休息Ⅱ
今回は短めです。
旧世界 神楽の部屋
ヴァニタスとの戦いが終わり、ボロボロになって部屋に戻ってきた。
神楽と霊紗は2対1立ったこともあり、比較的軽傷。アイギスとトシキは、お互い戦った後、ヴァニタスと戦闘になった。そのため、神楽達と比べると傷は多く、トシキに至っては服までボロボロである。
「あんた、そのまんまでいる気?」
霊紗がトシキをちゃんと見ずに言った。服が破け、肌が見えてる箇所が多く、霊紗と神楽はトシキの方を向いてはすぐ違う方を見た。
「そんな事言ったって…。あ、じゃあ、こうするか。」
何か思い付き、テリルをだした。
テリルに意識を集中した。
「あぁ〜、なるほど。」
霊紗はトシキが出した者に頷いた。
「これならいいでしょ。浮いてるけど。」
苦笑いしながら、自分がだした旅人が着るようなマントを羽織った。
「これならもう恥ずかしくないね。」
神楽がトシキの方を見た。
マントのおかげで肌は見えなくなった。
「にしても、あんた結構筋肉ついてるのね。腹筋割れてたし。」
「いや、だいぶおちたよ。部活やめたし、運動することが少なくなったから。」
そういって頭をかいた。
「それより、アイギス。なんでそんな離れた場所にいるの?こっちおいで。」
部屋に入ってからトシキ達より離れた場所でチョコンと座っているアイギスにトシキが声をかけた。
「う、うん…。」
アイギスはもじもじしながら近づいてきた。
「なんだ?なに恥ずかしがってんだ?」
「べ、別に恥ずかしくないもん。ただ、私が仲間になっても良かったのかなって思っちゃっただけだもん。」
アイギスの声が少し震えていた。
トシキ達はお互い顔を見合わせた。神楽は苦笑い、霊紗はやれやれと呆れた顔をし、トシキは頭をかいた。
「アイギスおいで。」
トシキがアイギスを呼んだ。
ゆっくりとアイギスはトシキに近づいてきた。
「わっ!」
アイギスはトシキに急に抱き締められて驚いた。アイギスだけじゃなく神楽達も驚いた。
「大丈夫。オレ達はアイギスを仲間だって思ってる。今まで寂しかったかもしれないけど、オレ達がいる。だから、もう大丈夫。」
アイギスはトシキの言葉に喜び、笑顔となり神楽達の方を見た。
神楽達もアイギスの方を見て、頷き笑った。
それを見て、益々嬉しくなりトシキをギュッと抱き締め返した。
「あったかい…」
ドルチェも一緒に居てくれたが、抱き締めてはくれなかった。初めて自分以外の人の温度を感じた。
トシキは、やれやれと思いながら頭を撫でた。
「アイギス〜、いつまで抱きついてんの?」
「トシキも顔がにやけてる。」
神楽と霊紗が、笑顔を引きつらせて言った。
「ヒイッ!?」
トシキが2人の表情を見てすっとんきょうな声をあげた。
「トシキは私の物なの!」
アイギスはトシキに抱きついたまま離れず、2人にべーっと舌を出した。
「…あんたにはお仕置きが必要ね。」
「そうだね、必要だね。」
霊紗と神楽はゆっくりとトシキ達に近づいて歩き始めた。
「ヒ、ヒイィ!!」
トシキは2人の剣幕に恐怖を感じ、思わずアイギスを抱き締めた。
「ほら〜、私達両想い〜♪」
「トシキ〜…」
「じゃあ、2人まとめて」
「お仕置きですね。わかります。」
神楽と霊紗はトシキ達にズンズン近づいていった。
「うわあぁぁぁぁぁ…!」
部屋にトシキの断末魔が響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・
「で、あのボロボロになってるのがトシキ君なの?」
トシキとアイギスを神楽と霊紗がお仕置きしている途中でキャロルから連絡が入り、お仕置きは中断され先程の戦闘の報告と、魔法世界の状況の報告がきた。
相変わらず、キャロルは報告を聞き逃さずにメモをとっている。
その報告の途中でアイギスをキャロルに紹介して、4人で話をしていた。トシキは重点的にお仕置きされ気を失っていた。霊紗は、どちらにも手加減していなかったのはここだけの話。
