『飽きた』をやったら成功しちゃった
ゆっくり更新をしていきます
よくある〇〇系の転生ラノベだと思った。それが素直な感想。
「いや、ちょっと落ち着いてくださいっ!」
しかし理解した瞬間に俺は歓喜した。それはもう激しく。弾むし跳ねるし転がるし。挙句ブレイクダンスなんか披露してしまうくらいに。
「ふぅ、満足した」
一通り動いたあとはスンッとして座った。目の前には後光で顔を直視出来ない程の女神がいる。腰に手を当ててなんだかぷりぷり怒っているようだ。可愛らしい。
「落ち着きましたか?」
「はい」
スタッカートをきかせて聞いてくるほどには怒っていたようで居住まいを正して正座をする。こんな異常事態ではあるが俺の心は晴れやかだ。今なら嫌味な上司の言葉にも、人の手柄を横取りするクソみたいな先輩にも、学歴マウントとってくる新入社員にも笑顔で土下座出来る。それ程までに清々しい気持ちだ。
「それで、こちらの手違いとはいえ死なせてしまったんですが⋯⋯。その様子だと元の世界に未練はなさそうですね?」
後悔はあるが未練はない。いっそ死ねてせいせいしている。三年間休みなしで働いて、平均睡眠時間は一時間程度。休みなんてとうの昔にポイ捨てしている。
「⋯⋯まあ、あっても戻れないので貴方をわたしの世界に転生させます。ある程度融通はしますが、望みはありますか?」
「働きたくありません!」
「う、え、あ⋯⋯えぇっ!?」
「働きたくありません!」
力一杯伝えた。それはもう真摯に真剣に。現実逃避でオカルトに手を出す程度には俺の精神はぶっ飛んでいた。であればこそ、働かずに生きていきたい。
「あ、はい。確かに貴方の魂は突如としてこちらの世界へと現れました。魂の記憶を見る限りだと相当劣悪な環境にいたのだと理解します。しかし前例がないですし⋯⋯」
目を瞑り唸る女神の返答をただじっと待つ。
勿論働きたくはないし、面倒ごともごめん被りたい。であればこそここで無意味に押してしまって機嫌を損ねる訳にはいかない。
「そうですね、では条件をつけましょう」
「条件?」
嫌な予感がビンビンする。職場で良く聞いた流れだ。身内の不幸などで有給を取ろうとした同僚が上司によく言われていた。その条件はほぼ無理難題で埋め尽くされていて、死に物狂いで作業に取り掛かる同僚を何度目にしたことか。
そんな不安を差し置いて女神は言った。
「私の分霊をその魂に宿してください。女神としてこの世界の運営をする事長い年月が経ちましたが、それは非常に退屈なのです」
「だ、代償は?」
「ただ分霊を宿していただければ。出来れば貴方が死ぬまで。貴方にとってそれは長い一生になるでしょう。ですが、私からすれば星の瞬きにも満たない一瞬です」
女神の分霊か。どうしたものか。一生を覗き見されるという事であれば、あんな事やこんな事も見られてしかう。しかも相手は女神だ。だがどうだろう逆に考えよう。ただそこにいるだけの見えないものに対して何かしら対策を打とうが気にしようが意味はない。であればいないも同然。
「わかりました。あ、でも聞きたいことがあります」
俺の質問に女神は極力答えてくれるようだ。今のうちに確認しておこう。
「魔法とかありますか?」
「勿論ありますよ。魔物もいますし、ダンジョンもあります」
「じゃあ魔法を使えるようにしてください。出来れば転移とか空間収納とか便利なものを使いたいです」
「そうなると無属性魔法に適性が必要ですね。それくらいなら造作もありません。なんなら全属性適正にしましょう。分霊を宿す魂が簡単に死なないように」
おっと、これは棚ぼただ。なんて事を考えていると女神の方から数多く提案がされる。
「産まれは貴族でしがらみの少ない所にしましょう。男爵くらいがいいでしょう。見た目はちょっとどうにも出来ないですが、そこは運に任せましょう。記憶はそのままで。んー見た所、これから人生は好転するような時期にこちらへ来てしまったようですから少しくらい運気が良くても構いませんね。いじる必要はなさそうです」
そうやって女神発案の元、過去に例を見ない女神の分霊を魂に宿す実験体として俺の魂は脚色されていく。
その結果が以下の通りだ。
・全魔法適正
・貴族産まれで記憶はそのまま。
・健康な身体
・分霊としての女神と会話可能
こんなところだろうか。
「魔法は適正を持たせますが、研鑽を怠るのであれば意味は成しません。記憶はそのままなので有効に。それでは私の分霊を魂に宿します。少し眠くなりますが、目が覚めたら貴方の新しい人生が始まります。良い人生を送ってください。それでは、また会いましょう。最後に、私の名前は──」
そこで俺の意識は眠りへと落ちた。
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