米西戦争編-8 投降の条件
コメントは燃料です。どしどしお願いします。
8日
その日は暇になった。スペイン側からの条件付き降伏交渉が持ち込まれたためである。その間、戦闘は中止。双方の兵士がようやく休息に入る。
「田中。スペインが軍をホルギンに撤退させる条件でサンチャゴ開城とその返答までの休戦を申し出ているが…」
だが、士官たちは休んでいられない。特に観戦武官はその代表だ。
「ホルギン(グーグルマップ上ではオルギン)ってここから北にある交通の要衝だよね。それなら米軍は降伏を認めるわけがない。そこで戦力が再編されればそこで大規模戦闘だし、勝っても逃げられてゲリラ戦になってしまうだろう」
荒木の問いに田中はそう答える。その場には柴五郎もいた。五郎はわからぬ言葉について問う。
「ゲリラ?」
「遊撃ともいうのかな。だけどこの言葉のほうがわかりやすいかなと思いまして。遊撃では同じ語句で全く違う意味を持ちそうなのでそれなら外国語をそのまま導入したほうがよろしいかと思いまして。」
ゲリラ戦、ゲリラ豪雨などで有名なゲリラという言葉の語源はスペイン語の戦争という単語に小さいという意味を持つ言葉を足した「ゲリーリャguerrilla」という言葉が語源である。ゆえに
「なんでそんな言葉知っているんだ」
という荒木の問いにスペイン人捕虜から聞いたと答える。何しろ一応、言い訳を考えるために語源を調べていたのだから。
なお、この戦争がなければ戦記で読んだと言うつもりだった。
「確かはるかに劣勢の場合に行われる作戦だったかな?」
砲兵将校である柴五郎は専門外のことのようだ。砲兵が活躍する戦場はゲリラ戦とは真逆の会戦という大規模戦闘だ。
「海軍では酷似する作戦に通商破壊があります。そして最悪の場合、民間に化けて掃討から逃れる例もあります。ゲリラ戦が取られた時点で、常に警戒していないといけないという恐怖による消耗がすべての兵士に襲い掛かります。」
「確か清との戦の折、後方の破壊に苦労させられたのだったな…」
「なので調べました。あれの防ぎ方を。今回の場合、大規模なゲリラ戦を防ぐにはここでスペイン軍を殲滅しなければならない…殲滅できれば圧倒的な兵力的優位が生まれ、ゲリラ戦を仕掛けられる隙すら与えない戦ができます。仕掛けられたとしても、ゲリラ戦の効果が出始める前にキューバの制圧ができるかと。あれは効果が出るのに時間がかかりますから。」
「殲滅って一人残らずか!!」
「少なくとも全員が戦死または捕虜になる状態にならなければなりません。そうでなければ…」
「厄介だな…このままサンチャゴに挑むのは無理があるぞ。いくら急造の野戦陣地とはいえ敵艦隊の主砲がある限り砲兵の支援は…」
「少佐殿。それはもうない…と思います。初日の突撃戦以降は歩兵同士の射撃戦でした。その時期砲兵隊の第1目標は弾薬庫でした。それはすでに破壊されています。それに乗員は砲を使用する最小限を残して陸戦に回されている以上、弾薬の艦艇への積載は市内に残留した市民を動員して行うしかない。その場合、弾薬補給の事実そのものが露見する。」
「逆を言うと弾薬補給に狩りだされていなければ弾薬補充がないということか!!」
「はい。その情報は間者を通じて手に入れているでしょう。そして司令部ではおそらく、砲撃数を数えています。あの船に搭載できる弾薬数を加味して…そろそろ弾薬が尽きたと判断するころかもしれません。実際、応射は少なくなってきていますしね。」
「三味線を弾てなきゃいいのだがな。」
「三味線を弾ていても現状までで把握している命中精度を考えれば脅威にはなりにくいですよ。一撃は怖いですが…それを乗り越えねば弾を送り込むことはできません。」
そして米国政府はこの降伏を蹴ると同時に早急にサンチャゴを攻略することを命じたのだった。
11日 スペイン艦隊
「砲撃来ます!! 発砲炎多数。」
米国は10日に休戦が開けてから騎兵砲兵による機動砲撃戦を敢行していた。だが11日からは規模が大きく変わった。米国軍に増援が到着したのだ。無論、大砲の類もだ。
「敵の砲兵の推定数よりもはるかに多いぞ!!」
「こっちは主砲も副砲も残弾が少ない!!押し負けるぞ!!」
「前線でも敵兵。攻撃を再開。」
「支援砲撃要請が来ている。こっちは砲兵を何とかしなきゃならんのに支援砲撃をしている暇はねえ。」
「丘の裏からの砲撃も来るぞ!!」
「精度の悪い砲撃は無視してもいい。対砲兵射撃確実に砲兵を叩くぞ!!」
第1合衆国義勇騎兵(連)隊
サンチャゴ軍港攻略は遅々として進んでいない。いや、むしろスペイン軍の総反撃を食らっている。
「後方の砲兵隊が全力砲撃を敢行している…」
その圧力は米砲兵に艦砲を避けるための機動砲撃戦を捨てさせる規模のものだった。特にスペイン砲兵は温存させていた砲弾の雨をこれまでに奪取された塹壕に向けて叩きつけた。
「正確な砲撃だ…」
米国はこれまでいくつかの塹壕を攻略してもその後ろにはさらなる塹壕。ゆえに奪った塹壕内に自軍を展開させるしかなかった。ここに布陣すれば銃弾を避けることはできるが、問題は砲弾だ。
スペイン軍にとっては自軍の塹壕だった地点。ゆえに測量はほぼ完全。その正確な測量データをもとに砲弾が飛んでくる。塹壕は砲弾の至近弾ならば内部の兵員を守ることができるが、直撃ならば中身ごと全滅してしまう。
米軍の砲兵がその砲兵を叩いてくれている。米軍は山地に砲兵を置いているので高さ分射程が稼げているのでスペイン砲兵からの砲兵への反撃の可能性はない。ただ、射程の長い艦砲がその反撃を請け負っている。その残弾数も残り少ないだろう。
だが敵砲兵にとって砲兵への反撃ができない以上、塹壕の歩兵隊への射撃を犠牲覚悟で優先する
「田中殿。総司令部より弾薬節約の要請が来ていますが…」
そうなれば砲兵の支援の下、塹壕の奪還にスペイン軍がやってくる。だが接近すれば誤射を恐れて砲兵支援はできないそこからが塹壕にこもる米軍の反撃だ。
問題はそこまでに砲兵によるが大きいことだ。
「司令部に第1塹壕線の放棄をしていいかと聞け。どうせ否だろうが…よろしいですか?大佐。」
だがそれは米軍も同じだ。塹壕を奪取したのは休戦前。米軍は休戦期間を含めて測量などをする時間は十分にあった。第1塹壕線を守備している間に後方に建設した第2塹壕線に退却すれば米軍砲兵は正確な砲撃が可能になる。
ルーズベルトが首を縦に振る。それを見た伝令が返事をして離れると、ルーズベルトが寄ってくる。
「放棄してもいいのか?」
「問題ありません。むしろ砲兵隊にとっては休戦期間中に測量ができた地点のほうが効率は良いかと思われます。つまり今のスペイン軍と同じ状況になるのです。いま、友軍が消耗しているように敵に消耗を強いることができます。」
次々回で米西戦争の戦闘パートは終わりです。ただし、僕自身楽しく書いているのはその後のパートです。史実とここから差異が出てきますぜ。
 




