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秘密基地と新しい魔法と

ぎっくり腰で更新遅れました

まだ痛い

 突貫日帰り王都から大体三ヶ月が経った。

 転移魔法は相変わらず進捗は良くない。成果といえば大体一メートルくらいなら単独で転移できるくらいだ。使い物にはならない。

 姉さんは相変わらず好成績を収めているらしく、兄さんは剣の腕も上がり父と一緒に領主としての仕事を教えてもらっている。まぁ継ぐのは随分先になるが、今からやっておいて損はないというのが兄の弁だ。


「ウィル、どこへ?」

「んー裏の森行ってくる」

「そう。あまり奥には行かないでね」

「はーい」


 母にそう言って森の中へとずんずん入っていく。五分ほど歩いた所で身体強化を使って思い切り地面を蹴り、走る。途中で飛び跳ねて木の枝から枝へと飛び移り、奥を目指す。

 魔物が生息する森である以上は魔物も襲いかかってくるが、片っ端から魔法で倒して収納へと打ち込む。最早流作業に近い。

 そうして身体強化をして進むこと三十分弱で到着するのは殆ど森の中心。普通に歩いて来たら一日以上はかかるだろう。そんな速度を出して到着したここは木々に覆われているが、泉もあり、魔物も近寄らない場所。


「うっし、到着」


 魔物が近寄らない原因はこの場所にある建物が原因だったりもする。

 地魔法で作られた一軒の家。大体周囲一キロ程度に効果を及ぼす結界魔法で護られているからでもある。言わば俺の秘密基地だ。


「さて、女神。原初の魔物討伐の報酬、貰おうか」

『はぁ。まさか本当に?』


 この日のために俺は突貫日帰り王都の翌日からここに地魔法で家を作っていた。他にも風呂、トイレ完備だ。そして毎日ではないがここへ来ては秘密基地の整備をしていた。

 この世界のトイレ事情というのはなかなかにハイテクだったりする。各家庭に水洗トイレが完備されていて、トイレそのものが魔法具になっている。下水というものは存在してないが、流された汚物は貯水槽へと送り込まれたあとに火魔法で熱処理をしているらしい。だが、問題もあって、定期的に魔力を供給しなければいけないため、小さな村には定期的に魔力の多い人間が魔力補充で派遣されていたりする。逆に魔力が多い人間は自分で補充すれば良いだけなのでそう言った意味での出費はない。

 話はそれたが、こうして秘密基地を作ったのには理由がある。


『⋯⋯わかりました。では、この魔法を悪用しないと誓ってください。失われた魔法ですが、失われた理由は過信した魔法使い達が無理な方法でこの魔法を使用した結果、殺されたんです。勿論全員が全員ではありませんが』


 そう、新しい魔法を覚えるためだ。では何故新しい魔法のために拠点が必要なのか。


『ウィルフィード、貴方に問います。この魔法で何を成しますか?』

「なにも。俺はスローライフを送りたい。そのために、力と知識が必要だ」

『その力と知識とは?』

「出る杭は打たれる。それが俺だけならまだしも、そうじゃない。俺の大切な人に降りかかる火の粉なら、全力で振り払う。自衛の手段としては使う」

『その言葉、偽りはありませんね?』

「ああ。ウィルフィード・レオニスとして誓う」


 泉のそばで膝をつき、首を垂れる。


『確かに嘘偽りない、その言葉、魂への誓いを聞き届けました。女神の名に於いてウィルフィード・レオニスの魂に刻みましょう。今代において貴方にしか行使せず、貴方だけの魔法を与えます。『契約魔法(コントラクト)』』


