3ヶ月後
旧世界 神楽の部屋
魔法世界で三国の戦争が起こってから3ヶ月経っていた。
「もう3ヶ月ね。」
霊紗がちゃぶ台でお茶を飲みながら呟いた。少し髪が伸び、赤白のリボンで結ばれた黒髪ポニーテールが肩まで長くなっていた。
「もうそんなになる?」
アイギスが、指で数を数え始めた。アイギスはあまり変化がない。
「そうだよ、トシキがいなくなってから3ヶ月でもあるんだよ?」
神楽が苦笑いした。神楽も髪が少し伸びた。
トシキがいなくなってから3ヶ月。3ヶ月の間、3人は髪が伸びた程度の変化だけだった。
「結局今までトシキ戻ってこないし、連絡ないね。」
神楽が通信機をチラッと見た。
神楽が言った通り、トシキ本人から連絡はないし、帰ってくる気配もない。キャロルさんからの連絡でも、トシキは未だに行方不明としか教えられてない。
「…そうね。キャロルさんからの連絡もどうでもいいことばっかだし。」
霊紗がため息をついた。
「なんだっけ?向こうの賞金稼ぎがどうとか、ミッドガルド平原に百人超の失踪者たちが倒れてた、とかだっけ?」
アイギスが何となく覚えてることを聞いた。
「うん、そうだよ。」
神楽が頷いた。
戦争の後、魔法学校に向かってくると思われていた、謎の軍団は、三国の失踪した精鋭の兵士たちで、全員負傷はしているが死亡した者は誰もいなかった。目が覚めた兵士たちは、失踪していた時の記憶を無くしており、何が起こったのか解らなかった。
その兵士たちは、今は自国に戻り体を休めている。
「キャロルさん、トシキが1人で魔法学校を守ってくれたって、涙ぐんでたね。」
神楽が言った。
「…でも、トシキが姿を消す意味がわからないわ。死んだにしても死体が見つかってないし」
霊紗が暗い声で言った。後半の言葉はかすれるような声だった。
「自力で動いてみたけど、力尽きて魔物に、とかないよね…?」
アイギスが小さな声で聞いた。
「…ないと信じよう?きっと帰ってくるから!」
神楽が自分に言い聞かせるように言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・旧世界 空き地
3ヶ月経ちながらも、神楽達がちょくちょく鍛練していたため、前のままの状態だった。
そんな空き地のど真ん中にねじれが現れた。
「ここは…」
ねじれから、真っ白のローブで全身を覆った2人が出てきた。
「どうかした?」
小さく呟いた1人に、もう1人が聞き返した。2人とも女性の声である。
「…別に何も」
ちょっとムスッとした声で答えた。
「誰か来る…」
そう言った後、2人はその場から消えた。
2人が消えてちょっとしてから神楽達が走ってきた。
空き地に入って、三人かたまりそれぞれ別の方を見た。
「…いない」
「こっちも」
「うん、いない」
三人が周りを見ながら言った。
「魔力感じる?」
「…感じない。」
神楽の言葉に霊紗が答えた。
霊紗が答えた通り、空き地からは自分たち以外の魔力を感じない。
「おかしいなぁ、ねじれだと思ったんだけど…」
神楽が頭をかきながら苦笑いした。
「まぁしょうがないんじゃない?この3ヶ月、ねじれなんて一度も顕れなかったもの。」
霊紗が神楽の肩を軽く叩いて、空き地から出た。
3ヶ月間ねじれは一度も顕れず、世界を再生する者たちも現れなかった。
「…そうだね。」
小さくため息をついて、神楽とアイギスも霊紗の後を追いかけた。
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旧世界 神楽のマンションへの帰路
「にしても、なんで組織はこっちに攻めて来なかったんだろう?」
マンションに帰る途中にあるコンビニでアイスを買って、くわえながらアイギスが聞いた。
「さぁ?私達に聞かれてもわかるわけないでしょ。まぁでも、ねじれが顕れなくなったのと関係はあるでしょうね。」
霊紗もアイスを食べながら答えた。
「そっか、ねじれを使って旧世界に攻めようとしてたんだよね。ねじれがなきゃ、組織も旧世界に来れないだね。」
神楽が頷きながらアイスを食べた。
「…って神楽、前!」
霊紗が、後ろにいる自分たちの方を向いて歩いている神楽に言った。前から2人の女の人が歩いてきていた。
「へ?」
と、神楽が振り返った時には遅かった。
「あたっ!」「わ!」
神楽と、見た目20代の女の子はぶつかり尻餅をついた。そのはずみで、神楽はアイスを手から離してしまった。
「いてて…、って、あ!」
