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突然無能王子に婚約破棄されました

「イザレア!お前との婚約は破棄する!よくも俺の可愛い聖女をいじめてくれたな!!」


突然、婚約者が会場に響き渡る大声でそう叫んだ。


いついかなる時も、冷静に。

少し驚いたが、私はその矜恃を忘れないよう小さく深呼吸した。そして彼に視線をすっと向け


「私は、そんなことしていませんわ」


落ち着いた声でそう言いきった。まさかここまで馬鹿だとは思わなかった。


「っほんとよ!私この女に虐められたの!!アルバート様ぁ、私怖かったですぅ」


隣にいる頭の悪そうな女が私を見て、プルプルと庇護欲を煽るように震えながらそう叫ぶ。

彼女は気づかないのかしら、自分に向けられてる視線がどれだけ冷たいのかを。


今日、このバカそうな女を連れてきた時から嫌な予感はしていた。普通パーティーでは婚約者をエスコートするものなのに、殿下はこの女に自分の色を纏わせ入場し、ファーストダンスもこの女と踊った。

平民出身のこの聖女にまともなダンスが踊れる訳もなく、見ていて酷いものだった。2人だけは幸せそうだったが。


「私が、いつ、そんなことをしたというのですか?そんなことする必要なんてありませんわ」


思考を戻し聖女にそう問いかける。すると彼女は大袈裟にひっと身をすくめ殿下の後ろに隠れた。


「アルバート様ぁ、今あの女が私を睨みつけました。うぅ怖いですぅ」


その体はプルプルと小刻みに震え、目にはキラキラと涙が溜まっている。


まあ、確かにその姿は庇護欲を煽るし可愛いだろう。

ストロベリーブロンドの髪の毛はまるで小動物の毛のように柔らかそうだし、翠色の瞳は丸々でまつ毛も嫌味なくらいに長い。透き通るような白い肌も形の良い小さな鼻も、桃色に染った可愛らしい頬も。全てが可愛らしい。

でも、ただそれだけだ。


「イザレア!醜いぞ!!俺の愛を得られなかったからといってルミナをいじめるなど!!こんなに脅えてるでは無いか!!」


そんな彼女を冷めた目で見ていると殿下がそう叫んだ。何を言っているんだ、こいつは。そう思った。私があなたに嫉妬?そんなことあるわけないのに。


「アルバート様ぁ、ありがとうございますぅ。私、怖くて」


そう言って彼女はポロポロと涙を零した。どこまでも自分の魅せ方を知っているようだ。あぁ、めんどくさい。そう思っていると


どこからか爽やかな声が響いた。


「一体どういうことだい?」


聞き慣れた、優しい声。第2王子のケイン様だった。沸き立つ心を抑え、けれど嬉しくて思わず口元が緩みそうになった。


「まさか、兄さんがここまで馬鹿なことをするとは思わなかったよ」


ケイン様は落胆したような、少し悲しそうな声でそう言った。


「馬鹿なこととはなんだ!ルミナがイザレアに虐められたんだぞ!!」


殿下が噛み付くように叫ぶ。するとケイン様はすっと視線を冷たくして


「イザレア様が?そんなことする訳ないじゃないか。彼女は品行方正だし、いつも兄さんを支えてきた。それをこんな形で裏切るなんて僕は兄さんを軽蔑するよ。」


凍えてしまいそうなほど冷たい声でそう言った。でも私は胸躍るほど嬉しかった。


わかってくれる人がいる。これ程心強いものはなかった。


「君名前は?」


感情のこもらない瞳でそう聖女に問う。


「っルミナです」


「そう、ルミナ嬢。では聞かせてくれるかな?イザレア様が一体いつ君を虐めたのか」


「えっとあれは確か、1か月前魔法学の授業があった日の放課後。急に呼び出されて

あなた殿下と馴れ馴れしいのよ!このクソ女が!殿下に近づかないで!!

って殴られました。

それに度々私のノートや教科書が無くなって、近くにはイザレア様のイニシャルが入ったハンカチが…」


それには私も半眼になるしかなかった。嘘をつくにも程度というものがある。こんなバレバレな嘘をついて何になるというのか。

周りも呆れた目線を送っている。というのに愚かな2人だけは何故か自信満々だ。


するとケイン様は私の方を向き


「そう言ってるけど、本当?何をしていたか覚えてる?」


そう優しく問いかけてくれた。

私は真っ直ぐに彼女を見つめた。


「その日は朝から王妃教育でしたわ。それに私、クソ女だなんてそんな汚い言葉使いません。」


そう単に事実を伝えただけだと言うのに彼女は


「そ、そんな!私は確かに言われたわ!それに証拠のハンカチだって!」


慌てたようにさらに言い募った。すると


「それ、見せてくれる?」


ケイン様がそう冷たく手を彼女に伸ばした。彼女は待ってました、とばかりにそのハンカチをケイン様に渡す。何を勘違いしてるんだか。彼女私とは別の世界住んでるのかしら。


「これです!!」


ケイン様はそれを冷たい瞳で見回した後、


「これ、イザレア様のじゃないね」


と冷たく言い放った。


「そんな!!」


彼女はそう悲痛な声を上げ、殿下は


「な!!嘘はやめろ!!」


と叫んだ。ほんと、お似合いな2人だ。心がどんどん冷めていくのを感じる。長年の婚約者としての情も完全に消えた。


「嘘じゃないよ、公爵令嬢がこんな質の悪いハンカチを持つわけないし、刺繍も下手くそだ。一体誰が作ったんだろうね?」


ケイン様がそう言って聖女を睨みつける。すると


「そんなはずはない!!イザレアは醜くも嫉妬しルミナを虐めたんだ!!」


殿下が叫んだ。思わずはぁ、とため息が出た。


「なんで私がそこの聖女をいじめなくてはなりませんの?」


本音が漏れる。


「そ、それはお前がルミナに嫉妬して」


「だから、それはなぜですの?」


「なぜって…それはお前が俺を」


馬鹿なことを言おうとしてたから、彼の言葉を遮るように


「何を勘違いなさってるのか分かりませんが、私は殿下のことこれっぽっちも好きじゃありませんわ」


と、ピシャリと言いきった。ほんと、ばっかじゃないの?


