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自重なんかドブに捨ててきた

年内にはもう一話いきたい⋯⋯

『暇になりました』


 入学式前夜一人風呂でくつろいでいると唐突に声が聞こえた。どうやら女神の仕事を押し付けられた分霊が戻ってきたようだ。


『この世界を視るという事は確かに新しい発見もありましたが、暇です。本当に視るだけですので。女神は悠々自適に自堕落に過ごしています』

「あー、うん。しばらくはいいよ」


 長いこと一人で世界を視てきた女神だ。それくらいはいいだろう。というか女神業社畜過ぎて不憫だというのは本人には言わないでおこう。


「暇だからってだけで戻ってきたわけでもないんだろう?」

『はい。年齢にそぐわない魔力と魔法を扱うので少し自重した方が良いかと』

「その心は?」

『学院とやらは王国が運営している場所です。王家に目を付けられたら⋯⋯いえ、もう遅かったです』


 うん、凄い遅い。なんたって婚約者が王女なのだから。継承権は低いとはいえ、それでも相手は王女だ。これから面倒ごとにも巻き込まれるであろうことは理解している。それでも、リィリアの人となりを俺は好いているわけなので、俺が助けになる事があれば遠慮なくこの力を行使する。


「しっかし、女神も自堕落極めるのは構わないが、時折凄い魔力減るんだよね」

『⋯⋯何やら夜な夜な魔法を使っているようです』

「いいんだけどさ。おかげで俺の魔力がうなぎ上りよ」

『ああ、なるほど。どうやら収納(ストレージ)に色々と作っていれているようです』

「ん? そういや最近見てなかったけど、そもそもできるの?」

『一応眷属という扱いになっていますので、共有されているのかと。女神といえども私は分霊ですし、神は全知でも全能でもありません。万能ではあるのでしょうけれど』


 そう語る分霊の言葉はどこか疲れているようで何かできないかなと考えていると、それを読み取ったのか彼女は言った。


「できなくはないけど、どうしたらいいんだ?」


 どうやら彼女も現世にきたいようではあるが、分霊として今女神に任されている事もある。だからどうしたらいいのかという所で、目の前に唐突に水飛沫が上がった。


「呼ばれてないけど飛び出てきましたよ! お悩みですね、ウィル!」

「クソ女神テメェ」

「いやん! そんな怖い顔しないで! とまぁ分霊も現世にって事ならもう少しだけ待っててね。それにしてもお風呂なんて贅沢ね!」


 水飛沫が盛大に頭にかかったと思えばいつの間にか全裸で仁王立ちしている女神本体は言う。


「そろそろ寂しいんだけど、転移魔法覚えた?」

「まだ。つーかレティア、少しは隠せよ」

「あら、ウィルは子供なのにわたしに欲情するにかしら?」


 何を馬鹿な事を言っているのだろうかコイツは。


「はっ」

「あー、今鼻で笑った! ウィル、今すぐキミの魔力を枯渇するほどの魔法使ってもいいんだけど?」

「やってみろよ。その代わりお前は不法侵入で突き出されるが?」

「うがー! 可愛くない! 見た目は可愛いのに中身がおっさんなんて!」

「やかましい。⋯⋯つーか、なんで俺があのオカルトじみたことやった時に間違えて死んだって言ったんだ?」

「あー、あれって実は魔術式なの。キミのいた世界は魔力を持つ人間が少ないから、基本問題はないんだけど、少なからずキミはあったからね。だから変な魔力を感知して覗いたらそのまま魂まで引っ張っちゃったの。霊感、あったでしょ?」


 言われてみれば確かにない事はない。色んなものを見てきたし、怖い目にも遭った。だから俺は基本的にオカルトの類は信じないように生きてきた。けれどまぁ限界だったんだろう。色々と。


「んーでもなぁ、あの魔術式って成功する確率云々よりも、此方に繋がる確率の方が低いのよね。ま、細かい事はいいか。それでね、ウィル。転移魔法早く使えるようにして。これは女神からの忠告。それじゃ、ウィルのスローライフとやらが早く達成されることを期待してるよ」