女の子が地面に落ちる前に、何とかアイスをひろった。ふぅ、と小さくため息をついた。
「う〜…、いたた」
神楽がお尻を擦りながら呟いた。
「ごめんね、大丈夫?」
女の子がスッと立ち上がり、神楽に手を差しのべた。片手に神楽のアイスをもって。
「あ、ありがとう。」
差しのべられた手をとり、神楽は立ち上がった。
「あと、これも。落ちなくて良かったね!」
女の子が微笑みながら神楽にアイスを渡した。
「アイス…ありがとう!」
アイスを受け取り、お辞儀をした。
「どういたしまして。」
女の子が笑った。
「…」
神楽はその笑顔に何処か懐かしさを感じた。
その女の子は、毛先の方が赤色で後は黒色の髪。ビンが首の真ん中まで伸びていて、前髪は目をこえてるのもあれば、こえてない左右不揃い。後ろ髪を首の近くの部分で縛り、ぴょこぴょこと赤い髪が風に揺れている。白いTシャツに大きく膨らんだ胸、黒いミニスカートに黒いニーソを履いている。スタイルはかなりいい子である。
「ふぁ……」
神楽が女の子の顔に思わず見とれていた。
「…何か?」
女の子は微笑みながら神楽に聞いた。綺麗というよりは可愛い顔をしている。そう感じるのは、隣にいる女の人のせいでもあった。
隣にいる女性は、腰まで長い金髪で、小さな花柄のワンピースに青いジャケットを着ている。綺麗な顔つきをしていて、隣にいる女の子よりも胸がでかく、スタイルがかなりいい。2人とも、一度見たら絶対に忘れられないような雰囲気をかもしだしている。
「あ、いえ何も…」
神楽が焦ってまたお辞儀をした。
「フフッ、じゃあ行くわよ、サキ」
隣の美人さんが、サキと呼ばれる女の子に言った。
「わかった、悠里さん。じゃあね。」
神楽に手を振り、悠里と呼ばれる美人さんと共に、歩いていった。
「何か不思議な人達。」
神楽が後ろ姿を見ながら言った。
「…そうね。」
霊紗も、何処か懐かしさを感じて言った。
「…」
アイギスは何か考えるような顔をしていた。
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神楽の部屋
結局、何も起こらずに部屋に3人は帰ってきた。
「何だろうなぁ、何か嫌な予感がする。」
霊紗が空を見ながら言った。
「嫌な予感?」
神楽が3人分のお茶を持ってきて聞いた。
「うん、嵐の前の静けさみたいな感じがする。」
「や、やめてよ、霊紗が言うとシャレになんないよ…」
神楽が苦笑いした。
「…やっぱり空き地に行ってくる!あそこに何か来そうな気がする。」
霊紗が振り返り、ドアに向かって歩き出した。
「あ、待って!私も行く!!」
神楽が焦って霊紗の後に付いていった。1人にしたら、トシキの様に消えちゃうんじゃないかと不安にかられたからである。
「私も行こっと!」
アイギスも2人に付いていった。
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空き地
神楽の部屋から出て、直で空き地に向かった。
「何か、ここに来たらますます嫌な予感がする…」
霊紗が空き地を見回していった。空き地からは魔力を感じない。ここに魔法使いはいない。
「…っ!」
ねじれが急に顕れた。霊紗の予感は的中した。
「人がでてきた…!」
神楽がねじれからでてきた人を見て言った。片手に本を持ち、眼鏡をかけ、ローブを羽織った男が出てきた。
「ふぅ…やれやれ、やっと完成した。ったく、手間をかけさせてくれる…」
男がぶつぶつ呟いた。
「な、何?組織の人?」
神楽がアイギスに聞いた。
「…シュバルツ!」
アイギスが男を見て言った。
「全く、賞金稼ぎの分際で我等に楯突いてただで済むと思うなよ、旋風の雷…!」
「旋風の雷…?」
シュバルツから聞いたことない言葉が聞こえた。
「…ん?何だ、お前たちは。」
今頃気づいたのか、シュバルツは神楽達を睨み付けた。
その瞬間、神楽達は気圧された。
「アイギス…、そうか、お前たちが我等に楯突くガキ共か」
シュバルツが手に持っていた本を開いた。
「ヤバイ!皆よけて!!シュバルツの魔法はかなり強力だから!」
アイギスが叫んだ。
「…もう遅い。」
手を神楽達の方に向けた。その瞬間、極太の氷属性のレーザーが神楽達を襲った。
そのままレーザーが神楽達の後ろに位置する山を貫き、でかい穴を開けた。その穴から山が凍りついていった。
「皆、大丈夫!?」
予め、シュバルツの事をよく知っているアイギスは、魔法をよけれた。が、何も知らない神楽達に無事かを確かめた。
