹴りを繰り出す。


「な!?」


不安定な体勢で出した不意を突いたはずの蹴りは、あっさりと止められ、逆に隙を作り出してしまった。


「はあぁ!!」


トシキの魔力が右手に集中して風と雷が激しさを増す。


「っ!!」


かわそうとするが、足を強く掴まれて、下手に動けば体勢を更に崩しかねない。やむ無く魔力を全身に集中する。


「…っぐ!」


トシキの渾身の一撃が才人の顔に直撃し、舞台に叩きつけられ、再び舞台を壊す。


「トシキ選手の強烈な一撃に、才人選手堪らずダウン!」


実況者がカウントを始めた。


「うわー…、あんな一撃を顔に…」


神楽は思わずゾッとする。


「私らには絶対しない攻撃ね」


と、顔に手を置く霊紗。


「何で?」


昨日仲間になった明日菜に理由がわからなかった。


「さぁ?気を使って顔には攻撃しないんじゃない?」


トシキに理由を聞いたわけでもないため、憶測で答える霊紗。


そんなことを話していると、観客が大きな歓声を上げる。


「才人選手、何と立ち上がったー!あの一撃を受けて立ち上がるとは、彼は不死身かー!?」


と、安い実況に盛り上がる観客たち。


「へー、やるわね」


よろよろと立ち上がる才人を見ながら霊紗が言う。立ち上がった事よりも、トシキが次にどうするのかが気になった。


「あの人すごっ」


と、驚きながらも感心する神楽。


「た、確かに…」


今までの試合で目立つこと以外はよくわかってなかった明日菜だが、今ので立ち上がる才人が凄いのは何となくわかった。


「…立ち上がるとはね」


トシキも決めた、と思っていたため立ち上がった才人に引く。

苦笑いが引きつりつつ、構える。


「流石に効いたぜ。」


鼻血を吹き、才人も構える。


「だが!さっきので決めれなかったのは」


と、その場から消えた才人。


「!」


風を切る音を捉えて、後ろに身を引くトシキ。


「っ!!」


その瞬間に、トシキの居た場所に才人の蹴りが空を裂く。

それが掠り、トシキの服を真ん中から大きく切り裂き、胸に浅い傷をつけた。


「はっ!!」


外れた蹴りを利用して、舞台に足を付け逆の足でトシキを蹴る。


「っく!」


その滑らかに繋げて繰り出された攻撃を、バック転でかわし、足を舞台に着いた瞬間に、間合いを詰める。


「はっ!!」


才人の拳を右手で体の外に流し、腹に掌打を打ち込もうとする。


「ぐっ…!」


が、それを才人に左手で受けられた。


「はっ!」


左手を受けられた間々、膝げりを繰り出すトシキ。


「がはっ!」


腹に膝がめり込む様に入り、悶絶する才人。

「はっ!」


腹を押さえる才人の顔を蹴り、舞台端へと転がされる。


「くっ!…流石にやる…!」


意識が朦朧とし始め、視界が霞む。


「もう時間もあんまりないし、そろそろ終わらせようか。」


トシキの言う通り、時計は残り3分を知らせていた。


「いいぜ。全力で打ち込んでやるよ!」


ニッと笑いトシキの申し出を受ける。

トシキも頷き、笑う。


会場が集中する二人の空気に呑まれ静まり返る。


「……ゴクッ」


司会者が発した唾を飲む音に二人同時に動き出す。


そして、二人が通り過ぎてお互いが背を向ける。


「…俺の勝ちだな」


ニッと笑って振り向く才人。


「……ぐっ!」


トシキが舞台に膝をついた。



口に鉄の味が充満する。


「おぉっと!?トシキ選手、血を流しつつ舞台に膝をついたー!」


「へへっ……!がっ!?」


完全に勝ったつもりでいた才人が舞台に倒れた。


「な、なんだー!?勝利したと思われた才人選手がダウン!」


「悪いけど、オレの勝ちだ…!」


トシキがヨロヨロと立ち上がる。その瞬間に、実況者がカウントをとりはじめる。


「……、負けたぜ」


笑って負けを認めた才人が仰向けになる。


「8、9、10!」


「試合終ー了!トシキ選手の勝利!」


観客が一気に盛り上がる。今までの試合の中で派手さは無いが、レベルの高い内容だったために、観客が異常に盛り上がっていた。


「はぁ…、疲れたし、服がビリビリだ」


トシキが肩を落として、控え室の方へとむかっていった。その後を追うように、救護班に運ばれて才人が救護室に運ばれていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2試合


