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いざ、婚約破棄!!

私たちが会場に入ると、ぼわっとざわめきが広がる。


婚約者であるイザレア様ではなく、悪評高い聖女を己が色に染め上げ、仲睦まじげに入場する王太子。


「あの噂は、本当だったのか…」

「イザレア様は大丈夫だろうか」

「これで、殿下は廃嫡か…?」


色んな声が飛び交った。私たちはそれに気付かないふりをして前へ進んだ。


私にとっては最初で最後のパーティーだ。どうせなら楽しもう、アルバート様はそう言った。


王宮の美味しい食事を食べ、美しい音楽に乗って踊る。なんだか自分には場違いな感じがして、恥ずかしかったけどアルバート様とだったから気がついたら楽しんでいた。


この国に最後、いい思い出ができた。


そう思った。


そしてパーティーも終盤に差し掛かった頃アルバート様私の手をぎゅっと握り


「そろそろ、だ」


そう呟いた。緊張からか私たちの手は酷く冷たかったのにどちらのものとも分からない汗が常に間にあった。


さっきまで壁の花になっていたイザレア様が飲み物を取りに会場の中心まで歩き出す


「今だ」


心臓がどうしようもなくバクバクした。

アルバート様が緊張したように浅くはっと息を吸うと


「イザレア!お前との婚約は破棄する!よくも俺の可愛い聖女をいじめてくれたな!!」


と会場に響き渡る大声でそう叫んだ。繋いでる手は可哀想なくらい震えている。


すっとイザレア様は冷めた目をこちらに向けると


「私は、そんなことしていませんわ」


落ち着いた声でそう言いきった。動揺した様子は一切ない。


「っほんとよ!私この女に虐められたの!!アルバート様ぁ、私怖かったですぅ」


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいと心の中で謝りながら、最大限バカっぽく見えるよう間延びした口調でそう叫んだ。


こちらに注視する人の視線がどんどん多くなる。

ひぃ〜と叫びたい気分だった。


「私が、いつ、そんなことをしたというのですか?そんなことする必要なんてありませんわ」


努めて冷静にイザレア様が、私にそう問いかける。それに対して私はひっと大袈裟に怯え、アルバート様の後ろに隠れた。


「アルバート様ぁ、今あの女が私を睨みつけました。うぅ怖いですぅ」


プルプルと小刻みに震え、目にキラキラと涙をためた。


「イザレア!醜いぞ!!俺の愛を得られなかったからといってルミナをいじめるなど!!こんなに脅えてるでは無いか!!」


アルバート様の背中に引っ付いてるから彼の緊張が直に伝わる。背中は強ばり、体も触らないと分からないほどではあるがずっと震えている。


がんばれアルバート様


「アルバート様ぁ、ありがとうございますぅ。私、怖くて」


そう言って私はポロポロと涙を零した。えぇ、本当に怖いです。今この状況が。


するとどこからか爽やかな声が響いた。


「一体どういうことだい?」


すると人混みの中からすっと第2王子であるケイン様が出てきた。


「まさか、兄さんがここまで馬鹿なことをするとは思わなかったよ」


落胆したような、少し悲しそうな声でそう言った。


「くだらないこととはなんだ!ルミナがイザレアに虐められたんだぞ!!」


アルバート様が噛み付くように叫ぶ。するとケイン様はすっと視線を冷たくして


「イザレア様が?そんなことする訳ないじゃないか。彼女は品行方正だし、いつも兄さんを支えてきた。それをこんな形で裏切るなんて僕は兄さんを軽蔑するよ。」


ケイン様は凍えてしまいそうなほど冷たい声でそう言った。するとすっと視線を私に向け


「君名前は?」


感情のこもらない瞳でそう聞いてきた。


「っルミナです」


視線で射殺されるかと思った。


「そう、ルミナ嬢。では聞かせてくれるかな?イザレア様が一体いつ君を虐めたのか」


き、来た…ここを間違えたらいけない


「えっとあれは確か、1か月前魔法学の授業があった日の放課後。急に呼び出されて

あなた殿下と馴れ馴れしいのよ!このクソ女が!殿下に近づかないで!!

