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初日の騒動

エタらず書き続けます

「聞こえなかったかい? キミは今すぐこの学院を去りなさい。子爵家程度の爵位でAクラスなど、烏滸がましい」

「一体なんの権限があってそんな事をおっしゃるのでしょう?」


 そんな言葉に異を唱えたのはリィリア・ヴァイス第三王女。その表情はいつも見るものとは違い、王族としての表情だろうか。


「これはこれはリィリア殿下! お久しぶりにございます! このカーマセ・ゴーマン侯爵家の当主自ら教鞭を振るうに相応しくないゴミが紛れておりましたので、それを掃除しようとしたまでですよ」

「聞こえなかったですか? 一体なんの権限があってそんな事を?」

「権限? ああ、無知な殿下に教えて差し上げましょう! 学院の教師は、生徒として相応しくない人間を排除する権限があるのです! ですので⋯⋯、手始めにそこの冒険者などと言う下賎なゴミの子を排除しようと──」


 カーマセという馬鹿は今、この国の王へと唾を吐いた。それを理解しているのはこのクラスにいる馬鹿以外の全員。そしてリィリアは恐ろしい程に笑顔になった。


「そうですか。では、ブラックランク冒険者である、父、いえ、国王に対して下賎なゴミと貴方はおっしゃるのですね」

「え、あ、い、いえ、陛下はとても素晴らしい──」

「冒険者は下賎なゴミと? 冒険者がいなくなれば、この国は魔物からの脅威に対抗する人間がいなくなりますが⋯⋯。貴方はそれを一人で担える程実力があるとは思えません。お答えいただきましょう。貴方はどれほど強いのですか?」

「す、少なくとも金で得た首席よりかは、強いかと」


 引き攣りながらも捻り出した言葉は実に陳腐だった。


「あー⋯⋯、口挟んで悪いんだけど、ゴーマン先生って入学試験見てないの?」

「キミは⋯⋯」

「グラス・ハーケン。ベルド・ハーケーン侯爵家の者だけどさ、セリア・フォーマルハウト、世界最強とまともにやり合ったのはコイツだけだぜ?」


 まさかの援護射撃にカーマセは心無しか顔を青くしている様子。そして他の生徒達も頷いている。それでも認められないのか、吐いた唾は飲み込めないと彼は言った。言ってしまった。


