米西戦争編-7 落日の帝国
おーくーれーた ごめん。
1898年7月3日
第1合衆国義勇騎兵(連)隊
「砲撃音が聞こえる。柴少佐殿。この砲撃音…野砲のものではないと考えますか?」
柴五郎は第1合衆国義勇騎兵(連)隊に観戦武官として話を聞きに訪れていたがその時、周りで鳴り響いていた音について荒木が聞いてくる。
「確かに昔なら聞き覚えの無いほど大きな砲だな。だが聞きなじみのある…ありすぎる音だな。田中。君ならわかるだろう。」
「ええ。艦砲射撃です。しかもかなり大口径だ。ほとんどが戦艦や装甲巡洋艦の主砲級ですね。」
「艦隊が脱出を図っているのか!!」
「おそらくはそうだろうな…読み通りかね?田中君。」
「そうですね。秋山さんが上手くやってくれるのであれば3隻は生き残りますが、それは毒にできます。さてと、上申しに行きましょうか。」
それは始まりだった。史実では4隻全てが失われたスペイン艦隊の装甲巡洋艦は3隻が生きている。ゆえにその戦いは史実と異なる様相を見せる。
同日 装甲巡洋艦ブルックリン(旗艦)
秋山は史実とは違い、他の観戦武官よりもいい待遇を受けていた。旗艦への乗艦が認められていたのだ。これは旧式戦艦テキサスから田中・柴両名が陸軍随伴のために下船したときに旗艦に移ることが許された。これは異例な事である。
「秋山大尉ありがとう。我々にはその発想はなかった。それにしてもこんなことを考えるとは思わなんだ。」
「協力できて幸いです。ですが、この作は私ではありません…」
「噂の預言者というやつか…」
「またあいつの置手紙です…本当に悔しくなる…」
「そうか?君のなかなかだと思うぞ?我々に意見を出せる位置にいるのは君の成果だと思うぞ。ま、その意見で我々は利益を得た。故に便宜は図る」
「では後々、スペイン人にも話を聞きたく思います。あと、沈没した船の視察にも。」
「わかった。手配しよう。」
「ありがとうございます。」
ローズベルト
田中はすぐ外の開戦の勝報をすぐに聞いた。
柴五郎に付けられていた伝騎(伝令の騎兵 外国武官1人について、乗馬1頭、伝騎6名が配属) が海岸線近くの崖の上まで進出。そこで発火信号でやり取りをしたのだ。
「内部分裂を誘うのか…」
それを聞いた田中はすぐにルーズベルトのもとに向かいこれを旗にすべきことを述べた。
「はい。今回の出撃で出戻った海兵たちは逃亡者です。陸軍兵にとっては自分たちを見捨てて逃げ出した存在。装甲巡洋艦1隻500名の乗員がいたとして生き残りは1500名以上。他の船もいるでしょうし生き残りもいるかもしれない。2000人近くの海兵がいると思われます。」
キリがいい数字を出す。それならばイメージがしやすい。
「それなりの戦力だな。」
「そこで内部分裂が発生すれば問題ありませんし、海兵に吹き込んでもいい。どうせ酒場にも間者は潜り込んでいるでしょうからそこから海兵にばらまくのもありです。」
「なぜ酒場に潜っていると思うんだ?」
「船乗りは港にいるうちは酒場にいる者であると考えます。大航海時代から。」
米軍 砲兵隊 高地
「撃て。」
サンチャゴ軍港を包囲した米軍は包囲陣地の中に高地を有していた。ここに砲兵隊を布陣させて砲撃を開始する。
史実ではそれで十分だった。だがこの世界では違うところがある。大きな主砲を持った装甲巡洋艦が生きているという事実だ。
生き残りの3隻のうち、1隻。クリストーバル・コロンは主砲の搭載が行われていないので問題は2隻。その主砲は28㎝。2隻で4門。
威力は陸軍の野戦砲を大きく上回る上に射程、速射性ともに良好だ。
副砲群も陸軍野戦砲とは射程・威力共に一線を画する性能がある。
まともに打ち合えば勝てるわけがない。
「3発撃ったらすぐに移動しろ!」
だからこそ数少ない有利の一つである機動性を活用する。数を打てないので実力的な脅威は少ないが精神面の脅威は残り続けている。
更に包囲されているスペインの補給はない。巨砲をはじめ各砲はアメリカ砲兵に備えるためにも弾薬を節約する。打ち返して砲撃を止めなければ味方は砲弾の雨にさらされる。
