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増築と新たな商売の種

遅くなりましたがエタってないですよ。

 王都へと引っ越しをしてから一週間が経った。リューとターニャに一応同行の意思確認をしたら、そんなものは確認するなと怒られたのは意外だった。

 両親が使っていた家というのは冒険者ギルドと学園のちょうど真ん中辺りで、一応貴族街にある。両方とも徒歩十数分の距離なので意外に便利だった。

 家は屋敷と呼ぶには小さいが、普通の家よりも相当広い。一階小さいが玄関ホールと右手側に食堂、その奥がキッチン。左手側には三部屋あって、リューとターニャのそれぞれの私室。

 二階に上がると食堂の上が応接室で、その奥が執務室。メイド二人の私室の上には二部屋あって、広い方が俺の私室。もう一部屋は客間にでも使えそうだ。

 風呂は一応各部屋にもあるが狭い。トイレも各部屋完備。

 しかし、驚くなかれ、この家、実は広い風呂がある。離れの様な小屋があるなと思ってみると銭湯のような雰囲気の広い風呂。湯船も当然広くてのんびり入れる上に、本当に銭湯のような作りをしている。男女別れているわけではないが、時間を決めて入ればいいだろう。水は魔法でどうにかなるし、この世界は王都にはしっかり下水道がある。水は魔石を使って魔力を流すと出てくる仕組みで、魔石自体は簡単に買える。交換頻度はキッチンなら大体普通に使ってひと月。風呂程大型のものなら一週間程度で交換とこちらは頻度が高いが、俺には魔法がある。だから出費も抑えられるわけだ。


「ウィルフィード様、そろそろリィリア殿下がいらっしゃいます」

「おぉぅ⋯⋯」

「ウィル様、流石にその反応はダメですよー?」

「いや、言いたい事はわかるけどさ。王女がそんなホイホイ出ていいもんなのか?」


 そんな会話をしながら一応婚約者の彼女を待っていると、一台の黒塗りの馬車が家の前に停まった。リューとターニャが急いで門を開くと馬車がそのまま入ってきて、俺の前で停まった。


「おー、馬だ。馬? なんだ、お前魔物じゃん。んでも可愛いなぁ」


 つぶらな瞳をした栗毛の馬の魔物を撫でていると音もなくメイドが俺の隣に立った。


「お久しぶりでございます。旦那⋯⋯様⋯⋯?」

「ああ、イースさん。久しぶり。毛並みいいね、流石に王女に普通の馬じゃなくて、サイレントホース使うなんて凄いね」

「あ、え、あの、旦那様? この魔物の事をご存知ですか?」

「うん。早いし持久力も凄いし、警戒心も強い。おまけにサイレントホースって名前の通りに足音しないんだよねー。不思議だわぁ。というか、凄いね、この種類は警戒心強いから馬車を引かせるなんてできないと思ったのに、人懐っこいんだね」

「い、いえ、この子はわたくしが調教した魔物で、わたくし以外に触れられるのを拒むはずですが⋯⋯?」

「え?」


 めちゃくちゃ撫で回してた。なんなら撫でやすいように頭を下げてくれている。


「イース、どうかしたの?」

「姫様、大変失礼いたしました。この子が旦那様に大人しく撫でられていたので⋯⋯」

「旦那様⋯⋯。もう! イースったら気が早いわっ!」


 顔を真っ赤にしてそんな事をいうのは五年前と違い、さらに可愛らしくなったリィリア・ヴァイス殿下。驚くなかれ、十歳なのに既に胸が膨らみ出しているではないか。異世界マジすげぇ。

