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その後の始末と女神

勢いで書いたので、後々修正するかもです

 忘れ去られた兄はちょっと拗ねていたが、なんとか宥めて純粋に勝負を楽しもうと提案したらのってきた。流石脳筋だと笑おうとしたら、余程鬱憤が溜まっていたのだろう兄に俺は危うく負けそうになった。

 魔封じの腕輪は壊したため無論兄に全力で挑んだがやはり剣技が凄まじく、ファリエルさんと打ち合っていなかったら剣筋を読みきれなくなって負けていただろう。

 負けた兄は晴々しい顔をしていたが、試合内容に不満を持ったセリアとファリエルさんは俺を兄をそれぞれ鍛え直すと息巻いていた。

 ハプニングはあったものの、魔族が成り代わっていた騎士科の生徒三人は記憶が朧げで、体調も万全ではないからと休学を申し入れていた。勿論、国としてサポートはする姿勢を見せていた義父の姿に胸を撫で下ろした。

 リィリアもメイも無事ではあったが、無茶をした事で俺は叱られた。ヒナは泣きながら俺に抱きついて来て、一騒動があったのは記憶に新しい。

 そんなこんなで魔族襲撃から二ヶ月程経ったある日の事だった。


「ねえ、ウィル」

「ん?」

「ウィルの言うすろーらいふだっけ? あれって結局どうなったの?」


 久しぶりに秘密基地でのんびりしていた俺に不意にレティアがそんな事を宣った。


「ずっと忙しそうだけど、今日だって久しぶりのゆっくりする日だと思うんだけど」

「──言うなよ。まだまだ問題は山積みなんだ」

「例えば?」

「来週魔国に訪問する」

「あー、ヴィーナムも随分な面倒ごと押し付けたもんよね」

「まったくだ。んで、それから姿見せやしねぇ。恐らく魔国に行けば会えるだろうと考えてる。それから、ヒナのところにもいかないとな。社建立にあたっての話し合いとか諸々」

「大変だよねぇ」

「ああ。んで、レティア。一回本当に俺について来てくれないか?」

「そうしたいのは山々なんだけど」


 口籠るレティアを見ると、何やら思案顔で目を瞑っている。


「うん。分霊にもそろそろ実体をと思うんだけど、問題があってね」

「問題?」

「そう。しばらくの間は観測者としての引き継ぎしようかなって」


 引継ぎとは? 恐らくはそのままの意味ではあろうが、女神の引継ぎというのがピンとこない。


「研修って言えばいいのかな。教国に祀られてる女神がいるんだけどね、その女神を次期観測者にって言う話が出ていてね」

「クビか?」

「違うよ。観測者って言うのはあくまで世界を見ているだけなんだけど、他にも仕事があるの。他世界の神たちとの会合だったり、魂の受け入れだったり。それって本来アタシ一人の仕事じゃないんだけど、なんでかアタシ一人の仕事になっててさ。だからずーっと直談判してたんだけど、今回それがようやく叶いそうなの。多分ウィルがアタシと契約したことによって、他世界ではない新しい取り組みとして女神が世界を観るんだけど、観測者としてでもあり、実際現地で色々と実感するためかな。世界の様相を。で、こっからが本題。教国に祀られてる神もいきなりそんな事をしなきゃ行けないから研修が必要なの」


 と言うかそもそもの話としてだ、レティアは観測者で、ヴィーナムは邪神。違う世界の観測者だった女神で、観測していた世界の終わりに抗おうとしたけど、結果世界が終わって違う役職に着いた。そこまではいい。邪神も他にいるような発言を以前していたが、その邪神とはなんなんだろうか。

 邪神と言うだけで、元女神には代わりない。けど、邪神だから悪いは悪いと言うような事も言っていた気がする。


「それについてはボクから話そうか」

「あぁ、帰ってたのね」

「いや、今戻って来たところさ。ちょっと邪神の会合にね。それで、邪神とは何かだったね。邪神と呼ばれるのはただの役職で、この世界の神から見れば悪に分類されるってだけなのさ」


 なんて言いながら俺の隣に腰掛けて一息着いたヴィーナムは続ける。どこか憂をもった表情で。


「じゃあ、そもそもの悪とはなにか。この世界での善神を基準にして、割り振られているだけどさ。女神の権能なんかも持ち合わせているけど、ボクのいた世界では魔法に高い適性を持っていた人類が繁栄していたからこの世界でいう魔族を観ているだけにすぎないんだ。まあ、そこの職務放棄した奔放な女神は別として、観測が仕事ではなくて、魔族をより良い道に進んで貰うための導だと思って貰えばいいよ。縋る神というのは、その属性がなんであれ、どんな生物にも必要だからね。とはいえ、交戦的な輩が多いのも事実さ。邪神にも色々あってね。各世界の魔族のような連中を導く神が邪神さ」

「ほーん。でも善神の対義語って悪神だろ? 邪神は別じゃね?」

「そうだね。悪神はその名の通り悪神さ。悪さをするのさ。例えば、先日人族を襲った魔族。あれらはボクではなくて、過去に暴虐の限りを尽くそうとした魔王が崇拝されていて、結果信仰という力を得て神になった神のなり損ないさ。そんな連中が各世界には存在していてね。そいつらを駆逐するのが邪神の仕事でもあるのさ。で、差し当たってウィルフィード、キミにも関係する話だけれどね」


 そう前振りをしたヴィーナムは言った。


「この世界は他世界に狙われている。それは、真なる意味での邪神。他世界の観測者でありながら世界を滅ぼそうとした堕ちた神。壊れた神と言ってもいい。その壊れた神は己の世界を滅ぼすだけじゃ飽き足らず、この世界をも破壊しようとしている。その尖兵が勇者だ」


 勇者が世界を壊すとは?


「勇者というのはね、本来存在してはいけないのさ。強大な力と運命力を持ちながら、神の言いなりになるよう仕組まれた称号。勇者の役目は、邪神に唆されて他の女神を駆逐する害虫だよ。考えてもみるんだ。そこのレティアは観測者で、世界をずっと運営していたんだ。より良い世界というのはね、解釈は様々だけれど、自己進化、自己繁栄をしていく世界だと創造神は語っている。だからこそレティアは観測者なんだよ。見るだけで良かった。無論他の世界でもレティアのように人に紛れる神もいる。契約なんて酔狂なことをするやつはいなかったんだけどね。話はそれたけれど、ウィルフィードこの世界に転生した時から干渉は始まっている。その神はレティアを排除して、世界を滅ぼしにかかるよ。ボクが邪神の会合に出た理由と、レティアが研修をしなければいけない神は、創造神からの直接の依頼さ。創造神は直接手を下せない。それは世界を壊してしまうからね。創造神は数多ある世界で観測者だった女神が人と関わり合い、どう変化していくのか。善神と邪神が手を取り合うデタントケースとしての世界を期待している」


 もうスケールが大きくてなにを言いたいのかわからん。けれど、一つだけわかっていることがあるとすればそれは──


「──やっぱり勇者ってろくでもねぇな」

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