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怒られた

 魔国の姫、ウィスタリア様と教国へと転移した俺はその惨状に顔を顰める。隣でもきっと同じような表情をしているのだろう、無言の圧がかかる。


「また随分と酷い事を」

「ははっ! やっぱり来たか! ボク様が勇者アルベイン! お前達邪教の信徒を根絶やしにしろと女神様からの命だ!」


 何やら言っている青年を無視して、そばで倒れているヒナを見つけた。血溜まりの中で真っ赤に染り倒れている彼女を見て、落ち着いていた気持ちが一気に沸騰したのを理解したことで気がつく。


 ──魔力が暴走しない。


 冷静に怒りながらも魔力の流れを確認するが一切の滞りなく、しかし竜の魔力と混じり合った俺の魔力は万能感さえ与えてくれる。


「貴様のような子供まで戦場に向かわせるとは、愚かなり邪教め!」


 盾を持った大柄な男が言うがどうでもいい。まずはヒナの救助が先だと一歩を踏み出す。ただ、それだけでいい。距離にして十数メートルを一瞬で縮めたのは転移でもなんでもない。師であるセリア・フォーマルハウトの動きを真似ただけだ。やろうとしても出来なかった。それが今になってハマった。


「ヒナ、遅くなったな」


 そっと抱き上げて俺は紡ぐ。


「極光の果て、躍れ。精霊の祝福を、今ここに。汝、埋葬に能わず──完全回復(パーフェクトヒール)


 詠唱破棄などしない。完全詠唱による回復魔法の極致。膨大な魔力と引き換えに、傷を癒す。けれど、流れた血は戻らない。ある意味では賭けだ。意識が戻ればどうにでも出来る。傷は塞いだが出血量が多すぎる。声をかけてみるが反応はない。だが、折れてはいられない。


「──ごめんな」


 ヒナを抱えたまま立ち上がり、ウィスタリア様へとヒナを託す。何も言わずとも伝わったのだろう。優しく微笑みを返してくれた。それだけで十分だった。


「終わった? 一応感動の再会は邪魔しないようにしたんだけどさ」

「ああ、お陰様でな。まだ死んでないし、どうにかするさ。で、お前が勇者アルベインだったか?」

「そう! ボク様達が勇者パーティ。女神の命により、邪教は滅ぼすよ」


 きっとそれが開戦の合図だった。後ろに控えていた魔法使いの女が魔法を発動するが、それよりも速く懐に飛び込み顔面を思い切り殴り、振り抜く。技も何もあったものではない、ただの暴力。


「エミーシア! 今回復を──がっ!?」


 次に動いたヒーラーと思わしき女の胸に肘鉄を入れて胸骨を粉砕。血反吐を吐きながら吹き飛んでいく女を無視して、今度は盾を持った大男を睨む。


「うおおおお!」


 盾を前に突進してはくるがセリアに比べたら遅すぎた男の勢いを利用して合気を使って投げ、倒れた男の頭を蹴り飛ばす。頑丈だったが故に聖堂の壁を突き破り気を失った男を一瞥して勇者を見る。

 僅か数秒の出来事に口を開けたまま固まっている勇者へと一歩近づく。それに気圧されたのか一歩下がった勇者は、己の怯えに気が付いたのか剣を構えたかと思うと大上段での一撃を振るうがやはり遅い。これならジークの一撃の方が鋭く速い。


「バカな!?」

「⋯⋯遅い」


 そっと触れるように剣の横っ腹に手のひらを当てた。ただそれだけで、軌道を変えて地面に突き刺さる。


「馬鹿な! ボク様がなんでこんな邪教の! しかもガキなんかに!」

「あ? それは、テメェが⋯⋯」


 一歩間合いを詰めると自称勇者は一歩後退する。本能的には勝てないと理解しているのだろう。だが、それでもこいつらを野放しのする事はできない。


「く、くそぉぉぉぉ!」


 勢いに任せた大上段の大振りを剣身に裏拳を入れる事でパリィして身体が開く。一歩踏み出し、右の掌底を自称勇者の腹に軽く当てる。

 軽く息を入れると同時に相手は吹き飛び瓦礫へと突っ込んでいった。


「⋯⋯こんな技師匠に見られたら怒られるな」


 未完成にも程遠いただの掌底。師匠から言わせたら発動が遅く隙もある。そして魔力の動きを見られたら対策されるだろう一撃はまだまだ改良の余地がある。


「っと、まだ生きてんのか。内臓ぐちゃぐちゃで立てないと思うけど」


 案の定息はあるが口から血を吐き、呼吸も弱い。放っておけば内臓の損傷で死ぬだろう。


『やれやれ、勇者の称号があるから使えるかと思ったが⋯⋯存外使えないものだな』

「あん?」


 虚空から聞こえる言葉に首を傾げると首筋に嫌な気配がして一歩下がる。


『ほぅ、あれを避けるか。貴様人間か?』

「人間やめた覚えはねぇよ。ああ、そこだね」


 右側、丁度先程盾を持った男が開けた壁の方に魔力の塊を放つと一人の男が姿を見せる。身長は高く百九十くらいはあるだろうか。額からは二本の黒い角のようなものが生えている。肌は浅黒く、筋肉質で、上裸の大剣というシンプルな出立。


「貴様、何故魔国の将軍がここに!」

「何故って、平和ボケか? ここでお前が死んだら外交問題だな? そしたらこっちは大手を振って人間共を皆殺しにできるじゃねーか! 馬鹿か?」


 目の前の男は魔国の将軍で、口ぶりからするとウィスタリア様の暗殺と見ていいだろうけれども⋯⋯。


「えーと、コイツはぶっ飛ばしていいんですか?」

「あぁん!? まぁテメェだったらオレ様を殴るくらいはできそうだな」


 あ、コイツ脳筋だ! 兄さんと同じ匂いがするよ!


