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彼の進む道  作者: けやき
27/63

休息Ⅳ

鍛練中、不意に現れたヴァニタス。謎の仲間を引き連れて神楽達を捕え、戦わないと殺す、とトシキを脅す。人質にとられた仲間の為にやむ無く戦うトシキだが、マゼランまでもを取り込んだヴァニタスは、トシキを遥かに超えた強さだった。苦戦を強いられるトシキは何とか仲間達を解放し、加勢に日本刀を持つ少女、桜が加わるが、ヴァニタスの一撃に2人とも倒されてしまう。

その後ー

トシキの家


ヴァニタス襲撃から2日後、トシキは未だにベッドで横になっていた。その隣の部屋に、トシキと一緒に倒された少女も横になっていた。

ヴァニタスは2人を倒し、不気味に笑いながら去っていった。

その後、神楽が治癒魔法をかけるが、2人の意識は戻らなかった。そのため、2人を急いでトシキの家まで運び、ベッドに寝かせた。下手に動かすよりは、安静にさせといた方が良いんじゃないか、と悠里の言葉を聞いての事だった。


そんな2日後の朝、小鳥の鳴き声で薄く目を開けるトシキ。


「…」


ただ天井を見上げた。まだ頭が働かない。


「こ…こは…」


と、目を覚まし上半身だけ起こす。


「オレの、部屋…」


見覚えのある部屋を見回す。


「…?」


ふと、ベッドに両腕と頭を乗せた状態で眠る神楽とカガリ、その後ろで座りながら眠る霊紗、普通に床で眠るアイギスが目に入った。


「皆…」


次第に頭が働いてくる。

気を失う前のことを一気に思い出した。


「!…つっ…」


急に起きようとしたことで、腹が痛む。ヴァニタスの一撃を受けた場所だった。


「ん〜?」


と、一番近くにいた神楽が目を覚ました。目を擦りながらトシキを見る。


「あ!目が覚めたの?ってか、どうしたの!?」


慌てて痛がるトシキの肩に手を置き話しかける。その声に霊紗達も目を覚まし始めた。


急に、部屋の扉が開く。

悠里がピンク色の桶に水とタオルを入れてきた。


「揺らさずに横にさせて!」


と、悠里。


トシキを揺らす神楽達が、ゆっくりと横にトシキを寝かす。


「まだ傷が治りきってないのに動こうとするからよ。傷が少し開いてるわ。」


悠里が、トシキの腹に巻かれた包帯を指差す。少しずつ血で赤く染まっていく。


「神楽、治癒魔法手伝って。」


と、桶を霊紗に持たせて神楽に促す。神楽も頷き杖を取りだし、悠里と一緒に治癒魔法を使う。


トシキの顔が痛みに苦しむ顔から、落ち着いた表情に戻る。

包帯に付いた血は消えないが、広がることはなくなった。


「…」


トシキの顔を見つめる霊紗。

ふと、霊紗が近くの机に桶を置き、水に浸かったタオルを取りだし充分絞った。


「…」


霊紗は何も言わずにトシキの顔を伝う汗を拭き出した。拭いていて何の反応もないため、また眠ってしまったようだ。


よく見ると、トシキの体にはとこらどころに傷が付いていた。切り傷が多い。


「こんなに傷ついて…」


と、ボソッとこぼす霊紗。神楽とアイギスには聞き取れてなかったが、悠里とカガリはそれを聞いていた。


「戦争前まではそんなついてなかったけど、そこから増えていったわ。」


と、悠里。

ちょうどトシキが旋風の雷として賞金稼ぎを始めた時からだった。


「……そぅ」


聞かれた事に少し動揺したが、隠して短く答えた。


「?」


何の話かわからない神楽とアイギスは顔を見合わせて首をかしげた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

