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彼の進む道  作者: けやき
3/63

始まる時Ⅲ

「ファイアーボール!」


俊貴の頭上から火の玉が3個、並べられた空き缶に向かって飛んでいった。


ボン ボン ボン


すべて缶に当たり、吹き飛ぶ。缶は、ファイアーボールが当たった部分が溶けて、周りが黒く焦げている。


すごい…。魔法学校の先生でもアルミをファイアーボールでは溶かせないのに…。


神楽が缶を見ながら思った。魔法学校の先生は、アルミを黒く焦がす事はできても溶かす程、高温のファイアーボールを撃ててはいなかった。


…空き缶の強度なら溶けるのかな?何かアルミないかな…。


神楽がそう思いながら周りを見渡した。何故か、廃棄されたのか、使われていなさそうな車が置いてあった。


あれの一部で試してみよう!


神楽は廃棄された車に走っていって、ドアを壊して外し、引きずって俊貴の方に持っていった。


「ちょっ!おまっ!何してんの!?」


車のドアを引きずって笑顔で向かってくる神楽に言った。


「これをファイアーボールで撃ってみて!」


ドアをドスンと置いて笑顔で俊貴に言った。


「それは構わんけど、勝手に外しちゃダメでしょ!次からは勝手に壊したりしないこと!」


俊貴が神楽に軽くデコピンをして注意した。えへへ、と額を擦りながらウキウキした様子で俊貴をみている。

グローブを着けた手をアルミに向け、


「…。ファイアーボール!」


俊貴の手の左右から、火の玉が3個、ドアに向かって飛んでいった。


ボン ボボン


3個ともドアに当たり煙が上がる。

煙が収まり、ドアを見に神楽が向かった。

ドアのまだ煙をあげている部分がドロドロに溶け、白い部分が黒く焦げている。


やっぱり、あのファイアーボールかなりの高温だ!


そう思いながら振り返った。


「なぁ、他の魔法も教えてよ。火と風と雷の初級魔法は一通りやったし。」


そう言って、ファイアーボールと、風を起こす魔法、雷の一閃を飛ばす魔法ライトニングを順番に使った。

車のドアに向かって。

ファイアーボールがあたり、ドアが少し浮き、風を起こす魔法でさらに高く浮き、ライトニングでドアを貫いた。

車のドアに穴を空ける程の雷である。かなりの魔力でなければ空けられない。神楽はかなりウキウキしていた。今までに、こんな魔力を持った人を見たことがなかったし、自分のマスターが魔法使いとしては見習いでも、上級の魔法使いと同じぐらい強くなれるのが嬉しかった。


「じゃあ、次は水と土と氷の魔法にしよっか!」


そう言って、神楽は杖を構えて


「アクアシュート!ストーンブラスト!アイスエッジ!」


順番に魔法を使った。

三本の水の矢が地面に刺さる。その後に、別の地面から石つぶてがあがり、2本の氷のつららが降ってきた。


「水と土と氷か〜。やってみるか!」


また、グローブを構え集中した。


「アクアシュート!ストーンブラスト!アイスエッジ!」


三本の水の矢と、石つぶて、二本の氷のつららを、順番に使った。


「だいたいこんな感じでいいのかな。」


魔法を使った感覚を体になじませようと、今さっきの感覚を思い出していた。


「やっぱり飲み込みが早いね。普通こんなポンポンと違う系統の魔法は使えないよ。私だって、使えるようになるのに結構かかったし、水と光以外まだ初級の魔法しか一通り使えないもん。」


