謎の声
“世界を再生する者達”から旧世界を救い、数日が経とうとしていた。ねじれも顕れるのが減り平和な日が訪れるようになった。
そんなある日の夜、サキは謎の声にうなされていた。
旧世界 サキの部屋
旧世界の命運を賭けた、“世界を再生する者達”との戦いから一週間が経とうとしていた。その間、特に変わったことも起こらず、平和そのものだった。
そして、今日サキが夢にうなされていた。窓から射し込む月の光が、暗い部屋のベッドで眠るサキを照らす。
「うーん……」
と、寝返りをうつサキ。
―…え…た…さ…―
―…声に……なさい―
と、サキの頭に声が響く。
「だ、れ…?」
―私の声に返事をなさい―
と、はっきり声が聞こえた。
「誰?」
と、いつの間にか夢の中。
辺りは真っ暗。ただ、サキだけがはっきりと見える黒い世界。前に悠里に呼び掛けられた時と同じ様な場所だった。
―やっと届きましたね、時間が有りません、手短に話します―
と、声だけがその世界に響く。
サキは、何が起こってるのかよくわかっておらず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
―あなたの元の姿を思い出しなさい。あなたの探す答えそのものよ―
「私の探す、答え?」
と、訳のわからないサキ。
―あなたの“元の姿”です。“今”ではなく、“元”の。私からの褒美です―
「褒美?」
―自在に選べるようになるでしょう―
と、響いた途端に黒い世界に光が入ってきた。
「自分の姿…」
と、呟くサキを光が照らす。
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サキと悠里の部屋
朝、悠里がエプロンを付け、キッチンに立って料理をしていた。コンロに鍋をかけ、トントン、とリズムよく包丁で材料を切る音がする。
「おわわっ!?」
と、その音を遮りサキの部屋から悲鳴の様な声が響く。
と思ったら、ドアが勢いよく開けられ、青年が出てきた。
「悠里さん!戻った!!姿が戻った!!」
と、青年が嬉しそうに笑う。
「あらら、残念。元に戻っちゃって、可愛かったのに。」
と、微笑む悠里。
「…ちょっと待ってて」
と、ムッとした後に部屋に戻っていった。
「?」
いまいちよくわからず、首をかしげる悠里。
と、今度は部屋からサキが出てきた。
「ど、どういうこと?」
と、料理をする手を止める悠里。
「え?悠里さんが教えてくれたんじゃ…?」
と、夢の声を悠里だと思っていたサキ。
「??」「??」
と、2人同時に首をかしげた。
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サキが夢に見た事を悠里に話した。
「…そう。でも、残念ながら私じゃないわ。」
と、悠里。
「そっか…。じゃあ何だったんだろう。」
と、トシキ。
「…まぁいいや!何か使い道あるかも知れないし。」
と、笑うトシキ。
「そう、じゃあご飯にしましょうか。」
と、微笑み返す悠里に頷くトシキ。
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神楽の部屋
トシキと悠里が神楽達の部屋の前まで来た。
コンコン、とドアをノックして勝手に開けて中に入っていった。
「ウィース」
と、手を上げてリビングでくつろぐ三人に挨拶するトシキ。
「!?」「ふぇ!?」「トシキ!?」
と、立ち上がる三人。
「元に戻れたの!?」
と、神楽。
「うん、実は…」
と、トシキが今朝の事を三人に話す。
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「にわかには信じがたい話ね。」
チラチラとトシキを見る霊紗。
ふと視線が合い、トシキに微笑まれ視線をそらす。
