顔合わせと嫁達
さー書きますよ
魔国からの使者が来るからとリィリアとメイがグラスを引きずり、俺を迎えに来た。仕方がなく身支度を済ませて王城までをのんびりと歩く。
「ウィルフィード、あれはなんでしょうか?」
「ウィル、あれは?」
道すがら俺は両サイドからそう質問攻めにされていた。しんどいなぁとも思いながらもここ最近ずっと放置していた許嫁達を邪険にするわけにもいかず困っていると、なにやら哀れみを含んだ声のグラスに呼ばれた。急に俺から引き剥がされた二人は頬を膨らませているが、グラスはそれを無視すると決めたようだった。
「魔国へと行くのだろう? その時に頼みがあるんだが」
「ん? どうした急に」
「⋯⋯お前が魔国へ言っている間に師匠が、オレの特訓をするとか言い出してな」
「がんばれ」
「鬼か貴様は!?」
とは言ったものの、俺はこれから魔国から来る迎えに会わなければいけないんだ。セリアには構っていられない。となると必然的にグラスが相手をする必要があるんだが⋯⋯。
「良くて一割程度出せれば御の字か」
「貴様は⋯⋯」
拳を握り震えているが実際問題グラスじゃまだまだセリアに本気を出させるのは無理だ。その前にグラスが死んでしまう。
「っと、失礼」
横から飛び出してきた執事服の男性にぶつかりそうになり慌てて避ける。すると男性は怒鳴り散らして来るではないか。
「気を付けろ小僧! 前を見て歩けないのか!?」
などと飛び出してきた割に人のせいにするあたり、面倒なやつだ。
「あーはいはい。飛び出してきたのはそっちだろ? それは流石に違うでしょ」
「人間のガキごときが! 目上の者に対する態度を知らぬのか!?」
「目上って⋯⋯。見ず知らずの奴に目上もクソもないって。第一、いきなり怒鳴り散らして来る奴に礼儀を語られたくないんだけど?」
売り言葉に買い言葉。いきなり怒鳴られたもんだからついイラついてしまった。これはいけない。精神年齢が肉体に引っ張られている可能性がある。
「ウィルフィード、貴方の態度も大概です」
そうリィリアに嗜められて素直に謝る。確かに今のは俺も悪い。
「うい。すみませんでした。気をつけます」
「今更その謝罪になんの意味があると? 死して詫びろ、カスが!」
途端に集まる魔力を見て街中でぶっ放すような威力ではない事は確かだ。だから、一応忠告をしておこう。
「その魔法、完成させない方がいいよ」
「はっ! 怖くなったか? 死ね、それが非礼の代償だ!」
「──忠告はしたからな?」
魔法が完成する寸前だった。集められた魔力は霧散し、魔法の発動がキャンセルされた。
「ガルグ! 何をしているの!?」
「ひ、姫様!」
「わたくしは、貴方に何を命じましたか?」
「そ、それは──」
「城へ案内しろと命じたはずですが? 貴様は人族の子供相手になにを?」
「この無礼なガキ共がぶつかりそうに──」
「──黙りなさい。そのような戯言わたくし見抜けぬとでも? 急ぐあまり貴方が飛び出したのではないですか? 申し訳ありませんわ。この者の無礼はわたくしの責任です。代わってお詫びします」
頭を下げようとするのを慌てて止める。
この人に今頭を下げさせるのは下策だと直感が言っている。
「いえ、大丈夫です。その必要はありません。それよりも城へと行きたいようですが」
「そう、ですか。確かにわたくしははこの国の城へと向かっています。けれども詳しい道がわからず、困っていましたの。重ね重ね申し訳ありませんが案内はをお願いできないでしょうか?」
俺がすることに特になにも言わない三人には悪いと思うが、ちょっとした意趣返しのようなものを考えている。
「ええ、ではご案内します」
「ありがとうございます。ガルグ! 貴方は最後尾を歩き、不測の事態に備え、子供達を護衛しなさい!」
