表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼の進む道  作者: けやき
16/63

悪い報せ

トシキが神楽達の前から消えて三ヶ月後。トシキは一向に現れる気配がしない。

そんな中、“世界を再生するもの達”はねじれを使って、旧世界に現れ出した。

その組織の1人、シュバルツが新たな兵器を持って現れた。

旧世界 神楽の部屋


神楽の部屋で、神楽達はキャロル、魔法学校に連絡をいれていた。


「ふむ…、そうですか。」


キャロルがメモ帳に目を通しながら頷いた。


「どうやら、旋風の雷は同一人物の様ですね。」


「そうみたいですね。」


神楽が頷いた。


「エレメンタルブレードが使える時点で、同一人物としか思えないのよね。」


霊紗も頷いた。


「えぇ、エレメンタルブレードを使える魔法使いなんて、今はほとんどいないわ。」


キャロルの言う通り、エレメンタルブレードを使える魔法使いは今じゃほとんどいない。魔法使い全体の一割にも満たないほど、今じゃ使える者はいない。


「それにしても、何のために旧世界に来たんだろう?」


神楽が頭を傾げた。

旋風の雷は、魔法世界で名が売れている賞金稼ぎで、魔法使いが圧倒的に少ない旧世界に来てまで、賞金稼ぎをする必要性がわからない。魔法使いが少ないため、賞金首も少ない。魔法世界で賞金稼ぎをするほうが明らかに安泰なのである。


「…さぁ?そこまではわからないわ。」


キャロルが肩をすくめた。


「旋風の雷がどんなヤツか、わかんないの?」


と、霊紗。


「う〜ん…、有力な情報がないけど、女の子だったって情報があるわ。」


キャロルがメモに目を走らせながら言った。


「…女の子?」


と、神楽。


「そう、女の子。フードを取ったときに女の子みたいだったって、目撃者が数人いるみたい。」


と、キャロル。


「…みたいだった?」


と、霊紗。


「そう、みたいだった。どうも夜の路地裏とか、森の中とか、暗いところでの目撃ばっかりなの。それで、ちゃんと顔は見えなかったみたいだけど、髪が男にしては長めで、結んだりしてる時があるの。体つきも華奢っぽいし、女の子だろうって街中で噂されてるわ。」