神楽がちょっと悔しそうに言った。

俊貴は何て声をかけていいかわからず黙ってしまった。


「あ、そんなことより、一通りの魔法が載ってる本を貸そうか?確か、家にあったと思うんだけど…。」

そう言って、俊貴に寄っていった。


「呪文が載ってる本かぁ。それがあれば確かに魔法を覚えれるかも。じゃあ、見せてもらうよ。」


そう決まり、2人は神楽の住むマンションに向かった。




「…。ここに住んでるの?」


俊貴は目の前に建っている建物に唖然としながら聞いた。


「うん、そうだよ。何か魔法使いってだけで家賃も安いんだ!広くて1人じゃ寂しんだけどね…。」


手をもじもじしながら言った。


「…半端ねえな。これ…。魔法使いってズルくないか。」


目の前に建つ、ここら辺では一番家賃が高いが、高いだけある広さのマンションである。


「そう?魔法学校がお金だしてくれてるから私はほぼタダで生活してるよ。」


それを聞いて、俊貴は来なきゃ良かったと思った。




神楽の部屋は、玄関に入ってすぐ右にトイレ。その隣にお風呂。玄関を真っ直ぐ行ったところにリビングとキッチンがある。リビングにはテレビと丸いテーブル、ソファー、観葉植物があり、リビングから二つの部屋に行けるようになっていた。1つは空き部屋でほぼ物置状態。もう1つは神楽の寝室となっている。


「あった!これこれ!」


テーブルの近くに座っている俊貴に、物置部屋から神楽が分厚い本を持ってきた。テーブルにドスンと置いて、俊貴の向かい側に座った。


「結構分厚いね、これ。」


パラパラと捲りながら俊貴がいった。所々にメモ書きや、赤い線が引いてあるのに気づいた。


「うん、魔法の基本から上級まで使える呪文が載ってるんだ。意味ないことも書いてあるけどね。」


苦笑いしながら神楽が答えた。

今度はちゃんと中身を見ようとページを捲って読んでいった。


…。邪魔しちゃ悪いし、お茶とか用意しようかな。


神楽がそっと立ち上がりキッチンに向かった。


「…。こんなに呪文あるのか。使えそうなやつだけ覚えておこう。」


そう言って、呪文を理解しつつ暗記し始めた。呪文を理解しないと魔法は使えず、ただ意味のわからない事を言っているだけになってしまう。だから、呪文を理解して覚えないと魔法が使えない。


「お茶ここにおいとくね。」


俊貴の邪魔にならなそうな位置にお茶を置き、また向かい側にに座って自分のお茶を飲んだ。

俊貴の様子を見ていた神楽が、


「なんなら、その本あげようか?私はもう使わないし、いざとなったら魔法図書館に行くから。」


「え?じゃあ、貰おうかな。ってか、魔法図書館?」


だいたい覚えたので、本を閉じ気になる言葉を聞いた。


「うん、魔法図書館。そこに行けばほとんどの魔法に関する本とかあるよ。ただ、広すぎて普通の魔法使いは一階と地下一階までって決まってるんだ。上級の魔法使いは地下四階までいけるんだけどね。」


そう説明しお茶を飲む。


「ふぅーん。上級の魔法使いじゃなきゃ危ないのかな、地下二回からは。貴重な本とかあるだろうからその為のトラップもあるって所か?」


説明を聞いて思ったことをそのまま言った。


「そうだよ、よくわかったね!説明してなかったのに。」


神楽が俊貴の言った事に驚いた。頭の回転早っ!と内心思った。

「そこにはいつでも行けるの?」


ちょっと興味が出て聞いた。


「うぅーん…、行けるには行けるんだけど、すぐには行けないよ。ここからだと結構距離あるんだ。」


「そっか…。」


俊貴が残念そうな顔をした。


「そのうち行こうか!」


「お?うん、行こう!」


神楽の言葉を聞き、表情が一変した。分かりやすい性格である。それにつられて、神楽も笑顔になった。




「これからどうするの?」


神楽が、足を伸ばして伸びをする俊貴に聞いた。今日は土曜日で午前中に魔法の練習をしていた。その途中で神楽の家に来て、魔法の本を借り、神楽の手料理を食べ、くつろいでるところだった。神楽の料理はかなり上手く、昼ご飯にしては結構な量と質だった。