 胸の奥が熱くなり、魔法を行使するための詠唱が頭に浮かぶ。今、この瞬間、分霊からの伝言を伝えよう。

 立ち上がり、目を瞑る。右手を前に出す。


「汝の魂は我の下に、我の運命は汝と共に」

『え、ちょ──』

「我の意に従うのならば応えよ」


 今まで使った事のない程に一度に魔力が右手に集まる。それは熱を持ちながらも冷たく、包み込むようで鋭い。


「全てを見通す唯一絶対なる存在、神の魂を人の身にやつすのならば我が手を取り、魂に添い遂げると誓え」


 神の魂全てをは把握する事は不可能だ。けれどもその魂を少しだけ、人間としての身体を与えることで少しは退屈から紛れる事が出来るなら、自身で体験出来るなら、それが女神にとっての思い出になるのなら、俺をこの世界に転生させてくれた女神への贈り物にしよう。


「七天を統べる極点、我が縁と汝が縁をここに紡ぐ」


 残酷だと言われようと、身勝手だと罵られてもいい。俺の命が許す限り、この女神と共にスローライフを目指そう。そして、いつの日か、俺が死んだあと、この思い出を胸にまた世界を見続けて貰うために。


「──神理の彼方より来たれ、天輪の守り手よ!」


 詠唱の完了と共にごっそりと魔力が持っていかれるがわかると同時に理解した。それは確かに繋がった魔力の糸。

 目の前には眉を八の字にして困った顔をする美女。

 同じ灰銀色の髪に青い瞳。いつか見たナイスバディ。見た目は大人の女性そのもの。二十代前半くらいだろうか。


「レティア」

「──はい」


 名前を呼ぶと花が咲いた。それも世界で一等綺麗な花が。


「貴方の意に従い、貴方の魂に添い遂げると誓いましょう。貴方を主と認めましょう、稀代の魔法使いウィルフィード・レオニス」


 神としての魂からほんの少しだけ女神という冠を外した女性、レティアは俺の魔力を下に現世へと受肉した。まったくもってあり得ない事ではあるが、これは偏に俺の魔力量の多さと、転生者で女神の魂を内包した魂があって初めてできた奇跡でもある。


「さて、そのうち分霊もレティアの妹として現世で生活してもらわないとな。というか女神の仕事はいいのか?」

「心配いりませんよ。わたくしがこの世界に存在するのはせいぜい貴方の寿命程度の時間。であればこの世界の時間の中ではほんの一瞬にしか過ぎません。その程度の一瞬すら耐えきれぬ世界であれば早々に滅びていますし、なによりもわたくしは観測者にすぎません。分霊もそのうち契約して一緒に過ごせばいいのです。一人は寂しいですからね」

「それもそうだな。取り敢えず、どれくらいの期間になるかはわからないけど、ここがレティアの生活拠点になる。出来るだけ早く一緒に色々したいんだけど、少しまっててくれるか?」

「ええ。幸いこの身は貴方の魔力で形作られていますから、特に何かしなければ魔力も消費しないでしょう。ただ、寂しいのでたまには顔を出してもらえると」


 可愛い事を言う女神だ。だがそれくらいならお安い御用だ。

 しばらく生活についての話をして、その日は普通に家へと帰る。日常生活も送らないと怪しまれるからだ。普段通りに魔法の訓練をして剣の訓練をしてターニャと実戦訓練をして、毎日兄の剣の相手をする。たまに帰ってくる姉と一緒に魔法の練習をして、彫刻の販路をどうするかと話し合い、リィリアやメイと一緒に遊んだり、冒険者ギルドへと登録しようとして年齢制限があるのを知ったり。まさに充実した生活を送っていた。

 転移魔法は少しずつ距離が伸びて来て、分霊もたまに戻って来たり、レティアのところで話を聞いたり、お菓子を届けてどハマりしたり。

 そんな生活を続けてもう気が付けば五年が経っていた。


「父さん、俺はそろそろ冒険者ギルドの登録しようかなと思うんだ」


 父の執務室でソファに座対面してそう伝えた。渋られるかと思ったが特に渋られることもなく父が賛同してくれた事に少し驚いた。


「いいんじゃないかな。でも、ウィルはここ数年で本当に実力を付けたからって慎重さを忘れちゃいけないよ?」

「うん。それは大丈夫。それより姉さんはそろそろ学園の高等部に行くんだよね? 兄さんは?」

「カインは騎士科の一年生だね。ウィルは本当に学園行かなくていいの?」


 姉も兄の非常に優秀な成績を収めている。見た目も良いのも相まってか、非常に人気だ。対して俺は二人に似ていないし、顔も平凡。この辺りは正直なところ、前世の顔とよく似ているなと思う。上二人と違って髪色も違うし、兄弟だとはすぐにわからないだろう。それはそれで楽だが、優秀な二人と比べられるのはちょっと嫌だったりもする。