もう一つの米軍の利点。砲弾の補給が可能である点だった。あともう一つ彼らには策があった
柴五郎 サンチャゴ東側の丘の陰
臨時砲兵隊
「まさかこんな手を使うとは思わなかった。だがここなら安全だ。」
砲兵将校だった柴五郎はあるものを見ている。
「まさか時代遅れのこれが役に立つとは思わなかった。それにこれの用意をしていたのは驚きだ…」
次にいうのは荒木。
「なーに倉庫で眠っている旧式品なら問題ないでしょ。壊しても。持って来ているのは1門だけだけど、これが上手くいけばフロリダ半島の倉庫に集めているやつを持ってくるさー」
田中は飄々と答えて荒木はいらだっている。
「だからってさ…南北戦争時に使われた前装式旧式砲を持ち込むやつがおるか!!」
「いるよ―ここに」
「大バカ者!!」
「ま、うまくいけば日本に帰っていろいろ試してみますか。だけどそれは先のことだから今はこれを。」
彼が持ち込んだのは南北戦争時代に使われて、米国の兵器庫に眠っていた前装式の大砲だった。だが、その大砲は砲架が外されて、半分埋められている。
野戦砲というものは移動させやすいように車輪付きの「砲架」と言われるものに乗っている。この砲架には射程を決める仰角の操作機能も付いているので砲架に乗せたまま通常使用される。
これが外されると角度調整に手間がかかる。
だが、「砲架」で調整できる角度も限界があり、限界以上の角度を取ることはできない。
逆を言えば外して工夫さえできれば角度を取れる。それこそ丘の後ろから撃っても丘が障害にならないように。
そして前装式は後方に点火用の穴以外ない構造なので後装式よりも耐久性という意味では有利。ゆえに今回、その穴を内側から板で埋めた。通常では不足する射程を無理やり黒色火薬時代の前装式火砲に無煙火薬を装薬にすることで補おうとした。砲身が持つか心配だ。
「本当に無理やりだな…破裂しても知らんぞ…」
その危険性を理解している柴五郎はつぶやく。
「ですね。なので若干。砲弾そのものを砲身より小さめのものを用意しています。更に作業員が逃げ込める塹壕も。砲尾を穴の中に入れているので破裂しても破片の飛散は最小限になることでしょう。」
「だといいのだがな。」
兵士が砲口に摩擦火管を挿入している。これについている紐を引くと摩擦で生まれた火種が装薬に引火して砲弾が砲身から押し出される。今回爆圧対策のために本来火管を入れるはずだった砲尾の小さな穴すらふさいでいるので、砲身よりも小さめの砲弾を使うことで解決した。
砲身に火薬を入れる。砲弾の前に火管を入れる。砲弾を入れて槊杖で突き固める。この時、砲弾と砲身の隙間から火管の紐が出るようになっている。
「準備完了しました。」
その紐をリールで伸ばしながら塹壕に飛び込む兵士。彼が飛び込むと塹壕の外にいるのは2人。砲撃指揮を担当する士官と紐が間違われて引かれないように抑えている兵士だけだ。
「火管準備完了」
2人が塹壕に飛び込む。
「総員退避完了。対爆発姿勢よし!!」
皆口をあけて耳をふさいでいる。士官に紐が手渡される。彼は片耳をふさぎ、片手には紐を持っている。ふさいでいないほうの耳には耳栓だ。
紐が大きく引かれる。直後、大砲から轟音が鳴り響いた。
サンチャゴ 酒場 4日夜
3日から始まった包囲戦では米砲兵隊の散発的な砲撃がスペイン軍に眠りを許さなかった。
その砲撃も四日昼には停止した。休戦交渉により設定された2万の市民を退避させるための24時間の猶予時間だった。
常に緊張状態にあった兵士は休息を手に入れた。要塞守備兵は皆街に繰り出す。すべての市民が退避しているわけではなかった。商売気激しい人間は残留して商品を売る。その中には酒場もある。
そこで事件は起きた。
「糞…逃げ出そうとして失敗したくせに…対砲兵砲撃すらしないというのはどうゆうことかな?」
始まりはあるスペイン兵士が雑談中の嫌味だった。
「フン。マスケット(米軍の装備が古いことを揶揄した)に負けるやつらはいうことが違うな――」
それに返すは陸戦に転用された水兵だった。
それが喧嘩の始まりだった。