メモ帳をパタンと閉じた。


「…確かに、細い体つきだったわ。」


霊紗が、旋風の雷が戦っている時にローブからチラチラ見えていた体つきを思い出した。

チラっとしか見えていなかったため、男か女か断定はできないが、女の子のような華奢な体つきだったのを覚えている。


「何かわかったらまた連絡するわ。じゃあね」


キャロルが手を振った。それをみて、神楽達も手を振り返した。

キャロルは微笑んで、通信を切った。


「…女の子か〜、トシキじゃなかったね。」


アイギスがソファで足をブラブラさせた。


「そうね…」


霊紗が頷き、お茶を飲んだ。


「何で、顔、ってか全身隠してるんだろう…」


ふと、神楽が呟いた。


「…顔が酷いとか?」


と、霊紗。


「霊紗!」


神楽が怒った。


「ごめんなさいねー」


と、気持ちのこもってない謝罪をした。


「…もう!」


と、神楽。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

神楽の部屋


ピンポーン


キャロルと通信が終わり、しばらくした後、神楽の部屋に呼び鈴の音が鳴った。


「はーい。」


と、神楽が玄関を開けて客人を出迎えた。目の前には2人女性がいた。


「こんにちわ。初めまして、今日隣の部屋に越してきた…あれ?」


と、1人の女の子がお辞儀から頭を上げ、神楽の顔を見て止まった。


「ん?…あれ、どっかで会ったような…」


神楽も女の子の顔を見て考え始めた。


「サキ、どうかした?」


と、女の子の後ろに立っていた、お母さんよりはお姉さん、みたいな女の人が、女の子に聞いた。


「あっと…」


女の子が言葉を詰まらせた。

その様子を見て、女の人が神楽の方を見た。


「あら、昨日会ったわね。覚えてるかしら?」


お姉さんが微笑んだ。


「昨日…」


神楽が昨日の事を思いだそうとし始めた。そこに、玄関から戻ってこない神楽を見に、霊紗達が玄関に来た。


「どうかした?…って、昨日の子じゃない。」


霊紗が、サキと呼ばれる女の子を見て言った。


「へ?…あぁ!ぶつかっちゃった子!!」


と、やっと神楽は思い出した。


「…どうも。」


女の子が軽くお辞儀した。


「隣に引っ越してきたの?」


「えぇ、お隣さんと言うことでこれからよろしくお願いします。」


お姉さんも軽くお辞儀した。


「こちらこそよろしくお願いします。」


神楽達もお辞儀した。


「あ、後、私が悠里。この子がサキ。」


と、悠里と名乗るお姉さんが軽く自己紹介した。


「サキちゃんと、悠里さんですね。わかりました。」


神楽がサキと悠里を交互に見て頷いた。


「それじゃあ、失礼しました。」


悠里とサキがお辞儀して、隣の自室に戻っていった。


「何か不思議な2人ね。」


霊紗が呟いた。


「…そだね」


神楽が頷き、部屋の扉を閉めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・旧世界 海岸沿い


神楽達3人は空き地ではなく、海岸付近に来ていた。空き地付近の山に、シュバルツが穴を開けてしまい、突如現れた巨大な穴、としてメディアに取り上げられ、やじ馬等が見物にきていた。

