日清戦争 -8 真夏の日
1894年7月25日朝 第21連隊所属第3大隊
「進発します。」
第21連隊所属第3大隊が進軍を開始する。南下水原に向かう。この水原のちの世…およそ50年後にはある意味有名な地になる。朝鮮戦争時に首都を失った大韓民国政府が一時的に逃れた地になる。その後最終的に釜山まで逃げることになるのだが。
「熱いな…」
朝鮮半島南部はこの時代荒涼とした台地が広がっている。平地は多いが、降雨量の不安定さから雨の降る時期は洪水が起こり、雨のない時期は日照りが続く。
水場などはない。
「田中元気だな。」
兵士たちには熱射病で倒れる者も出る。比較的元気な兵士を集め、倒れた者を救助しながら進む。
軍の行軍では最後になる輜重隊はその後ろを進む。状況は最悪。ミイラ取りがミイラになるように倒れる兵士もいる。その最後の砦が輜重隊と軍医を含む衛生兵部隊だった。
その中で一番若い田中はよく動いた。
「若干水に塩を混ぜてみたんじゃ。汗はしょっぱいじゃろ。塩気がなくなっちまうことも倒れる原因じゃないかと思ってな。昔試してみたんじゃ。だいぶマシにはなったから今回もな。」
「ホーー」
「よく汗かいて働く人間は濃いめの飯を食うからな。」
と言いつつ倒れた兵士の水筒に若干の塩を混ぜてやる。本当は砂糖もいるが高すぎて買うことができなかった。だが塩分がないよりはましだ。
行軍は遅れる。だが史実よりも救護担当部隊が増えているその関係で先発部隊である第3大隊の行軍速度は史実よりも早い。
「田中君はいろいろと面白いな。今戦争で死んでほしくはないな。」
池田軍医部長は治療しながらつぶやく。何とか当日中には水原に到着した。
次の日の朝事件があった。
朝鮮人人夫の逃亡、それに伴う田中一等卒および朝鮮人の負傷だった。
戦闘描写は書きにくいので省略!! それよか治療のほうが自信作。