有無を言わさぬ威圧を放つ女性に慌てて俺達の背後へとまわるガルグという執事。見た目は人間のようだが、魔力の質が違う。恐らく魔国の迎えというのはこの二人のことだろう。
見た目は細くて可憐。薄氷色の髪は黒いドレスに映えていて、日本人の感覚にするとゴシックロリータな感じだ。だが、その可憐な見た目にはそぐわない双丘が自己主張をしている。
「それでは、ご案内します」
綺麗に礼をしてから俺達は歩き出す。
道ゆく人達は驚きの表情を一瞬浮かべるが、次の瞬間には笑顔になっている。それは俺達の後ろを歩くリィリアを見てのこと。きっと何も言わなくてもこの状況を察しているのだろう。
「あれはなんでしょうか?」
「あれは串焼きですね。今焼いているのは、アーマーボアの肉です」
「アーマーボア⋯⋯。あんなものを!?」
「意外と美味しいですよ。ですが、独特の風味を消すために香草を使用してますので苦手な方は苦手です」
「確かにアーマーボアは独特の臭みが⋯⋯。香草を使えば消えるのですね」
「いえ、消えるわけではありません。一つ食べてみますか?」
「──何事も挑戦」
お姫様の一言で俺は小走りに執事以外の人数分の串焼きを購入した。
何か言いたそうだったが、実際問題俺の小遣い程度では五本が限界だ。何か言いたそうな顔をした店主だったが、バレないようにウインク一つすると納得してくれたようだった。
買い食いなど行儀はよくないが、串焼きに満足してもらったのでよしとしよう。
色々と道中話をしながら城門の前に到着すると門兵は驚いた顔をしたが、俺を見てなにやら一瞬思案したものの、後ろのリィリアとメイに気がついて敬礼を一つ。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お入りください」
俺の傷を治療してくれた門兵だったが、すれ違いざま俺に目礼でもって挨拶してくれたのを返す。
門を潜り、少し長い階段を上がるといよいよ入城になるのだが、リィリアがいるからか何も言わずにスルーできた。
「綺麗なお城です。兵士達の士気も高く、気品がある。素晴らしい場所ですね」
「そうですよね。さて、案内はここまででよろしいですか?」
「当たり前だ。ここまでの案内感謝する。さっさと帰るがいい」
ガルグの言葉に肩をすくめて、出迎えの兵士に二人をお願いすると俺達は急いで応接室へと向かう。もちろん違うルートでだ。なんだかんだとこんな茶番に付き合ってくれる三人も十分イタズラ好きだったりするのだろう。
乱れた呼吸を整えて、イースさんが淹れた紅茶をで口内を湿らせる。テーブルにはお菓子が並んでいて、歓待の準備は万全だ。
今回は俺が魔国へと出向くわけだが、一応国を代表してということになる。陛下は今回のことは全て俺へと丸投げしているので怒られることもない──はずだ。
それにしても、他国の迎えといえども相手は魔族だ。イースさんは護衛も兼ねてはいるのだが、リィリアは俺の隣に座るのはいいとして、メイとグラスは部屋の隅にあるテーブルで優雅なティータイムと洒落込んでいる。一応部外者ではないとはいえ、いてもいいものかと思案していると部屋がノックされ、俺達は立ち上がり返事をする。
「どうぞ」
「──失礼致します。魔国から迎えの者を連れて参りました」
先に騎士が入室して一礼すると、後からは先ほどの可憐な魔族の女性が入室した。
「お初にお目に掛かります。魔国からやって参りました、ウィスタリア・ヴェルキュリアと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。ウィルフィード・レオニスと申します。先程ぶりですが、どうぞよろしくお願い致します」
俺の名乗りを聞いて顔をあげた彼女の驚いた顔と、怒りに燃えたガルグの顔だった。
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