「できれば穏便に済ませたいんだけど、取り敢えず要件聞いても?」

「そこの平和ボケしたお姫様の暗殺だよ。帝国から勇者と組めって指示あったから様子見してたけど勇者が聞いて呆れるぜ。雑魚じゃねぇか」


 それには全面的に同意する。勇者の称号があるからと思ったらとんだ肩透かしだ。


「けどガキ! テメェは強いな。見てわかる。けど才能がねぇ」

「あーやっぱりわかる?」

「おう。オレ様は強い奴が好きだ。戦いが好きだ。けど才能に胡座をかいているゴミは嫌いだ。才能はないが努力を重ねて強さを持ってる奴は人間だろうがなんだろうが敬意を払う。さっきは不意打ちしちまったが、勇者がボコされてんのになんもしねぇのも筋は通らない。理解はできっか?」

「わかるよ。で、その上で聞きたいんだけどいい?」

「おう。オレ様に答えられる事ならな」

「どうやったらアンタらは引いてくれる?」


 正直皇国の人達が心配だ。ヒナの容体も気になる。だから条件さえわかればそれに目掛けるだけで楽なんだが、コイツは引き際をどう考えているのだろうか。


「別に引いてもいいぜ? ただ、そうだな、これでもオレ様は魔国の将軍だ。一応、戦闘にゃ自信がある。そこでだ、さっきの不意打ちの詫びとして一撃受けてやる。皮一枚でも傷つけることができたら引いてやるが⋯⋯どうだ? 乗るか?」

「嘘はないか?」

「ないな。さっきも言ったが強いやつは好きだ。ましてやガキのテメェがどこまでできるのか興味がある。正直オレ様は戦いができればどっちについても構わない。ま、より面白そうな方につくが」

「一撃、受けてくれるんだよな?」

「おう、いいぜ!」


 言いながら大剣を床へと刺すと腕を組んで俺を睥睨してくれている。ならば単純に一撃を入れてやろうじゃないか。


「準備しても?」

「いいぜ! 最高の一撃を撃てよ!」


 魔国の将軍が笑うが、ウィスタリア様は青い顔をしている。


「辞めるなら今のうちに」

「だそうだぜ?」

「お前に言っているのよ。あれの準備をさせた一撃を許可した時点で負け」

「はぁ? 平和ボケも大概にしろや!」


 そんなやりとりを見つつ、俺は気にせず準備をしていく。


「圧縮圧縮ぅ〜魔力を圧縮ぅ〜」

「ウィルフィード」

「魔族って硬いかな? 頑丈かな? でも自信あるんだからいいよね?」


 言いながらどんどん魔力を圧縮していく。魔力は圧縮限界に到達すると【極点】という現象を起こす。それ以上は小さくならず、光を飲み込む。通常では魔力というのは流れて動いているのだが【極点】となった魔力は静止しているかのように見えるが、実際は物凄い速さで回転している。速すぎて止まっているように見えてしまう。


「ま、こんなもんでいいか」

「ウィルフィード! この辺り全てを灰燼にするつもりかしら!?」

「え?」

「大体なんですのそれは!?」

「極点ですけど」

「見ればわかりますわよ! そんな神話級の一撃なんて世界が崩壊しますわ!」


 そんな馬鹿な! 鍛錬のたびにばかすか食らってたんだそんなわけない!


「⋯⋯はぁ、いいですのウィルフィード。普通、人間は極点を受けたら死にますの。魔族ですら塵も残さず消滅しますわ。ましてやそれが地面になど当たってみなさい⋯⋯世界が壊れます」

「⋯⋯え?」


 俺の記憶には師匠(バカ)が笑顔で量産していた。


『ウィィィルゥゥ! 楽しいなぁぁぁぁぁ!』

『楽しくねぇよクソボケがぁぁぁぁぁぁぁ!』


 そして俺は必死でそれの直撃をいなしていた。勿論全て空へ向かって逸らしていただけにすぎないが。



「えぇ⋯⋯?」

「とにかく! それはおやめなさい。この子も消えますわよ?」

「⋯⋯はい」


 ちょっと残念ではあるが極点を消して魔族を見ると腕を組んだ姿勢のまま激しく震えていた。


「お、おお、オレ様にかかれば、あん、あんな魔法など」

「ほんとに!?」

「いやすまん無理だ!」


 堂々と震えながら言った魔族の顔は青い。


「んで、この始末は?」

「問答無用で引こう! 帝国には勇者が暴走したとでも言っておく!」

「ふーん。敵対する?」

「するかバカがぁ! テメェは人間か!? 魔族より魔族じゃねーか!」


 酷い言われようだ。けれど、これで魔国での混乱が収まるならそれでもいい気はしてきた。


「さて、じゃあ⋯⋯ウィスタリア様に忠誠誓うか?」

「⋯⋯仕方ねぇ。流石のオレ様もまだ死にたくねーからな。ちなみにだがよ」

「うん?」

「⋯⋯テメェより強い奴はいるのか?」

「世界最強のセリア・フォーマルハウト」

「バカ言うな! あんな奴と比較すんんじゃねぇ! あれはバケモンだ!」

「⋯⋯の弟子が俺だよ?」

「師弟揃って狂ってんじゃねぇぞクソガァ!」


 魔族に怒られてしまう俺だった。

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