午後からは何の予定もなく、神楽がどうするか聞いた。


「そうだなぁ…。魔法の練習の続きでもしようかな。神楽は、何かやりたいことないの?」


自分の意見を言ってから、神楽に聞いた。


「うぅーん…。特には無いんだけど…。」


神楽は、うぅーんと考え始めた。それをみて、


「神楽って、いつここに来たの?」


「え?五日前だよ。それがどうかした?」


予想外の質問に驚いた。五日前は、ちょうど俊貴が神楽と出会った日の前日である。魔法学校から命じられた初めての任務で、辺りを散策している途中でねじれを見つけうまく対処できた、初めの成果だった。そして、この町にねじれがやたら多いと気づいた日でもある。


「五日前なら、あんまこの辺知らないんじゃない?オレでよければザッと案内するよ?」


俊貴は神楽にそう聞いた。


「何なら荷ほどきも手伝うよ?男手がいるならだけど。」


神楽に微笑みながら言った。

当の本人の神楽は呆けていた。


「神楽?」


不思議に思って名前を呼んだ。


「ひゃ!?あぁ!うん、まだ何のお店が何処にあるかとか知らないし、私一人じゃタンスとか重いもの運べないから助かるけど、いいの?」


「だいじょぶ。任せて!」


神楽に微笑んだ。


「ってか、私がまだ周りのお店とか知らない事と、部屋がまだ片付いてないのよくわかったね。」


それを教えてなかったのに、その事を言われ驚いて思考が止まっていた。


「あぁ、その事か。神楽は自分じゃ気づいてないだろうけど、ここに戻る時にやたらキョロキョロしてたし、部屋来たら女の子の部屋に物が必要最低限で、空き部屋に引っ越しの段ボールがちらっと見えたから、もしかしてって思ったんだ。」


神楽と部屋を見て気づいた事をそのまま答えた。


「あぁ〜なるほど!そこまでキョロキョロしてるつもりはなかったんだけどね。」


そう言って、恥ずかしそうな顔をした。


「じゃあ、お店の散策から行く?部屋を片付ける?」


どっちを先にするか神楽に聞いた。


「先に部屋を片付ける!早くやってお店を見に行きたい!」


そう言って、神楽は髪を1つに束ねてポニーテールを作った。


「よし、じゃあすぐ片付けようか!」


俊貴と神楽が立ち上がり、部屋の片付けが始まった。




片付けを終わらせ、人のよく集まる、目の前にそびえ立つでかい建物に来た。


「ここが、大抵のものはだいたい揃うデパートだよ。」


神楽はそれを見て、中に入りたそうにしていた。


「中に入ってみる?」


神楽の様子を見て聞いた。


「うん!」


嬉しそうに大きく頷いた。


俊貴と神楽は二人並んでデパートに入っていった。

その後ろ姿を睨み付ける人影があった。



デパートをグルッと一周して、二人はデパートを出た。そのまま、服屋、雑貨屋、CDショップ、家具店等に行き、最後に本屋に行った。

街に来たばかりでお金も余りなく何も買わなかったが、本屋には用があり、中に入っていった。


しばらくして二人は出てきた。


「やっぱ女の子だね。」


神楽の買った本を見て言った。


「そうだよ、ファッション誌ぐらい買うよ!失礼しちゃうな!もう!」


頬を膨らませてそっぽを向いた。


「ごめん、ごめん。歩き疲れたでしょ?送ってくから帰ろうか。」


神楽の表情をみて笑いながら聞いた。


「さすがに歩き疲れたかなぁ。うん、帰ろっか!」


表情をコロッと変えて、笑顔になった。そして、二人して並んで帰路に着いた。




公園でねじれが発生した。ねじれは、公園にあるジャングルジムと同じ高さまで広がり、中から大きな魔物が出てきた。蜥蜴の魔物と違い、今度の魔物はでかい。手も足もでかく、頭と体が一体化している。でかい岩に手と足がはえたような魔物である。

