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落ちていく神殿

「まだ終わらないのか!!」


今日も神官長の怒声が神殿中に響き渡る。


「こんな量終わるわけないじゃない!」


それに負けず聖女も大声で騒ぐ。


「今までは終わっていただろう!!どうして急に出来ないんだ!!それに今までよりもずっと質が低い!!先方はお怒りだ!!」


バァン!!

そう言って神官は力任せに机を叩く。


「あったまおかしいんじゃないの!?」


1人の聖女がそう叫ぶ。


「こんな量終わるわけないでしょ!!なんでルミナを追放するの賛成しちゃったのよ!!今まで全部あいつがやってたのよ!!あんたも気づいてたでしょ!!」


「そんなの知らん!!全部お前らが持ってきてたじゃないか!だからお前らがやったと思うのは、当たり前だ!!それに自分たちでやったって言ってただろ!!」


「あんたも気づいてたくせに!!人にばっかり責任押し付けないで!!」


「そうよ!平民虐めるのが楽しくて気づいてたけど注意しなかったのはあんたでしょ!」


「知らん知らん知らん!!!お前ら良くも騙したな!!」


神殿中に罵声が響き渡る。これが最近では日常茶飯事だった。


「もういい!いいから仕事をしろ。いいか!必ず今日中には終わらせろ!!」


神官長は焦っていた。最近、いやルミナに嫌がらせをするようになったあの日から、騎士団ではこの神殿の武具やポーションの評判が良かった。


何度も命を助けられたから、そう言って騎士団は普通よりも少しだけ高く買い取ってくれていたのだ。


そして彼はその差額をごっそり自分の懐に入れていた。


量が多いからそれはかなりの金額となる。もちろん金遣いも荒くなった。


何度も娼館に通い、ギャンブルにもハマった。どうせまた大量の金が入る、そう思って借金だってした。


(なのに、なのに…)


ルミナがいなくなってから量も質も減った。これでは高く買取るなんてできない。そう騎士団に言われた。


最近では借金取りが家の近所をうろついてる。


もう、あとが無かった。


「さっさとやれ!!このうすのろが!!」


いつものようにそう叫ぶと、ある聖女が叫んだ。


「もう無理!!こんなとこ辞めてやる!!私違う神殿に行くわ!!」


そう言って武具を投げ出し、立ち上がった。彼女はミーシャだった。


「それが許されると思っているのか?」


ゆらり、神官長がミーシャの後ろに立った。


「ルミナの手柄を奪う行為を一番最初にしたのはお前だ。全てお前が原因なんだ。諸悪の根源のお前が逃げ出すのが許されると思っているのか?あ?」


鉛筆で塗りつぶしたみたいに、その目には光がなかった。ミーシャは思わず悲鳴をあげる。


「きゃあ!!気持ち悪い!!近づかないで!何をしようがあたしの勝手じゃない!!何度も言うけど責任転嫁しないで!全部あんたが悪いんでしょ!ルミナの追放に同意したから…」


彼女が顔あげると、眼前に迫る拳


「ひっ…」


声にならない声をあげた後、ドゴッと鈍い音がして彼女は吹っ飛んだ。


「きゃあ!!」


周りの聖女が悲鳴を上げる。

急いでミーシャに駆け寄ると、彼女は完全に意識を失っていた。


「この人でなし!!なんてことするの。パパにいいつけてやるわ!!」

「最っ低!!私たちは貴族よ!手を上げて許されると思ってるの!?」

「あぁ、可哀想なミーシャ今治してあげるからね」


皆口々に文句を言った。1人の聖女がミーシャの顔に手をかざすとミーシャの顔は元通りとなった。


「っうるさい!うるさい!うるさい!!!!てめえら同じ目に遭いたくなかったらさっさと働け!!」


「ひっ」


その剣幕を見て思わず息を飲んだ。目は血走り、つり上がって、顔は真っ赤に上気してる。そして瞳はクレヨンで塗りつぶしたように真っ黒だった。


悪魔のようだった。


逆らうことなんて出来なかった。


「いいか、勝手に外出することは禁止する!!」


聖女は自分の判断で家には帰れない。神殿に住み込んでいるのだ。月のうち1回ある三連休にのみ帰省が許されていた。


しかしその時間も、本来ある筈の週2回の休日も、全部無くなっていた。寝る間もなくポーション作りと、武具に加護をかけさせられる日々。


量は満足のいく物になったが、如何せん質が低かった。これでは高く買い取って貰えない。そうすると借金が返せない。神官長は焦った。


「なんでこんなに質が低いんだ!!この無能どもめ!!」


神官長が叫ぶ。でも誰も言い返すものはいなかった


「ごめんなさい、頑張りますからぶたないで。」


聖女たちは常に恐怖に身を怯えさせていた。

聖女は思う。


(あの平民は、ルミナは。こんなに辛い思いをしてたのね。ごめんなさい。)


因果応報だと思った。自分たちがルミナにしてきたことがそのまま還ってきてるのだ。


聖女たちが自分の行いを後悔し始めたある日、神殿に騎士団が押し入ってきた。


「ここの神官長に横領及び、婦女暴行の嫌疑がかけられている!!同行願おうか!」


騎士はそう叫んだ。そして聖女たちを見ると言葉を失った。

貴族の令嬢だろうに、髪はボロボロで肌は荒れ、目の下には大きなクマを作っていた。


「っ早く神官長を捕らえろ!!聖女の保護もだ!!」


「俺は、俺は何もしてない!!悪いはあいつらだ!!」


捕まったあと神官長は狂ったようにそう叫んでいたという。重ねて多重債務を負っていた彼は労働奴隷となった。


「どうして、どうして俺が!!」


神官長が反省することはいつまでもなかったと言う。


そして聖女はと言うと、保護されたあとそれぞれ家に帰された。そして皆口々に自分の罪を吐露した。

自分はルミナの手柄を奪っていた、と。そして泣きながら謝った。


身も心もボロボロの彼女たちをみてそれ以上責められるものはいなかった。もう十分に報復は受けている。


神官長の横領など表沙汰にできることではなかったため、あまり広がらなかったが、ルミナの名誉は1部の騎士団で回復したという。


そして元気を取り戻した聖女たちは、神官長が変わり真っ当になった神殿で貴賎関係なく癒しの力を与え、とても評判の良い聖女となった。


「若い頃、私たちは間違えました。私達はいつか彼女に謝れる日を夢見ています。彼女は今どこで何をしているのでしょうか。願わくば、彼女の未来に幸多からんことを。」


どうしてそんなに清いのか、という質問にここの聖女は必ずと言っていいほどこう返す。そしていつからか彼女たちは


「償いの聖女」


とそう呼ばれるようになった。

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