女神の襲来と新しい契約
最近なかなか時間が取れませんが、更新しますので応援お願いします
「美味しいです!」
「これは⋯⋯一大事よ!」
リューとターニャが作ったスイーツに感激している許嫁二人は恐るべき速度でその腹にスイーツを収めていく。
まるで丸いピンクのアイツのようだ。
「よくそんなに入るな」
「確かに。美味いことは事実だが、流石に食い過ぎだ」
「何を言いますか! こんなに美味しいものを目の前にして手を出さぬは乙女ではありません!」
「そうよ! ウィル、本当にこれを商売にするのね!?」
「そうだよ。シーガルの嫁さんが店主でね。従業員は今の所奴隷を買って、レシピの口外、持ち出しの一切を禁じる」
俺の言葉に頷いたグラスは、その契約内容に口を出す。どうやら甘いところがあったらしい。
「口外禁止、持ち出し禁止は当然としてだ。奴隷自身が金を貯めて自らを買い上げた場合はどうする?」
「解放奴隷だっけか? 奴隷としての身分は無くなるが、契約は生きてるってやつ」
「そうだな。強いて言えば、それだと騙された奴隷が口にはしないしレシピも外に出さなかったとして無言で作り出したらバレるんじゃないか?」
成る程。そうゆうこともあるか。しかし、それで勝手に作る事は禁止にすると有事の際に店は営業できなくなる。
「参ったな。グラスの指摘に対しての返答が思いつかない」
「ま、その辺りはいい手がある。店の厨房以外での製菓を禁じれば良い。場所を限定することによって効力を発揮する」
「成る程な。グラスは奴隷については?」
「⋯⋯ふむ。オレは一個人としては奴隷というものへの偏見はない。借金奴隷や犯罪奴隷なんかはある種仕方のない部分はあるにせよ、大半が自業自得だ。だがな、世の中には生活を苦にして売られた奴隷がいる。借金奴隷も犯罪奴隷もおすすめはしないが、そうしなければ生きていけなかったという側面を見ても同情しない事だな。逆に生活苦に喘いで親に売られた奴隷はおすすめする」
「はー。そんな感じかぁ」
「まぁな。しかし、奴隷と言ってもその販売元の信用が最も重要だ。必要とあらば紹介するが⋯⋯」
嬉しい申し出ではあるが、今のところはまだ構想段階ではある。繁盛するとは思うが、要らぬやっかみも発生するだろう。そのときに奴隷を差し出すような人間ではないと思うが、シーガルの動きは正直読めない。悪い奴ではないが、家族最優先というその理念は危険を孕む。
「ま、手のひら返したらそれ相応の事が待ってるしいいか」
「ウィルフィードって、案外腹黒いわね」
「今更かよ?」
「ま、それもそうね。でも、先に言っておくわ。あたしはアンタを裏切らない。それだけは覚えておいて」
メイの言葉に嬉しくなりつつも、隣でリィリアが口いっぱいに頬張ったまま頷いているのを見て溜息を一つ。
「そんな心配してねぇよ。んでもまぁ⋯⋯まずは、口の周り拭いてから言おうな」
この後思いっきり殴られた。
☆
「さて、取り敢えず気は済んだか?」
「「⋯⋯はい」」
思う存分スイーツを楽しんだ二人に付き合っていたら、太陽が傾いて夕陽が差すような時間になっていた。それを指摘するとようやく手を止めた二人は神妙に頷く。
「取り敢えず、野外活動の時にリィリアが狙われてるらしいが⋯⋯」
「オレもそこが引っかかってな。確かに殿下は王族だが、継承権は第三位。そして、既に王太子として次代の王になるべく発表もされているのが、ノルン・ヴァイス殿下だ。歳は今年で二十になる。今は冒険者として活動しているようだが」
「ええ。兄はまだゴールドランク帯でも真ん中くらいの実力です。父はプラチナになってからでないと王位は譲らないと宣言しております」
「もしかして狙いはそっち?」
「確証はないな。結局俺達には今帝国の情報がない。リィリアは何か狙われる可能性については?」
いくら危惧しても結局は情報が少ない。リィリアに問いかけてみるも本人も心当たりはないようだ。
「情報が必要だな」
そんな時だった。珍しく誰かがいるときに分霊が話しかけてきた。
『女神を使えば良いのでは?』
「⋯⋯ああ。そうか、そうだな」
『それにアレも少しは懲りているでしょう』
厳しい物言いだが、レティアは先日のスイーツ暴走から色々とお預けしている。解禁ついでに情報を集めてもらおう。