 いかん、気を取り直して挨拶せねば。


「お久しぶりです、リィリア殿下。長らくお会いすることもできず、申し訳ございません」


 そう言って膝を着くと彼女からは息を呑む声が聞こえたがスルーしよう。数秒程度そのままでいると咳払いをした彼女は言う。


「そんなに畏まらないで下さい。今は、その、婚約者として久方ぶりにお会いできた事を喜びたいのです」

「そう言う事でしたら」


 立ち上がり、真っ直ぐ彼女を見据える。本当に可愛くなった。こんな可愛い子が婚約者なんて信じられない。女神にマジ感謝。


 ⭐︎ 


 一方その頃女神は。


「へくちっ! この感じはウィルですね。んー何やら素直な感情ですが、どこか馬鹿にされている気もします」


 鼻を擦ってそんな事を言っていた。


 ⭐︎


「ところで旦那様、あちらのお二人は」

「ああ、紹介するよ。リューとターニャ。リューは魔法が得意で、ターニャは近接戦闘が得意だね」


 二人揃って綺麗に礼をすると、イースも同じように頭下げた。


「姫様の専属メイドのイース・バーベナです。元は陛下やオルグとミリアと同じパーティにいました。将来的には同僚になりますので、よろしくお願いします」

「お話は予々伺っております。こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 リィリアには挨拶しないなと思ったら、ここへ来る前に先んじて来ていた二人は既に挨拶を終えていたようだった。とりあえずそれでいいのかと疑問を持ったが、リィリアから当日の挨拶は不要と気を遣ってもらったようだった。

 一先ず立ち話もなんだから家へと入って貰い、サイレントホースは庭の一角で自由にしててもらう。


「ここがウィルフィードの家⋯⋯」

「まぁ、父さんと母さんの所有物だけどね」


 玄関ホールでそんな事を呟きながら彼女はキョロキョロと興味の視線を至るところへと送っている。普段城にいるからこういったところが物珍しいのもあるだろう。取り敢えず各階を案内しながら、食堂へと戻る。そこには既に紅茶を淹れて待っていたリューがクッキーも一緒に用意されている。

 ほっこりした表情で一息つく彼女の前に座り紅茶を啜る。


「美味しい」

「殿下にそう言っていただけると作った甲斐がありました」

「これ、貴女が作ったの!?」


 リューの言葉に驚きの言葉を上げる。レシピがどうのとか言っていたが、これのレシピを教えたのは俺だ。

 この世界は塩やら砂糖やらが高い。調味料系の安定供給はしているものの、ライン製造ではないため仕方がないのだろう。ちなみに、塩は海水から俺が馬鹿みたいに作ったので買う必要ないくらい手元にある。


「あ、ねえ、リュー」

「なんでしょうか?」

「地下倉庫作っていいかな?」

「倉庫ですか⋯⋯? 良いとは思いますが、用途は?」

「貯蔵庫的な?」


 俺の言葉に一瞬考えたリューは、それならば増築を提案してきた。たしかにそれくらいの余裕はあるが、作るなら経費は抑えたい。


「まぁいっか。魔法で作っちゃおう。どうせなら、ここと直通にしたほうが楽でしょ?」


 その言葉に首を傾げながら頷いてくれたので早速庭へと出る。そこは丁度キッチンの裏側で、勝手口がある場所。


「ウィル様何するの?」

「ん? ああ、ちょっと地下貯蔵庫をね」


 言いながら地面に手をついて地魔法で四方五メートル程の穴を掘る。そこに収納魔法に大量にある石を魔法で形成、すっぽり収まるサイズにした後は、テレキネシスで浮かせて嵌め込む。更に三十センチくらいの石を正方形にして間隔を空けて並べる。


「旦那様、これは?」

「空気の流れがないと地下だから一応湿気が溜まると思うんだよね。だから空気の通り道を作ってるんだ」


 言いながらも作業を続けて一回り小さい石でできた箱を入れる。後は再び三十センチ程の正方形にした石を間隔を空けて並べて、蓋をする。

 出入り口は勝手口から直通にできるように階段を設置。


「ウィルフィード様、流石にこれでは深すぎかと」

「うん。だから下半分は非常時に隠れられるようにする。避難場所だね。使わないに越した事はないけど、備える事は大事だよ」


 そのまま外壁とくっつけて地上用の壁も設置。出入りが不便にならないように、外へと出れるようにドアをつける。これは流石に木製のドアにはしたが、内側から閂で締められるようにする。