半日後


トシキは夕方になってから再び目を覚ました。


「…」


窓からみえる、赤い空を見た。

沈んでいく夕日を尻目に、鳥が通り過ぎた。


「もう夕方か…」


部屋を見回してみたが、今は誰もいない。


そして、隣の部屋に視線を移す。

まだ少女がベッドで眠っている。その傍らには、少女が持っていた日本刀が立て掛けてある。


「…」


ベッドから立ち上がり、隣の部屋に行くトシキ。


ベッドの近くにある座椅子に座って少女を見る。

ポニーテイルで縛っていた髪はほどかれ、黒い綺麗な長い髪をしている。顔も白く透けるような綺麗な肌をしている。


「…オレのせいで怪我させちゃったんだな」


と、俯き拳を強く握る。腕試し感覚で挑んできたヴァニタスに、本気を出させずに負ける。そんな屈辱を味わい、さらに本来は関係ない目の前の少女に怪我までさせた。それがトシキの心に重くのし掛かる。


「…ん」


少女が目を覚ました。


「あ…」


目を開けて、トシキの方を見る少女。


「…目、覚めた?」


と、自分の心情を読まれないように笑顔を無理矢理作る。


「あ、はい」


少女が起き上がろうとする。


「いいよ、起き上がらなくても。寝てて。」


少女の肩に手を置き優しく寝かせる。少女がその間恥ずかしそうにトシキの顔を見た。


「…」「…」


少女を横にさせて沈黙が訪れた。


「あの…ここは?」


少女が気まずそうに聞く。


「オレん家。神楽達が気絶したオレ達を運んでくれたんだって。」


「そうですか…」


と、部屋を見渡す少女。


「あ、お邪魔でしたらすぐ帰りますから。」


少女がトシキを見てまた起き上がろうとした。


「寝てて、邪魔じゃないから。」


と、強く言う。

その言葉に、ゆっくりとまた横になる少女。


「あ、ありがとうございます。」


と、お礼をする。


「いや、お礼なんて…。むしろオレは謝らないと。」


「?」


謝られる理由が少女には思い付かなかった。


「巻き込んで怪我までさせてごめん。」


と、少女に頭を下げた。


「ちょっ…え?巻き込んで怪我?何のことですか??」


頭を下げたトシキに慌てる少女。


「え?覚えてない?お腹に一撃もらって傷がついてるんじゃ…」


と、トシキ。


「お腹に…」


と、少女が服を捲ってお腹を見た。胸の下の方がチラッと見える程捲った。


「おわっ!?」


いきなり服を捲った事に驚き、座椅子ごと後ろに倒れるトシキ。


「…?」


少女が首をかしげた。お腹には傷1つなく綺麗な白い肌をしている。


「…」


顔を赤くしつつ、起き上がり少女を見る。


「あれ?傷がない…」


そう言ったトシキに微笑んで頷く少女。


「傷も残ってないし、巻き込まれたんじゃなくて、自分から入っていったんです。」


と、優しく微笑む少女。


「…なんで自らそんなことを?」


トシキに理由がわからなかった。


「そうですね、もう話しておきますね。」


「?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

少女の腰の方に大きめの枕を置き、上半身だけ置きやすいようにした。


「私がここに来たのは、あなたの監視兼護衛です。」


と、少女が目的を言う。


「監視兼護衛?」


護衛はともかく監視の意味がよくわからなかった。監視されることを自分はやっていない、そう思っていた。


「はい、あなたは旧世界を救った、言わば英雄。護衛はともかく監視の意味はわからない。そうですね?」


と、少女の鋭い目がトシキを捉える。まるで心を読まれているようだ。


「英雄かどうかは知らないけどね」


と、その言葉に頷くトシキ。


「強すぎる力に危険は付き物。あなたの力を恐れている人たちもいるって事です。」


と、少女。


「…魔法世界」


と、トシキが言葉をこぼす。


「護衛…」


トシキが呟き始めた。


「…」


それをジッと見つめる少女。


「君はハイライト王国の人?」


と、顔を上げたトシキが聞く。


「…何故そう思ったんですか?


