王城への呼び出し
まだまだ残暑が続きます。睡眠時熱中症には気をつけましょう。
「いやぁよく寝た」
起き抜けの第一声はそれだった。自分の感覚からすると一日か二日くらいだったが、どうやら三ヶ月ほど眠りこけていたようで、そりゃ筋肉量落ちるし、身体動かないわけだ。
第一発見者は様子を見に来ていたメイで、バカほど怒られて、心配されて、泣かれた。勿論リィリアにも怒られたし、ヒナにも叱られた。
リューとターニャは案外ケロッとしていて、ただ一言「寝すぎです」と言われたくらいだ。
意外だったのはセリアで、起きてからはずっと俺の傍を離れなかった。
ある程度回復して、両親からは拳骨を貰い、姉には叩かれ、兄には殴られた。これだけ聞くと暴力的でしかないが、実際は心配かけたことにより軽くだ。
出席は足りなくなるのでしばらくは休みなしで学院へ通うことにはなったが、陛下には溜息を吐かれただけですんだ。ちなみにメイ父は泣いて喜んでいた。未来の義父よ、男泣きは見たくなかった。
とまぁそんなこんなでリハビリ込みで半年程経過。一学年も残り少なくなってきていたが、さほど以前と変化はない。あると言えば、放課後ルシオラがやたらと俺に魔法を習いに来ているくらいだ。
「ウィルフィード、光魔法使えるのよね?」
「使えるよ」
「攻撃性のある魔法は?」
「使えるけど正直得意じゃない」
「どうして?」
「んー⋯⋯光魔法ってイメージしにくいんだよね。例えばゴースト系とかアンデット系のモンスターに対しては光魔法よりも聖魔法の方が浄化って意味では理解もイメージもできるんだけどさ」
俺の中の知識で言えば、光魔法というのは聖魔法とあまり差はない。なんとなくで使っているに過ぎない状態。けれど、厳密にいうと違いがあるらしく、光魔法というのは攻勢魔法が多く、聖魔法というのは聖職者が使うことがほとんどで、その多くが傷を癒したり、異常状態を治癒したりとゲームで言えばヒーラー的な存在が使うもの。俺はその区別がつかなくて上手く扱えていない。
「それにさぁ⋯⋯。光魔法って例えば照明用の照明とか、目くらましに使う閃光だろ。光を発生させるという意味で言えば理解はできるんだけど⋯⋯。師匠も得意じゃないし、俺も伸び悩んでるんだよ。光魔法以外で知りたい事とかないの?」
「じゃあ、聞き方をかえるわ。攻撃に使えそうな光魔法はない?」
「あるよ」
「ほんとに!?」
「ああ、でも⋯⋯。今のルシオラじゃ無理かな」
「理由を聞いても?」
「想像力と知識の欠如、経験不足が理由。まず、魔法は想像力がモノを言う。理論派のルシオラにとって知識が欠如していると想像力が働かないと思うんだ。そんで、経験不足。これに関しては、対魔物だったり、対人戦での経験がないと難しいと考えてる」
微妙に納得がいっていないルシオラは頬を膨らませているが、そんな可愛い顔をしてもダメなものはダメだ。便利な技ではあるが、効果的に使う場面というものがある。
「じゃあ、試しに俺に何か魔法を当ててみなよ」
その言葉だけで俺が見本を見せると理解した彼女は、そのままライトアローを放つ。放たれた魔法の矢は見事俺の身体を貫通した――かに思えたが、当たったはずの俺の身体は次第に薄くなって消えた。
「え?」
「光魔法の幻影だね。これは確かに使える魔法ではあるんだけど、欠点がある。光の性質というのを理解するしないじゃないんだ。いかに想像力を働かせて、どうやったら効果的なのかという戦闘経験と知識が必要だ。戦う時の勘みたいなもんだと思ってくれればいいけど、連発すると意味がない。見破られてしまうからね」
「⋯⋯なるほど。確かに連発は意味がないし、今覚えても、戦うときに組み込んだとして⋯⋯ダメね。きっとワンパターンになるわ」
「そ。ルシオラは頭がいいから理解が早くて助かるよ。だから、そうだなぁ⋯⋯。ターニャ!」
丁度洗濯物を取り込んでいたターニャが目についたので呼ぶと、彼女は面倒くさそうな顔をしながらこちらへと来る。別に俺相手だから構わないが、他の人がいる所ではしないでもらいたい。
「ウィル様、ろくなこと考えてないって顔してる」
「彼女に歩法を教えて欲しいんだ」
「ほほうって、なに?」
「ターニャ」
やってみせて欲しくて名前を呼ぶと、彼女は既に俺の意識から消えた。そう気が付いた時には既に反対側にいる。
相手の意識の隙をついて移動をする技術。勿論、これを回避するすべはあるのだが、教えては意味がない。
「何、今の? 一瞬で移動した?」
「これが出来たらちゃんとできるようになるまで練習相手になるよ」
「⋯⋯へぇ。二言はない?」
「ないね。けど、難しいよ。俺も練習中だけど」
「ウィル様は覚えておいてそんはないですよ。というか、そうゆう戦い方が合ってるし」
「ま、そうゆうことだから。あとよろしく」
さて、このあとはと予定を思い出しているところで声がかかる。振り向くと綺麗なオッドアイの少女が一人。
「やあ、少年。励んでいるね」
「おい、安易に転移してくんなよ」
「大丈夫さ。バレやしないよ。ところで、少年。キミに渡した加護だけどね、ちゃんと使いこなせているかい?」
「ああ、魔力はほんと助かってるよ」
俺の返答が気に食わないのか少女は深い不快な溜息を一つ。
なんだコイツ。秘密基地追い出してやろうか?
