咄嗟の判断(セリア視点)
今回はセリア視点。少し短いです
side セリア
弟子の殺気に気が付いた瞬間には無意識に会場へと防護障壁を張っていた。その事実に気が付いた時、震えた。
これは恐怖から来る震えではない。言わばフェルカトリアと対峙した時のような、歓喜の震えだ。
「はっ、マジか」
まだまだだと思っていた弟子が、よもや師である自分に隠し事をしていたなんて。しかもそれが、全力をだ。嬉しくないわけがない。
「なん、ですか⋯⋯唐突に?」
「ありゃぁなんかあったな。そうじゃなきゃ、あのウィルはここまでぶっ飛んでねぇよ。それより、あの騎士科のガキ共は妙だな」
「セリア、あれはなんだ?」
「あ? はっ! そうか! おい、ヒゲ筋肉! 国の一大事だ。今すぐ騎士団全員集めろ!」
「フェルカトリア!」
「はっ! 総員、戦闘配備! 場外を警邏中の騎士団にも連絡を! 国民の避難が完了次第、学院を囲め!」
そう檄を飛ばすフェルカトリアを尻目に、騎士科の三人をみる。その身体から出てきた魔力の塊は人のそれとは異なっている。魔力の塊で形を成すのは魔族の性質で、魔族とは基本的に精神生命体。その肉体を魔力で受肉した上位個体が存在する。そいつらはよく人に化けていた。恐らく弟子が対峙しているのも上位個体だろう。だとすると中身はすでに手遅れだ。死んでいるだろう。よしんば生きていたとしても廃人確定。ならば死んでいる方がマシだ。残された人間にとっては。
「さて、魔族がここにいるって事は⋯⋯。他にも混じってんのか」
「オルグも反対側で観戦している。異常事態には気がついているはずだ。しかし、セリアよ。お前の防護障壁はいつから多重展開するようになったのだ?」
「馬鹿いうな。アタシが張ってんのは、いつもの一枚だけだ。やってんのは、ウィルの許嫁二人と、聖女様だ。咄嗟の判断にしちゃぁ上出来もいいところだ。殿下が対魔法障壁、メイが物理障壁、聖女様が精神障壁だ。四重の障壁だから並大抵の事じゃ崩れやしないが⋯⋯。ウィルはウィルだからな」
「末恐ろしいものだ。しかし次代は育っているか。さて、どうするつもりだ?」
「見守る。恐らく上位個体だ。今のウィルなら苦戦はするが、問題ない」
「魔封じの腕輪はどうする?」
確かに、一般人にとっては魔封じの腕輪なんぞ付けられた日には人間してだろうが窮地に立たされるであろうが、あいにく魔力量だけは多いウィルにどこまで通用するか怪しいものだ。
「そうか。ならば⋯⋯任せるか」
それだけ言って満足そうにまたゆったりと椅子へと座った国王を見て思う。
──結局、みんなウィルに期待しているってことだ。
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