そのため、空き地で鍛練ができず、人目が付きにくい場所を探して海岸沿いまで来ていた。


「あっついー…」


アイギスが汗を流しながら呟いた。


「潮臭いわね…」


霊紗が、海岸から漂ってくる臭いに少しイラついていた。


「…水浴びしたいなぁ」


海水浴にきている人達を、羨ましそうに見ながら神楽が言った。


「いーじゃん!このまま海に入っちゃえば!!」


アイギスが堤防を飛び越えようと壁に近づいた。


「…そのまま入ったら家に入れたげないよ。」


神楽がアイギスに釘を指した。


「…あぃ」


シュンとして、2人の元に戻ってきた。


「…吹き飛べばいいのに」


と、霊紗が小さく呟いた。


「…霊紗」


神楽が冷たい目で霊紗を見た。


そんな空気を、1つの轟音が打ち破った。轟音の後から、人々の悲鳴が聞こえてきた。


「…私じゃないわよ」


音のした海岸の方を見て、神楽達の方に向き直ってから言った。


「わかってるよ!何が起こったの!?」


神楽が海岸の方に近寄り、海岸を見ようと壁に飛び上がった。


「何あれ…!」


霊紗とアイギスも壁に飛び上がった。


「戦車?」


砂浜に現れた、明らかな場違いの物体を見て、霊紗が言った。

霊紗の言う通り、パッと見戦車である。


「…魔戦車?」


アイギスが、砂浜の上で砲台をキョロキョロ回転させている物体を見て言った。


「魔戦車?」


と、神楽。


「うん、組織が造ってる兵器。旧世界の戦車を元に、魔法にも対応できるようにした戦車だよ。」


と、アイギスが説明した。


「ふーん…」


そのまんまね、と霊紗。


「あれはエグいよ。実弾使いながら魔法使ってくるから。近づけないように、かつ殲滅できる仕様になってるんだよ」


と、アイギス。


「…こっち向いたよ」


神楽が、砂浜から逃げ惑う人々を無視して自分達の方を向いた戦車を見て、苦笑した。


「避けて…!」


アイギスが忠告したあとに、何か風を切る音が3人を通りすぎ、3人の後ろの方にある小屋を破壊した。

小屋は黒煙を上げて、燃え始めた。


「…っ!」


神楽がそれを見て、戦車の方に向き直した。


「ふむ、どこにも問題なし。実戦でも使えそうだ。」


シュバルツが砲台から身を乗りだし、燃えている小屋の方を見た。


「…奴等には当たらなかったか。微修正が難しいな。」


メガネを手でかけなおした。


「旋風の雷は奴等の仲間ではないみたいだな…」


戦車に近づいてくる3人の中に、忌まわしい白ローブがいないのを見て判断した。


「さて、また邪魔しに来たのかね?」


と、眼鏡の奥の冷たい目が神楽達を睨み付けた。


「そんな兵器まで持ってきて!そこまでコッチの世界の人を殺したいの!?」


と、アイギス。


「ふん、そうだとしたらどうする?」


不気味に笑いながら言った。


「止める!!」


神楽達がそれぞれ戦闘体制をとった。


「お前たちだけではできんさ」


シュバルツは余裕の笑みを浮かべたまま本を開いた。


と、3人を飛び越えて白ローブの人が、3人と戦車の間に着地した。


「旋風の雷…!」


シュバルツが白ローブを見て苦い顔をした。


「…」


神楽達はなんとも言えない様な顔で、白ローブの後ろ姿を見た。

トシキだと思っていたが、女の子だという情報もあり、複雑な心境だった。


「ふっ…。貴様の対策はしてあるんだよ」


シュバルツがまた眼鏡をかけなおした。

と、戦車の中から1人、白ローブに向かって突進を仕掛けてきた。


「…!」


白ローブは後ろに飛び、奇襲者の攻撃を避けた。