「キミね、折角絶倫になったっていうのになんでそれを遺憾なく発揮しないんだい!?」
「黙れクソ娘が!」
「残念だよ! 非常の残念だ!」
「うるせぇよ! 馬鹿かお前!?」
「ボクは本気だよ! キミこそ正気なのかい!? あんなに可愛い女の子に囲まれて、あまつさえ、女神も邪神もいるのに一切手出ししないとか正気の沙汰とは思えないよ!」
もうダメだコイツ。早くなんとかしないと。俺の平和なスローライフが遠のいてしまう!
「失望したよ。キミに有益な情報を持ってきたというのに⋯⋯」
「おい、ちょっと待てコラ。その情報早く寄越しやがれ」
「あぁっ!? いたいけない少女をそんな強引にだなんて!」
「ぶっ飛ばすぞテメェ」
「まあおふざけはこのくらいにして」
マジで追い出そうコイツ。
「情報というのはね、この世界に干渉しているヤツがやった事さ。キミは、勇者って言えば伝わるかな?」
「⋯⋯穏やかじゃねぇな」
異世界で勇者なんて単語絶対にロクなもんじゃない。これが俺の読んだことのあるラノベだったら、頭のいいやつか、言われた事を鵜呑みにしている馬鹿のどちらかだ。けど、このタイミングで邪神が言うのであれば後者の方が理解が及ぶ。
「勇者を召喚したのか?」
「んー勇者の加護を与えたんだね。でもまぁ⋯⋯勇者の加護如きでキミをどうこう出来るとは思ってないよ。人類から逸脱した魔力量に異世界知識、おまけに観測者たる女神の加護と邪神の加護。異常だね」
「というか、そもそもなんで干渉なんかしてくるんだ?」
そう、それが疑問だ。他の世界に干渉して一体なんのメリットがあるというのだろうか。そもそもレティアの話ぶりだと、観測者というのは観るのが仕事で、世界運営に干渉しないはずだ。
「ボクは元々他の世界の観測者たる存在だった。けれど、その世界は滅んでしまったんだ。理由は割愛するけど、それを回避するためには他の世界に干渉して、その世界のマナをもらわなきゃいけないんだけれど、そのためにはその世界での繋がりを強くしなきゃいけない。一番手っ取り早いのが支配さ。恐らくそれが理由じゃないかな」
「ほーん⋯⋯。じゃあ、王国に攻めてくる可能性は?」
「そのうちあるんじゃないかな。でもまぁ⋯⋯無駄、かなぁ」
「なんでよ?」
「だって、キミ強いもの」
あ、はい。確かに勇者だなんだと来ても、返り討ちにする自信はある。
けれど、加護というものは非常に強力だ。ただの凡人が恐ろしほどの強さを持つことになる。そう考えれば警戒するに越したことはない。
「そうだね、でも警戒はしておいてくれ。ボクも魔族側で人間に友好的な魔族を見繕っておくよ」
「あー、魔族か。会ったことないな」
「人と変わらないよ。そこまで警戒する必要はない。確かに好戦的なのが多いけれど、キミやキミの師には勝てないからそこは安心しなよ」
げんなりした表情のヴィーナムの頭を撫でて、勢いよく振り返る。そこには土煙をあげて爆走してくる阿呆が一人。
「あるじーーーー!!」
「おい、ヴィーナム止めろ」
「無茶言うんじゃないよ! キミはバカか!?」
迫り来るレンを目前にわーきゃーしている間にレンは減速をせずにそのまま俺達をはねた。
おかしい。転生する時だってトラックに跳ねられなかったのに。
「あるじ、ヒゲの筋肉がよんでる」
罷り間違っても本人の前で言ってほしくない単語を聞いて理解はした。王城に呼び出されていると。
しかし、伝令相手を間違えるのだけはやめて欲しい。直談判しよう。そう心に決めてヴィーナム共々意識を手放した。
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