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計画


「それで、君と話していくうちに人に優しいのに自分のことには無頓着な君から目が離せなくなっていた。

君に出会って初めて、俺は生まれてきても良かったんだ、って思えたんだよ。俺は君をどうしようもなく愛してる。君から離れるなんて考えられないんだ。」


アルバート様が時に涙を流しながら今までの人生を語ってくれた。

今までのアルバート様を思うと胸が苦しくて泣きそうになった。つい、堪えきれなくなってアルバート様に抱きつく


「私、アルバート様に出会えて本当に幸せです。生まれてきてくれてありがとうってもっと早く小さい頃のアルバート様に言ってあげたいです。アルバート様、私も大好きです。」


こんな人を、1人になんて出来なかった。


「私、神殿での生活も、アルバート様がいなかったら耐えられなかった。私が辛い時、支えてくれた。苦しい時気づいてそばにいてくれた。そんな、優しいアルバート様が私、大好きなんです。」


「ありがとう、ありがとう。」


私の腕の中でアルバート様は、小さな子供みたいに震えて泣いていた。







「ーー落ち着きました?」


「あぁ、ありがとう。」


ずずっと鼻を啜ってアルバート様が恥ずかしそうにそう答える。


「ふふっ、前と立場が反対ですね」


なんだかおかしくて笑ってしまった。


「確かに、そうだな」


アルバート様も可笑しそうに笑う。


「君に、俺の作戦を聞いて欲しいんだ」


一変、神妙な面持ちでそう話し始める。


「名付けて、バカ王子婚約破棄大作戦だ。」


思わず半目になってしまったのは仕方ないことだろう。

ネーミングセンスが無さすぎる。


私が遠い目をしてるのに気づいたのか、アルバート様が慌て出す。


「ちょっと待ってくれ、呆れないで聞いてくれ」


「いいですよ」


必死なアルバート様が、可愛くてつい笑ってしまった。するとアルバート様は耳を真っ赤にして話し出した


「今巷で婚約破棄からの悪役令嬢大逆転みたいな話が流行っているんだ。

端的に言うと馬鹿な王子が優秀な婚約者がいるのにも関わらず真実の愛を見つけたとか言って難癖つけて婚約破棄する話だ。」


「はい」


「それで、だいたいヒーローが現れて、悪役令嬢にされた人を助け、2人はめでたく付き合い王子と浮気相手は国外追放されるんだ。物語だとそいつらは後々悲惨な目にあうんだが、俺は君と一緒ならどこだって幸せだ。こんな国にももういたくないし、、どうだろうか?」


「そう、ですね。私もアルバート様と一緒にいられるならなんだっていいです。うちの神殿くそですし。国外いけるなら最高ですね」


上手くいくかなんて、わからない。でもこれにかけるしか無かった。



それから私たちの戦いが始まった。


今までも私は無能扱いされていたけど、間違ってもそれが覆らないようあえて無能扱いされるように仕向けた。


自分に割り振られた仕事はちゃんとこなす。でもそれを自分で持っていかない。

あえて、目を離す時間を作るのだ。すると不思議なことにほかの聖女が勝手に提出してくれるのだ。それも自分がしたことにして。

今までだったら悔しくて抗議のひとつでも言いに行ったし、何より自分がした仕事から目を離すなんてことしなかった。


でも無能だと思われたい今では都合がいいことしか無かった。

そしていつしか神官長は私に侮蔑を込めた目線を送ってくるだけになり、話すことは無くなった。

その代わり食事の用意とか、お給金とかも無くなったけど。完全に私を居ないものとして扱っている。


ただ、嫌がらせとして始まりすっかり定着していた大量の責務だけは無くならなかった。誰がやっていようが大量に作られるポーションやら武具やらは都合が良かったのだろう。


そして、学園では…人目に付くところでアルバート様とイチャイチャした。


あ、アルバート様のお弁当をあーん、してもらうとか…顔から火が出るほど恥ずかしかったけど何とかやりきった。

偉いぞ私。


そんなことをしていると、いつしか


アルバート殿下は無能で性格の悪い聖女に首ったけ、王太子ではなくなる日も近いのではないか


という噂が広がり始めた。

狙い通りだ。それにアルバート様といちゃいちゃしたからって虐められたりとかは特になかった。


公衆の面前でいちゃいちゃしてる私たちを汚いものでも見る目で見つめるだけ。それに、これを機にアルバート様を失墜させてしまいたい、という思惑が強いのか諌める声もほとんどなかった。


「なんだか、上手くいきすぎて怖いですね」


「あぁ、俺もびっくりしている」


婚約破棄予定の王家主催のパーティーまで残り1週間。私たちは少し緊張していた。


王太子殿下は此度のパーティーで婚約破棄をしようとしてるらしい。とまことしやかな噂まで飛び交うようになった。


いつ見たっていざレア様の背筋はピンと伸びて、まっすぐ前を見つめていた。




そして、当日。


「よく、似合っている」


アルバート様が頬を染め、溶けてしまいそうな笑顔でそう褒めてくれた。


「ありがとうございます。アルバート様も、とってもかっこいいです」


私もそう返す。鏡を見なくてもわかる。私のほっぺは真っ赤だろう。


私は今日アルバート様から贈られたいかにもアルバート様です!って色のドレスに身を纏っている。


金を基調とした美しい布地に水色に近い青のレースを付け、袖口も艶やかな青で綺麗に刺繍されている。


身につけている宝石も青と金しかなくて、アルバート様1色だ。


それにアルバート様も、私の髪の毛の色であるストロベリーブロンドのタイをつけ、耳には私の瞳の色である翠色の宝石をつけている。


バカップル丸出しだ。


「長かった俺たちの戦いも今日で決着が着く、どんな結果になっても君だけは絶対に守る」


アルバート様が覚悟を決めた顔でそう言う。


「いいえ、アルバート様。私絶対可愛く守られてなんてやりませんから。絶対に2人で幸せになりましょう」


でも私は可愛らしくありがとうございますなんて言ってあげなかった。私がこれからなろうとしてるのはざまあされる勘違いヒロイン。そんな可愛げのある存在じゃない。


私は強欲だから2人での幸せじゃないと絶対に許さない。


アルバート様はそんな私を愛おしそうに見つめると


「ありがとう」


と笑い


「じゃあ、入場だ」


そう言って私の手を取った。


私たちの最後の戦いだ。

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