奇襲者の武器は、砂浜の砂を吹き飛ばした。


「前は油断したけど、今回はそうはいかないよ!」


奇襲者はクロエだった。


「…」


白ローブはクロエに対しても無言で、エレメンタルブレードを顕した。


「…ったく、無視かい」


クロエが苦笑いした。


そんなことお構いなしに、白ローブはクロエに向かって行った。


「ま、あたしもおしゃべりするより、こっちのが楽なんでね!」


と、クロエも白ローブに向かって行った。


クロエが、白ローブの右肩に斬りかかった。が、白ローブはあっさり避け、クロエの剣にエレメンタルブレードをぶつけた。


「っ!」


剣は吹き飛ばされなかったが、ぶつけられ、体の後ろの方に弾かれた。


「これぐらい…!」


クロエが両手で剣を握り、白ローブに向けて思いきり振り抜こうとした。

それを左手のエレメンタルブレードで受け止め、右手のエレメンタルブレードでクロエの右脇腹を強打した。


「ぐはっ」


全身に強打の衝撃が伝い、左の方に吹き飛んだ。


「…」


無言でシュバルツの戦車の方に向いた。


「…クロエを簡単にあしらえる程実力に差があるのか。」


メガネをクイッと上げた。


「…はあぁぁぁぁ!」


クロエが叫びながら白ローブに向かってきた。


「…」


無言でクロエの攻撃をエレメンタルブレード防いだ。


「…まだ、やられてないよ!」


クロエが白ローブを睨み付けながら言った。

これだけ白ローブの人に近づいた人は、今の時点でクロエが初めてである。


「あんた…!?」


「…」


白ローブの顔を見て、クロエはつばぜり合い中に力を緩めてしまった。


「っ!しまった!!」


力が無意識に緩んでいたのに気づいたが、白ローブのが動いたのが早かった。

白ローブはクロエの剣を一気に押してのけ反らせた。

のけ反ったクロエに回し蹴りを出し、クロエに一撃いれた。


「…っ」


回し蹴りをした白ローブに向かって、戦車からの砲弾が飛んできて、爆煙をあげた。


「きゃあぁぁ!」


神楽達は目の前で起きた爆発の風圧で、思わず目を閉じた。

その時に、神楽とアイギスの間を爆風と違う風が通った。


「え…?」


「今何か通った?」


と、2人が後ろを振り返った。


「!」


後ろの堤防の壁に白ローブの人がぶつかり、白ローブの人を中心に壁をへこませた。


「あ…!」


「しばらく旋風の雷は動けんだろう。とっさに障壁で防ごうとしたみたいだが、物理障壁では魔法の弾は防げん。」


嘲笑うようにシュバルツが神楽達を見た。


「…ウンディーネ!」


神楽がウンディーネを召喚した。


「ご無沙汰ですね。」


そう言って、右腕を水の剣に変えた。


「前頼むね!」


「承知しました。」


ウンディーネが頷き、シュバルツの方を見た。


「アイギスもよ!」


「あぃ!」


霊紗の呼び掛けに、アイギスが頷き、ウンディーネの横に立った。

「ったく、うっとおしい事山の如し。」


シュバルツが本をパラパラとめくった。


「まずは、あのでかい物を何とかするわよ」


霊紗が、魔符と魔法の球を展開しながら言った。


「うん!」「あぃ!」


神楽達が頷いた。


「ほっ!」


息を吐いて、アイギスが一気に戦車と距離を積めた。


「…速さでは、アイギスのが上か」


「よっ!」


戦車の横に位置どったアイギスが、戦車の横っ腹のキャタピラに拳を入れた。


「おっと…!」


キャタピラに穴が開き、戦車が揺れた。


「はぁ!」


ウンディーネが反対側のキャタピラを何度も斬りつけた。


