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食い倒れ女神と退学勧告

新年おめでとうございます

今年もよろしくお願いします

 入学試験で意識を失ってから三日間俺は眠っていたらしい。その間に消費した魔力が異常な程の速さで回復した上に、最大魔力量も爆発的に増えていたのを不審に思った駄女神ことレティアが毎日こっそり様子を見に来てくれたのと、分霊が原因を探るために無理矢理寝かせていたとの報告を二人から受けた。その結果として俺は転移魔法を使えるようになった。


「まぁ、大方セリアとの入学試験のあれが原因だろうよ」


 俺の見解と分霊の見解も一緒で、消費した魔力は自然界に存在する魔力を取り込む事で回復に回していくうちに過剰に取り込んだせいだというのがレティアの見解。ついでにいうと、転移魔法で秘密基地にきている俺は明日から学院に通うことになるが、距離は関係ないので魔力があればここと自宅を行き来するのは簡単な事だ。それ故に寂しがっていたレティアの相手をするついでに聞きたいことも聞いておく。


「レティア、もし良かったら王都に来るか?」

「たまにこうして来てくれればそれで。でも収納魔法のリンクは切らないで」

「いいけど、何してんだ?」

「受肉したとはいえ女神なので魔力は腐るほどあるんですよね。だから、純度の高い魔力結晶を作り置きしてるんですよ。世の中何があるかわかりませんし、スローライフでしたっけ? それの資金源にもなるでしょうし。面白い事は歓迎」


 なんともまぁレティアらしいというか、やはり女神は暇なんだろうな。

 それよりも、だ。


「収納魔法のリンクって事は任意なのか?」

「うーん、任意というか、一応ウィルとの契約魔法で受肉したから眷属扱いなの。だから眷属はウィルの判断で収納魔法が使えると思う。相互で出し入れ可能な感じかな?」

「そいつは便利だ。うん⋯⋯便利だなぁ」

「うわっ、ウィルが死んだ魚の目をしてるっ?! 悪い事考えてなきゃいっか」


 その後販路拡大のために、どこまで契約魔法が有効でどの距離までリンクが可能なのか検証する事をそっと誓った俺であった。


 ⭐︎


 自宅に戻った俺はそのまま収納魔法を使ってレティアへとどこまで可能なのか協力を要請。と言っても難しい事はない。王都からどこまでの範囲で共有可能なのかの確認する為にレティアには各国へと転移してもらうだけだ。魔力が腐るほどある上に女神として地上を見ていたので行けない場所はないと確信しての依頼だ。報酬は各地のスイーツを好きに食べていいと言ったら秒で消えていった。現金なやつだ。

 なんて思っていると収納魔法に魔力がぐいぐい吸われていく感覚を覚えて、何が起こったのか確認すると⋯⋯。


「あんのクソ駄女神!」


 各地の大量のスイーツと魔物の魔石、挙句には手紙が入っていた。


『もう食べられません』


 そんな内容にイラついた俺はレティアとのリンクを切るのだった。


 ⭐︎


 食い倒れたレティアを放置した次の日は入学式。つつがなく終わるかと思いきや在校生の挨拶で姉さんが出てきた事には驚いた。どうやら姉さんは学院の最優秀生徒として壇上に立ったようで、知らない俺は驚いて一瞬腰が浮いたのは内緒だ。

 答辞はリィリアで、流石に第三王女を差し置いて誰かが挨拶するわけにもいかないかと納得した。

 勿論壇上の二人と目があったのはいうまでもないだろうか。

 教室へと移動するとものの見事にリィリアとメイと同じクラスだったのは最早何も言うまい。大人達の都合だ。

 クラス発表を確認した俺達は取り合えず集まってみたが、リィリアにクラスが同じ事をなんとなしに聞いてみたら微妙な顔をして言う。


「ええ、間違いなく陛下──お父様の御意向ですね」


 逆にこっちのほうが色々と都合がいいのは確かだ。何かあった時に護りやすいし、変な虫が寄ってくるということを考えると近くにいた方が絶対いいと断言できる。


「それで、ウィルは冒険者としての活動はどうするの?」

「ああ。授業がどんなもんかもわからないし、暫くは活動しないと思うけどどうだろうなぁ」


 なんて言っていると、聞きなれた声で声をかけられた。


「ナインさん?」

「久しぶりだね。まさかキミがここの生徒だったとはね」

「お久しぶりです。ナインさんはどうしてここに?」


 金髪のポニーテールを元気に揺らしながら、赤い鎧を着て、腰には剣を履いている。それがまた髪色とマッチしてなんともまぁ似合っている。そんな彼女はゴールドランクの冒険者でそれなりに強い。そんな彼女が入学式にいたとは思いもしなかった。


「アタシは一応ここの臨時講師として登録してるんだよ。キミは今年からここの生徒ってことでいいんだよね?」

「はい。兄が騎士科で姉が魔法科に在籍しています」

「あれ、キミの名前って⋯⋯」

「ウィルフィード・レオニス。シルヴィア・レオニスとカイン・レオニスが姉と兄です」

「あー、どおりでね。シルヴィアは剣の腕はないけど魔法は凄いって噂だね。確か高等部一年にして全学年トップクラスの実力だそうだね。カインは⋯⋯ちょっと脳筋なのがアレだけど腕だけは確かだ」


