誰かに相談をするのは大事
少しずつ更新頑張っていきますよー
「また貴様はそんなとんでもないものを⋯⋯」
双方向で念話ができる魔法道具を作り上げたら陛下には呆れられたが、有用性は理解しているのか特に言及はされなかった。というか、もう作ってしまったのだし、言及されても困るものではある。
「悪用するなよ?」
「俺が悪用するとでも思いますか?」
「思うから釘を刺しておるのだ。だが、この際もういい。聖女よ、その魔法道具の存在はくれぐれも内密に頼む。他の者もな」
ありえない道具を作り出した事に神官たちは赤べこよろしく首を振るだけだが、これがどれほどのものなのか理解してのことだろうか。
「もし、何かあったらウィルフィードを頼るがいい。この通り暴走しがちではあるが、有能の塊みたいなものだ。これを機に良好な関係になればとは思うが、いかがだろうか?」
「それはもちろん、わたくしの方でも尽力致します。ただ、このようなものを渡されても我々も返すものが何も⋯⋯」
「あー、別に何かを返してほしくて作ったわけじゃなくてさ、連絡手段というか、今回のような事に巻き込まれると国際問題に発展してしまうから、事前に連絡を欲しいってだけですし」
「ウィルフィードの言う事は尤もだな。おれとしてもそういった問題を解決したかっただけだしな。しかし、ドラグニア竜王国の竜王がどう反応するかだが⋯⋯」
そう、ヒナに渡したこの魔法道具の価値を考えると国宝と呼んで差し支えないものだとは自覚している。勿論やり過ぎたとも。けれど、国際問題に発展しないのであれば、将来的に見ても安いものだとは考えてはいる。考えてはいるが、それは俺の価値観であって、この世界の価値観とは異なるもの。一体聖女としてどうでるのか⋯⋯。
「内密に、というのは正直難しいと考えます」
ヒナの言うように内密にというのは難しい。ましてや向こうは竜王だ。国のトップに国宝クラスの魔法道具を所持しているのを黙っているわけにはいかない。どこで落としどころを見つけるかだ。
「まずは、今回の件については報告致します。帝国への非難の声明も発表されるでしょう。その上で、今まで不透明だった王国との関係を透明なものにしようと考えます。その上で、言わせていただきます。これほどの魔法道具の対価を我がドラグニア竜王国は所持しておりません」
「⋯⋯ふむ。ウィルフィード、どうする?」
「え、いらないですよ」
対価など必要ない。ヒナ・マサキという少女を守れるのならば安いものだ。なにせ、転移者なのかもしれない人物だ。聖女という肩書上は重要な人物であることは間違いないが、俺にとっては違う意味での重要人物。だから、特に対価などは必要としてない。
「そうですね、強いて言うなら⋯⋯。俺と友達になってもらえません?」
俺の言葉に絶句するのはその場にいる俺以外の人間で、真っ先に正気に戻ったのは意外にも聖女ヒナ・マサキだった。
「お友達どころか、こんなにも素晴らしい魔法道具の対価であるのなら、わたくしが貴方へ嫁ぐこともやぶさかではありません。改めまして、ヒナ・マサキと申します」
「ウィルフィード・レオニスだ。よろしく」
こうして二人とも握手を交わしたのを陛下は目を剥いて視ていた。
「陛下?」
「いや、そうか。案外簡単な事だったのかもしれんな。聖女並びに神官達よ、色々あると思うが、よろしく頼む」
陛下の言葉にヒナも神官達も笑顔で返すのだった。
⭐︎
そんなことがあってから半年が経過した。
ヒナとは頻繁にというわけではないが、それなりに交易や新山への立ち入りに関して連絡を取り合っていた。どうやら神官達が相当気合が入っていたらしく、双方良き国交を結べるとのことらしい。それ自体は大変喜ばしいことではあるのだが、俺は問題を一つ抱えていた。
「無理だ。どうやっても材料が足りない。いっそのこと魔の森の木を伐採するか? そうすれば多少なりともトンネル開通へ絡ませることができる。ついでに道路整備も同時進行すれば効率は上がる。けどそうすると職人の食い扶持が⋯⋯」
そう、竜峰ドラゴンテイルの山頂に社を建てなければならない問題を先延ばしにした結果、材料が間に合わないのだ。大規模にするつもりはなかったが、陛下からのお達しがあった。
『それほど大規模な建造物であれば王都の職人を使え。金は国の予算から捻出する』
それはつまり、一個人ではなく国としてのプロジェクトになったと言うことに他ならない。そして、その責任者は俺だ。たかだか学院の一年生の子供にやらせる大役じゃない。それも含めて陛下は言うんだ。
