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父が護る意味と原因

1000PV達成!

ありがとうございます。不定期ですが、ちゃんと更新しますよ。

 学園が長期休暇でないにも関わらず姉が帰ってきた。しかし、その顔は浮かない。何かを気にするように辺りをチラチラとみては、息を吐いている。


「圧倒的不審者だ」

「ぴぃ!?」


 思わず口から出た言葉に姉さんは変な悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。心拍が上がってしまったのか胸に手を当てて、お外でしちゃいけない顔をしている。

 それにしてもこの母といい姉といい豊満だ。姉に至ってはまだ十歳程度だ。それで膨らみがわかるというのも、将来有望だ。旦那になるやつが羨ましい。


『流石に今のは女神として叱っておきますね』


 おっと俺の中には女神がいて、思考も読まれてしまうんだった。そういえば女神も顔は見えなかったがなかなか素晴らしい身体をしていたな。異世界すげぇ。同僚の巨乳好きにこの事実を教えたらきっと血涙を流すだろうこと間違いない。あと鼻血も。


『⋯⋯こほん』


 わざとらしい咳払いの女神を放っておいて、姉さんに声をかけながら手を出す。まずは廊下でへたり込むのをやめさせなければならない。


「大丈夫?」

「驚かさないで」

「ごめんごめん。あまりに不審な動きだったから、心のお漏らしが。それで?」

「実はね」


 理由を聞くとなんとまぁ。という感想が漏れた。

 どうやら、学園で優秀な姉は実技では群を抜いて上位成績らしい。それを妬んだ他の貴族に嫌がらせをされていて、監視されていたり、物が隠されたりと色々あるらしい。その中で一番困っているのが誰かに監視され、あとを尾けられているという事。それが嫌で今回は一時的に逃げてきたようだった。


「父さんと母さんは?」

「相談したのだけれど『え、倒せば?』ってしか」

「脳筋夫婦め! ま、でも一番確実なのは結局それなのよね」

「でも、生徒会に入りたいから頑張っているだけで、誰かを傷付けたいわけではないの」


 言いたいことはわかるが、結局それは相手をつけ上がらせるだけだ。姉さんは優しいけど、それが仇になる事もある。


「姉さん、一つ魔法を覚えない?」

「え? 魔法?」

「うん。風属性魔法で、風読みっていう魔法なんだけど、知ってる?」

「ええ、知ってはいるけど、それって⋯⋯」


 そう、風読みとは読んで字の如く風の流れを読むだけの弓使いなどが主に使う魔法で、日常生活では使うことなんて基本はない。けれど、今回に限っては有用かもしれない魔法だったりもする。


「相手がどこにいるのかわからないなら、風を読んで流れで場所を把握すればいい。人間なんてそこにいるだけで風を乱す存在でしかないんだし、ある意味では無属性魔法の探知に似た性能があるんだ」

「本当にウィルは魔法のこととなると凄い」


 後日学園に戻った姉からの手紙で監視されていても気にならなくなった。むしろ、場所を特定していたらいつのまにかなくなったとの報告があった。

 そして両親には普通倒す選択肢はないと口酸っぱく伝える仕事を果たした俺だった。


 ⭐︎


 姉の帰省から約二週間経ったある日のことだった。


「飽きた」


 砂浜で水魔法の練習をし始めて小一時間。唐突に飽きてしまってそのまま砂浜に寝そべった。

 波打ち際では兄が黙々と剣を振り、海水を斬ろうとしている。それを眺めながらただただ兄が海水を斬れないように邪魔をするだけの簡単な練習だ。

 というかどこに七歳の子供が剣で海を斬るというのだろうか。魔法使った方が早い。


「ウィルは魔法でできる?」


 父の言葉に無言で指を鳴らすと、十五メートルくらい先まで海が割れた。そして割れた部分に向かって一気に波が落ちていき、高波が襲いかかるが、三角錐にしたシールドで波がを逃して被害をなくす。それだけで父は溜息を吐き、首を振った。