「監視なら三国共考えられるけど、護衛までするとなると、オレを利用する為に生かして、機を見て接触し、味方に引きずり込む」




「それか、味方にならないなら消す。でかい力は敵に回ると厄介だからね。」


「ふむ…」


「で、ハイライト王国って思ったのは、三国でオレが直接関わったのはハイライトだけ。戦争の時も旧世界防衛の時もね。だから、護衛まで考えるとハイライトしかない、そう思った。」


と、トシキ。

戦争の時は、ハイライト王国に転送され、そのままハイライト魔法学園に行った。旧世界防衛の時は三国が協力すればもっと楽に、被害も少なくなっただろうが、ハイライト王国のみが戦地に出ただけだった。戦争の後とあって、三国はピリピリしていた。


「…まぁ、そんな感じです。」


少女が微笑む。


「…。そか」


と、少し少女の態度に引っかかりつつも頷くトシキ。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。」


と、少女。


「ん?…確かに」


今更ながら少女を名前で呼んでないことに気づくトシキ。


(今気づいたのか…)


そう思いながらアハハ、と苦笑いする少女。

が、すぐ表情を切り替え真面目な顔で、


「私はハイライト王国騎士団、2番隊隊長、浅倉桜です。」


と、軽くお辞儀をする桜と名乗った少女。


「…知ってるだろうけど、オレは、坂井俊貴。所属はナシ」


と、お辞儀してから桜に微笑む。


「で、これからも監視するの?」


と、トシキ。


「えぇ、しますよ。任務ですから。」


と、笑う桜。


「ならさ、任務の間だけオレ達と一緒にいないか?」


「へ?」


と、予想してない言葉に驚く桜。


「だって、監視のためにオレの周りにいるんならさ、一緒にいても離れてても同じじゃん。近くにいたほうが何かやらかそうとした時にオレを消しやすいんじゃない?」


と、イタズラッぽく笑うトシキ。


「…消すかどうかはともかく、確かに近くにいたほうが監視も護衛もしやすいですし、そうします。」


と、真面目に答える桜。

それに少し戸惑い、頬をかくトシキ。


「まぁ、どんぐらい一緒にいるかはわからんけど、これからよろしく!」


トシキが桜に手を伸ばす。


「はい、よろしくお願いいたします。」


桜も手を伸ばし、トシキと握手した。


「…ベッドに居ないと思ったら、アンタここで何してんのよ。」


と、隣の部屋から霊紗が恐ろしいオーラを纏いながら、部屋に入ってきた。


「!?いや、桜と話をしてただけで…」


と、霊紗の剣幕にあわてふためくトシキ。


「さくらぁ?」


と、トシキを睨み付ける霊紗。


「あ、はい。桜は私です。」


と、桜が返事をした。


「…手が早いことで」


霊紗が後ろを振り返り部屋から出ていく。


「え、あ、ちょっ!待って、何か誤解してないか!?…っと、また後で!」


と、霊紗を追いかけ様と立ち上がった後に、桜に手を振ってから霊紗を追いかけていく。


「…また後で、ってここはあなたの家ですよ」


と、苦笑いしながら手を振り返す桜。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日


痛みもなくなったため、トシキと桜、アイギスは家の裏に出た。


トシキと桜は軽くストレッチを始めた。アイギスは腕を振り回している。


「調子は普通ってとこかな。そっちは?」


トシキがストレッチしながら桜に聞いた。


「…私も普通ですね。病み上がりではマシな方です。」


と、桜もストレッチをしつつ答えた。


「アイギス!コッチはいいぞ」


と、アイギスに手を振る。


「じゃあ、軽めでいくよ〜!」


と、アイギスが手をブンブン振る。


「ほいっと!」


気の抜けるような掛け声と共にアイギスが一瞬で、トシキと桜の真後ろに現れた。


(縮地!)