「…っ!ちょこざいな!!」


キャタピラを両方とも壊され、アイギス達を振り払おうと、砲台を回転させた。

アイギス達は何なく回避した。


「降り注げ!」


神楽が上方から水の槍を降らせた。


「…ちぃ!」


魔法障壁を上方に展開し、水の槍を防いだ。


「まだよ!」


霊紗が魔符を戦車の全方向に展開し、一斉に戦車にぶつけた。

戦車の様々な場所で、爆発、雷、鎌鼬が起こった。


「やった…?」


霊紗が煙の上がった戦車の方を見て言った。


「…どうやら魔符じゃ大したダメージにならないみたい。」


と、戦車の状態を見て言った。

戦車に、キャタピラ以外大した損傷はなかった。


「普通の魔法使いでは破壊できないよう、装甲を造ってあるからな。魔符じゃかすり傷しかつけれんさ。」


と、シュバルツ。


「…ったく白ローブのやつめ〜」


クロエが頭を軽く振りながら立ち上がった。


「…マズイわね。ここで相手が増えるのはシンドイわ。」


霊紗が言った。


「さて、行くよ!」


クロエが神楽達に向かって行った。

ウンディーネが反応し、クロエの攻撃を止めた。


「やぁ!」


アイギスが戦車に攻撃を仕掛けた。

が、シュバルツが魔法で戦車に近づけない。


「アイギスが戦車に近づけない。私たちで道を作るわよ!」


神楽に霊紗が言った。


「うん。」


と、頷いた。


「攻撃が我ら2人だけと思うなよ。」


と、シュバルツ。

その瞬間に、戦車から砲弾が飛び、神楽達の後ろの砂浜を吹き飛ばした。


「…っ!戦車のこと忘れてたわ」


霊紗が苦笑いした。


「さっきから足場が悪くて、動きづらい…」


さっきから足場が悪く、砲弾が上手くかわせず、詠唱が中断させられていた。


そこへ、後ろから砂浜を踏み鳴らす音が聞こえてきた。


「…」


相変わらず無言で、神楽と霊紗の間を通って、白ローブの人がエレメンタルブレードを構えた。


「…やっかいなのがきたな」


シュバルツが苦い顔をした。


そんなことお構いなしに、白ローブの人が戦車に向かって歩き出した。


「旋風の雷を集中的に狙え」


シュバルツが戦車を操っている人に言った。


戦車の砲台が白ローブに狙いをつけ、砲弾が向かってくる。


が、何故か当たらない。


「…何故当たらない!?」


シュバルツが、砲弾をすべてよけながら向かってくる白ローブに焦り始めた。


「凍てつけ!アイストルネード」


氷の竜巻が白ローブを包み込んだ。

はずだったが、氷の竜巻はかき消され、白ローブがどんどん近づいてくる。


「くっ…シュバルツ!」


クロエがシュバルツの援護に行こうとしたが、ウンディーネが邪魔をした。


「クロエは援護にこれんか…」


ウンディーネに阻まれて手こずっているクロエをみて焦りを感じた。目の前を、ゆっくり歩いてくる白ローブを苦々しく睨み付けた。

白ローブは、右手に持っていたエレメンタルブレードをシュバルツに向け、戦車より少しだけ離れた場所で止まった。


「?」


その行動の意味がわからず、シュバルツは白ローブの方をジッと見ていた。シュバルツは後ろをアイギスにとられているのも知らずに。


「…!」


気づいたときには遅く、シュバルツはアイギスに殴り飛ばされ、戦車から落ちて砂浜に倒れ込んだ。


「っぐ!」


白ローブがシュバルツを飛び越え、戦車の上に立った。そして、シュバルツの方をチラッと見た後、戦車の中に入った。


「…何をする気だ?」


戦車の中に入った白ローブを見て嫌な予感がした。戦車を乗っとる気か?それとも破壊…?