「え、はい…」
神楽は恥ずかしそうに答えた。
「今度の相手は報告通り格上で強敵だったようね。」
キャロルは、トシキの状態を見てイタズラっぽく笑った。
「キャロルさん、わかってますよね?」
神楽が思いきって、にやけているキャロルに聞いた。
「えぇ、わかってるわ。程々にしときなさいよ、あなた達。」
神楽だけじゃなく、霊紗も関わっているのがバレていた事に2人は益々恥ずかしくなった。そんな2人を見て、キャロルはクスッと笑ってからメモ帳をまた開いた。
「報告があったんだけど、後のがいいかしら?彼があんなんだし。」
「オ、オレは大丈夫ですから、どうぞ…」
意識が戻ったのか、床をはって4人に近づいてきた。
「あら、じゃあこっちの近況を話すわ。」
「はい。」
トシキが這いつくばった状態から座ったのを確認した。
「最近、魔法世界で大きな動きはないわ。ただ、トルガイア王国で有能な魔法使いや、騎士達が姿を消していってる、って報告がきたわ。」
「有能な魔法使いや、騎士が?姿を消す程トルガイア王国は何かが酷いんですか?」
「そんな事はないと思うわ。恐怖政治を行う王なんて今時いない。最近、国内で反乱があったなんて聞かないし、こっちの国は至って平和よ。」
「そっかぁ…、じゃあ、兵士達自ら消えたって訳じゃなさそうだな。」
トシキが顎に手をあて考え始めた。それを見て、神楽達は、キャロルに続きをどうぞ、と促した。
「どっちかというと、魔法世界よりも旧世界のが平和じゃないわね。ねじれの報告数及び、ねじれから出現した魔物や人間によって数人襲われて、命を落とした人もいるの。」
キャロルの報告に、4人は驚いた。自分達のいない、他の場所で出現したねじれによって命を落としている人がいる。そんな事、全くおもってもいなかったし、考えもしなかった。ねじれは、何処に何時出現するか予測できないからしょうがないと言えば、しょうがないがショックは受けた。
「…ちなみに、ねじれから出現したのは人のが多いですか?」
「え、えぇ。人のが多いわ。魔法使いによる魔法の跡や、謎の騎士と戦闘になった魔法使いがいるって報告があったわ。」
「そのねじれから出現した魔法使い達って、もしかしたらトルガイアで失踪した人たちじゃないですか?」
顎に手をあてたまま、トシキが言った。
「…、その確率は低くないわね。他所の国だから、失踪した魔法使い達の特徴とかが詳しくわからないから何とも言えないけど。」
「もしかしたら、“世界を再生する者達”に加わってるって、最悪の可能性があるかもですね。」
「えぇ、そうなるわね。」
「なら、そっちの失踪者を減らす事が、オレの予想が合ってなくても必要ですね。」
「えぇ、対処はしなければいけないわ。でも、どう対処すべきかがわからない…」
キャロルは手帳を閉じてため息をついた。
「…。最低でも、2人1組で1人にならないようにする必要があると思うんですが。」
「…そうね。しないよりはした方が被害が減るかも。」
メモ帳にメモをした。
「一番いいのは“世界を再生する者達”を何とかできればいいんだけど、拠点も何もわかってないから手が出せないし…」
トシキがトン、トンと考えながらリズムをとった。
「…それに、もし失踪者が“世界を再生する者達”に加担してるようなら、トルガイアだけじゃなく、シェルアクアも、ハイライトも失踪者が出ると思うんです。」
「何故そう思うの?」
一旦閉じたメモ帳を開いて、羽ペンを取り出した。
「ただの勘違いならそれでいいんです。でも、前に聞いたテロリストの残党だったとすると、魔法世界を掌握するために強い力が必要じゃないですか。」
ふむふむ、と羽ペンをメモ帳に走らせた。
「一国の強者だけじゃなく、三国の強者を揃えた方が、掌握する時に少ない被害で済む。」
「確かにそうね。」
霊紗が頷いた。
「それに、テロリスト自ら手を出さずとも、三国をボロボロにすることだって可能ですよ。」