「うん、編入も考えたんだけどどうかな」

「冒険者として活動するのであれば学園に行くには大いにありだよ?」

「あれでしょ、授業で知識とかうんたらかんたらって」

「そう。でも、それ以外にもキミのすることには貴族の繋がりというのも大事なことだよ」

「うーん、でもさぁ俺苦手なんだよね」

「知ってる」


 そう言って父は笑う。けれどその笑顔の裏に何かがあるのを俺は見抜いてしまった。


「ウィル、リィリア殿下もメイお嬢様もとても可憐だね。悪い虫がつくと思わないかい?」

「そりゃぁ、上級貴族が放っておくことはないだろうね」

「でも君は婚約者だ。愛する女性を守るのも男としての勤めじゃないかな?」


 成る程、そうゆう論法か。なんとしてでも入学させたい意思は伝わってくるが目的が見えないわけじゃない。多分だが、俺を貴族にしたいんだろう。勿論婚姻するためには貴族になるのが条件ではあるが、それは本当に今だろうか?


「父さん、俺を貴族にしたいのはわかるけど⋯⋯」

「ああ、うん。それは勿論だよ。シルヴィアはどこかの貴族に嫁ぐだろうし、カインも僕の跡を継ぐ。でもキミはどうする?」

「んー、確かにね。そうゆう意味で言えば俺は平民になるわけだ。でも学園行って何かが変わる?」

「学園主席で卒業。そして冒険者としてキミは活動する。幸い商売も順調で経済も回している。でも足りない。セリアの弟子になったんだ、一つくらい成し遂げたっていいじゃないか」

「まどろっこしいね」

「学園で開催される学年とわずの大会があるんだ。僕やミリア、陛下も勿論出場して三年連続でトップだったんだよ。そこでキミにはそれを成し遂げてほしいんだ」

「断ったら?」

「大丈夫、これは陛下からキミへの冒険者としての長期にわたる依頼だ。報酬は貴族への授爵と婚姻。どう?」


 そんな無茶な。大体、そんなことで貴族になるなんて馬鹿げている。その考えを父も見抜いたのだろう、不敵に笑う。


「これは国としての正式な決まりなんだよ。勿論並大抵のことではない。まぁあくまで勲侯爵で一代限りではあるけど、功績を残せばその限りじゃない。僕もこれで貴族になったんだ。勿論冒険者としての活動もあって今は子爵だけどね」


 得意げに言う父の顔を見て思う。きっと俺を貴族にしてやれる事ができないから、その道を示してくれているのだ。期待、というよりかは親としてのお節介だろう。でもまぁいい。これも親孝行だと思えば父も母も喜びだろう。


「わかったよ。学院には通う。王立学院の魔法科でいいんだよね?」

「うん。シルヴィアもそこの高等部だ。カインは騎士科だけど、一応主席だよ。ウィルはウィルで頑張らなくていいよ。学生寮にするか、冒険者として家を借りて拠点にするかは任せるよ。でも後者は結構大変だよ? 定期的に依頼を受けてクリアしないといけないし」

「あー、まぁお金の面で言えばそれはどうとでもなる。冒険者活動って休みしっかりもらえる?」

「達成すれば公休扱いだよ」


 逆を言えば依頼を達成できなければ欠席か。それくらいなら特に気にすることはない。問題があるとすれば、王都へ家を借りた場合、レティアが一人になってしまう事だ。


「うーん。どうしよう」

「そうだなぁ」


 父と二人で首を捻っていると、そこへ母さんが現れて不思議そうな顔をして言った。


「昔使ってたあの家をあげればいいじゃない」


 そんなものがあるなんて初耳だ。というか管理されてるのだりうかというのが不安だ。


「あったね、そういえば。どうしてたっけ?」

「えーと、確か⋯⋯」


 顎に人差し指を当てて上を向く母はなんだか可愛らしかった。けれどそれと同時に思った。この美魔女一体いくつだ?