「じゃあ、サキって名乗らなくても良いんだね?」
と、嬉しそうなアイギス。
「そうだね、でも使えるかもしれないから、一応サキも名乗るよ。」
と、トシキ。何かサキのが良い場合が有るかもしれない、と考えての事だった。
「…まぁ、でもその姿になれて良かったね!」
と、微笑む神楽。
「あぁ!」
と、頷くトシキ。
トシキが元の姿に戻れた事に、皆自然と笑みが浮かぶ。
そんな中、荒々しくドアを開けて入ってくる音がした。
「2人とも黙って此処に来るとは、どうかと思うのじゃ!」
と、パジャマでボサボサ髪のカガリが、怒りながら来た。
「ん?」
と、トシキの方を見た。何故か、サキじゃなくトシキがそこに立っている。寝ぼけてるのか、と目を擦るが、トシキのまま変わらない。
「トシキ!?」
と、驚くカガリ。
「ぐっすり寝てたからそのまま来ちゃった。ごめん。」
と、謝るトシキ。
「いや、良いのじゃ!それより、私は何故その姿なのかが知りたいのじゃ!!」
と、カガリ。
「私が教えてあげるわ。」
と、カガリを連れて悠里が部屋から出ていった。カガリの着替えも兼ねて部屋に戻ったのだろう。
「…おかえり」
と、霊紗。
「ただいま」
と、微笑むトシキ。
「おかえり!」
と、今度はアイギスと神楽が笑顔で言う。
「ただいま!」
と、返すトシキ。
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旧世界 空き地
空き地に来るまでに、キャロルに報告をした。トシキが戻ってきたと。キャロルは泣きそうになっていたが、こらえて微笑んだ。
そこに、普段は出てこない学園長が来て、トシキを褒めた。
2人の様子に照れるトシキ。
そんなやり取りが、此処に来るまでに行われていた。
そして、暇だからと、空き地に来た。シュバルツが開けた大穴に、最近人は寄り付かない。異次元への穴とか、地獄の門等、変な名前で呼ばれるようになり、人が不気味がり近づかなくなった。
それにより、また空き地を使うことができるようになった。
ただ、余り使われなかったため草が生えて荒れてきていた。
「まぁ、使わなきゃこうなるよな。」
と、苦笑いするトシキ。
「一気に刈っちゃってよ。」
と、霊紗。
「ったく、しょーがないな…」
と、手を空き地に向けて呪文を詠唱し、魔法を使う。
無数の鎌鼬が顕れ、草を刈り取って、地面が姿を表し始めた。
「…はい、終了」
と、トシキ。地面が見え、見たことのある空き地に戻っていた。
「お疲れ」
と、神楽。
「ねーねー!何やる?」
と、その場で跳び跳ねるアイギス。
「…何が良い?」
と、トシキ。
「じゃあ、久し振りに模擬戦やらない?」
と、神楽。
「模擬戦?」
と、トシキ。
「そ、トシキ1人と私達4人で。」
と、微笑む神楽。
「それは断る。私はトシキに付くのじゃ。」
と、カガリがトシキの隣にいく。
「いや、バランスを取ってそうしたんだけど、そっち強すぎるよ…」
と、苦笑いする神楽。霊紗も露骨に嫌そうな顔をして頷く。
前の戦いを見ていたため、トシキが一番強く、その次にカガリが強いのはわかっていた。
「トシキ1人はダメじゃ。無理させて闇の魔力に飲まれるかもしれん!」
と、カガリ。その言葉に3人が止まった。闇の魔力を完全に忘れていたから。
「…なら、神楽がいけばいい。」
と、微妙な顔をして言う霊紗。正直、自分がそうしたかったが、一番いい組み合わせはこうだろう、と思っていた。
「…確かに、そうかも。召喚で人数的に補えるってか、トシキ1人でも2人分活躍しそう。」
と、アイギス。どうでもいいから、戻ってきたトシキと一度戦ってみたくてウズウズしていた。
「まぁいいのじゃ。たまには、トシキと戦ってみるのも有りじゃ。」
と、頷くカガリ。
「じゃあ、決まりね。」
と、神楽。
皆頷き、空き地へと入っていく。