メモをとっていたキャロルの手がピタッと止まって、トシキの方を見た。
「気づきました?」
「えぇ、そうなるとかなり厄介な事になるわ。」
再びペンを走らせた。
「え?どう言うこと?」
神楽とアイギスがキョトンとしている。トシキと霊紗、キャロルは苦笑いした。
「各国の失踪者を使って、その失踪者のいた国じゃない別の国。つまり、トルガイアならハイライトかシェルアクアに攻撃するのを、失踪者達にやらせれば、今の和平状態を破る事が最低でもできる。」
一旦言葉をトシキは、神楽達の確認と同意のため切った。
霊紗とキャロルは頷き、神楽とアイギスはふむふむ、と理解をした。
「アイツらにとっては各国が敵対し、戦争を起こしてくれれば自分達の被害が少なくなるし、三国が二国ないし一国だけになる可能性だってある。そうなれば、残ったボロボロの弱った国を叩くだけで、魔法世界を掌握したも同然。“世界を再生する者達”の1人勝ちってわけだ。」
「あぁ!なるほど!!そんな事されたら思うつぼじゃん!」
神楽が納得しながら言った。
「そう。オレの考えが違ったとしても、三国は弱体化していく一方なんだ。」
「まずいわね…、“世界を再生する者達”は思った以上に厄介そうだわ。」
メモ帳をパタンと閉じてキャロルが言った。
(魔法世界を掌握する事がアイツらの目的ならだけどね。)
そう思いながら、トシキはまた顎に手をあて、引っ掛かる何かを考え始めた。
「なぁ、トシキ〜、私はこれからどうすればいいんだ?」
アイギスがトシキのマントをクイクイ、と引っ張りながら聞いた。
「ん?あぁそうか。…家来るか?」
「行く!」「へ?」「…」
アイギスはトシキに飛びつき、神楽は驚き、霊紗はしかめっ面をした。
「アイギスは行くとこないし、オレの家でも良いですよね?」
キャロルに同意を得るため聞いた。
「まぁ、トシキ君なら良いと思うわ。間違いは起こさないと思うし。」
「じゃあ、報告終わったら一緒に帰るか。」
アイギスの頭にポン、と手を乗せて笑った。
「うん、帰る!」
アイギスは嬉しくて、顔をグリグリとトシキに押し付けた。
「「…」」
神楽達は黙りこくってしまった。
(だ、大丈夫…トシキはそんな趣味じゃないはず!トシキは私みたいに胸が大きい娘が好きだから、アイギスみたいにペッタンコな娘になびかないはず!大丈夫よ、神楽。落ち着け神楽。………)
(何なのよ…私はダメでアイギスはいいの?歳なんて倍以上ってか、十倍じゃない…。見た目は十歳ぐらいだけど。トシキは私に優しくない気がするわ。)
神楽と霊紗はそんな事を思いながらプルプル震え、神楽は泣きそうに、霊紗はうつむき杖を折りそうな雰囲気を出していた。
「…ど、どした?2人とも。」
2人の異変に気づき、トシキは恐る恐る声をかけた。
「「別に何も〜…」」
そう言ったが、2人の笑顔は引きつっていた。
「ヒィ!?」
思わず恐怖の声をトシキはあげてしまった。
「…やれやれ、今回の報告はこれでいいわ。失踪者の件はこちらでも動いとくから、何か良い案が浮かんだら連絡してね。」
4人のやり取りを見て呆れ、メモ帳を懐にしまった。
「それじゃ、さよなら。」
『さよなら』
4人がキャロルに挨拶を返した。
「…」
通信が切れた後、沈黙が部屋に訪れた。
「あー…じゃあ、オレ達は帰るよ。」
沈黙に耐えきれず、トシキが立ち上がり部屋を出ていった。
「あ、私も〜。」
アイギスもスッと立ち上がり走ってトシキを追いかけて行った。
「…」
「…何でアイギスはトシキの家に?」
霊紗が言った。
「トシキは安全だから良いんじゃないの?」
そう言った神楽の声は震えていた。
「…何か納得いかない。」
霊紗がその場でゴロンと横になり、窓から見える夕方の紅く染まっていく空を見た。
・・・・・・・・・・・・・・・
旧世界 家への帰り道
トシキとアイギスは、トシキの家に向かって紅く染まっていく空の中歩いていた。