「では、その実力を見せてもらいましょう!」


 苦肉の策で放った言葉に反応する人間がいた。俺にはとても聞きなれた戦闘狂ではない、穏やかなセリア・フォーマルハウトの声だ。


「えーと、カーマセ、だっけ? ウィルとキミが戦うっていう案はアタシが許可するよ。世界最強セリア・フォーマルハウトの名に於いて、その決闘立ち会うよ」

「いつからいたんだよ」

「最初から。いつも言ってるよね、常に周囲の状況を確認しろって。脇が甘いからこんなのが出てくるんだよ?」

「ん、確かに」

「よしよし、ウィルはいい子だね」


 わしゃわしゃと頭を撫でられるままにしているとその場にいる全員が目を丸くしている。メイやリィリアに至ってもだ。


「んじゃぁ、今から十分後に学院の闘技場で。ウィルはここで準備。キミは⋯⋯まあ好きにしたらいいや。はい、それじゃぁ、生徒達はアタシについてきてー」


 そんなこんなで入学早々面倒事に巻き込まれてしまうのだった。


 ⭐︎


 学院にある闘技場はざっと見て四方百メートルの正方形。石造りのそれは地面から一メートルくらい高くなっている。

 そしてそれを囲むように()()()()が観客席に座っている。


「おい」

「入学早々何してんだウィル」

「まったく⋯⋯。首席だと思えばまさかのゴーマン先生とは不運ですね」


 入場口には姉のシルヴィアと兄のカインが呆れ顔とも取れる何とも言えない表情で立っている。


「はぁ。ウィル、くれぐれも致命傷だけはダメですよ?」

「あー、そうだなぁ。あの先生弱っちぃから死んじゃうな」

「俺の心配は?」


 相手の心配をする二人に思わず聞くと今度は溜息が返ってくる始末。少しくらい心配してもいいと思うんだよ。


「剣だけの勝負だったら勝てるけど、魔法もありだったら無理」

「わたしはそもそもウィルの足元にも及ばないですよ?」

「首席二人が何言ってんだんだよ」

「実技も学科も過去最高の首席に心配なんかしてどーすんだ。ましてや世界最強の弟子だろ」


 嬉しいやら悲しいやら二人は俺が勝つと信じてくれているようだ。ならばその信頼には応えよう。


「ひっさびさに見たけど、その死んだ魚の目」

「ウィルが本気の証拠です。完膚なきまでに勝ちなさい」


 二人に背中を軽く押されて俺はそのまま闘技場へと出て行くと出迎えるのは何故か歓声で、不機嫌そうな顔をしてカーマセが立っている。


「ボクを待たせるなんてね。下級貴族は躾ができないのかな?」


 そんな嫌味を言ってくるがどうでもいい。何せ一等席で陛下が頬杖をついて心底呆れた顔をしているのが目に入ったからだ。そしてそれを知っているのかカーマセは両手を広げて声を張り上げた。


「お集まりの皆様方! カーマセ・ゴーマン侯爵でございます! この映えある王立学院へ汚い手段を使い入学し、首席の座を金で買った愚かな下級貴族がおります!」


 つい先ほど見たような騒つきではあるが、今は気にせず言い分を聞いてやろう。それが大人の対応だ。


『ウィルフィード、目が死んでいます』


 そんな分霊の言葉を無視してふと会場の隅を見るとレティアが険しい表情で腕を組んで立っていた。どうやら誰も気がつかないところを見ると隠蔽魔法を使っているのだろうか。


「そしてボクは当学院の教師に与えられた権限により、この愚かにも卑怯な下級貴族を排除致します! 陛下! この決闘は貴族としての決闘である事を認めていただきたく!」


 国王ヴァルド・ヴァイスはゆっくりと立ち上がるとカーマセを厳しい目で見つめ問いかける。それは、貴族の決闘を認めるが、勝者と敗者の誓約。


「ボクが勝てばこの者は学院から追放、及び貴族家の取り潰しを!」

「⋯⋯良かろう。負けた場合はどうする?」

「この学院を去りましょう!」


 今度は此方へと厳しい視線──に見えるが実際は呆れ果てている──を向けてくる。


「陛下、貴族の決闘とは、条件が不釣り合いでも成立しますか?」

「ああ。それが?」

「ではもう一つ、陛下が認めればなんでも良いでしょうか?」

「内容にもよるがな。お前は何を望む?」


 婚約発表はずっと後だと言っていたが、今朝の二人の反応を見る限り無理だ。陰でコソコソされるよりも今、この場でどちらかだけでも言質を取るべきだと判断する。


「では、私が勝ったらリィリア・ヴァイスを奪わせていただきます」

「貴様ぁっ!」


 激昂するゴーマン侯爵ではあるが、その怒りは陛下の大笑いによって遮られ、視界の端にいるリィリアは顔を真っ赤にして俯いている。


「まさか我が娘を欲するとは。理由次第だ!」

「私が負けたら退学と家の取り潰しです。で、私が勝った場合はゴーマン侯爵が学院を去る。私に一体なんのメリットが?」

「き、貴族の決闘をメリットだと⋯⋯!」


 いちいちゴーマンが反応してうざったいが無視を決め込む。今は未来の義父と話しているのだ。


「⋯⋯確かに。負ければ取り潰し⋯⋯国外追放ではあるが、勝っても何もない。良かろう、ウィルフィード・レオニス! 貴様が勝てばゴーマン侯爵は追放! 我が娘、リィリアを許嫁とする!」