 地下があると外から解らないようにするために、土をかぶせて終わりにした。一応壁と壁との間の空気が循環するようにそこだけは穿孔ボードのように穴を開けている。これでドアが開けば空気は勝手に循環するはずだ。


「追々ここも改造してくから、急に変わってても驚かないでね」


 既に俺の魔法の使い方に慣れたリューとターニャは驚きはしなかったが、リィリアとイースの二人は驚いていたりする。


「こんな魔法の使い方って⋯⋯」

「ええ、使い方もさることながら、驚くべきはその魔力量と発想。精緻な魔力操作もそうです」

「ああ、俺はさ、魔法は生活を豊かにするものだと思ってるから、他人から見たら変な魔法の使い方を平気でする」

「いえ、ウィルフィードがそういった信念を持っているのは知っています。ですが、その、いとも容易くこんなに凄い事をするとは思わなかったので」


 なんて言っている間に真っ先にターニャが地下室へと入ると言った。


「ウィル様、暗い」

「そりゃそうだ。あとでランプの魔法具を買おう。どうせ魔石は安いもので十分だし。ターニャ買い出しお願いできるかな?」

「うん。それくらいなら。必要数はこっちで見繕っても?」

「任せるよ。あとでお金渡すね」


 こうしてサクッと増築を果たした俺だったが、ここで一つはたと思い出したことがあった。急いで目的を果たそうと外へ出ると、庭の隅でくつろいでいたサイレントホースに近寄る。


「お前の場所も作んなきゃな」


 それを理解したのかサイレントホースは立ち上がるとそっと場所を明け渡してくれた。


 サクッと厩舎を地魔法で作り上げると早速中に入って居心地を確かめたサイレントホースは、気に入ったのかそのまままた寛いでしまった。


「ここはお前の場所だから好きに使ってくれ。だからって勝手に来たらダメだからな?」


 伝えると一瞬目をこちらへ向けて来たと思ったらそっぽを向いた。どうやら気を付けないと勝手に来そうな雰囲気だった。


 ⭐︎


「殿下⋯⋯リィリアは、今日は帰る?」


 途中で名前に変えると嬉しそうにした彼女は、驚く事に泊まると言った。こちらはなんの用意もないし、陛下は知っているのかと尋ねると、そのためにイースと一緒に来たから大丈夫らしい。イースも頷いていることから、宿泊自体は問題なしとしていいだろう。


「それじゃあ、ターニャ、二人の部屋の準備をお願い」

「はーい。上の部屋でいい?」

「うん、今は二人ともお客様だからね」

「だっ、旦那様!?」

「ごめんね、まさか泊まるとは思わなくて。準備不足だったよ」

「そうではありません! 姫様と同じ部屋だなんて⋯⋯」

「なんか問題ある?」

「メイドと主人が同じ部屋だなんてそれは」


 あまりにも悲壮感たっぷりなイースに根負けして一階の空き部屋という事で落ち着いた。

 準備や買い出しなんかもイースが手伝ってくれたので予定より早く終わってしまい時間があまる。何か有効活用できないかと思いイースをみる。

 女性らしいボディラインで、顔も可愛い系の顔。年齢は分からないが、耳が少し尖っていることからエルフの系統だろうか。そういえば彼女もブラックランクだったなと思い質問をした。