そう思ったが早く、食堂のドアを開けて乗り込んでくる女神が一柱。
「ウィル! その役目やるわ!」
「いまぁ良いんだが、多少は自重しろよ」
「細かい事気にしないの! 帝国の情報ね」
待ってましたと言わんばかりに現れたレティアに気を取られて、俺は忘れていた。レティアの存在を誰にも言っていない事を。
「だ、誰よその女!」
「大きい⋯⋯」
前者の反応は正しいが、後者の反応はちょっと考えてほしいものがある。まぁ今はそんな事はいい。
「レティア、竜峰ドラゴンテイルの近くに帝国の人間が入り込んでるらしいんだけど、なんかわかるか?」
「ちょっと調べてくる」
「頼むわ」
「うん。そこのお姫様絡みかな?」
「まぁそんなところだ」
「ん。そうそう、ウィルにこれあげる」
言いながらレティアは何か黒い板状のものを投げて寄越した。それを受け取ると、艶やかな黒い何か。
「なんぞこれ」
「多分、ドラゴンの鱗」
「なんだってそんなもん」
「落ちてきたのよ。ウィルの秘密基地の屋根に刺さったの」
「はぁ? 刺さるわけねぇだろうが」
あの森の中程にある秘密基地には結界が張ってある。不可視の結界と防御結界が。しかもレティアと分霊からのアドバイスを元にほぼ全ての魔力を費やした超強固なものだ。簡単にすり抜けられるわけがない。
「落ちてきたのは偶然だろうけど、ドラゴンの鱗は魔法耐性が高いの。耐性が高いという事はそれだけで脅威なの。いっそのこと、場所変えた方がいいかも」
「⋯⋯マジかぁ。力作だったんだけど」
「場所は悪くないんだけどね。多分あれ以上奥に行くのは危ないかな。検討しといて。それで、報酬だけど」
「わかってるよ。けど、使いすぎるとこっちの魔力減るんだよ」
「はいはい。自重はするね」
なんて二人で話を進めているとたまりかねたのかメイが声を上げた。
「ちょっと、その女誰よ?」
「ああ、魔の森の奥に住んでる俺の⋯⋯下僕?」
「不潔だわっ!」
「冗談だって。まぁなんだろな、合縁奇縁も縁のうちというか⋯⋯」
「そうね、ウィルの才能を見抜いた一人とでも思ってくれればそれで。ああ、勘違いしないでね。才能はあるけど、それは魔法の才能なんかじゃなくて、目的の為に努力する事ができる才能の事ね。ウィルは間違いなく幼い頃からずっと魔法の鍛錬をして研鑽を積み重ねてきたの。物心つく頃には鍛錬していたから、キミたちとは練度が違うのは当たり前ね。それを才能という言葉を聞いただけで勘違いするのはあまり感心しないかな?」
隣にいるグラスを見据えてそう言ったレティアの表情はいつもよりも少し堅い。指摘されたグラスは図星だったのか頭を掻いている。
「それは仕方ない。逆の立場だったら俺もそう思うからな。グラスも気にするなよ」
「ああ。いや、しかし、すまない。あの世界最強の弟子である以上努力は必至だったのを失念した」
「律儀な奴だな。そうゆう所は好きだよ」
「まったく、お前という奴は。それで手伝ってくれるという事のようだが、具体的にはどうするつもりだ?」
「そうね。一旦帝国へ行くわ。幸い転移魔法も使えるし、行き来はどうにでもなる。そこの固まってるお姫様に危険があるなら、ウィルの許嫁だし無関係でもないしね」
ずっと固まりっぱなしのお姫様を放っておいて話を進めていく。
「じゃあレティアは帝国での動きを頼む。俺達はもうすぐ野外活動で魔の森に入る。と言っても浅いところだから危険はないと思うけどな。グラスとメイはなんかあったら教えてくれ。リィリアの方は⋯⋯まぁ、後で俺がどうにか話をつけるよ。ターニャ、レティアになんかお菓子でも渡しといてくれ」
ターニャに告げるとニマニマしたターニャは言った。言ってしまった。
「ウィル様、この人も婚約者候補?」
「はっ! こんな女願い下げだ!」
「ウィルってば酷い!」
「うるせぇよ。馬鹿みたいに甘いもんばっかり食いやがってからに!」
「だって美味しいんだもん!」
大きな胸を揺らしてそう主張する女神に呆れながらも、その視線は揺れる双丘に釘付けなのは内緒だ。
「ウィル⋯⋯。視線が露骨」
唐突に顔を赤らめながら腕で胸を隠しながら身を捩るレティアはエロかった。
