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兄と彼女とブーメラン

転勤決まりましたー

忙しいですね

「ウィル、ちょっと相談がある」

「やだよ」


 目覚めてから色々とあったが、平穏に学院生活を謳歌していたある日の事だ。珍しく教室に兄が来たと思ったらそんな事を言われたので拒否をしてみた。勿論本気ではなかったのだが、兄は珍しく真面目な表情だ。


「聞け」

「なによ?」

「お前は、全学年対抗の試合に参加はするよな?」

「そうだね。負ける気は微塵もないけど」

「⋯⋯なら、気をつけろ。来月からもう始まるが、確実にお前を狙った馬鹿共が来る」

「ああ、それね。もう始まってるよ。ほら」


 そう言って右腕を掲げると、そこには魔封じの腕輪と呼ばれる魔力を封印するための腕が一つ。


「⋯⋯ま、想像通りだな。お前、オレのところで稽古する気はあるか?」

「ちょっと詳しい話よろしく」

「魔封じの腕輪は文字通りお前の魔力を封じるためのもんだけど、世界最強は剣の相手はできないだろ? 丁度明日騎士団長がくるんだが、前々からお前に会わせろって煩くてさ」

「面倒臭いイベントじゃん」

「近接格闘はすでに納めてるだろうけど、魔力が使えない状態のお前はどう頑張ってもオレには勝てないぜ?」


 確かに兄の言う通りだが、技が通じないわけではないと考えている。それにセリア相手に魔力を使わない戦い方も教えられているが、なにぶん教えるのは天才である世界最強。言語能力が低いので有名だ。


「いきなり煽り倒してくるけど目的は?」

「騎士団長は、お前の師匠とガチでやり合える人外だ。オレには身に余るんだよ」

「おーけー! 一人で相手しろ!」

「ウィル〜! 頼む! 明日はどうしても用事があるんだ!」


 なんともはや情けない兄だが、ここまでは珍しい。考えられる理由は一つ。


「⋯⋯姉さんは知ってんの?」

「な、何を⋯⋯」

「女でしょ?」

「う、ぐ⋯⋯」

「貸しだよ」

「⋯⋯飲もう」

「うし、契約成立。騎士団長と師匠どっち強いか知りたい」


 俺の言葉に兄は青ざめているが、知ったことではない。


「間違っても本人に言うなよ? 死ぬぞ?」

「間違っても言わないよ。身に染みて理解してる」


 前に一度セリアに問いかけたことがあったが、その後のことは推してしるべし。とだけ言っておこう。碌なことにはならない。

 そんなことよりもあのクソ脳筋を受け継いだ脳筋が女のために俺に貸を作ることのほうが問題だ。既に教室の奥深くまで入り込んでいる脳筋(バカ)は気が付いていないだろうが、教室の出入り口はクラスメイトによって封鎖されている。それもこれも色恋話が好きな女子連中のアイコンタクトによって逆らえない男子が良いように使われているだけなのだが、気にしたら負けだろう。


「んで、どんな女性なのかな?」


 そんな質問に一瞬キョトンとした兄だが、意味を理解したのだろう。慌てて踵を返すが出入り口が封鎖されていることに気が付き動きが止まる。勿論それを見逃す俺ではない。


「いい度胸だ。兄より優れた弟なんか存在しないことを教えてやろう!」


 どこの世紀末だ。大体それは負けが確定しているヤツの台詞だ。


「はっ! 脳筋もここまで来ると哀れだね! 俺が誰の弟子か理解してるのかな!?」


 一触即発の空気の中、出入り口を封鎖している男子を蹴散らす何かが乱入し、それは目にも止まらぬ速度で兄へと飛びついた。


「カイン!」

「ちょ、まっ、んぎっ!」


 バンダナつけた筋肉──まさに脳筋に兄がなったのをみてゲンナリする俺だった。


 ⭐︎


「初めまして、エレナ・クロイツと申します。この度はお見苦しいところをお見せしましたことを、お詫び致しますわ」


 綺麗なカーテシーを決めながら言う美女は、まさに美女と呼んで差し支えない美女だった。竜王国からの留学生らしく、ヒナの護衛のために先んじて王国へとやってきたと言う彼女は竜王国では男爵の娘らしい。その割にはしっかりと貴族令嬢と言えるほど礼儀正しい彼女には好感が持てるが疑問がある。


「なんでこんな脳筋(バカ)がいいの?」

「カインはとても素晴らしい男性ですわ。強く礼儀正しく、強いですわ」


 今の一言で理解した。この人も同類だ。両親や兄と。


「兄さんさぁ」

「言うなよ。オレだって好きで戦ったわけじゃない。留学初日に勝負を持ちかけられてな」

「それで倒したと?」

「ああ」

「馬鹿じゃないの? あ、馬鹿だったね! 父さんと母さんは知ってるの?」

「それが、その⋯⋯明日紹介することになってる」


 ああ、それで明日は俺と騎士団長を合わせる名目で予定を無理やり空けたのか。納得はできないが、理解はしておこう。そうゆうことなら応援することも吝かではない。


「グラスー」

「ああ、理解している。明日はイアさんの所で二階を使ってもらおう。母にも伝えておく」


 うん、実に理解が早くて助かる。

 イアさんは現在俺とグラスが共同出資をしていて、店の二階はグラスの母がよく商談ルームとして使うVIP部屋がある。勿論イアさんやシーガルとも話をして、増築した結果そうなったのだが、そこは俺もよく使っている。


「じゃあ、明日の飲み食いの精算は俺のとこにするように頼むよ。こんな面白いイベント一枚噛めないなんて勿体無い」

「ならばウチで半分持とうではないか」

「うし、グラス頼んだ」

「ああ、承った!」


 こうして二人で外堀を埋めると兄とエレナさんはなんだか照れたような表情をしていた。


 ──リア充爆発しろ。

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