魔物は辺りを見回し、魔力が近づいてくるのに気づき、その場に丸まり、でかい岩になった。



「あれ?確かこの辺だったと思ったんだけど、間違ったかな?」

神楽が公園の前の道まで来た。


「この辺だったはずだけど…、おかしいなぁ?」


首を傾げて公園を見回した。


「あれ?何あの岩…?」


神楽が、公園にあるには不自然過ぎるでかい岩に気づいた。

近くで見ようと公園の中に入っていき、岩の近くまで来た。


「明らかに不自然過ぎるよ、この岩…。」

そう言って、岩に触ろうとした時、魔力を岩から感じて、神楽は後ろに飛び退いた。


「何!?」


神楽は、アーティファクトを出し、戦闘体勢になった。


「俊貴はいないけど、私でもやれるんだから!」


立ち上がった魔物を睨み付け、


「ファイアーボール!!」


火の玉が魔物に向かって飛んでいった。


ボン


魔物に当たり爆発したが、魔物にはあまりダメージになっていなかった。


「くっ…!固い!!」


魔物は神楽を標的に絞り、お互いに対峙した。




俊貴は走っていた。神楽のマンションの近くを目指して走っていた。


「くそ!何であんな所にねじれが出るんだよ!」


神楽と別れて、帰路に着いてる途中で魔力を感じた。俊貴が感知した時には、マンションよりも、家のが近い状況だった。俊貴の家からマンションまでは、走って20分ぐらいある。


「ねじれは、いつ、どこで発生するかわからないものですよ、マスター。」


「それは、今日もらった本で知った!テリル!」


右手の人差し指にはめられた指輪に対して答えた。俊貴は魔法媒体にテリルと名前をつけていた。他の魔法使いはつけないのだが、俊貴は、それじゃつまらない、と言ってテリルと名前をつけた。


「そうですか、すいません。」


テリルが謝ってきた。


「…、いや怒ってないから。ちょっと焦ってただけだから。悪かったよ…。」


テリルに謝られた事により、頭が冷めて少し冷静になった。


「…。もしかして、テリルって乗り物にもなれる?」


神楽にもらった本で魔法媒体を乗り物にしている絵を見たのを思い出した。


「なれますよ、スタンバイしますか?」


「うん!急いで神楽の所に行きたいから頼む!」


そう言って、指輪に意識を集中した。


指輪が形を変え、スキーボードのような板に変わった。


「どうぞ、お乗りください。」


「うん、頼む!浮いてくれ!」


そう言って、板の上にのり、足に魔力を集めた。


ふわぁっと板が俊貴を乗せて浮いた。


「よし!行ける!」


俊貴は神楽のもとに急いだ。





「うぅ…。どうすれば…。」


神楽と魔物は一定の距離を開けて睨み合っていた。

神楽は魔物に対して魔法で攻撃していたが全く効かず、手詰まりの状態だった。

その一歩リードした状態の魔物は、動きが遅く攻撃範囲に神楽が入ってこないため、お互いに手が出せない状況となっていた。


「何か手はないの!?」


神楽は考えながら、魔物を睨みつけていた。

相手は土。魔物ではあるが、元は土によって生み出される魔物。それが、このゴーレムと呼ばれる魔物である。


「土?」


ゴーレムの生み出され方を思い出してふと思い付いた。

神楽は杖をゴーレムに向けた。

「アクアシュート!!」


水属性の魔法を使い、ゴーレムに攻撃した。が、全く効果がない。ただ濡れただけである。

それなのに、神楽は同じ魔法を使い続け、ゴーレムは全身水に濡れ、周りも水びたしになった。


「これぐらいで、次はコレよ!スパイラルウェーブ!」


神楽はゴーレムに水の中級魔法を唱えた。うねる水の塊がゴーレムのど真ん中に当たった。ぽっかりと丸い穴がゴーレムのまん中に開き、そこを中心に亀裂が入りだした。

ゴーレムはバラバラに崩れて土の固まりになった。周りの土も水で固まって、ゴーレムの再生はできないようになっていた。


「や…、やった!」


神楽が手をギュッと握った。


「はん、やってくれるじゃないか!私のゴーレムを1人で倒すとは思ってなかったよ。」


ゴーレムだった土の塊の後ろから1人の女が現れた。全身を黒いローブで覆っていて、体にある凹凸と声で性別がわかった。何より顔には何もしていなく、腰まで長い金髪、鋭い目が神楽を睨み、口元は余裕の笑みを浮かべている。外見は美人に入る人である。


