初依頼と面倒ごと
コロナだなんだと色々あって遅れました。
ちゃんとあげますよ!
「それじゃ、冒険者登録してくるから」
そう言って家を出たのが一時間くらい前。
そして今俺は冒険者登録にギルドへと来ていたが、ここで一悶着あった。というか、テンプレ通りの絡まれ方をした。
やれ、子供は家でおっぱい吸ってろ。やれ、子供の遊び場じゃないだのと。そして一人冒険者の女性が間に入ったが、その女性は冒険者としてもうゴールドランクでそれなりに強い女性だった。絡んできた冒険者は見た目おっさんだったがどうやらシルバーランクだったらしく、女性に睨まれただけで悪態をついてギルドを出ていった。
「キミ大丈夫かな?」
「ああ、はい。ありがとうございます」
「アタシはナイン。キミは?」
「ウィルフィードです」
自己紹介をして握手をするとナインという女性はギルドのカウンターへと俺の手を引いて歩く。受付嬢に声をかけて俺を案内したあとは何処かへと行ってしまった。
「登録ですね」
「はい」
「それでは、こちらに名前と希望するロールを記入してください。文字が書けないようであれば代筆します」
受付に必要ない事を伝えてしっかりと記入すると受付は少し驚いたような表情をした。
この世界の識字率というのはそれ程高いわけではない。勿論王都にいる人間は多少なりとも書くことはできる。読めるのは読めるが、書くとなると難しい人間が多い。子供のうちからそれができるのは貴族か学者、魔法使いの弟子なんかが多い。それでもその辺りを詮索することなく黙っている受付は優秀なのだろう。
「お願いします」
「はい。⋯⋯確認しました。問題ありません。それではこれに魔力を流してください」
一枚のカードのようなものを渡されてそれに魔力を流す。こうすれば登録できるのかと考えていると受付嬢はにっこり笑う。なんだか嫌な予感がする。
「も、もういいか──」
「それでは初めての依頼をお願いします」
「え、ちょ、え?」
「最近魔法適正のある冒険者が減っていまして」
依頼の内容は単純で、ギルドの加工工房にある魔石の魔力の補充。起動に魔力を使うが、補充するだけの魔力を持っている人間がいないらしく、基本的に魔力は減る一方。しかし肝心の補充する魔法使いが今はちょうど出払っていて、このままでは滞るから助けて欲しいという依頼だ。
それくらいならと引き受けて工房に案内されて、その熱気に一歩たじろいだ。
屈強な男達が魔物を解体して、次々と素材を剥ぎ取っていく。傍ではその素材を熱して形を変えて武器や防具を仕立てていく。それぞれがそれぞれの役目を最短最速でこなしていく様はまさに職人技だ。
「こちらが当ギルドの魔石です」
そうして案内されたのは工房の奥にある部屋で、そこには直径五メートルは超える大きな魔石が鎮座していた。それはもう堂々と。
「でっか⋯⋯」
「この魔石は王都を襲撃した古龍の魔石とも言われております。ずっとこの魔石の魔力を継ぎ足して使っていたようですが、魔法使いに依頼が大量に来まして⋯⋯」
「そんで、今日正に登録したばかりの魔法使いなら依頼もないからちょうどいいと?」
「はい。お恥ずかしながら、魔法使いになれるほど魔力を所持している者はいないんです。補充した分だけ報酬は出しますので」
「そうゆう事なら。触ってもいい?」
了解をとってから魔石に手を当てると気のせいかほんのり温かい。そして、なんとも言えない威圧感があった。
──こいつ、魔石なのに生きてる?
