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セリア・フォーマルハウトと収納魔法

閲覧ありがとうございます

 目が覚めると赤い天蓋が見えた。知らない天井だ、とはならなかったのが幸いだ。使い古された表現を危なくする所だったな。なんてくだらない事を思いながらも身体を起こす。

 窓の外からは夕陽が差していて少しだけ暑かった。


「起きたね」

「⋯⋯仕留め損ねた」


 隣から声がかけられて振り向くとそこには先程とは変わって瞳の色と同じ赤いドレスを着た女性が椅子に座り本を本を読んでいた。


「驚いたよ。その歳であそこまで魔法を使いこなした上に状況判断もいい。戦略もしっかりあって、最後に油断したあたしに一泡吹かせたのもいい。けど、自分諸共っていうのはいただけないかな? 怪我は?」

「⋯⋯回復してくれてありがとうございます」


 ちょっとだけ拗ねる。ここまで完膚なきまでに負けたんだ。反論も何もない。おまけに回復されたのがわかるくらいに体力も回復している。魔力切れで意識を失ったのが悔しい。


「全力出せた?」

「⋯⋯まぁ、それなりには」

「課題は?」

「魔力量と魔法の種類。あとは魔法しか使わなかった」

「うんうん。いいね。あたしはセリア・フォーマルハウト。キミは?」

「ウィルフィード・レオニス。レオニス家の次男です」

「さて、ウィルフィード。あたしの弟子にならないか?」

「遠慮します」


 突然の勧誘をさも当然かのように断ると震えながら本を落としていた。


「な、なんで!? ねぇ! あたしこれでも強い方だよ!?」

「そうですね」

「セリア・フォーマルハウト本人だよ!」?」


 セリア・フォーマルハウト。魔法を扱うものであればその名を知らぬものはいない。世界唯一の神級魔法使い。つまりは最強だ。


「ええ、そうでしょうね。まさか母さんの知り合いだとは思いませんでしたが」

「何がダメなの!? これでも世界中から弟子にしてくれって問い合わせが世界一多いんだよ!?」


 なんだか必死の様子に少し笑いながら言おう。


「その格好、子供には毒ですよ?」


 ワンピースタイプのドレスではあるが、胸元はざっくりと開いていて豊満な胸が半分以上見えている。足元の太腿の際どいところまでスリットが入っていて、大きく動けば下着が見えるだろう。そんな魅力の詰まった肢体は通常の五歳児であっても刺激が強い。ましてやこちとら中身はおっさんだ。身体は反応しないが中身は昂ってしまう。


「⋯⋯変態」


 途端にしおらしく頬を染めて胸を腕で隠すが遅い。バッチリしっかり心のシャッターを押している。


「さて、それでセリアさんは母さんとどんな関係で?」

「ん? 一緒のパーティだったの。純粋な魔法使いじゃなくて魔法拳闘士だけど」

「けんとうし⋯⋯。歴史じゃないな。格闘系ですか」

「そう! ちなみにこんな事もできる」


 言いながら当然のように無詠唱で拳に氷を纏った。それは見るからに籠手だった。成る程そうゆう使い方もあるのか。


「魔力を込める量で硬さが決まるんですかね? それとも威力?」

「最初に硬さががくるあたりで才能あるよ? だから弟子に⋯⋯」

「いやですよ。修行しなきゃいけないですよね? 働きたくないし、疲れる事は嫌いです」


 本当に戦うというのは苦手ださっきは尋常じゃない気配に思わず身体が動いてしまったが、一人であればまず間違いなく逃げた。逃げられたかどうかは別として真っ先に逃げ出した。結局のところ、何かあったらケツまくって逃げるような人間なのだ。修行だなんだと戦いに身を投じる趣味はない。


「えーだったらキミはどうしたら弟子になってくれるの?」

「俺は楽して暮らしたいの。そのために魔法を使うんだったらいいけど、別に強くなろうと思って魔法を使うわけじゃないし」

「枯れてるなぁ。だったらキミに稼げる手段を教えてあげるよ?」

「ダンジョンに潜って魔物の素材集めるとかなら却下。危険が危ないからいかない」

「違う違う! さっき地魔法で彫像作ってたでしょ? あんな精緻なもの普通は無理。だから、それで魔物を作って売るんだ。世界にはいろんな愛好家やコレクターがいる。キミの彫像は、間違いなく愛好家やコレクターに売れるよ! 試しにそうだね、一体作ってみない?」


 セリアの言葉が悪魔の囁きに聞こえるが、少しの魔力で儲けが出るならばやってみる価値はある。ただし販路がない。それはもしかしたらセリアがコネで売ってくれるかもしれない。


「俺は魔物を知らない。知ってるとすれば動物くらいだよ」

「お! いいね! じゃあ犬とか猫とか作れる?」

「⋯⋯いや、普通の動物はやめよう」

「どうして?」

「ありふれてる」


 こんな面白い事をするのであれば普通の動物なんて勿体無い。だが魔物を直接見なければならないリスクはある。けどそのリスクはどれ程ある? セリアに守ってもらいながら魔物を観察して彫像にする。セリアの魔法も見れるし、金も稼げる。いい事ではないか?