桜が冷静に自分へと向かってくるアイギスの拳をいなす。


「おととっ!」


いなされてバランスを崩したアイギスは、そのままトシキへと対象を移して蹴りを繰り出す。


「…!」


無茶な体勢から攻撃してくると思っていなかったが、むりやり手でアイギスの踵を打ち上げた。


「うわぁ!?」


予想外の返しで、そのまま宙を一回転し地面に落ちるアイギス。


「っ!」


素早く起き上がって体勢を整えたアイギス。


「少し速くするよ!」


と、言った後にその場から消えるアイギス。


『!』


トシキと桜、2人は同時に反応して左右に別れて跳んだ。その後に、アイギスが2人のいた場所を回し蹴りをするが、既に2人はいない。


「?」


それに驚くが、左右に2人の姿を確認した。


「病み上がりでコレはないでしょ」


と、苦笑いしながら頬をかくアイギス。


「…もっと速度上げるよ!」


アイギスが魔力を上げた。


「肩慣らしが割りと本気に近づいてきちゃったぞ…」


と、アイギスを見て苦笑いするトシキ。


「そうですね…」


と、桜も苦笑い。


「おっと…!」


と、トシキが顔を横に動かした。トシキの頬に一筋の切り傷がつき、血が出る。


アイギスの拳圧によりかすっただけで切れた。


「!」


不意に桜に向かってくるアイギスの蹴りを、両腕で防ぐ。

先程よりも一発が重くなっていた。


「お?」


トシキの頭を掴みアイギスが飛び上がる。


「トシキさんを掴んだまま飛び上がるなんて…」


と、空に飛び上がったアイギスを見上げる桜。


「うりゃぁぁー!!」


アイギスは思いきり振りかぶって地面にトシキを投げつけた。


「あれでは…」


と、桜。


「…」


が、トシキは簡単に体勢を立て直して、難なく着地した。


「もっと弱ってる奴か致命傷を負った奴じゃなきゃ、今の攻撃はほぼ無意味だぞ。」


と、立ち上がるトシキ。トシキの言葉に頷く桜。


「保険はしてあるよ。」


『!?』


空に居ると思われたアイギスは地上におり、トシキと桜2人纏めて衝撃波を纏った一撃で地面に打ち付けられた。

一撃の中心から地面が陥没した。


「地砕陣」


大きな音と共に、地面がもう一度陥没して、2人を巻き込む。


「…今の一撃は肩慣らしで出すもんじゃないぞ?」


と、服がボロボロの所々血と砂で汚れたトシキが出てきた。


「ですね、流石に危なかったです。」


桜も服がボロボロで血と砂で汚れ、服についた砂を払いながら出てきた。


「加減が出来てない一撃を受けて平気そうなアンタ等に言われたくない!」


と、しかめっ面をするアイギス。正直、やりすぎたと焦ったが、皮肉にも軽い傷で済んでいた。

だが、今の一撃は制御こそできていないが、大抵の者は確実に致命傷になっていたであろう、一撃だった。


「そんなにやれるんなら充分じゃん?」


と、2人に聞くアイギス。


「まぁね〜、本調子になってから一回ちゃんと戦ってみるか。」


と、桜を見るトシキ。


「わ、私ですか!?」


慌てる桜。


「あぁ、これからの戦力として考えたいし。」


頷くトシキ。


「…そうですね。ちゃんと実力を知っとかないとこれから困りますし。」


と、頷く桜。


「…桜は私たちの仲間になるの?」


と、首を傾げるアイギス。


「ん?あぁ、新しく魔法世界から来たこの地区担当になったんだってさ。」


と、トシキが桜を見た。


「…はい、そうなんです。これからよろしくお願いします。」


と、お辞儀をする桜。トシキの監視が目的なのは伏せて事実を言う。


「よろしく〜!」


と、笑うアイギス。


「よし、コレを埋めてから帰るから先に2人とも家に行ってていいよ。」


と、トシキがアイギスの開けた穴の前に立つ。


「あ、私も手伝います。」


桜が一歩前に出た。


「いいよ。気持ちだけ貰っとくから。先に戻ってお風呂入っといで。」


と、トシキが桜を止めるが、桜はしぶる。


「…先にお風呂入ってて貰えるとオレが帰ってすぐ入れるでしょ?」


と、トシキ。


「…そうですね。じゃあ、そうします。」


と、お辞儀をした桜。

アイギスがトシキに手を振る。

トシキも手を振って答え、2人を見送って作業に取り掛かった。

こんにちわ

お久しぶりです。

ストックしてた分が無くなって、新規作成してたので思ったよりも時間かかってしまいました。申し訳ございません。これからストック無しで更新が遅れるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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