最初の感想はこれだった。人肌より少し高い温度で手のひらに伝わる熱はどこか鼓動を感じているのではないかと錯覚する。
「んじゃ、失礼して」
右手に意識を集中させて魔力を送り込む。少し流れたなと思った瞬間には一気に持っていかれた。
「っ!?」
根こそぎ奪われるんじゃないかと思うほどに際限なく魔石は俺の魔力を吸い上げていく。けれど、それもすぐに穏やかな流れに変わっていった。体感だとまだ魔力に余裕はあるが、魔石の容量が先に満たされていった。
「⋯⋯大食らいめ」
余裕はあるが、それでも魔力の半分以上を持っていかれるとなると流石に体はダルさを感じて、視界は回る。
「凄い⋯⋯」
「こんなもんで、どうでしょうか?」
収納魔法にしまっておいた魔力回復薬を飲んで魔力を回復させると受付嬢は目を丸くして驚いていた。
「満タン⋯⋯? でも、そんな魔力量なんて」
「これでギルドもしばらくは気にしなくてもいいと思うんだけど」
「え、ええ。確かに、これであればしばらくは必要ないかもしれません」
驚く受付嬢とは逆に今度は魔石が置いてある部屋に大きな声でずかずかと入ってくる男が一人。
スキンヘッドに立派な筋肉。右手には鍛冶師なのかハンマーを持っている。
「おい、魔石の魔力はどうなって──は?」
「あ、ベックマンさん。魔石の魔力は今、こちらのウィルフィードさんが補充してくれました」
「おいおいおいおい! 魔石の魔力が満タンじゃねぇか! おい、クソガキ! テメェがこれをやったのか!?」
一瞬にして距離を詰めてきたと思ったら額が付くほどの距離でそう大声をだされて、少しだけビビる。大柄な男にこうまで詰め寄られると子供としてはやはり怖いものがある。
「そ、そうだけど、ちょっとおっさん近いって!」
「お? ああ、すまんな。いや、まさか生きてるうちにこの魔石が満タンになるのを見れるなんて夢みてぇでな。コイツは、俺の先祖が遠い昔に討伐したドラゴンの魔石だっていう話でな。いいもんみれたぜ、感謝する。んで、お前がこの魔石を満タンにするほどの魔力を?」
「う、うん。流石に半分以上持ってかれると疲れるけどね」
「はっ! こいつ満タンにして半分以上だなんて言ってる時点で異常だよ! だが、感謝するぜ! これで心置きなく魔物の素材で武器やら防具が作れるってもんだ!」
大笑いをしながら俺の背中を叩くベックマンという男はそのまま大笑いをしながら去っていった。嵐のような男だったが、悪い男ではないのだろう。力加減はなっていないが。
「えっと、それで成功でいいですか?」
「は、はい! 通常の魔法使いが補充する魔力量からこの魔石を満タンにする魔力量を算出して報酬をお出ししますので、しばらくお時間をいただけますか?」
「ああ、それについては、はい」
「それでは、依頼成功の手続きをしますので、もう一度カウンターへお願いします」
受付嬢についていき、手続きを済ませるとそこでようやっと俺のランクが分かった。とはいったもののよくある異世界モノと同じでランクは下位のブロンズランクから始まる。
「一応そのカードは無くすと再発行に時間もお金もかかるので無くさないようにしてください。それと、ギルドの口座にお金を入れておくこともできます。今回の報酬は一度口座に入れておきますが、額が額ですので時間がかかるのはご理解ください」
それに了承してギルドを出ると見知った顔があった。
「久しぶりね」
「ちょ、なんでここに?」
「婚約者に会いにくるのに何か問題でもある?」
「いや、ないけどさ⋯⋯」
片手を腰に当てて片眉を上げたメイ・デルフィだった。
「あのね、折角同じ学院に通うんだから、教えてくれたっていいじゃない」
「そうだね、ごめんね」
「⋯⋯いいわよ。それで冒険者ギルドにいるってことは、登録したのね?」
「まぁね。なんの因果か俺の両親も婚約者二人の親も冒険者みたいだし、負けてられないかなと。あとはスローライフのために今から貯金」
「ホントずっとそればっかりね。それでこれからの時間は空いてるのかしら?」
「勿論。と言いたいところなんだけど、ちょっと行きたいところがあるんだ」
俺はこれから武器を見に行かないといけない。ついでに地下倉庫に保存しておく食料などなどの買い出しだ。
「そう。ウィルフィード、シーガルって商人知ってるかしら?」
「シーガル? あいつがどうかした?」
「⋯⋯そう。ちょっと貴族に捕まっててね」
「あいつが? そんなヘマするやつじゃないと思うんだけど」