って殴られました。

それに度々私のノートや教科書が無くなって、近くにはイザレア様のイニシャルが入ったハンカチが…」


もちろん全部嘘だ。1か月前、魔法学があった日はイザレア様は朝から王妃教育で登校すらしてなかったし、イニシャルが入ったハンカチも当然私のお手製だ。公爵家の令嬢が使うにはどう考えたって布の質が悪すぎるし刺繍も下手くそ。


するとケイン様はゴミでも見るよな目つきで私を見たあと、イザレア様の方を向き


「そう言ってるけど、本当?何をしていたか覚えてる?」


そう優しく問いかけた。

イザレア様は真っ直ぐに私を見つめると


「その日は朝から王妃教育でしたわ。それに私、クソ女だなんてそんな汚い言葉使いません。」


「そ、そんな!私は確かに言われたわ!それに証拠のハンカチだって!」


イザレア様の言葉に私がそう食ってかかると


「それ、見せてくれる?」


ケイン様がそう冷たく手を伸ばした。私は待ってました、とばかりにそのハンカチをケイン様に渡す。


「これです!!」


ケイン様はそれを冷たい瞳で見回した後、


「これ、イザレア様のじゃないね」


と一言冷たく言い放った。


「そんな!!」


大袈裟に落ち込む。


「な!!嘘はやめろ!!」


アルバート様も、便乗してくれた。


「うそじゃないよ、公爵令嬢がこんな質の悪いハンカチを持つわけないし、刺繍も下手くそだ。一体誰が作ったんだろうね?」


そう私を睨みつける。王家迫力半端ない。思わず腰が抜けそうになった。するとアルバート様がさりげなく私を庇うように前に立ち


「そんなはずはない!!イザレアは醜くも嫉妬しルミナを虐めたんだ!!」


そう叫んだ。するとイザレア様ははぁ、と溜息をつき


「なんで私がそこの聖女をいじめなくてはなりませんの?」


アルバート様を睨みつけた。


「そ、それはお前がルミナに嫉妬して」


「だから、それはなぜですの?」


「なぜって…それはお前が俺を」


アルバート様がそう言うと、それを遮るように


「私は殿下のことこれっぽっちも好きじゃありませんわ」


ピシャリと言いきった


「な、なんだと?」


アルバート様がショックを受けたようによろける。


「どうして私が殿下のことを好きだと勘違いなされたんでしょう。才能もなく、努力もしない。すぐ人にあたる殿下なんて好きになるわけが無いのに。だから私があなたの大好きなルミナ嬢をいじめるなんて有り得ませんわ。だって必要がないもの」


するとアルバート様が本当にショックを受けたような顔をした。私はアルバート様の手をぎゅっと握り心の中で大丈夫ですよ。と念じた。


それが伝わったか伝わってないか分からないけど、アルバート様は少し落ち着きを取り戻し、またバカの振りを始めた。


「〜〜なんでもいい!お前との婚約は破棄だ!」


アルバート様がそう叫ぶと、イザレア様はゾッとするほど美しい笑みを浮かべて


「喜んでお受け致します」


そう言った。その瞬間、会場のドアがばっと開かれた。会場中にざわめきが大きく広がる。


「何をしているんだこの馬鹿者!!!」


国王陛下の声が会場中に響き渡った。


「へ、陛下!」


アルバート様が情けない声を出す。


国王陛下はズカズカと歩き、私たちの元まで到着した。そこで一言


「話は聞いている!!アルバートを廃嫡し、そこのルミナとかという聖女と共に国外追放に処す!!」


「そんな!!!」


ありがとうございます!!そう叫びたいのを押し込めて悲痛そうな声を上げた。


「陛下、考え直してください!」


アルバート様が、そう縋り付く。

いや、考え直さないでね。


「うるさい、この戯けが!!お前なんぞ余の息子ではないわ!!衛兵、この者共を外にある馬車に乗せ、国境に捨ててこい!!」


陛下がそう叫んだ。


イザレア様もケイン様も少し驚いた顔をしている。


「こんなはずじゃなかったのに、なんでどうして」


大袈裟に項垂れてそう呟く。

いや、完璧予定通りだけどね、演技は最後まで気を抜かない。


なんで、どうして!どうか!