「うぅ…何とか。」
「命はね…」
神楽と霊紗が答えた。
「…っ!」
アイギスは、2人の状態を見て一瞬止まった。
神楽と霊紗は生きてはいるが、体の一部が凍りついていた。神楽は、右足と両腕、霊紗は左の手足が凍っていた。
「これ、ヤバイわね…」
霊紗が自分の状態を見て苦笑した。
「うぅ…両腕が使えない」
神楽が凍りついた両腕を見て唸った。
「…生きてるか、我等に楯突くだけあるな。」
シュバルツが違うページをパラパラ開いた。
「…っ!させるかぁー」
アイギスがシュバルツに殴りかかっていった。
「…ふぅ、お前は直線的すぎる。」
シュバルツは横に避け、アイギスが空を殴った。
「お前の相手は彼らさ。」
そう言って、シュバルツは全身骨の魔物を呼び出した。
「ワイト!?」
自分に向かってくるワイトと呼ばれる魔物を倒しながら、詠唱を阻止しようとする。
「無駄さ、お前は仲間が死ぬのを黙って見ているだけだ。」
そう言って、ワイト一体がアイギスの腕をつかんだ。
「しまった…!」
そう思った時には遅く、次々とワイトがアイギスを押さえ込んでいった。
「ぐぬぬぅ…!はなせぇー!」
アイギスが振りほどこうともがくが、一向に振りほどけない。
「氷の次は炎でいくか。」
シュバルツがまた本をパラパラ開いた。
「さ、おしまいだ。」
手を神楽達に向けた。
「ヤバイ!」
霊紗が焦る。神楽は思わず目をつむった。
「バーンストライク!」
炎の塊が神楽達に向かって降り注いでくる。
が、何故か神楽達に降ってくる炎が消されていく。
「な、なんだ?」
シュバルツが神楽達の方を見た。そこに、白いローブを羽織った人が立っていた。
「…誰?」
神楽が前に立っているローブの人を見て呟いた。
「…トシキ?」
霊紗が言った。
が、ローブの人は何も言わず両手を体の前でクロスした。
その瞬間、黄色の光状の剣が両手に顕れた。
「…!エレメンタルブレードだと!?貴様、旋風の雷か!!」
シュバルツが光状の剣を見て叫んだ。
その叫びを無視して、ローブの人はシュバルツに向かって突撃した。
「ぬぅ、速い!!」
そう言って、ワイトを多数自分の前に出現させた。
「…」
ローブの人は、そんなこと関係なしに、剣を振るい、簡単にワイトを蹴散らした。
「…っ!」
思わずシュバルツが後退りした。
その後退りのおかげで、シュバルツは横から向かってくる剣に直撃せずにすんだ。が、直撃しなかっただけで、左腕に当たり、横に吹き飛び、砂山に顔から突っ込んだ。
ローブの人は、アイギスの方を向き、ワイトを剣で蹴散らした。
「お、おぉう…」
アイギスは呆然とローブの人を見ていた。
ローブの人は、スッと神楽達の方に行き、凍った腕や足に、魔法で水をかけていった。
そんなことをしている間に、シュバルツが砂山から出てきた。
「ハァ、ハァ、貴様相手に私1人では手に負えん。悪いが帰らせてもらう。」
「…!」
ローブの人が、シュバルツが顕したねじれに体を揺らした。
「ふっ…我等もやられたまま黙ってはおらんと言うわけだ。」
嘲笑うように笑みを浮かべて、ねじれの中に消えていった。
「…」
ねじれが完全に消えるまで、ローブの人はその場に留まったが、消えた瞬間に、空き地から一言もしゃべらず出ていった。
「あっ…」
神楽がローブの人に手を伸ばすが、虚しく空をつかんだ。
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魔法世界 組織のアジト
シュバルツはねじれを使い、アジトに戻ってきていた。
「シュバルツ、我等のねじれはどうだった。」
マゼランがシュバルツに聞いた。
「えぇ、2ヶ月掛かりましたが成功です。今ならいけます。」
割れたメガネを外し、懐から新しいメガネをかけた。
「ねじれは成功のようだが、そのなりはどうした。」
シュバルツの割れたメガネと、砂のついた服を見て聞いた。
「えぇ、どうやら旋風の雷は旧世界にいるようです。」
「旧世界に?…ふむ、厄介だな」
「えぇ、どうします?」
「対策を考えよう。会議室にメンバーを召集せよ。」
「承知しました。」
頭を軽く下げ、マゼランの部屋から出ていった。
「サカイトシキの次はお前か、旋風の雷…」
そう呟いて、マゼランも部屋を出た。
今夏休みなんで更新早めですが、いつまでもつか…(笑)
このペースを続けられるよう、体調もしっかり管理していきます。皆さんも体調を崩さないよう気を付けてください。