「陛下! それではあまりにも!」

「どうしたゴーマンよ。貴様も娘が欲しいのか?」

「い、いえ、そうゆうわけでは⋯⋯。あまりにも不釣り合いな条件でございます!」

「貴様が勝てば、ウィルフィードは退学と家の取り潰しだ。貴族家の取り潰しは軽いものではない。国の存続に関わることでもある。そしてリィリアは第三王女だ。取り潰しに対して過剰というわけでもあるまい?」


 ニヤリと陛下が口角を上げたかと思うと、とても意地の悪い事を簡単に言ってしまうあたり俺の考えに気がついているのだろう。


「それとも貴様はおれの言葉に意見する気か?」


 王でありブラックランク冒険者の圧は離れていても簡単に届くものなのだろう。圧をかけられたゴーマンは片膝をついて頭を下げている。もっともその体は小さく震えているのが可哀想だと思わなくもない。


『話は纏まった? それじゃあ、両者構えて!』


 ゴーマンは怒り狂ったような表情で、右手には魔法杖と左手には短剣を持ち、脚は肩幅に開いている。


『始め!』


 開始と同時にゴーマンの魔法が展開されるのを眺めながら一歩ずつ近づいていく。魔法使いにとってこれほど不気味なこともない。ましてや魔法使い同士の戦いというのは基本的の近づかない。世界最強セリア・フォーマルハウトを例外として。

 そして発動された魔法は火炎槍(フレイムランス)と呼ばれる火系統の魔法で貫通力はあるが、直進しかしない魔法。展開されたものは全部で五本。中々に魔力操作は上手いようだが、それだけだ。魔力量は多くないのだろう、一本一本に込められた魔力は少なくコケ脅しもいいところ。


「くらいなさい!」


 直進するすべての魔法を手を添えるだけで軌道を変えて、一歩ずつ近づく。大人の腕であれば手が届く距離。そう判断したゴーマンは短剣を振りかぶり、斬りつけてくる。

 判断は悪くない。けれど遅すぎる。もう既にここは俺の有効射程だ。


「なっ!?」


 振りかぶられた短剣の柄尻に思い切り掌底を叩き込み、短剣を飛ばす。ガラ空きになった胴にすぐさま鉄山靠をキメると、面白いほどにゴーマンは吹っ飛んでいく。それを追撃するために足の裏で圧縮空気を炸裂させ、追いつくと同時に踵落としで闘技場の床へと沈める。


『勝者、ウィルーーー!』


 拡声魔法を使って宣言したセリアはそのままこちらへ歩いてくると目線を合わせて言った。


「ウィル、アタシはそんな戦い方教えてないよ。魔法使いに対して魔法を使わせてはダメ。幸い相手は弱かったけど、これが手練れや血統魔法なんかを使う相手だったら死んでた可能性もあるの。わかる?」

「ん」

「アタシは世界最強だけど、負けなかったわけじゃない。相性の悪い相手もいるの。常勝不敗になれとは言わない。けどね、自分を危険に晒す戦い方は感心しない。これは師匠としてウィルへの忠告」


 いつもより少し厳しい表情のセリアは次の瞬間には破顔した。


「でも、個人的には、よくやった! さっすがアタシが見込んだ弟子だね!」


 そうして最後には頭をわちゃわちゃと撫でられた。

 だがそこで俺は気がついた。


「お前拡声魔法切ってねぇな!?」

「あっはっはー! これはウィルだけじゃない、これから貴族の勤めを果たそうとする全員に言える事だからね」


 いい笑顔のまま会場の生徒を見渡してセリアは言う。


「キミ達も覚えておくといいよ! 魔法使いだからと剣や拳を疎かにしないこと! 身体は全てにおいて資本だよ!」


 自分の言葉に全校生徒が気持ち良い返事を返した事で満足したのかセリアは閉会の宣言をしてお開きとなった。


 ──あれ、何か忘れているような気がする。

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