「な、なんだと?」


殿下がショックを受けたようによろける。


「どうして私が殿下のことを好きだと勘違いなされたんでしょう。才能もなく、努力もしない。すぐ人にあたる殿下なんて好きになるわけが無いのに。だから私があなたの大好きなルミナ嬢をいじめるなんて有り得ませんわ。だって必要がないもの」


何を思って私に好かれてると思ったのか理解が出来なかった。


殿下は昔から無能だった。王族だったら当たり前のように使える魔法が全く使えない。だと言うのにまともに訓練にも参加しない。私がそれを注意すると


生意気な女だ


そう言って睨みつけてくる。そんな男をどうして好きになれるというのか。


「〜〜なんでもいい!お前との婚約は破棄だ!」


殿下がそう叫ぶので、私はあえて美しい笑みを意識して


「喜んでお受け致します」


そう答えた。馬鹿な男。私との婚約がなければ王太子になることも出来ないと言うのに。


そしてその瞬間、会場のドアがばっと開かれた。会場中にざわめきが大きく広がる。


「何をしているんだこの馬鹿者!!!」


国王陛下の声が会場中に響き渡った。


「へ、陛下!」


殿下が情けない声を出す。


国王陛下はズカズカと歩き、私たちの元まで到着した。そこで一言


「話は聞いている!!アルバートを廃嫡し、そこのルミナとかという聖女と共に国外追放に処す!!」


「そんな!!!」


聖女がそう叫ぶ。いい気味だ。私は彼女に忠告したはずだ。殿下の愛人に収まりたいのであればもう少し行動を慎めと。

だか、それに腹が立ったのだろう。その日から二人の行動はさらに過激になった。人目もはばからずイチャイチャしていた。

周りから冷めた目線を向けられているのにも気が付かずに。


「陛下、考え直してください!」


殿下が、いやもう殿下でもないのか。アルバートがそう縋り付く。

しかし陛下は取り付く島もなく


「うるさい、この戯けが!!お前なんぞ余の息子ではないわ!!衛兵、この者共を外にある馬車に乗せ、国境に捨ててこい!!」


そう叫んだ。


これには少し驚いた。まさかこのまま国外追放だとは。思わずケイン様と顔を見合わせる。


「こんなはずじゃなかったのに、なんでどうして」


聖女は項垂れてそうぶつぶつと呟く。

自業自得、因果応報だ。

それにこの聖女は評判が悪い。自分が無能だからほかの聖女に仕事を押付け、あまつさえ人がやった仕事をさも自分がやったかのように言うらしい。これでは神殿も彼女を守らないだろう。


本当に、お似合いな二人だこと。


なんで、どうして!どうか!


彼女たちはそう叫びながら会場の外に引きずられて行った。




2人を見送ったあと、ケイン様が急に私の前に膝まづき私の手を取った。


「け、ケイン様??」


急な出来事に思わず声が裏がえる。憧れのケイン様にこんなことをされ頬に熱がこもるのを感じた。


「傷心のところ付け入るようで申し訳ないが、聞いて欲しい。

僕は兄さんに冷たくされながらも懸命に王妃教育を受け、必死に兄さんを支えてきた君にいつの間にか惚れてしまった。

僕は絶対に君を幸せにすると誓う。だからどうか、僕の婚約者になってくれませんか?」


誰もが惚れてしまうような美しい顔のケイン様が、蕩けるような瞳でそう言ってくる。


「あ、あの。私も、実はずっとお慕いしておりました。こ、こんな私でよければ」


恥ずかしくて、嬉しくて、触れなくても顔が熱いのが分かってしまった。

消え入るような声でそう答えると、ケイン様はパッと顔を輝かせ


「本当かい!ありがとう!絶対に大切にする」


そう言って太陽のように笑った。




婚約者に無下に扱われても健気に頑張ってきた令嬢と、それを陰ながら見ていた第2王子とのラブロマンス。それは巷で人気だった物語にそっくりだったのもあり大体的に広まりいつしか2人は理想のカップルと言われるようになった。




ーーーえ、その後2人がどうなったかって?そんなの知らないわ。

御者によると2人は馬車でも責任を押し付けあって罵りあっていたらしいけど、そんなの私には関係ない。


だって私の隣にはずっと大好きだったケイン様がいるんですもの。そんな醜い人達に構ってる暇はないの。ふふ、私、殿下が婚約破棄してくれたおかげでとっても幸せよ。

そこだけは感謝してるの。



そしてふたりはいつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。


















ーーーーところで皆さん、ざまあされた聖女と王子。彼らがどうしてこんなことをしたのか、はたまた国外追放されたあとはどうしたのか、気になりませんか?


明らかにバレバレの嘘にアホすぎる態度。彼らは本当にそこまで馬鹿だったのでしょうか?そういうものだとは思っても皆さん1度は気になったことがあるでしょう。


今回はそんな彼と彼女のお話。



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