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5人が、2対3の配置で向き合っていた。
神楽が後ろでトシキが前のオーソドックスな陣形。
アイギスが前で、その後ろに霊紗、そのまた後ろにカガリ、と前中後とバランスのとれた陣形。
「じゃあ、合図はコレ。地面に着いた瞬間にスタート。」
と、トシキが小石を拾い上に掲げる。
皆が頷く。
それを確認した後、小石を上に軽く飛ばした。
コン、と小さな音をたて地面に落ちた。
「!」
と、アイギスは目の前から消えたトシキに驚いている間に、後ろへと吹き飛んでいた。縮地法で、一気に距離を詰めたトシキが、アイギスを風で吹き飛ばした。
「くっ!」
と、開始早々作っておいた光の球をトシキに向けて放つ霊紗。
が、トシキは、かわしながら素手で球を落としていく。
「霊紗、しゃがむのじゃ!」
と、後ろから聞こえたカガリの声に反応してしゃがんだ。
カガリがトシキの方に手を向けていた。
「直線だったのがマズかったのぅ!」
と、太い炎の柱を放つカガリ。
「!」
と、トシキがその場で動かずに詠唱をしている神楽に気づき、魔法障壁を展開する。
炎の柱は、障壁に当たり爆発を起こした。この爆発は、空き地全体に結界を張ってあるため、外にもれない。
「直撃した!?」
と、霊紗。
「まだじゃ!あの程度じゃトシキは止まらん!!」
と、言うカガリが詠唱を始める。
霊紗がまだ煙の上がる爆発した場所を見た。
「!」
煙を裂き、トシキが距離を詰めてきた。
そのタイミングを見計らい、霊紗が足を踏み込み、トシキへと掌で突きをする。
「!」
と、トシキは手を受け流し再び風で霊紗を吹き飛ばす。
「ぬっ!」
と、吹き飛ぶ霊紗を見るカガリ。まだ詠唱を唱えきれてなかった。
「私達の勝ちね。」
と、神楽。
「つ!?」
と、自分の上に浮かぶ水の球に気づくカガリ。
空から降り注ぐ水の球に、トシキ。
「うむ、負けじゃ。」
と、降参するカガリ。
アイギスと霊紗が戻ってきた。
「あんた、反則ね。」
と、霊紗。
「へ?」
と、トシキ。
「私達じゃ全然相手にならないじゃない。」
と、霊紗。
「いやいや、カガリの一撃は焦ったよ?」
と、トシキ。
「でも、無傷じゃ。」
と、カガリ。
「う…」
と、トシキ。
「まぁでも、格上と戦えば私達も良い経験できるし、いいんじゃない?」
と、霊紗。
「そうだよ!」
と、アイギス。
「じゃあ、交互にトシキと組んで模擬戦ね。」
と、神楽。
皆が頷き、再び模擬戦の準備をしだす。
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トシキの家への帰り道
3ヶ月も家に帰らずにいたため、トシキは姿が戻ったら家族を安心させるために家に向かっていた。
夕方になっていたため、神楽達を先に家に返し、トシキ1人で向かっていた。
「きゃあぁぁぁ!!」
と、女性の悲鳴が聞こえた。何処かで聞いたことのある声だった。
悲鳴の元へとトシキが走り出した。
「わあぁぁ…!」
と、角を曲がった時に女性とぶつかった。
「大丈夫で……明日菜!?」
と、見覚えのある顔がそこにあった。
「へ?あ、トシキ!!」
と、恐怖で涙を流す明日菜。
明日菜を自分の陰に移動させて目の前に立つ魔物を見た。
「…見たことないヤツだ。どっから来たんだろう」
と、呟くトシキ。その魔物は、今まで見たこともない物で、四足歩行の鋭利な爪を持ち、元が犬のような姿をしていた。トシキを睨み付け、鋭い牙が覗く口からよだれを垂らしていた。
「下がってて、オレが何とかするから。」
と、後ろにいる様言うトシキ。
だが、服の裾を掴む明日菜。
「大丈夫。任せて。」
と、明日菜の手を握ってから放すトシキ。魔物の方へと進むトシキ。