「ふふん、ここには予め結界を張っておいたから外の心配なく暴れられるよ。」


そう言って、懐から杖を取り出して、土の塊に杖を向けた。


「水びたしにしたまでは良かったけど、中まで完全に濡れてないのが失敗だったようね!」


神楽に言っている間にどんどんゴーレムが形を元に戻していった。


「今度は、手を抜かないよ!」


ゴーレムは元の大きさを越え、隣のマンションよりも小さいが、神楽を見下すぐらい大きくなった。だいたい電柱と同じぐらいの大きさである。


「なっ…!?」


神楽はその大きさに後退りした。足が、手が、体が震える。


恐怖


体全身に恐怖を感じた。目に涙が貯まっていくのがわかる。


「や…、やれる。こんなやつだって倒せる。」


自分に言い聞かせるように言ったが、声も震えている。


「どうした?体が震えてるよ。」


嘲笑うように女が言った。


「雑魚がでしゃばって来るからそうなるんだよ!死にな!」


そう言って、ゴーレムに命令した。

ゴーレムが右手を振り上げた。


「動いて、動いてよ!」


神楽が自分の足を叩きながら震える声で言った。が、動くどころか、自分に向けられている殺気と、恐怖で腰が抜け、へなへなとその場にしゃがみこんでしまった。


「じゃあね!お嬢さん!!」


ゴーレムが腕を神楽に振り下ろした。


ズウゥーン


ゴーレムの腕は、神楽の居た場所に思いっきり振り下ろされ、地面が沈下した。


「ふん、雑魚がでしゃばった真似するからそうなるんだよ!」


女がそう言い、空に浮かんでゴーレムの肩に乗った。


「armement(武装)!」


土煙の上がっているゴーレムの手の方から、グローブを装備した状態で俊貴が飛び出してきた。

そのまま、ゴーレムの腕を登って行った。


「な!?いつの間に来たんだ!振り落としな!」


ゴーレムの腕をかけ上がっていく俊貴を振り落とそうと、腕を上げ、乱暴に振り回した。

が、周りの電柱や建物が壊れるだけで俊貴は振り落とされない。魔力を足に集中し、落ちないようにしていた。


「ち…!あんたは、やるようね。」


俊貴の魔力の使い方を見て唸った。


「…。」


俊貴は落ちないようにしゃがんでバランスを保った。


「動かないならこっちから仕掛けてやるよ!」


女がゴーレムに命令をだした。ゴーレムは左手を振り上げた。


「…。」


それを見て、俊貴は何かをぼそっと呟いた。


「つぶれちまいな!」


ゴーレムが俊貴に左手を振り下ろした。


バン


左手が右腕を叩いた。が、俊貴は右肩の所にいた。


「いつの間にそこに!?」


女が驚いて声を上げた。


「叩こうとした時に右腕の動きが止まったから、そのままここに走らせてもらった。」


そう言って、右手を前につきだした。俊貴の周りに丸い球状の光が12個現れた。丸い球状の光が俊貴の右手に集まった。


「喰らえ!」


光が集まった右手をゴーレムの頭に思いきり振り下ろした。

ゴーレムの頭は潰れ、再び土となり地面に落下し始めた。


「風よ!」


俊貴は魔法を使い、落下の勢いを殺して着地した。女もゆっくりと地面に降り立った。俊貴は拳法の構えをとり、女が杖を俊貴に向けた。


「はん!女を殺されて頭にきてんのかい?」


杖を向けながら嘲笑うように言った。


「…誰が殺されたって?ならあっこで座ってんのは誰だと思う?」


俊貴が左手で、公園の隅で座っている神楽を指差した。


「な?何!?いつの間に…。」