「イースさん、冒険者登録に必要なものってなんですか?」

「必要なものはありません。強いていうのであれば実力です。旦那様は冒険者に?」

「うん。一応商売もしてるけど、委託販売なんだよね。それにそればかりってわけにもいかない。お金があって困る事はないから、できるだけ早くから稼ぎたくて」

「⋯⋯そうですか。魔法の腕は相当なものですから大丈夫だと思います。失礼ですが、魔法の師は?」


 そういえば言ってなかったな。


「セリアだよ。セリア・フォーマルハウト」

「は? 旦那様今なんと?」

「え、だから」

「世界最強が師ですか!? だとすると近接格闘も⋯⋯」

「あー、まぁそれなりに。冒険者になるなら自衛手段もって事でさ」

「世界最強の弟子なら心配ないかと。ただ、そうですね、魔法を使えなくしてくる魔物もいますので、近接戦闘、いえ、身体の構造での強さというのは必要です」


 身体の構造での強さとはなんだろうか。確かそんな武術があった気がする。ああ、そうか、ジークンドーだ。


「あー、うん、なんとなくわかるよ。筋肉じゃなくて骨をしっかりと一直線にしてってやつだっけか」

「大まかな認識はそれで合っています。知るとやるとでは全く違いますが、そうですか。では、そのあたりもセリア・フォーマルハウトに伝えると良いかと。あとは差し当たって、近接格闘は十分と考えますが、それでも刃物などには太刀打ちは難しい場合のために短剣などを嗜むのも良いかと」

「うん。それは考えてた事だったんだけど、多分俺がやりたい事って相当キワモノなんだよね」


 俺は魔法が使えない場合には貰った杖を使う事で杖術をおさめようとしている。けれどこれが難しい。けれど使えれば相当なものだとも理解している。これは単に俺の前世での友人が武術を嗜んでいた。それがたまたま杖術だったというだけに過ぎず、憧れもあったりする。


「杖術ですか。難しいものですね、たしかに。しかし、旦那様の師である世界最強は杖術も扱えますね。他にはなにか?」

「うん、魔法を込めたアクセサリーを作りたい」

「魔法具とは別と考えても?」

「そうだね。魔法具は基本的に魔石を使ってその能力を使用する事が多いよね。本人の魔力を使用するけど。でも、そうじゃなくて、うーん、例えばイースさんがしているピアス。それに一度限りだけど、身を守るためのシールド魔法が内包されていて使えたとしたら便利じゃない?」

「⋯⋯確かに。ですが、どうゆう手段で?」

「そこなんだよ。シールド魔法も結局は込めた魔力量が強度を決めるんだ。それを実際に一度だけとはいえ行使するには魔力を入れておく器が必要なんだよ。でも魔石じゃ大きいし、どうしたものかと。貴族には売れるでしょ」


 俺の言葉にイースさんは険しい顔をした。理由が分からず首を傾げると、隣で聞いていたリィリアが代わりに答えた。


「ウィルフィード、それは確かにあれば便利なものですが、悪用の可能性もあります。販売したとして、それが攻性の魔法だったら? どんな人間でも扱えてしまう恐ろしい兵器になってしまう。逆に身を護るものだとして、それが捕縛や討伐の妨げになるとしたら?」

「ダメだな。それはいけない。うーん、まぁ、追々考えるか」

「それならば、売らなければいいんです。例えば、貴方が懇意にしている人にだけ渡す物。そしてそれはウィルフィードとの繋がりを示す物的証拠にもなりますし、信用の証にもなります。販売というところから目を背けるならば、売らずにそういった事に使えばいいんです。ああ、でもそうですね、攻性魔法でも防御魔法でもないもの。そういったものであれば売れるかもしれません」

「うーん、寒い時に暖かくしたり、暑い時に涼しくしたり?」

「ええ。そういった事であれば悪用も何もありませんし」

「リィリアは流石だな。うん、そっちの線で考えてみよう」


 なんだかんだとこの後に色々商品の話になったり、魔法の話になったりと時間を忘れて話をしてしまったため結局夕食は外で済ませて帰宅した。その際にリィリアの来店に目を向いた店主が立ったまま意識を失ったのはまた別の話で。

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