双方数人の喧嘩が10人単位になるのはすぐだった。100名単位になるとようやく司令部も注目するがその時には遅かった。籠城兵力は1.3万人。治安維持兵力も総動員している状況では喧嘩を治める人間の数自体が少ない。死人が出るほどの喧嘩。早朝になって残留した市民に犠牲(負傷者の報告は夜には入っていた) が確認されても喧嘩は続き、ついに治安維持担当部隊は発砲をした。
その発砲音は米軍に利用されることになる。
5日 朝
「撃て!!」
初めに動いたのは騎兵砲兵だった。彼らは砲撃後の移動という制約があったが、この時の砲撃はその制限を緩めていた。観測員がきちんと船を監視していたので砲員まで下艦していたことに気が付いていたのである。更に停戦期間中の攻撃。混乱に巻き込まれるのは当然だ。
無論、避難民への被害がないように攻撃は決行された。退避ルートから最も遠いエリアから順次砲弾が着弾する。残っているものは退避を拒んだ存在であるので巻き込まれても文句は言えない。
同時に歩兵隊も突入を開始する。
その中には第1合衆国義勇騎兵(連)隊もいた。
その中で注目すべき点は2点。
一つ目は鹵獲品のモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル) の集中導入だった。米国標準弾薬を使用しない銃を多用する第1合衆国義勇騎兵(連)隊 には後述する理由で7㎜モーゼル弾の弾薬の供給があったために各戦線で鹵獲されたモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル)をかき集めて優先配備された。
ただし、この世界では第1合衆国義勇騎兵(連)隊兵数を上回る数の標準弾薬の使えない銃が遠征軍全体に出回っている。その補給も第1合衆国義勇騎兵(連)隊から回してもらっている事情もある。ゆえにこの手の装備配備には発言権が強く、あまりものの銃器の行く先の指定もできた。その先は付近で戦ってくれている友軍部隊。つまり周りに展開する他部隊でもスペイン軍に劣る標準弾薬を使用する銃以外が多数配備されている。
ゆえに第1合衆国義勇騎兵(連)隊周辺部隊は時間当たりの弾幕投射量は他軍を圧倒した。
友軍の弾幕射撃の中、突撃担当部隊が走る。その部隊は各部隊から抽出されている。新式や鹵獲小銃は貴重だ。あえて旧式銃を装備した兵士が突撃を担当する。
その後ろを輜重兵に臨時教育を施した機関銃部隊が歩兵の後ろを走る。彼らの装備こそモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル) 集中導入の原因だった。彼らの装備はコルト・ブローニングM1895機関銃
この機関銃は本来海軍で使われている小銃弾薬6㎜弾や標準弾薬の30-40クラッグ(スプリングフィールドM1892の弾丸) を使用している例が多い。
だが、今回持ち込まれていたのは輸出用に7㎜モーゼル弾を使用できるようにされたモデルだった。それを私費購入している。史実では2基購入された。この世界ではプロパガンダによる資金集めにより30-40クラッグ弾仕様のものを含めて6基ものコルト・ブローニングM1895が第1合衆国義勇騎兵(連)隊 に配備されていた。
モーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル) の運用においてはもともと7㎜モーゼル弾の供給が確立されていた。その量を増やすだけでいい。
臨時機関銃隊は歩兵隊の後ろを走っている。やがて射撃が前の兵士を倒す。同時に他の歩兵も伏せる。
「射撃準備だ!!ここで支援射撃を敢行する!!」
田中が叫ぶ機関銃兵はそこで止まると機関銃を組み立て始める。
コルト・ブローニングM1895は当時の米主力機関銃であったガトリング砲と違い、組み立てが簡単かつ輸送に必要な人員が少ない。
その代わりに銃身が過熱しやすく継戦能力という意味では劣るが。
その性能を生かして彼らはより近い位置で歩兵隊の突撃を支援することにした。