「ウィル」

「で、家ってどうしたの?」


 睨まれたから話を逸らしたら鼻息一つで許してもらえたのは僥倖だ。


「そう、リューがたまに王都へ買い物へ行く時にお掃除とかお願いしてたわね」

「そうかぁ。まぁ多分家事とかは出来るだろうからそれでいいか」

「あら、リューやターニャを連れて行かないの?」

「え? だって二人ともこの家のメイドでしょ?」


 俺のなんとなしな一言に二人は一瞬顔を見合わせたと思ったら微笑んでいた。どうやらこの家のメイドで、俺の専属だと思っていた二人は本当に俺の専属メイドだったようだ。

 となると二人の給料はいくらくらいなのだろうか。


「一応二人とも給料は月金貨七枚。メイドとしてはだいぶ高いよ」

「え、待って普通は?」

「普通は大体金貨三枚あくまで平均ね。もっと安い場合もあるけど、王都で質素に生活するんだったら月金貨一枚あれば貯蓄にも少し回せるかな」

「⋯⋯普通に疑問なんだけど、この家の資金源ってなに? 海辺の街だから特産品は海のものが多いけど、港ってわけでもないし。裏の森で取れるのは魔物の魔石と素材くらいでしょ?」

「ウィル、僕とミリアは曲がりなりにも冒険者だよ? 勿論下級だけど貴族としての給金も国から出てる。それでも本業は冒険者だからね。依頼があれば受けてるんだよ」


 やばい事実だ。まさか二人とも現役だったとは思わなかった。というか今までそんな素振りなかったけど、一体いつ依頼なんか⋯⋯。


「あ! シーガルか!」

「そう。王都で動いたり色んな地域に行く彼から依頼を受けてもらって、あとはさっと解決だね。基本が討伐系だから僕だけで大体終わるけどね。将来ウィルは貴族になってそれでも尚、冒険者として生活していくなら最低でもプラチナまでは行かないとね」

「ウィルのいうスローライフ? というのには程遠いわね」


 失態だ。これは軌道修正しなければいけない。何が悲しくて父さんみたいな人外魔境に踏み入らなければいけないんだ。俺は自由にゆっくり働かないで稼ぐのを目標にしているんだ。


「さ、それじゃあリューとターニャはウィル直属のメイドだからちゃんと面倒見るんだよ? それと、ちゃんと毎月の収支は報告すること。勿論計算はリューやターニャに任せていいけど、報告書はちゃんとウィルが書くこと。あとは⋯⋯そうだね、もし殿下やメイお嬢様が家に来た場合は同衾は禁止。学園卒業した時に依頼達成ができていれば解禁。そうじゃない場合は、まあその時考えようか」

「そうね。あと、一夫多妻制とはいえ、あまり増やしてもいけないわ。バランスが大事よ。それでもウィルはなんていうか、その⋯⋯カインと違ってモテそうなのよね」

「ああ、うん。僕もわかる。人たらしいだからね、ウィルは。無茶じゃない範囲なら僕は好きにしていいと思うよ。でもちゃんと殿下とメイお嬢様の許可は得ることが条件だね。陛下もその辺は文句言わないだろうし。規格外だからあの人」


 そして両親は一度顔を見合わせたあと言った。


「「それと、たまには帰って来なさい」」


 なんだかその言葉が嬉しかったのと、二人ともあまりに真剣な表情だったから思わず笑ってしまった。けれど、それと同時に腹は決まった。学園で優秀な成績とやらを収めてやろうじゃないか。

 そして誰にも文句言わせることなくスローライフを目指してやろう。

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