そんなことを考えていたら、戦車に乗っていた操縦士が外にほっぽり出された。


「シュバルツ様…」


弱々しい声で操縦士がシュバルツに近寄ってきた。

「…」


なにも言わずに操縦士を押し退け、戦車の方を見た。

戦車の砲台を、一筋の光が一周して、砲台を吹き飛ばした。


「やはり破壊しにきたか!しかも弱い中から…!」


装甲よりは中の方が脆く、そこを白ローブが突いてきた。


「…」


シュバルツの言葉に反応したのか、砲台の吹き飛んだ戦車の方を向き、エレメンタルブレードを振り上げた。


「斬れるはずがない。装甲は頑丈に造ってあるからな!」


そう言ったシュバルツの声は微妙に弱々しかった。


そんなことお構いなしに、白ローブは戦車に向けてエレメンタルブレードを振り下ろした。シュバルツの言葉と裏腹に、あっさりと真っ二つに斬れ、爆発した。


「…っく!!」


斬られる、と思っていたため、シュバルツは苦い顔になった。


「ヒイィ!魔戦車が!!」


操縦士が悲鳴をあげ、砂浜から堤防の方に逃げ出した。


「…」


シュバルツが無言で本を開いた。

その後、呪文を唱え、逃げる操縦士が氷の槍で体を貫かれた。

砂浜で操縦士が倒れた。


「な、仲間を平気で殺した…!?」


アイギスが倒れた操縦士を見て、思わず膝をついた。仲間を裏切る事に敏感で、アイギスは体を震わした。


「アイギス!」


神楽がアイギスの元に行こうと走り出した。


「…」


神楽を狙ってシュバルツが再び呪文を唱え始めた。


「がぐっ」


白ローブがシュバルツの前に急に現れ、左のエレメンタルブレードでシュバルツの左脇腹へと振り抜いた。

呪文を唱えていたシュバルツは、白ローブによって詠唱を阻まれ、右に吹き飛んだ。


「アイギス、しっかりして!」


小さく震えるアイギスの体を包むように神楽が抱き締めた。


「だいじょうぶ、私達は裏切らないから。だからだいじょうぶ。」


そう言って、優しく頭を撫でた。


「うぅ…」


神楽に抱かれ、少し落ち着きを取り戻し、アイギスが神楽の腕にしがみついた。


「…たく、私達はあんたを裏切りはしないわよ。」


霊紗もその場に遅れてやって来てアイギスに声をかけた。


「うぅ…もうダイジョブ」


そう言って、神楽の腕を放し、アイギスがゆっくり立ち上がった。

「…クロエ退くぞ。やはり旋風の雷と、アイギス達を相手にするには我らだけでは厳しい。」


そう言って、ねじれを横に出現させた。


「…しょうがないね!」


そう言って、ウンディーネを適当に押し退け、ねじれに入っていった。


「我らはそろそろ世界を再生させてもらう!!」


そう言って、ねじれの中に入っていった。

そのねじれに入ろうと白ローブが、ねじれに向かって行った。


「…っ!」


が、ねじれのが一足早く閉じ、白ローブは空を掴んだ。

空を掴んだ手をゆっくり下げた。


「あ、あの…!」


神楽が白ローブに声をかけた。

ピクッと体が反応した。


「あなたは誰?私達の味方と思っていいの…?」


と、神楽。


「…」


白ローブが何も言わず堤防の方に歩き始めた。


「…何とか言いなさいよ!」


と、霊紗が無言を貫き通す白ローブに、苛立ちから魔法の球を放った。


「霊紗!!」


神楽が叫んだ。

が、霊紗の魔法の球はエレメンタルブレードで打ち落とされた。


「な…!」


全ての球を一瞬で打ち落とされ、3人が呆然と堤防に向かう白ローブを見つめた。


「…何なのよ、あんたは」


そう言って、自分の手を握りしめた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

神楽の部屋


神楽達は砂浜に急に現れた戦車や、小屋が燃えた事、海水欲に来た人達によって呼ばれた警察から逃げるように部屋に帰ってきた。

シュバルツ達が結界も張らずに攻撃を仕掛けたことにより、魔法使いのことが、世間に露出しようとしていた。

ただ、戦車によって恐怖し、戦いを見た目撃者が周りにいなかったのと、負傷者が誰もでなかった事が不幸中の幸いである。


警察に取り調べなんて受けたら、魔法の事がバレ、魔法使いをクビになってしまう。そうなれば、3人はトシキに会うことも、探す手掛かりすら得る事ができなくなってしまう。

それを避けるために、シュバルツや旋風の雷がいなくなった後に、逃げるようにマンションまで戻ってきた。


「…旋風の雷は敵じゃないって事でいいのかな?」


アイギスが、ふぅとため息をついて机の近くに座った。


「今のところ、私たちを助けてくれてるからそうかもね。」


霊紗が頷き、アイギスの反対側に座った。


「でも、何が目的なんだろう。組織の事を敵視してるのはわかるんだけど、わからないことが多すぎるよ…」


神楽がキッチンからお茶をいれて持ってきた。


「確かに…。旋風の雷は何がしたいのか全くわからないわ。」


霊紗が、神楽からお茶を受け取りゆっくり飲み始めた。


「ただ戦いたいだけなんじゃないの?」


アイギスもお茶を受け取り、机に一旦置いてから言った。


