米西戦争編-11 武官の戦後
観戦武官は戦争が終われば別の役目が待っている。集めた資料の分析と報告だ。
サンチャゴの陥落によってこの戦争における観戦武官の役割はほとんど終わっていたに等しい。カリブ海で残るスペイン軍の組織だった抵抗が残る地はプエルトリコだけだった。キューバより小さなプエルトリコならばキューバで戦っていた軍隊をある程度転戦させると、現地スペイン軍は1月もしないうちに制圧された。
史実よりも長い間、サンチャゴに拘束されていた米艦隊も陥落の報を聞くとすぐに全艦転進。プエルトリコ最大の港湾サンファンへの砲撃が行われ、その後もプエルトリコの海上封鎖が行われた。
このプエルトリコでの戦闘は米西戦争大規模な最後の戦いだと言えた。フィリピン、キューバともに独立を目指す現地民を味方にスペイン軍を駆逐した。
ゲリラ化したスペイン兵も味方になる民間人は少なく、こちらの活動はあっても低調だった。
観戦武官たちはこの戦争での経験を報告書にまとめ始める時期だ。
それは彼らにとっての戦場だ。特に次の戦争を控えている国家にとっては一滴でも多くの経験を祖国に持ち帰らなければならない。
「秋山さん。一緒に書きませんか?」
そこに声をかけてきたのは田中義三だった。
「田中君。どうしてかね?君と私では場所が違いすぎるとは思うが・・・」
当然海陸の所属違いで断ろうとしてくる
「場所は違わないですよ。サンチャゴでは双方陸上砲撃していますし・・・その結果の参照も必要でしょう。我々も気球観測に関しての情報が欲しいですし。それに陸海で情報を隠匿し合うのは愚の骨頂。次の戦争のためには協力が必須ですから。それにほらこっちには砲撃の専門家もおります。」
だがこちらはこちらで理由をつけて所属の垣根を超えさせる。許可が出るまで数日の時間は必要としたが。
実際、これがなかった場合、史実以上の情報を日本に送ることはできず、むしろ減少していたであろうことは否めなかった。
セオドアルーズベルト 宅
「久しいな。義。」
セオドアルーズベルトは最終的に田中をあだ名で呼んでいる。
「お久しぶりです。ご相談とは何でしょうか?手紙にあまりかけない内容のご様子ですが。」
少しお声を小さく、接近させて話す。
(まるで悪代官かな?)
田中は心ではそう思っている。
「私が元は海軍の事務方出身ということは知っているな?」
ルーズベルトは確認するように聞く。
「はい。トップがあまり役に立たないので事実上の事務方のトップであったかと。そのお話からすると海軍のお話ですか」
ルーズベルトは首を縦に振る。
「そうだ。何。今回の戦争で鹵獲した艦についてだ。その処遇についてもめているらしい。で私にも意見を求めてきた。」
ルーズベルトはいうが、それはある意味すごいことだ。海軍をやめ、陸軍をやめてもいまだに海軍にある程度の影響力を有している。
「確かにもめるでしょうね。秋山さんからの情報を加味すれば改修が必要になるでしょうから。その改修費用などもめる要素は多いかと思います。で、なぜ私を?」
彼自身早速情報交換を生かしている。秋山真之が戦後、サンチャゴ湾口に沈没していたインファンタ・マリア・テレサ及び鹵獲艦の調査を行った情報を真っ先に閲覧した。周りは白い目で見ていたが。ちなみにそのあと秋山を引っ張って密談していたが。
「君が秋山君にある程度の意見を出していたことは知っている。当然、この事態を予測していただろう。」
ルーズベルトは不敵な笑みを浮かべながら聞く。
「それは買い被りすぎです。まあ、ないわけではありません。私も戦争を終えてからジェーン海軍年鑑を見るまで気が付かなかったことです。ただし、それをなすには多くの方々を動かす必要性があります。それで少なくとも2隻の戦力化はできましょう。」
田中は封筒を鞄から封筒取り出すと、手渡す。表紙には日本語と英語で意見書と書かれていた。
日本大使館 観戦武官室
(陸海間の情報交換許可が出るまでの時)
「してやられた!!」
田中がある本の記述を見て叫んでいる。
「どうした?」
荒木を代表とする陸軍軍人が理解できないものを目にしていた。陸軍軍人が海軍の本を読んでいる。
「ジェーン海軍年鑑がどうした?」
近くに寄ってきた秋山がその本の名前を出す。
その声に我に返る田中はすぐにメモを始める。
米
戦4 装巡2 旧戦1
西
装巡4+1 戦1(仏)
それだけ書くと地図に向かう。その地図はアメリカの東海岸はもちろん、カリブ海まで広範囲に網羅されているものだった。
「してやられた・・・」
今度は小さなつぶやきだった。
「何をしてやられたんだ?それは戦艦のことだろ」
「この戦争・・・スペインには勝機があった・・・小さな勝機が・・・」
そして語りだす。その小さな勝機についてを。