 やれというからやったのに一体何がダメだというのか。


「できてるけどそうじゃない。剣で斬れるかってことだよ?」

「無理。というかなんで父さんそんな脳筋なの?」

「いや、これにはちゃんと理由があってね」

「どーせ剣圧で離れた敵を斬るとかいうんでしょ? それこそ魔法でいい。魔法が使えないなら逃げる」

「逃げられない場合だってあるよ?」

「そうだね。でも逃げられない状況で剣圧で敵を斬るってさ、できる?」


 そもそも逃げられない状況であれば相手は自分より強い場合が想定される。だったら最初から対峙するべきではない。


「慣れないと難しいかな。あ、ちょうどいい、あそこにソードシャークが⋯⋯あれ?」

「さっき一緒にやった。ソードシャークって食べれるの?」

「え、いや、食べられない事はないけど、あんまり美味しくないかなぁ。なんというか、こう、臭い?」

「そっかぁ。あれは売れるの?」

「売れなくはない。けど、ソードシャークの名前たる所以のあの長細い剣みたいな鼻って死んじゃうと柔らかくなるんだ。しかも切れ味が恐ろしく悪い。僕は常々、レイピアシャークに名前を変えた方がいいと思ってるんだ」


 多分父はアホだ。それも仕方がないだろう。何せ脳味噌も筋肉でできているのだから。

 しかし、海の魔物を初めてみたが、こう、なんというか、全体的にカジキマグロっぽい見た目をしてる。カジキマグロの子供と言われたら納得しそうだ。


「ウィル! お前すげぇな!」

「あれ、兄さんもうやめたの?」

「流石に疲れたよ。それにしてもウィルは本当に魔法の才能があるんだな! 羨ましいぜ!」

「いやいや、兄さんも剣の才能あるでしょ。俺は俺。兄さんは兄さんの持ち味でいいんじゃないかな。でも、少しは魔法練習しようよ」

「えー、だって、魔法って詠唱がどうとか魔力がどうとか難しいじゃん」


 脳筋の息子は脳筋だ。まったく。


「兄さん、身体強化は?」

「ああ、使えるな。こう、ぐっとしてギュンって」


 兄の口から吐き出された擬音に目を剥くと、父はにこやかに言う。


「カイン、そうじゃないよ。力を入れるんじゃなくて、集めるんだ。それで、踏み込む時に解放するんだ」

「集めるのか、じゃあ、ぐぅ〜っとして、ダン!」


 何故父が理解できるのか不明だが、兄は父のアドバイス通りに身体強化を発動させると今まで以上の剣速を出し、海を斬った。長さは一メールとに満たないくらいだろうが、確かに、七歳児が海を斬ってしまった。


「バケモンかよ⋯⋯」

「カインはやっぱり剣の才能があるね。ウィルは魔法。うん、僕は嬉しいよ」


 嬉しそうに言ってはいるが異常だ。七歳の子供が海を斬るなんてあり得ない。才能云々の問題じゃない。だとすると、こいつは女神のせいではなかろうか?


『確かに、貴方が死なないように良き血統を選びましたが、これは想定の範囲を超えていますね。げに恐ろしきは、その才能と相性です』


 想定外かよ。まぁでも神も全能ではない。万能ではあるが、全知でもなければ全能でもないと言ったところか。


「ねえ、父さん」

「うん、ウィルも気がついた?」

「おー? ウィル! なんだあれ!?」


 砂浜から見える水平線。その中に黒い線が海から出ている。ただそれだけならいいが、本能が危険を察知している。嫌な汗が止まらない。

 対して父は涼しい顔をして剣を握っている。


 ──いや、待て。なんで父さんは剣を構えている?


 そうだ。握っているだけではない、視線を線から逸らさずに剣を正眼に構えている。しかもなんだか魔力が剣に集まっているように見える。


「カイン、あれはね、この海にいる魔物だよ。僕とミリアがこの村を護る意味はあれにあるんだ」

「え、でもただの黒い線じゃないの?」

「うん、ここからはそう見えるけど、考えてみてごらん。あんな遠くにいるのにはっきり線だと解るなんておかしいと思わない?」

「確かに! え、じゃあもしかしてヤバい?」


 ヤバいどころの騒ぎじゃない。どれだけ大きいのか想像できないくらいにあの魔物はでかい。あんなのが近づいてきたら、海辺の村なんて一撃で波に飲まれてしまう。


「ウィル、魔法は十全に使える?」

「⋯⋯使える。ちっ、クソがっ!」


 目に魔力を集めて遠くの線を見ると、それは紛れもない龍だった。西洋のそれではなく、紛れもなく東洋の龍。ソイツと目が合った瞬間、全力で父と兄の前にシールドを斜めにして展開。展開した直後には音を置き去りにした一筋の光がシールドに当たって方向を空へと変えた。