「…それも否定できないけど、そうだったら私たちに戦いを仕掛けてこない理由がわからないわ。戦い好きなら戦いを挑んでくるはずよ。」


霊紗が顎に手を置いて考え始めた。戦闘狂ならなりふり構わず襲ってくるが、戦闘狂ではないから襲ってこない。

旋風の雷が組織と対立しているって言うことしか今のところわかっていない。


「…」


皆考え込んで黙ってしまった。

その沈黙を魔法世界との通信機が鳴った。

3人はその音を聞き、通信機のほうに集まり、神楽がスイッチを入れた。


「こんにちわ。」


キャロルが軽くお辞儀をした。


『こんにちわ。』「ちわー」


3人も挨拶を返した。


「突然ごめんなさい。あなた達にあまりよくない報告があって、通信したの。」


メモ帳を取り出した。

よくない報告とあって、表情が曇っている。


「私たちも一応報告しとくことがあります。」


と、神楽。


「あら、じゃああなた達の方から聞くわ。私の方は後から聞いた方がいいと思うから。」


そう言って微笑んでいるが、顔はどこか曇っている。


「わかりました。じゃあ…」


・・・・・・・・・・・・・・・


と、神楽達が今日海岸で起きた事を報告した。


「旋風の雷はただの賞金稼ぎって訳ではなさそうね。」


と、キャロル。


「そう、絶体何かあるわ。」


と、霊紗。


「…旋風の雷でわかった事があったらすぐ報告するわ。敵じゃないとは思えるけど、注意をしててね。」


「はい。」


と、神楽。


「それにしても、魔戦車何て物を持ち出すなんて、組織も本気で旧世界を獲りに来てるわね。」


メモ帳に書いた魔戦車を丸く囲んだ。


「しかも、魔戦車が大量生産されているってのがヤバイわ。」


と、霊紗。


「そうね。魔法が使えるから、旧世界の兵器では傷も付けられないわ。」


と、キャロル。


「今こっちにいる魔法使いの人って、約30人なんでしょ?対処しきれないわよ。」


と、霊紗。


「…そうね。あなた達以外、戦争の時からで、魔法世界から旧世界に戻った人は今のところいないしね。」


と、キャロル。


「ゲートに小細工して復帰を遅らせるなんて、組織もセコいことするわ。」


と、呆れながら霊紗。


「セコいことだけど、効果は絶大。障害を減らしていき、被害を抑えて目的を達成する。こんな一番いい状態にしたのは、完全に組織のが上手だからね。」


と、キャロルも思わずため息をついた。


「組織の事でもなにかわかったら連絡するわ。」


「はい。」


と、3人が頷いた。


「で、キャロルの報告は?」


と、霊紗が聞いた。


「…そうね。」


と、キャロルが俯いた。


「あなた達にとって痛い報告よ。」


神楽達がお互いの顔を見合わせ、キャロルの方に向き直り頷いた。


「…魔法媒体の破片と、大量の血液が見つかったの。ミッドガルド平原に隣接しているスルノの森で。」


「魔法媒体の破片と、大量の血液…?」


と、神楽。


「そう。その2つが見つかったわ。それを誰の物か分析してもらった結果もわかった。」


と、メモ帳のページを開いた。


「…結果は?」


と、霊紗。


「2つとも、トシキ君の物だっていう結果がでたわ…」


と、キャロル。


「…ちょっと待って。魔法媒体の方はともかく、血液っておかしくない?」


と、霊紗。


「えぇ、何故か最近というか、一週間前に見つかったにも関わらず、血液が乾いてない状態で見つかってるのよ。」


と、キャロル。


「…どういうこと?戦争が起きてもう3か月経ってるのよ。それなのに乾いていなくて、そのまま残ってるなんて可笑しいじゃない。」


と、霊紗。


「そう。ただ大量の血液が見つかった時点で、彼の生きている確率は下がったわ。魔法媒体まで壊れているし。」


「そんな…」


神楽が膝をついた。


「…アイツの血が大量に、しかも平原じゃなくて隣の森で見つかった。何が起こってるのかわからないわ…」


と、霊紗が頭を抱えた。


「…」


アイギスは黙ったままなにもしゃべらない。

場所はどうあれ、トシキの血液が大量に見つかり、テリルまで壊れた状態で見つかった。


3人のトシキが生きている、という希望が少しずつ減っていった。


「…まだ彼が本当に死んだって訳じゃないわ。だから諦めないで!」


キャロルが必死に3人を励まそうとした。


「…」


と、霊紗が顔をあげ、黙ったままの2人を見た。


「…そうね。諦めるのは早いわ。私はアイツの死体が出てくるまで諦めないわ。」


そう言って、霊紗は立ち上がって何故か部屋を出ていった。


「…霊紗」


と、神楽。

霊紗が無理してあぁ言ったのは、2人にわかっていた。自分も辛いのに無理して強がり、神楽達を元気付けようとした。


「…まだ諦めちゃダメだよね。」

と、神楽。


「うん、まだ早い!」


と、アイギス。


「こっちでも彼を優先的に探すわ。」


と、キャロル。


「…はぃ」


神楽が頷き、部屋の出口の方を見た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔法世界 ?