「ちょちょちょ! 目が腐ってるよ! どうしたの?」

「⋯⋯放っておけ。それよりアンタこそ口調が随分違うじゃないか」

「あたしはこっちが素なの。ただ戦闘とかはやっぱり気持ちを切り替えないといけないから少しだけ性格変わるけど」


 少しじゃねぇよ。あんな戦闘狂の笑顔なんぞ二度と見たくはない。けれど言っている事は理解できる。セリアはきっと優しいのだろう。勿論戦闘が好きという側面もないわけではないだろうが、あまり傷つけることを好んでいないように思う。勿論俺の勝手な感想だ。


「それでさ、どうかな? あたしはキミが稼ぐのに協力する。キミはあたしの弟子になる。辛い修行は一切なし! 楽しく面白おかしく魔法を覚えるの!」

「例えば?」

「この籠手! なんであたしがこんな魔法にしたと思う?」

「暑いから」

「いいね! 正解だよ! ある時砂の国に行ったんだけど暑くてさ。そこで思いついたの!」


 豊満な胸を張るもんだからゆさっとした。もうその動きは暴力だ。けれどまぁある意味ではセリアは魔法を生活を豊かにするために使っているのだろう。そうでなければこの夕陽差す部屋が心地いいわけがない。いやまぁセリアがやってなければ自分で室温を下げはしたが。


「それより一つ聞いても?」

「あたしに答えられる範囲ならね?」

「アンタいくつだ? 母さんとパーティ組んでたっていう割には若くて綺麗だと思うんだ」

「嬉しい事言ってくれるね! さっきの変態発言は許してあげるよ。あたしはエルフなの。これでも年齢は六十を超えて──てぇい!」


 言葉の途中で表情にでたのだろう。頭に手刀が降ってきた。それを甘んじて受け入れた上で言おう! 声高に!


「若作り──いってぇ!」

「ぶっ飛ばすよ!?」

「もう手ぇ出てんだろうがよ!」

「まったく、失礼しちゃうなぁ。それで取引はどうなの?」

「母さんに相談する。俺は貴族のクソ面倒臭いお披露目パーティに連れられてここに来たからしばらくしたら帰るし」

「弟子になるならついていくし、近場で魔物の討伐見せてあげるよ? 素材は別に必要ないし、全部あげる」

「⋯⋯なんだってそこまでしてくれんだ?」

「楽しかったから。勿論手は抜いてたけど、それでもキミと戦うのが楽しかった。こんな気持ち初めてだよ? まさかこれが恋!?」

「違うから。まぁいいや。いつまでも寝てても仕方ない」


 ベッドから出て足を着く。そのまま立ち上がった所で違和感に気が付いた。

 普段と違い身体が軽い。魔力も充実している。なんとも言えない爽快感だ。


「キミさぁ、なんだって自分に魔法なんてかけてたの?」

「ん?」

「魔力抑制、乱魔、グラビティ」

「⋯⋯あ」


 思い出した。あれは一歳くらいの時に分霊に聞いたんだ。どうやったら魔法の鍛練になるのかと。ヤツは言った。


『魔力抑制で十全な魔力を使えないようにして、乱魔で魔力制御を乱します。ついでにグラビティで少しだけ身体を重くすれば魔法も肉体も鍛錬できますねぇ!』


 今思えばあれは分霊じゃない。本体だ。分霊はどちらかと言うともう少し無機質だ。まあどっちも好ましいからいいが、女神本体は案外茶目っ気に溢れるアホだ。


「あのさー、その状態であたしとやり合ってるんだからキミってば異常だよ? そんでさぁ⋯⋯今はどんだけ強いのかな?」


 途端に獰猛な笑みを浮かべるセリアの胸をビンタすると彼女は羞恥心から平常に戻った。いやまぁ勿論引っ叩かれたんだが、それとは相殺して有り余る幸せが右手に感覚として残っている。


「今ならできるか⋯⋯?」


 その場で目を瞑りイメージする。だだっ広い何もない空間。ただそこには荷物を入れると箱が勝手に出てきて整理整頓が苦手な俺を楽にしてくれる空間。


「⋯⋯イケる!」


 イメージが固まった瞬間に確かに魔法が発動した感覚があった。魔力がほとんど持っていかれて身体は怠くて、変な汗が出る。今にも深く寝落ちしてしまいそうな感覚ではあるが成功した。目標の一つである収納魔法の発動。

 喜ぶのも束の間で力の入らない身体は段々と前に倒れていく。


「あ、もうむり⋯⋯」


 その言葉を最後に心配そうに顔を覗き込んでいたセリアの胸へと倒れ込み意識を失った。


 ⭐︎


 意識を失った身体を咄嗟に支えると酷く魔力を消耗しているのを理解した。そっと抱っこをして、玉のように浮かんだ汗を拭う。


「何を発動したか知らないけど、この歳でこの魔力は異常だよね。起きてる時は腐った目をしてるのに、寝顔は本当に子供だね」


 なんとなく頬を突くと眉間に皺を寄せながら身じろぎをして逃げようとするのを落とさないようにしながらもう一度布団へと寝かせる。今の魔力の使い方だとミリア達には感じ取れただろう事は予想が着く。


「どうやって誤魔化そうかな」


 そしてふと止まる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「まぁ、細かい事はいっか」


 なんて言っていると大きな音を立ててドアが開いた。そこにはミリア夫婦となんとか辺境伯とその娘が息を切らせている。

 だからあたしは言う。稀代の魔法使いを起こさぬように。


「ちょっと、そんなに乱暴にドア開けたらウィルフィードが起きちゃうよ。静かにね」


 みんなハッとしてバツが悪そうになるのを可笑しく感じながら立ち上がって、ミリアの前に立つ。


「ミリア、この子あたしの弟子にしたい」


 そして外堀から埋める作戦に出るのだった。

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