潰したと思っていた神楽が、生きているのに女は驚いた。


「そういうことで」


女が驚いているスキに俊貴は一気に間合いを詰めた。


「気絶しとけ!」


間合いを詰める間に呪文を唱え球状の光を手に集めていた。

女は腹に俊貴の攻撃をモロに受けた。


「ぐっ!こ、の程度でぇ!?」


女がしゃべっている途中で、俊貴が殴ったお腹から電気が走った。電気はお腹を中心に、全身へと走って女を気絶させた。


「誰が格上相手に普通に殴るかよ。手を加えるに決まってんだろ。」


そう言って、呪文を唱え、魔法を使った。

女は手、足、体をぐるぐる巻きに縛られた。捕縛用の魔法である。午前中に見た本で覚えた呪文の1つで、魔法を球状にして、相手にぶつけたり、手に集めて攻撃したりするのもその1つである。


「うっし、これでいいかな。」

縄状にした光属性の魔法で女を引きずりながら、神楽の元に歩いていった。


「大丈夫?立てる?」


そう言って、微笑みながら神楽に手を差しのべた。


「う、うん。ありがとう。」


神楽はゆっくりと手を伸ばして、俊貴の手をとり立ち上がった。


「怪我してない?どっか痛いところは?」


俊貴が心配そうな表情をしながら聞いた。その表情を見て神楽は泣き出してしまった。


「うあぁぁぁん!」


「わ、わ!どこか痛いの?」


急に泣き出してしまった神楽にあたふたしながら聞いた。が、神楽は首を横に振るだけで泣き続けるだけだった。

俊貴はそれを見て、一瞬考えてから、神楽を抱き締めた。ギュッと、擬音がするぐらい抱き締めた。


「大丈夫。もう大丈夫だから。」


俊貴は神楽に優しく言った。それを聞いて、神楽は少し落ち着いたのか、ゆっくりと泣き止んでいった。


「…。私って役たたずだよね。初めて会った時も、リザードに襲われた時も、今回も。何にも役に立ってない…。」


俊貴の服をギュッと強く握りながら俯いて言った。表情は髪の毛で見えないが、顔から雫がポロポロ落ちているのと、声が震えてるのがわかった。


「…はぁ。そんなことを気にしてたのか?」


「そんなことって!」


神楽が俊貴の言った言葉に声を荒げた。顔を上げ俊貴を睨み付けている。目からは涙が流れ続け、唇を噛み締めている。服を握る力が増した。


「魔法学校を卒業したばっかで、実戦を殆どした事がないのに、いきなり実戦をして失敗しない訳がないよ。魔物と戦うのに慣れてなくて恐いって言うのはしょうがないよ。はじめは誰だって失敗をする。」


そこまで言って、俊貴は一旦言うのをやめて、神楽の顔を見下ろした。

神楽は見上げた俊貴の顔が真剣なのに気づいた。ふと、神楽は魔法学校で先生に同じ事を言われたのを思い出した。


『はじめは誰でも失敗はします。いきなり上手くやろうなんて考えてはダメです。上手くやろうとごちゃごちゃ考えて判断を鈍らせたりして、命を危険に晒してしまいます。失敗を繰り返し、学んで、失敗をなくしていく。それでいいのです。私もはじめはたくさん失敗をしてきました。だから、失敗を恐れたり、気にしたりしてはダメです。失敗を力に変えていくのです!』


先生の言った言葉を思いだし、

「俊貴も失敗したりするの?」


聞いた。


「したよ。たくさんしたよ。恥ずかしいぐらい失敗してる。だから、今のオレがいるんだ。」


そう微笑みながら言った。俊貴は過去に拳法や剣道の試合で、恐怖と失敗を繰り返していた。そして、その結果、今の動じない強い精神を手に入れた。だから、魔物と対峙した時余り臆する事なく普段通りでいけた。