『これが成れば、貴様の手柄よなぁ』
さっさと手柄立てろや阿呆がと言ってくれた方がまだ断り甲斐がある。けれど、これは断れない。何せ聖女に言質を取られてしまっているのだから。
「ウィルフィード、お前らしくもないな。何をそんなに頭を抱えているのだ?」
「⋯⋯グラス、確かお前の母親は元商家だよな?」
「あ、ああ、そうだが⋯⋯。やめろ、その目で近づくな! 心がざらざらするっ!」
「木を、良質な木をくれっ! 頼む! お前の力で──おふっ」
「いい加減にしなさい。ここ数日特に様子がおかしいからと思ってみれば、事業にでも失敗したの?」
俺の脳天に一撃を入れて、腕を組む少女、ルシオラはあきれ混じりのため息と共にそう問うてくる。
「失敗するわけがない! シーガルの店は大繁盛で竜王国にも二号店を出店する事が決まったし、イアさんに任せた店も同時に出店予定だ。王都じゃ一大ブームを巻き起こした上に、レシピは門外不出! 真似した商人はいたが、利益にこだわり過ぎて、高値で味もイマイチだから続々淘汰されていっている! つまり俺の一人勝ちだ!」
「儲けがあるのはいいことね」
「当たり前だ! ついでにグラスの家というか、グラス母とグラスも一枚噛んでるからな! 向かうところ敵なしよ」
「ウィルフィードのそうゆうところはウザいわね」
「酷いっ! ルシオラにはあんなに試食させてやったのに!」
「それは、まあ、ありがとう。それよりも今度は何に首突っ込んだの?」
「それがだなぁ」
ルシオラとグラスに経緯を説明すると揃って帰ってきたのは盛大なため息。そして何故か可哀想なものを見る目で見られている。
「あんたが悪い。言質を取らせた時点で負けね」
「お前の悪い癖だな。一人で出来ることへの安請け合いが過ぎたな。王家が絡む以上はお前が悩み、行動しなければな」
「つっても、魔の森の木ってあんまり切ると、生態系乱れた時に困るんだよ」
「一箇所から取らずに間引いたら?」
「それも考えたんだけどさ、魔の森に生えてる木って魔力を豊富に蓄えてんだよ」
「いいことじゃないの?」
「良くないんだよ。魔力を豊富に蓄えてるって事は、それだけ魔物を呼び寄せてしまうんだ。かと言って、魔力を抜くと枯れる。これは実験して確認した。だから普通の木が欲しいんだ」
「魔の森の浅い層は?」
「不思議な事に奥だろうと、表層だろうと魔力は均一化しててな。お手上げだ」
俺の言葉に困った顔をするルシオラだったが、何かを思いついたのか、筆箱から鉛筆を取り出した。
「ウィルフィード、ここに鉛筆があるわ」
「お、おう」
「中には芯が通っているわね」
「ああ」
「ちょっと難しいけど⋯⋯っと」
鉛筆の芯を器用に魔法を使って抜き取った彼女は続ける。
「まあ、これが魔の森の木だとでも思ってくれればいいわ。この空洞の中になんでもいい、魔除けか何かの魔法触媒を入れると、魔除けとして機能しないかしら?」
確かにルシオラの案で行けば、魔力は森の木にある魔力を使えばいいが、効力自体はそれ程長く続かないだろう。常時発動が必要なことを考えても恐らく一ヶ月かそこらが限界だ。
「ルシオラ、それであれば、魔除けを片側に、もう片側には空気中の魔素を取り込むような何かはどうだろうか?」
「それだと費用が凄まじい事になると思うわ。例えば、誰かが定期的に魔力を補充する形にできれば理想だけれど、規模を考えると中々難しい問題ね」
魔力を、補充?
「きゃぁっ!?」
勢いよく立ち上がり、ルシオラの手を握る。この発想は無かった。目から鱗とはまさにこのこと!
「それだよ、ルシオラ! 何で思いつかなかったんだ! だとしたらすぐにでも着手できる。ガワは職人に任せて中身は俺が作ればいい。しかも重要な場所だけだ。それなら行ける!」
「ちょ、ちょっとウィルフィード⋯⋯」
「ん? ああ、すまん⋯⋯」
顔を赤くして背けているルシオラに頭を下げて、もう一度お礼を伝える。本当に、これは彼女の案がなければ実現しなかった問題だ。そうだ、最初から彼女達に相談すればよかったんだ。俺はまた一人でやって失敗する所だった。
「午後の授業、俺は抜ける! グラス!」
「ああ、仕方のないヤツだ。オレの方からナイン先生には伝えておこう」
「恩に着る!」
言うが早く俺は教室の窓から飛び出した。
行先は、竜峰ドラゴンテイル。そこに住まうドラゴンに会いにだ。
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