シュバルツとクロエが拠点に戻ってきた。


「戻ったか。で、どうだった?」


マゼランが二人の方を見ずに言った。マゼランは、自分の目の前の物をずっと見ていた。


「魔戦車の可動に問題はありません。あとは、それに乗る人員だけです。」


と、シュバルツ。


「そうか。人員…トシキに100人倒され、旋風の雷にも前の拠点に侵入されて何人か倒されたから、今人員が少ない。慎重に選ばねばな。」


と、マゼラン。

三ヶ月前にトシキによって約100人。一ヶ月前に旋風の雷により、50人前後。

おかげで、組織の人員は減る一方だった。


「にしても、旋風の雷ってサカイトシキなんじゃないの?トシキが消えた後から旋風の雷が出てきたわけだし。」


と、クロエ。


「…それはない。旋風の雷はトシキが消える前から既に存在していた。前は全く売れない賞金稼ぎだったんだがな。それに、旋風の雷は女だ。」


と、マゼランは全く振り向くそぶりがない。


「へぇー…、何で知ってんだい?」


と、クロエ。


「調べたからな。邪魔になりそうなヤツはチェックしてある。トシキは死んで障害が減ったと思ったんだが、旋風の雷がここにきてでかい壁になった。予想外すぎる。」


と、マゼラン。


「ふーん…」


と、クロエ。


「…使ってみて何か改善点があれば、勝手に改善しろ。私は乗ってないからな。魔戦車はお前に任せた。」


そう言って、マゼランは闇に消えた。


「…さっさと改良するか。もう時間が余りない。」


と、シュバルツ。


「そうね。急がないと」


と、クロエ。

2人は部屋を出た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

旧世界 神楽のアパート屋上


霊紗はキャロルの通信の途中で部屋から出て、屋上に来ていた。

トシキが死んだそんな風には思えず、でも可能性は低い。


「大量出血…テリルの破損…」


今日聞いた報告で、希望は絶望へと変わり始めた。


トシキにとってテリルは、霊紗の指輪、神楽の杖と同じ。それが壊れていたとなると、魔法が使えないことになる。魔法が使えない、魔法使いはただの人である。

そんな状態で、精鋭の兵士達と戦えば、負ける。負ければ死。


「…トシキ」


今日の報告を聞いてわかった事が1つある。


「トシキがいつの間にか大事な存在になってたんだ…」


霊紗がため息をついた。前から気になってはいると思っていたが、気づかない間にその存在が、自分の心の中で大きくなっていた。


「気づいた時には遅すぎるよ…」


霊紗の目から涙が流れ始めた。体が小刻みに震える。それを抑えようと手で体を抱き締める。


「うぅ…」


立っていられず、その場に膝をついてしまった。

そこに何かが落ちる音がした。そんなこと気にせず、というか気づかずに泣いていた。


「…あのメガネ、次来たらおもっきし殴ってやる〜…」


そう呟いて、屋上の入り口の建物の裏からサキが出てきた。


「全身いたー…って霊紗?」


自分の体をさすりながら、屋上から出ようとしたときに、屋上の手すりの方で泣いてる霊紗を見つけた。


こっちに気づいてないのか泣き続けている。


「あ、あの〜大丈夫?」


ほっとけずに霊紗の元に行って、声をかけた。


「…!」


霊紗がビクッとして、一旦動きが止まり、ゆっくり振り向いた。


「!何かあったの?」


霊紗の顔を見て驚いた。目が腫れ、顔には涙の跡がついていた。


「…ほっといて」


それだけ言って、また顔を前に向けた。けど、今度は泣こうとしていないが、体が震えている。


「…何があったかはわかんないけど、コレ使いなよ。」


霊紗にポケットからハンカチを取り出して、手渡した。

が、なにも言わず受け取ろうとしない。


「…じゃあ、こうする」


そう言って、霊紗の前に肩膝を着き霊紗の顎に手を添えて、無理矢理顔を拭いた。


「ん、ちょっと、あにすんの…!」


ハンカチで顔を、涙の跡を拭かれて抵抗しようと顔を動かすが、思った以上にサキの力が強い。


「何があったかなんて、さっき聞いたけど、もう聞かない。けど、たまにはおもっきり泣いてもいいんだよ。」


そう言って、今度は霊紗を抱き締めた。


「んん…!」


急に抱き締められ、頭をサキの大きな胸に埋められ、声が出ない。


「たまにはおもっきし泣きなって!強がってたって泣きたいときは泣きたいでしょ。」


サキが強く霊紗を抱き締めた。


「…」


サキに抱き締められ、何処か懐かしいような、前にも感じたことのある温かさを感じた。ただ、それは母親の様な温かさとは違う、温かさだと感じた。


その温かさに涙が自然とまた流れ始めた。


「いいんだよ、泣いたって。泣いちゃいけないなんて誰も決めてないから。ちゃんとここにいるから泣きなよ。」


霊紗の顔を胸から離して、自分の肩の方になるように抱き締めた。


「うぅ…うあぁぁぁぁ…!」


霊紗が声を出して泣き始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・


「はぁ…スッキリはしてないけど、ちょっとは楽になったわ。ありがとう」


霊紗が、サキに借りたハンカチで涙を拭いた。


「ちょっとでも楽になったんなら良かった。」


サキが霊紗に優しく微笑んだ。


その笑顔にも何故か懐かしさを感じた。


「まぁいいわ、ありがとう。」


サキに背を向けて屋上の入り口に戻っていった。その途中でサキに手だけ振って階段を降りてった。


「…」


その後ろ姿をサキは切なそうに見つめていた。

ちょっと時間かかっちゃったっけど更新できました。

活動報告も書いてみたんでよかったらコメントお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