「それに、神楽は役たたずじゃないよ。」


神楽の目から流れる涙を指でふいて言った。


「…え?」


驚いたように答えた。


「オレがここに来る前に、ゴーレムを一回倒したんでしょ?」


公園の中だけが水浸しになっているのと、一度魔力が消えて大きい魔力になったのを感じて言った。


「格上の人相手にそれだけやれれば、役たたずなんかじゃないよ。十分役に立ってる。」


そう言って、神楽に笑いかけた。


「だから、もう泣かないで。」


そう言って、また神楽の目から流れる涙をぬぐった。


「うぅ…!」


今度は神楽から俊貴に抱きついて、また泣き始めた。


「うん…。うん。」


そう言いながら、神楽は俊貴を強く抱きしめ、俊貴も強く抱きしめた。



夕日が沈み、月が登り始めていた。


翌朝


俊貴は神楽の家に朝から来ていた。


「あの女はどうなった?」


昨日倒して捕まえた女の事を聞いた。


「あの人は王国軍に連れてかれたよ。ねじれの事を知れる唯一の手がかりってことで、牢屋に入れられて尋問と事情調査を受けるんだって。」


神楽がキッチンから湯気の上がるコーヒーを持ってきながら答えた。


「へぇー。やっぱ軍とかあるんだ。それに尋問とか警察みたいだ。」


こっちの世界と魔法の世界を比べつつ、コーヒーを飲んだ。


「あっち!」


舌を火傷して、カップを置いた。神楽が心配して立ち上がったが、手をあげてそれを止めた。大丈夫、と笑って頭をかいた。それを見て、神楽はその場にゆっくり座った。


「でも、今回の事って結構お手柄なんじゃないの?」


コーヒーをゆっくり飲みながら神楽に聞いた。


「うん!王国軍を呼ぶのに、魔法学校に連絡しないと呼べないから、連絡したんだけど、先生がおそらく勲章を王国から授与されるかも、って言ってた。」


神楽が少し浮かない顔をしたのを見逃さなかった。


「王国から勲章かぁ…。その勲章が2つなきゃオレはもらう気はないな。ってか、褒美欲しくてやった訳じゃないから正直いらない。」


そう言って、またコーヒーをゆっくり飲んだ。


「俊貴…。」


神楽はちょっと嬉しそうな顔をした。

2人の間にちょっと沈黙がながれた。

が、その沈黙は電話の受信音で遮られた。神楽が電話に出るため、立ち上がって電話のある所まで行った。


「はい。はぃ、はぃ、え?はい、本当ですか!?はい、わかりました!はい!ありがとぅございます!!」



嬉しそうな顔をして俊貴のとこまで戻ってきた。


「どうかしたの?」


何となく何を言うのか察しながら聞いた。


「あのね、魔法学校から連絡が来て、こっちに2人分勲章を送るって!」


神楽が興奮しながら言ってきた。


「ちゃんと2人分か。なら受け取っておこうか。」


そう言って、コーヒーを飲み尽くした。




これからここで人物紹介を軽くしていきます。



坂井俊貴(19歳)

現在大学に通う二年生。今までの成績は平均的。高校まで剣道と拳法を習っていた。高校では学校一の足の速さをもっていた。

赤見がかった髪の毛で、長さはミディアム。顔はイケメンではないが整った顔立ち。

身長170cm 体重52kg O型



相坂神楽(19歳)

魔法学校を卒業し、俊貴の町のねじれの観測及び魔物の討伐を任された魔法使い。水と光、回復の魔法を得意とし、前に出て戦う俊貴を後ろからサポートするパートナー。茶髪で腰まで髪をなびかせている。胸がでかく、俊貴をおとすのに用いている。

155cm 40kg O型

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