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相入れないもの

とてもとてもお久しぶりです。

 ぶつかり合う刃金と刃金。火花を散らし、その剣線は一合毎に早く鋭くなっていく。

 もうこうして刃を合わせてどれくらいになるのだろうか。時間感覚も曖昧なまま、互いに剣を振るう。


「思ったよりもやりますね。ですが、やはり剣線は未熟!」

「ちぃっ!」


 永遠にも思える時間は、相対する騎士の逆袈裟によって獲物を弾かれた俺の負けで終わった。


「参りました」


 ギャラリーは騎士団員であろう優男。

 その優男の視線は鋭く何かを見極めているかのような雰囲気があるが、ぶっちゃけどうでもいい。


「良い死合でした。未熟な剣線に思うところはありますが、一挙手一投足のフェイントが素晴らしい。ウィルフィード・レオニス。確かに、貴方は強かった」

「ありがとうございます。剣は苦手なんです」

「ここまで付いてきたのです、誇って良いでしょう。騎士団員でも中々にいませんよ。ですが、惜しいですね。あと一手欲しいところです」


 笑顔でそんな賛辞を送ってくる騎士団長にどうしたものかと思っていると、優男が険しい表情で一歩前へでた。


「団長、その子供はそこまで?」

「ええ。彼の兄──カイン・レオニスは、剣だけで言えば彼よりも強い」

「剣だけで言えば? それでは彼が、少年が全力ではないと?」

「ええ。魔封じの腕輪をつけてあれだけ動ける人間を私は一人しか知りません。彼の、ウィルフィード・レオニスの師であるセリア・マーゴット。あれは正しく最強であり、正しく彼を育て上げている」

「セリア・マーゴットといえば弟子は取らない主義だと聞いたことがあります」

「ええ。ですが、それほどの逸材なのでしょうね」


 随分な評価をしてくれているが、それは大いに違う。俺には強さなんてものはない。魔法というものに惹かれ、その試行錯誤の結果だと自分では考えている。


「ならば、是非手合わせ願いたい」

「ジーク、貴方は何を言っているのですか?」

「たとえ子供でも本気の手合わせに手を抜くなどと言語道断。僕はいつでも全力です」

「ジーク、先に言っておきますが、彼の獲物は剣ではありませんよ?」


 まさかバレるとは思わなかったが、流石にセリアをして剣では最強と言わしめるだけの猛者だ。


「私の見立てだと、セリア相手に四割程度の力は出させるでしょう。ちなみに、四割といえどもアレは異常ですけど」

「ならば尚の事、その才能を見てみたい」

「ジーク? もしかして彼に才能を感じました?」

「はい。世界最強に弟子入りするのであれば、それほどの才があると考えます」

「いえ、彼に才能はありませんよ?」


 おっと、それすらバレているのか。こいつは驚きだ。


「彼の剣は幼少より叩き込まれて、愚直なまでに鍛え上げられ、研ぎ澄まされた反復練習の賜物です。しかも、ありとあらゆるパターンを想定して組み上げられた、自身の型を追求したもの。おそらくは、魔法込みでの戦術と言っていいでしょう」

「それでは、才能などなくとも、人はここまで強くなれるということですか?」

「難しいところです。ですが、そうですね。ジーク、彼に貴方の剣でもって相対してみると良いでしょう」


 まったく面倒なことこの上ない。けれど、今はそんなことよりも興味が勝っている。


「ウィルフィード・レオニス。どうか、僕にキミの剣を見せてほしい」

「多分、その必要はないですよ? 貴方よりも確実に、俺のほうが弱い」

「⋯⋯その言葉、嫌みにしか聞こえませんね」


 抜剣した騎士団員、ジークは正眼に構えるとそのまま動きを止めた。

 見るも見事な構えに思わず口の端が上がってしまうのを抑えられない。


「何を笑っているのです? 君は命を賭した戦いの中でもそうして笑うのですか!?」

「はっ! そう見えるか? だったら、それでいいさ! 生憎俺は正しくセリア・マーゴットの弟子だってことを今理解したからな!」


 戦うのは嫌いだ。傷付くのも傷付けるのも嫌いだ。けれど、降り掛かる火の粉は払い除けないといけない。今は降り掛かる火の粉ではないが、ここで手を抜けば大きな火種になる気がした。だからこそ、気持ちを切り替えるために嗤う。


「さ、どっからでも掛かってきな」

「傲慢だ。僕はその傲慢さを斬る。そして、団長が世界最強だと知らしめるんだ!」


 その言葉と同時に振り下ろされる剣を俺は避けない。


「なんだよ、つまねぇなぁ」

「なっ!?」


 避ける必要などまるでない。ただ、手を添えればいい。

 それだけで剣線はズレ、大地を抉る。


「バカ、な⋯⋯」


 一歩踏み込む。したことはただそれだけ。たったそれだけで、ジークの喉元には木剣が突き付けられた。圧倒的なまでの実力差なんかではない。戦い方の問題だ。

 技術や剣の扱いに関しては俺は足元にも及ばない。けれど、優っている部分があるとすれば、強者と戦う経験だ。それも圧倒的に自分より格上の相手との経験。それだけで俺は騎士団員のジークに対して剣を突き付けることができた。


「それまで! ウィルフィードの勝利です。ジーク、理解は?」

「⋯⋯悔しいですが理解しました。確かに彼は僕よりも弱かった。けれど、僕はそれを軽視し過ぎました。弱いという自覚がある相手はこれほどまでに強いと思い知らされました」

「だから言ったろ。俺はアンタより弱い。それを知っているからこそ、常に冷静で居続ける。けど、魔法なら別だ。俺は強いと言える。だからこそ、冷静になれる。頭に血が上ったアンタの負けだ」


 二の太刀がくれば正直危うかったかもしれない。けれど、この手の正義漢は一太刀で斬り伏せに来る。だからこそできた戦い方と言えるだろう。


「君は、どうしてその力を国のために振るわない?」


 不意の質問の意味がわからず呆けているとジークは続ける。


「それだけの力があれば国を、民を守れるはずだ。なのに、君からはその気概が伝わってこない。僕はそれが納得できない」

「俺、別に勇者になりたいわけじゃないし」

「──は?」

「それにさぁ、俺の周りって残念ながら守ってやらなきゃいけないほど弱いやつはいないんだよ。だから俺はそいつらと並んで戦うほうがいいかな」


 俺の言葉に呆然と立ち尽くしたジークだが、なにが面白かったのか急に大声で笑い出す始末。

 ちょっと失礼じゃないだろうか?


「いや、すまない。確かに君の言うことは理解した。うん、僕とは確かに相容れない考えだ。だけど、僕は僕の理想を追求したい」

「好きにしなよ」

「ああ、そうだな。でも、僕もいつか君の横に並んで戦えるかな?」

「当然だろ。俺より強いんだからこっちからお願いするよ」


 こうして相容れない俺達は、交差した。

長らく空いてしまい申し訳ありません。

また少しずつ更新しますので応援よろしくお願い致します。

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