「さぁ!第2試合を開始しましょう!選手入場!」


桜とアイギスが舞台上へと上がってくる。

観客も歓声を上げる。


「小さな体に秘めるは、鬼の様な馬鹿力!アイギス選手!」


アイギスが膨れっ面をする。

観客からクスクス笑いが混じる。


「対するは、冷静に相手を叩き潰すハンター!浅倉桜選手!」


ため息混じりで呆れる桜。


「先程の試合の興奮覚めぬまま試合開ー始!」


合図と共に歓声が沸く。


「てやぁ!」


先制はアイギス。一気に桜との距離を詰める。


「!」


自分へと向けられる拳を右手で払いのけ、左手でアイギスを掴み投げ飛ばす。


「おわわ!」


空中で体勢を立て直し、舞台に着地し、片足で舞台を蹴り桜へと向かう。


「おりゃあああ!」


アイギスが連続で拳を奮う。

「ふふっ…」


微笑みその連打を総ていなす。


「むっ!」


渾身の連打が全ていなされ、ムスッとしつつ思い切り拳を奮う。


パァン、と乾いた音を立て桜の手に受け止められた。


「…やっぱり、桜は一筋縄じゃいかないや。」


アイギスが笑いながらも少しあせる。

観客がいるために、鬼族化なんてできない。その為に全力は出せない。


「はっ!」


手を捕まれたまま、桜の腹に蹴りを入れようとする。


「……まだまだですね。」


フッと笑い、肘で蹴りを防ぐ。


「まだまだこれからぁぁー!」


無理矢理全力で桜を宙に上げ、思い切り舞台に打ち付けた。


「っ!」


受け身をとり、威力を和らげる。


「…」


桜が起き上がりながら、

アイギスを蹴る。


「わわっ!?」


思わず後退りする。

その隙に立ち上がり、今度は桜が攻めに出る。


桜がアイギスのあご

を掌で打つ。


「うっ!」


アイギスが舞台に倒れ込む。


「アイギス選手ダウン!」


顎に喰らい、意識が朦朧とするアイギス。視界がゆらぐ。


「くぅっ!」


フラフラになりながらも、カウントをとる声を聞き、立ち上がる。


「アイギス選手、何とか立ち上がった!試合

再開です。」


「うぅ…、頭クラクラする…」


あたまを抱えながらなんとか立ち上がる。


「すいませんが、トシキさんのためにまける訳にはいかないので、全力でいかせてもらいます。」


桜が集中する。


「っ!?」


桜が発する気迫にアイギスが気圧された。


「すいません…!」


そう言って、隙のできたアイギスの腹に拳を入れた。


「あがっ…!」


呻き声を上げ場外へと吹き飛んだ。


「アイギス選手場外!」


実況者が再びカウントをとりはじめる。


何とか立ち上がろうとするアイギス。


「立ち上がれませんよ。顎の一発でフラフラなのに、保険でもう一発入れさせて貰いましたから。」


と、舞台上からアイギスに声をかける。何とか立ち上がろうとするアイギス。

が、無情にも実況者が試合終了を告げる。





「な、何と…、開始五分で決着が着いてしまったー!」


「勝者!浅倉桜選手!」


救護班が、立ち上がるのをやめて大の字に倒れたアイギスを運んでいった。


「直ぐ様、決勝戦を始めようと思いますが、舞台がまたボロボロなので修理を致しますので、休憩を挟みたいと思います。」


観客からブーイングが起こるが、休憩をしに観客席から出ていく。



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