それはある意味危険であった。7㎜モーゼル弾仕様のコルト・ブローニングM1895が鹵獲されれば今度は米兵に牙をむくことになるのだから。
コルト・ブローニングM1895は意外と歩兵で動かすことが簡単だった。それもそのはずだ。コルト・ブローニングM1895は後の世に重機関銃と分類される銃の中では比較的軽い。1次大戦期に主力となる重機関銃が三脚、弾薬込みのフル装備で40~50㎏以上あるものが多い中、コルト・ブローニングM1895は30㎏もない。
さすがに軽機関銃よりは重いが。
荷車で運ぶことはどの重機関銃でもできる。だが50㎏を人間が運ぶのであれば神輿のように複数人で担ぐように運ばないといけない。しかし、コルト・ブローニングM1895は分解して大きく3つにわけることができた。弾薬箱、三脚、銃本体である。ゆえに戦術的な移動に際してはかなり有効であったろう。
しかも比べる対象が野戦砲並みの重量を持つガトリング砲しかなかった米国軍にとってはその軽さは驚きに分類されただろう。
「敵に頭を上げさせるな!!掃射!!選抜射手は突入する味方正面の敵を狙い打つ。荒木。頼んだぞ!!」
「任された。ここの護衛を頼むぞ。」
今回2人は鹵獲品のモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル) を主武装としている。できるだけ正面突撃に参加させないように接近戦専用装備ともいえるウィンチェスターM1897を取り上げられている。
柴五郎曰く「貴様の血を流す理由を考えろ」とのことである。せめて射程の長いモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル) ならば無茶はしないだろうという発想だ。ちなみに荒木は監視役だ。
ただし護身用のC96は持っている。
それでも突撃補助のために敵陣に接近していることは危険行為ではあるが。
「第2次突撃用意!!支援攻撃に乗じて敵陣地を奪取する」
最前線を走る将校が叫ぶ。歩兵はアスリートではない訓練されただけの一般人。多少走れば過ぎに息が切れ、それだけで大きく体力を消耗する。なので突撃中にも安全地帯を見つけて休みながら敵に突撃したほうが楽になる。
ただし・・・それを許してくれる指揮官がいればの話だが。
どうやら優しい指揮官ばかりで休む時間を与えられた突撃要員は休むと同時に小銃で敵を撃つ。しばらくして支援攻撃の成果が出始め、突撃待ちの兵士たちへの射撃が少なくなると笛が鳴らされる。
突撃命令だ!!
「糞!!止まらない!!」
その時問題が起きた。空冷式のコルト・ブローニングM1895は銃身冷却能力不足にて熱がたまりやすい性質がある。熱がたまるとどうなるか
特にクローズドボルトという仕組みを採用している自動銃では弾薬の炸薬が勝手に燃焼を始める。その場合、引き金を戻しても銃は継続発射される状況になる。この時さらに熱を持つので銃身内部の摩耗を早めてしまうこともある。銃身の交換機能がない銃では致命的だ。
コルト・ブローニングM1895の場合それはおよそ1000発の連続発射から問題が起きる。
コルト・ブローニングM1895は250発の布ベルトによって弾丸が装填されるので組み立て完了から4回弾薬を補充した時点で危険であり、それが起きてしまうと、布ベルトがなくなるまで射撃が続く。この現象をコックオフと呼ぶ。
なお、発射速度が毎分480発なのでベルト交換の時間を踏まえれば3分ほど引き金を引きっぱなしにしてしまえばこの症状が起きる計算だ。
その状態では射撃を止められない銃は危なくて使えない。ゆえに銃身が冷えるまで射撃が困難になる。
無論対策はしていた。制圧射撃と数発の短い射撃を担当する機関銃。役割を決めてそれをローテーションさせていたが、それでも熱はたまるものだ。
「冷えるまで周りの戦死者から銃を拾って応戦しろ。」
田中はそう言いつつ自らも引き金を引く。
機関銃による制圧射撃な少なくなれば頭を下げていたスペイン歩兵の射撃が復活する。
「しっかり狙え!!精度で頭を上げさせるな。頭を上げれば頭に風穴が空く恐怖で突撃の支援をしろ!!」