『まさか何故あれがこんなところに⋯⋯? 気を付けてください、あれは原初の魔物』

「⋯⋯っざっけんな」

「ウィル! まさかあの距離から攻撃してくるとは思わなかった。仕方がない、斬るよ」


 焦った表情の父を差し置いて俺は一歩前へ出た。


「ウィル?」

「おい、バカ! ウィル!」


 逸らして理解した。アイツは、遊んでいる。今のも全力じゃない。ただ息をするかのように自然に放たれた戯れの一撃だ。


「⋯⋯野郎、舐めやがって」


 戦うのは嫌いだ。命を賭けるのも嫌いだ。けれど、目が合ったから理解した。アイツは、遊んでいるんだ。遊びで、ここを消し飛ばそうとした。それがなんだか無性に腹が立った。


「父さん、アイツの弱点は? 父さんがここでアイツからの被害を食い止めるために、ここにいるんだよね?」

「⋯⋯うん。何年かに一回、ああして海上に顔を出しては今みたいな一撃で村を、国を危険に晒すんだよ。まさかとは思うけど、ウィルはあれを倒すなんて言わないよね? 流石に死ぬよ」

「そうだね。死ぬね。それはもう確実に。弱点は?」

「⋯⋯ないよ。というか流石に僕でも知らないよ」


 たしかに弱点があれば父は倒してしまうだろう。けれどそれができないのであれば、原初と言うだけあって相当な力を持っているのだろう。けれどやるしかない。


『原初の魔物、水龍。いいですか、原初の魔物は龍であり、属性の最上位の化身です。あれは最上位の水の化身です。純水の龍です』


 純水か。であれば雷属性は通らない。純粋は絶縁でもある。ならば不純物をぶち込んでやればいい。


「⋯⋯はっ、上等だクソが」


 足を肩幅に開き、収納魔法でしまっていた一本の杖を取り出す。見た目はどっからどうみても杖術用の杖。しかし、これはセリアからもらった立派な魔法杖だ。しかも魔力伝導の効率が恐ろしく高い魔石をふんだんに使った逸品。使う事はないと思っていたが、まさか使う日がこんなに早くくるとは思わなんだ。


「⋯⋯父さん、ごめんね」

「ウィル⋯⋯?」

「父さんがここを護る意味がなくなるかも。そしたら、頑張って爵位あげてね」

「え、ちょっと、それって──」


 父の言葉の最中に海水を魔法で集める。総量約二百リットル。そこから海水の温度を上げて水だけを蒸発させる。そうすると残るのは塩。六キロ強の塩を大身槍にするとこれからやる馬鹿げた一発勝負が始まる。


「ご丁寧に観察してやがるなぁ⋯⋯。予想通りじゃねぇの。強いってなぁ慢心を生むよなぁ!」


 無属性魔法テレキネスで浮かせた塩の槍を遥か遠くにいる水龍へと照準を定める。


「⋯⋯射殺せ、大身槍」


 塩の槍を射出した。槍の通ったあとはその威力から海が凹んでいく。穂先には空気抵抗を受けないように風魔法で保護。槍はその速度からの石突き部分に発生する負圧によって風を吸い込み更に加速する。音速は超えない。けれど水龍の前で音速を超えたそれは唐突に弾けた。

 空気抵抗を受けない風魔法を解除した直後にはその風圧に耐え切れずに塩の槍は散弾銃の弾へと姿を変える。散弾と化した塩の槍は水龍の体内へと入り込み、溶ける。

 音速で塩の塊をぶち込まれた水龍は突然の出来事に一瞬だけ身体を静止させる。それが絶対の隙であり、生物としての反応。


「──サンダーボルト!」


 水龍へと向かって天から一条の光が落ちる。遅れてやってくるのは轟音と衝撃波。更に遅れて巨大な津波が押し寄せてくるが、瞬時に理解をした父はその津波に向かって横凪に剣を振るった。津波の半分程度を水平に斬り裂く剣圧と超広範囲に発動したシールドが津波の一切を受け止める。


『水龍を、倒した⋯⋯? いえ、まさか、原初の魔物を初級魔法で打ち倒すなんてあり得ませんが⋯⋯』


 女神の呆然とした言葉が頭に響くが、今は構っている暇はない。何故なら完全に魔力切れで砂浜にぶっ倒れた。意識はもう一秒たりとも繋ぎ止める事はできない。


「ざまぁ」


 それだけ呟いて意識を手放した。

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