「…オレは普通の人間とは違うから覚悟しろよ」
と、笑うトシキ。
魔物が一気にトシキへと飛び付きにかかる。
が、トシキに蹴り上げられた。
「!?」
まさか反撃がくるとは思っていなかったのか、動きが止まる魔物。
「へへっ」
と、魔物に叩き込むトシキ。
魔物の横っ腹を掌で打ち、顎を拳で打ち上げた。その勢いで、魔物は腹を空に見せた状態になった。
「終わり…!」
と、仰向けで宙に浮く魔物の腹に魔力を込めた拳を打ち込む。
グガアァァ
と、呻き地面に打ち付けられる。
そして、サアァァ、と粒子となり風で散った。
「さ、終わったよ。」
と、明日菜に微笑むトシキ。
それに、微笑み返そうとするが、涙で泣き笑いになっていた。
その様子を睨み付ける複数の目が草影から覗いていた。が、トシキはまだ気づいていない。
「まだです!油断しないでください!!」
と、草影からトシキに飛び掛かる魔物を、1人の少女が斬り払った。
その一撃で、魔物は粒子となって散った。
「!まだ仲間がいたのか!?」
と、トシキと少女の前に三匹の魔物が並ぶ。
「あれは、ウルフと言って群れで行動して獲物を狩る、魔物です。」
と、目の前の魔物の事をトシキにしか聞こえないような声で言う。
「ウルフ…ね。了解」
と、日本刀を構える少女を見て、再び構えるトシキ。
「行きますよ!」
「あぁ!」
と、少女の呼び掛けに頷き同時に魔物へと向かう。
外側の二匹を、トシキが鼻っ面を打ち付け、少女が縦に一閃切り裂いた。
トシキが少女に頷き、少女もトシキに頷いた。
2人同時に残ったウルフに攻撃した。
横から同時に攻められたため、反応できずウルフは直撃。散っていった。
「やるじゃん。」
と、少女に微笑むトシキ。
「…いいえ、では失礼します。」
と、日本刀を鞘に納めて歩き出した少女。
「あ、ちょっ!」
と、呼び掛けるトシキを無視してどんどん離れていく少女。
「…、大丈夫?」
と、いつの間にかしゃがみこんでいた明日菜に聞くトシキ。
「あ、うん。」
と、返事をする明日菜。
微笑み手を差し出すトシキ。その手を掴み立ち上がる明日菜。
「…っていうか、あんた今まで何処にいたのよ?おばさんが心配してたわよ!」
と、いきなり強気になる明日菜。
「いや、ちょっと色々あってね。今から家に行くから、ついでに送ってあげるよ。」
と、家の方へと歩き出すトシキ。
「ねぇ、あんたもあの子も何であんなに強いの?」
と、後ろを歩く明日菜が聞く。
「え!?いや、ただがむしゃらに拳法で戦ってただけだよ!」
と、トシキ。明らかにがむしゃらではなく、冷静に戦っていたトシキと少女。
「…ふーん、まぁいいわ。」
と、トシキの横に行きペースを合わせて歩く明日菜。それに気づき、ペースを少し落とすトシキ。
「…あれは何だったの?」
と、明日菜。
「うーんと、突然変異した犬、かな?」
と、トシキ。見た目はそうだった。
「あんな突然変異する?」
と、明日菜。
「…さぁ?突然変異を実際みたことがないから断定できない。」
と、苦笑いするトシキ。
「また適当な事言って…」
と、呆れる明日菜。
「まぁ、怪我がなくて良かったよ。」
と、微笑むトシキ。できれば、魔法に繋がる様な会話を避けようとするトシキ。
「そうね、あんた来なかったら危なかったわ。…あ、ありがと」
と、横を向いてお礼を言う明日菜。
「どういたしまして」
と、微笑むトシキ。
先程の少女が、電柱の上から2人を見ている事に全く気づかずに、歩くトシキ達。
「……」
と、ただ少女は2人の姿を見つめていた。
こんにちわ。
第二部始まりました。第一部は微妙に魔法世界が入りましたが、基本的に旧世界編という感じでした。なので、第二部は魔法世界編、という事にしようと思っています。まだ魔法世界には行きませんが。
と言うわけで、これからもよろしくお願いいたします。