 どうやら姉と兄もナインさんの世話になっているようでなんとなく安心した。そして二人の評価をしてくれているというのもありがたかった。


「ああ、ナインさん。紹介するね、リィリア・ヴァイスとメイ・デルフィ。二人ともクラスメイトなんだ」

「ちょ、ちょっと二人って⋯⋯」


 二人の名前に慌てるナインさんだったが、それをリィリアが構わないと告げて胸を撫でおろしている。冒険者なんて基本的には作法がなっていないというのはラノベでも語られているが荒事が多いのでそればっかりは事実なのだろう。口調は丁寧ではあるが、彼女も荒事をする冒険者だからやはり苦手な部類なのだろうか。


「ナイン先生は、剣の講師をしていらっしゃるのでしょうか?」

「え、ええ。といっても、騎士科には騎士団長自らたまに指導が入るので」


 そう言って眉尻を下げる彼女の言いたい事は解る。臨時とは言え騎士団長が教えている生徒に何かを教えるというのが重荷なのだろう。けれど、それはそれで騎士団の剣と冒険者の剣というのは違いがある。


「騎士団の剣は多分ですけど、綺麗な剣ですよね?」

「⋯⋯キミは凄いね」

「それが答えとして受け取っておきます。ですが、冒険者の剣というのは魔物や人と相対するためにそれぞれが最適化した動きだと考えてます。だから、騎士科の剣を綺麗な剣というのであれば、冒険者の剣というのは泥臭くて汚い。けれど、それを教えなければならない。綺麗な剣が濁るというのは騎士団からしたらきっと嫌なんでしょうけど⋯⋯。死ぬよりいいんじゃないですかね?」


 俺の言葉に女性達三人は感嘆の息を吐くと笑った。

 何かおかしい所があっただろうか?


「うん。キミの言う事は尤もだね。そうだね、死んだら意味がない。うん、生きる為には割り切らないとね」

「兄さんに関しては心配ないですよ。あの人脳筋だから強くなるなら何でもいいでしょうし。あ、でももし外道になりそうだったら再起不能にしてもいいですよ」

「実の兄なのに容赦しないね」

「三歳くらいの時からアレの相手してますからね。手加減できない馬鹿のまんまじゃ困ります」


 ほんとに。アレは父さんによく似て脳筋だ。ある意味母さんも脳筋ではあるのだが、それは現役の冒険者だからという事に今はしておこう。


「それで、臨時講師のナインさんは今日は?」

「ああ、騎士科の新入生に挨拶をと思ってね。それはそれとして、キミ世界最強の弟子なんだってね。教わることないんじゃないかな?」

「それについてはちょっとした事情がありますので学院には通いますよ。冒険者としての活動もしますが」

「だったら早めにランクを上げてくれると助かるかな。戦力は一人でも多い方がいいし」


 憂を持つ表情で言う彼女に嫌な予感を覚えながらもそのまま別れて教室へと移動すると、階段上になった座席に大きな可動式の黒板。どこの大学だと思ったが一応飲み込んでおこう。

 座席表が黒板に貼られていて、俺は一番後ろの窓際。その前にメイとリィリア。最後に入室した俺達を見る視線は様々だが、主に俺に向けられるのは侮蔑の視線。

 それもそうだ。なんせ王族と辺境伯という上級貴族の子供二人と一緒にいるのは子爵程度の子供。身の程を弁えろってところか。


「嫌な視線ね」

「ええ」


 二人の言葉を聞こえないフリして座席へ向かうと一番前に座る赤い髪の少年は急に立ち上がり俺の行く手を阻む。


「ん?」

「お前、首席だろ?」


 少年の言葉にクラスが一瞬騒つくが背後から嫌な気配を感じて振り向くと、リィリアがとても良い笑顔で黒いオーラを纏っているのを確認。アイコンタクトで少年に『止めろ』と伝えると、理解が早く無言で頷いた。代わりに握手を求められたので握力勝負かと思ったが違うらしい。


「勘違いさせて悪い。ただ、今年度の首席を狙ってただけに、どんなやつなのか知りたかったんだ」

「成る程。血の気が多いのかと思ったが、友好的であれば此方もそれ相応の対応をするよ」

「グラス・ハーケーン。ベルド・ハーケーン侯爵の息子だ」

「ウィルフィード・レオニス。オルグ・レオニス子爵家の次男だよ」

「マジか! ブラックランクの!」


 今度は違う意味で騒ついたが、何故かリィリアは誇らしげなのが可愛いところだろうか。

 そんな挨拶もそこそこに担任と思われるイケメンが入室してくるが、今度こそ嫌味なヤツだった。


「今年の首席は下級貴族だという話は本当だったんだね。キミがウィルフィード・レオニスだね?」


 真っ直ぐ俺を見据えてそう言うイケメンに片眉を上げて反応するとイケメンは笑う。


「似てないね。出涸らし次男との噂も本当だ。見た目が貧相だ。このボクが教えるに相応しくない。学院から去りなさい」


 三度目の騒つきは入学早々の暴言だった。

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