トシキはマントを羽織ったままの浮いた服装のまま歩いていた。
「今日は疲れた…。」
トシキが思わず呟いた。
「戦いで?」
「うん、あんなに強いと思わんかった。まだアイツみたいなのがうじゃうじゃいると思うと、萎えるね…」
はぁ、とため息をついた。
「まぁ、ヴァニタスは別格だけど、強いのは揃ってるよ。それに、組織の人数が何人いるかなんてさっぱりわかんないし。失踪者達が加わってるならすごい数だと思うよ。」
アイギスは、笑いながら言った。
「…益々やる気なくなってきた。」
露骨にげんなりした。
「組織全員と戦うわけじゃないから良いでしょ!」
笑いながらアイギスは言った。
「そうだけどさぁ…、まぁ、なるようになるか。」
結局、いつも通り深く考えるのをやめた。
「それより、私はトシキの家に居ても良いの?」
「いいよ、部屋空いてるし。アイギスなら母さんも良いって言いそう。」
笑いながら言った。
実際、トシキは一人っ子で、部屋も空いている。トシキの母親は女の子が欲しかった、って言ってるぐらいだから大丈夫だろう、と適当に思っていた。
が、予想通り簡単に許可がとれ、あっさりアイギスはトシキの家の居候となった。
「今日から自分家だからくつろぎなよ。」
「うん、わかった。」
アイギスはそう言って、トシキのベッドに倒れ込んだ。
「…部屋はさすがに一緒じゃないよ?」
念のため釘をさしておいた。
「わかってるよ!」
上半身を起こして言った。
起きた時に長い髪が綺麗になびいた。
「ただ、一度明るい場所でこうやって寝てみたかっただけ。」
またゴロンと寝転がって、窓から見える空を眺めた。窓から見た空は、障害物が何もなく、青い空に白い雲がちらほら浮かんでるのが一面に広がっていた。
それを見て、アイギスは、わぁ、と声をもらした。
「結構いいでしょ。何気に気に入ってるんだ。」
アイギスの様子を見てたトシキが笑いながら言った。
窓から見える空を見ているアイギスの顔を見てたら自分まで嬉しくなった。
「私はこれから先、絶対にトシキだけは裏切らないから!」
笑顔でトシキに言った。
トシキといると心が温かくなり、安心できる。居場所のないアイギスに、安心できる居場所をくれた。そんなトシキを裏切らないと心に決めた。
「あぁ。よろしく。」
トシキが手を差しのべた。
アイギスはニコッと笑って手をとった。
・・・・・・・・・・・・・・・
魔法世界 洞窟
1つの部屋に2人の男がいる。
1人はヴァニタスで、傷を治療しながら椅子に座っている。
もう1人はマゼラン。
「…何故あの場所にいた?お前は“アレ”の起動実験に立ち会う事になっていたはずだが?」
マゼランは、手元の手帳を見ながら言った。
「…アイギスの様子がおかしかったから、念のため後をつけていったんだよ。そしたら案の定裏切りやがった。」
治療が終わり立ち上がった。
「確かに、アイギスは我々から結果的に去っていった。だが、お前が尾行しなければ、あんな形になることはなかったんじゃないのか?」
マゼランの言う通り、アイギスはトシキと戦い、答えを見つけた時点で、組織を抜けることの許可を得るため一度戻る予定だった。
だが、ヴァニタスが突入してきたため、アイギスの予定は崩れ、裏切る形になってしまった。
「…」
ヴァニタスは正論に黙ってしまった。
「まぁ、いい。アイギスの穴は厳しいが、我々の計画に狂いはない。多少の誤差も計算のうちだ。」
フッと笑ってマゼランが言った。
「へへっ…誤差かよ」
ヴァニタスが苦笑いした。
「あぁ、誤差だ。“人員”も“アレ”も順調に整ってきている。今のままならもうすぐ、計画の一段階を実行できる。計画のためにもこれ以上人員を失うわけにはいかない。ヴァニタス、お前が重要なんだぞ?」
また手元の手帳に目を移して言った。
「…へいへい、わかってるよ。」
マゼランに背を向け、部屋から出ていった。
「あんたもな。」
扉をバタンと閉めた後に呟いた。