私たちはそう叫びながら会場の外に引きずられて行った。



そして馬車の中


「どうしてこうなったのよ!!全部あなたのせいよ!!絶対上手くいくって言ったじゃない!!」


「なんだって!君が嘘なんて着くから行けないんだろ!」


「嘘なんてついてないわ!!ひどい!どうしてそんなこと言うの」


「それはもういい!君のせいで俺は全て失った!どうしてくれるんだ!!」


「私のせいじゃないわ!!あなたのせいでしょ!!」


私たちは醜く言い争いをしていた。まだ御者がいるのだ。気は抜けない。ただあちらからはこっちが見えないのでこんな言い争いをしてるのに2人とも満面の笑みだ。


こんなに上手くいくとは思わなかった。王太子を国外追放なんてそうそう起きることじゃない。アルバート様は監禁されて私は奴隷のように働かせられるかもしれないと危惧していた。


その場合の脱出方法も考えていたけどそっちはかなり危ない橋だった。下手したら命を落としかねない。


あぁ、本当に良かった。


これ以上言い争いをしてたらなんだか笑い出してしまいそうで


「もういい!私もう寝る!!」


「勝手にしろ!!」


そう叫んでお互いに黙った。しばらく見つめあってたが、黙ってると本当に眠くなってきてしまって気がついたら眠りに落ちていた。



ガタン、という馬車の振動で目が覚めた。うう、腰が痛い。


「着いたぞ」


ばんっと乱暴に御者がドアを開けた。

よろける足で外に降りるとそこは国境なんて見えない森の中だった。


「ここは…?」


思わずそう呟く。


「俺らの国の国境の傍で下ろすわけないだろ。それに隣国の街まで行くには遠すぎる。俺らの国境からは遠く離れた森の中とだけ言っておくよ」


「そうか」


アルバート様がそう呟いた。

御者は私たちが降りたのを確認するとすぐさま馬車にのりこみ


「ほらよ」


と何やら大きい袋を投げてきた。


「陛下がさすがに身一つで投げ出すのは可哀想だと言ってな、着替えと何日か分の食料、寝袋が入ってる。せいぜい長生きしろよ。それとこのまま道を真っ直ぐ進めばいつかは街に着くだろう。まぁ、それまでお前らが生きられたら、の話だが。」


「恩に着る。」

「ありがとうございます。」


私たちは頭を下げた。


「ふんっ」


御者は大袈裟に鼻息を鳴らすと来た道を颯爽と引き返していった。



御者が見えなくなってしばらくした頃


「…やりましたね!!!」

「あぁ!!」


私たちはガッツポーズをした。


「大変だったな」

「大変でしたね」


「これからも大変だろうな」

「きっと、そうですね」


「でもアルバート様と一緒ならきっと大丈夫です」

「俺も君と一緒ならなんだってできる気がする」


「そうですか?なら私たち最強ですね」

「そうだな」


アルバート様が幸せそうに笑った。


「私たち、平民になるんですよね?新しい名前考えましょう!」


「そうだな、それに言葉遣いも何とかしないと。2人で旅してるのに敬語なんて変に思われる」


「確かに…じゃあ、アルって呼んでもいいですか?じゃなくて、いい?」


「ぁ、ああ」


そういうとアルバート様の耳が真っ赤に染った。釣られて私までほっぺが熱くなる。


「すみません、急に馴れ馴れしすぎましたよね」


急上昇した体温をパタパタと冷ます。


「い、いや。是非アルと呼んでくれ。それに、敬語もいらない。俺もミナと、そう呼んでいいか?」


「もちろんです!!」


2人して顔が真っ赤だ。


「愛称で呼ばれたのなんて、初めてだ」


アルが嬉しそうにそう零す。


「これからも、たっくさん呼びますからね!!」


「あぁ、よろしく頼む。ミナ」


新たな愛称が決まり、新しい道を歩き出した私たちの足取りはいつになく軽かった。


この先、大変なことも多いだろうけど彼とならきっと大丈夫。そう思えた。


「ミナ、敬語」


「あ、」


2人で顔を見合せて笑う。私たちはどこまでも幸せだった。

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