 それだけ言って唐突に現れた駄女神は唐突にいなくなった。


「つか、転移魔法使ってんじゃん」

『女神ですから、あれでも。それではウィルフィード、一つお願いがあります』

「契約魔法か?」

『それは追々。元々ウィルフィードと共にいることが命題なので、このまままた魂を間借りします。その代わりと言ってはなんですが、全力で補佐をします』

「願ったり叶ったりだけど、急にどうした?」

『⋯⋯暇です』


 どうやら分霊も俗物だった。


 ⭐︎


 翌朝俺はリューとターニャに見送られて王立魔法学院へと向かっていた。メイとリィリアはいない。流石に男爵家と辺境伯、王家の娘が一緒にいると面倒になる。


「でか」


 遠くからでも見える建物は一見王城のようにも見えるが、大きさがバグっている。現世にあるようなんとかタワーと同じくらいかと錯覚してしまうほどにはでかい。


『地上高約三百メートル。広さは⋯⋯無駄に広いと言っておきます』

「もうタワーじゃん。魔法があるから高くてもいけるってか?」

『ウィルフィードの世界にもありますが、この世界では非常識な大きさである事は間違いありません』


 そんな無駄な情報に辟易しながら学院の中へと歩みを進める。校舎に入る前に受付を済ませて、学科試験野会場へと向かう。

 一体どこの大学だと思う程の広さがある一室には既にリィリアとメイが座っている。二人と少し視線を合わせて目礼をしたのちに自分の番号が置いてある席へと座る。

 まさか転生してまで受験をするとは思わなかったが、そんなものはどうでもいい。最強の補佐分霊に答えを教えてもらう。


『構いませんが、勉学を疎かにする事はお勧めしません』


 勿論勉強はするが、俺は自重なんかしない。使えるものはなんでも使う。これも俺のスローライフを実現させるためには必要不可欠な実績にもなる。

 という事で分霊の補佐というカンニングをして学科試験を余裕でクリア。午後からは実力試験らしいが、内容は試験監督の教師と一騎討ち。木剣を使っての試合らしいが、魔法もアリだ。

 昼食を摂って少し昼寝した後は身体も脳もバッチリ元気だ。これで午後の試験も楽勝だ──そう思っていたのが間違いだった。


「はっはっは! 剣筋は悪くない! むしろ成長してる! けど、魔法に重きを置いているのがバレバレだなぁウィルゥゥゥ!」

「っざっけんな! なんでテメェが実技試験の監督なんだよ! 全員不合格だろうがよ!」


 そう、実技試験の監督とは、世界最強であり、俺の師匠のセリア・フォーマルハウトその人だった。いつもの面倒臭そうだけれど女性っぽい感じはなりを潜めて今は完全に戦闘狂になっている。


「ほらほらぁ! 防戦一方じゃないか! そんな鍛え方してないんだけどなぁっ!」


 鞭のようにしなる長い足から放たれる蹴りは決して子供に向ける威力などではない。この女割とマジで攻撃してきている。何が木剣を使った実技試験だ。こんなやつ相手に木剣など紙切れ以下にしかならない。


「うるせぇよ! 最近テメェがどっかほっつき歩いてるせいで鍛錬もクソもねぇだろうがよ!」

「うをっと! 今の一撃はいいねぇ! でも甘い甘い」

「子供相手にムキになってんな! 死ぬぞマジで!」

「そんな柔な鍛え方してないでしょ? ほら、流れを止めるなって何度言ったらわかるのさ!」


 的確に、確実に俺の攻撃の流れがキレたところで一撃を放ってくるもんだから最早これは試験などではない。いつもの鍛錬になっている。それでもこの女は試験監督として仕事をするのが問題だ。


「剣技はダメだね。オルグには到底届かない。剣の才能はなし! 魔法は言うまでもない。だからそろそろ格闘に移ろうか!」

「実技試験は木剣だけじゃねぇのかよ!?」

「はぁ? んなわけないでしょ? この試験は適正を見る試験だよ。魔法学院とは言っても騎士科もあれば魔法科もある。総合的に良ければ剣も武術も魔法も扱う総合科もある。商業科だってある。まぁ、細かいことはいいよ。アンタは総合科もいけるけど、これは一つの区切りさ」


 先程の激しい打ち込みから一転してセリアの動きは止まる。けれどこれは鍛錬でよくやられた世界最強(セリア)の技だ。


「ほら、受けないと死ぬよ?」


 一瞬だけ、音も風も全てが止まった。その瞬間、もうすでにその技は放たれている。

 世界最強が世界最強と言われる所以の技。ノーモーションからの神速の一撃──無極。


「⋯⋯合格だよ、ウィル。間違いなく主席だよ」


 停止から最速へ。そして停止。所謂ゼロ・マックス・ゼロという人体に負担しかかけない一撃。


「やっと避けれたか」

「んまぁ、取り敢えずはね。生きてるからいいよ。でも鍛錬は次の段階に行くから覚悟してね」


 一歩後ろで言われた言葉を聞きながら俺の意識はそこで途絶えた。


 ⭐︎


 今ので大体四割くらいの力は出せただろう。それほどにウィル(弟子)は成長していた。喜ばしい事ではあるが、正直やりすぎたと反省をしている。学院に入学する年齢でここまでの強さは異常だ。


「しかも⋯⋯無極を遂に避けたかぁ」


 倒れるウィル(弟子)を支えて思わず初めて会った日の事を思い出す。


「ま、当時でも異常な強さだったし。いっか」


 ウィル(弟子)ウィル(馬鹿)なのだ。恐らく自身の能力を遺憾なく発揮するだろう。婚約者が王族と辺境伯の娘なのだし。


「更なる強さを期待するよ」


 そしてその後、めちゃめちゃ怒られた。

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