「聞いたところによると、彫刻職人が作った貴族用の彫刻の作り方を教えろってことで捕まってるのよ。コルジオ侯爵家に」
何ともまぁ面倒な事だ。というかそもそもどうしてそれをメイが知っていて、ここにいるのだろうか。
「行商シーガル。彼は結構有能でうちでも以前から色々お願いしていたのよ。それで連絡取れないと思ったら彼の奥さんが子供を連れて家に来たってわけ。丁度うちで依頼してた商品があったから何か知らないかとね」
また大胆な嫁さんだなぁ。貴族の家に商人の妻が凸るとか。下手すりゃ消されるくらいには危険だろうに。
「まぁ話はわかった。リューにでも聞いたんだよね?」
「ええ。それでウィルフィード、どうするのかしら?」
心配が上回っているのだろうメイは不安そうな顔をしているが、問題ない。どうやら数年経っても中身に変化がないと再認識できただけでもよしとしよう。
「仕方ない。出来ればやりたくはないが、協力してもらおうか」
「協力? 誰に?」
「そんなもん、俺の婚約者に決まってるじゃないか」
⭐︎
「そういったわけだ」
「仕方ないですね。ウィルフィードの懇意にしている商人であれば今後はわたくし達も会う機会は増えるでしょう。ですがウィルフィード、ひとつ聞きます。今後も何かあるたびにわたくしの名と権力を使うおつもりですか?」
厳しい表情でリィリアは俺へと問いかけた。言いたい事は理解した。だから俺の考えを素直に話そう。
「時と場合によるな。今回の件に関しては別にリィリアの名前も権力も借りる気はない。ただ、俺と一緒に来てくれればそれでいい」
「詭弁ですねぇ」
「ああ。でも、俺はリィリアの名前を出す気はない。向こうが勝手に勘違いするだけだ」
「でも、ウィルフィードがそういうのでしたら、そうなのでしょうね」
リィリアの同行があったが故にコルジーノ侯爵家には問題なく入れた上に、やはり勝手に勘違いをしたコルジーノは脂汗を流しながらシーガルをこちらへと戻してくれた。シーガルは珍しく目を開いて驚いていたが、その顔が見れただけで今回は良しとしよう。
「ああ、そうだ。シーガル、例の彫刻職人だけど」
「大丈夫っスよ。オイラも事前に話は通したっス」
そして去り際にこんな茶番にもシーガルは即興で付き合ってくれたりもした。
「それでウィルフィード様、オイラとしちゃ今後ともいい関係をと思うっス」
「お前次第じゃないか?」
「手厳しいっスね。でもまぁ、次は帝国の方にでも足を向けるっスよ」
「お、じゃあ土産は期待していいか?」
「冗談言わないでくださいっス。貴族様への土産なんてオイラの懐事情じゃ無理っス」
勿論帝国へ行くというのは嘘。シーガルは今王都での出店準備に大忙しで、今回は運悪くコルジーノに捕まっただけだ。これでコルジーノの目が帝国へ抜けば邪魔は減るというものだ。
コルジーノ侯爵邸を後にすると耐えきれなかったのかリィリアは可愛らしくて笑っていて、シーガルも笑い出した。こっちはこっちで笑い事じゃないから勘弁して欲しいものではあるが仕方ない。
「まったく、お前なぁ」
「いやぁ、すんませんっス! しかし旦那も人が悪い。まさか殿下を連れてくるなんて。オイラも流石に驚いたっスよ」
「俺はリィリアに同行を頼んだだけだよ。勝手にお前が勘違いしたんだよ。勿論コルジーノもな。シーガル、店はどうだ?」
「ええ、もう少しっス。多分来週くらいにはできるっスから、その時はお客様一号として来て欲しいっス。勿論売上貢献もお願いしたいっスね」
本当にコイツはちゃっかりしている男だ。だが、こういった事を気にせず伝えてくるこの男の事を俺は気に入っている。勿論それは言わないが、リィリアの表情を見る限りだとバレているのだろう。
「そうだ、シーガル。お前がコルジーノのところに捕まったってメイが教えてくれたんだから、礼はしとけよ?」
「辺境伯様のご令嬢っスね。わかったっス。ああ、それとこれはオイラ個人的なお願いっスけど、例の彫刻は本当にオイラのところで専売でいいんスか?」
「おう。お前が俺にとって不利益にならない限りはな。というよりも、お前が家族を裏切らない限りはだけどな」
「そうっスか。じゃあオイラが生きてるうちは問題ないっスね」
「次代でどうなるかは当人達に任せるさ」
「それでいいっス。それじゃ差し当たって──」
そんな話をしながら俺達は家に戻ったが、待っていたメイに何故馬車を使わなかったのかとこっ酷く叱られたのだった。
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