そんな一悶着ありながらもレティアは帝国へと向かい、残った俺はふと気が付いた。
「放課後に集まったのが悪いんだが、お前ら家に帰らんのか?」
「む、もうそんな時間か。オレは別に帰らなくとも問題ないな。どうせ寮で一人だ。外泊届けなんかも特に必要ないしな」
「んじゃグラスは泊まっていけよ。明日一緒に行けばいいだろ」
「まぁお前がそれで良いと言うのならお言葉に甘えよう」
「リューとターニャは二人を送って──」
「待った!」
そう声をあげるのはメイで、どこの弁護士だと問いたいくらいに通る声だった。
「泊まるわ。申し訳ないけれど、家まで伝言を頼めないかしら?」
「かしこまりました。それでは、着替えなども一緒に預かってきましょう」
リューの申し出に喜ぶメイとは反対にリィリアは渋い顔をしている。第三王女という立場上おいそれと外泊などできないと思っているのが理由だろうか。
「ターニャ、城行ってくれるか?」
「いいけど、ウィル様の名前出しても?」
「それは勿論。けど、陛下──義父になるから粗相はしないでくれ」
「そこは安心! 殿下の専属メイドを引っ張ってきます」
「お前ならできそうなのが不思議でならないよ」
呆れながら言って小一時間くらいした頃だろう、それは現れた。
「お久しぶりでございます、旦那様」
丁寧に体を折って礼をするイースさんとドヤ顔をしたターニャ。そして、その後ろで得意げな顔をしているサイレントホース。
「お前、本当に引っ張って来たのかよ」
「アタシが行ったら、この子が物凄い勢いで走って来て。城内を」
「城内を?」
「申し訳ございません。どうやらこの子は旦那様に作って貰った馬房が気に入っているようで⋯⋯」
今度は申し訳なさそうに身体を折るイースさんに気にするなと伝えてサイレントホースの身体を撫でる。
相変わらず良い毛並みだ。毛艶も良くて、筋肉も引き締まっている。
「まぁ、たまに来る分には構わないよ。頻繁にとなると流石に目立つしな」
「それは⋯⋯はい」
「まぁ、一人で来れるんならそれでいいけど、流石に無理だろ? ん? なんだよその期待するような目は?」
何やら目を輝かせてリィリアを見るサイレントホースに何か勘づいたのかリィリアは言った。
「構いませんよ。ですが、無断でというわけにはいきません。有事の際に貴女がいないと困りますし。ウィルフィード、何か手立てはありませんか?」
「うーん。あー、魔物なんだよな、お前。ちょっとこっちおいで」
手立てはある。思いつきだったのは先に言っておこう。
──出来心だった。
馬房の近くに移動してサイレントホースの前へと立つ。丁度相対するような形だ。
「汝の魂は我の下に、我の運命は汝と共に。我の意に従うのならば応えよ」
そっとサイレントホースホースの額に手を当てて詠唱を続ける。感覚的には大丈夫だと理解する。
「その魂に我が名を刻み、我が魂と添い遂げるのならば傅け」
魔力がサイレントホースを包み淡く光る。
「蒼天の彼方より来たれ、神速の騎馬」
『契約に応じる。よろしく、主』
平坦な女の子声が脳内に聞こえたと思ったら、サイレントホースを包む魔力の輝きが増していく。目を開けていられないほどになり、更に一際輝いた時だった。
「⋯⋯よろしく、主」
栗色のボブカットで美少女と言っても過言ではない女の子がそこには立っていた。全裸で。
全体的に細身でありながら、胸は大きく、くびれもある。お尻も小さく引き締まっている。ナイススタイルだ。
「おう。よろしく。まずはこれ羽織ろうな」
制服の上着をそっとかけて前を閉じる。流石に全裸で歩かせるのは忍びない。いくら敷地内だろうと女の子にそれはさせては行けない。
「だ、旦那様、今のは⋯⋯」
「契約魔法だな。他言無用で頼む」
「それ、は⋯⋯。承知しましたが、その子は?」
イースさんが目を向けると女の子──サイレントホースはVサインを作っていった。
「サイレントホース。イース、いつもありがとう。今日から主の家の子になる。世話になった」
「⋯⋯あん?」
サイレントホースの一言に笑顔を消したイースさんが立ちはだかった。
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