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米西戦争編-5 偽りの勝報

 米西戦争の陸戦は海戦と違い泥仕合です。故に書きずらい…

 こんな時こそコメントという燃料が欲しい…

 6月23日 キューバ

サンチャゴ港東南東約15㎞ ダイキリ村

 上陸した米軍は次の日にはよりサンチャゴ港に近い村まで前進。揚陸拠点の拡大を図った。これにより本国からの物資輸送力の上昇を狙っていた。

 軍の部隊はサンチャゴ港に向けて進軍をする。6月24日。ついに米国陸軍とスペイン植民地軍間における初の大規模陸戦が発生する。

 ラス グアシマスの戦いである。

 この戦いはスペイン側がサンチャゴへの兵力集中のための撤退中に米陸軍部隊が攻撃をかけた戦いである。後々から考えるとはっきり言って無駄だ。

 何しろ米国側には戦略的な目標がなかった。そしてそれを意識した用兵もできなかった。

「手出しする必要性はないと思いますよ。」

 田中は荒木と共に輜重兵を指揮していたが、その際に輜重兵の天幕に訪れた人間の問いに言葉である。

「スペイン軍に手を出す必要がない?」

 その男の名前はセオドアルーズベルト。第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)の編成を主導した男である。偵察を行っていた部隊が敵を発見したのだ。彼自身兵站将兵としての田中はある程度認めていたがそれ以外について判断がつかなかった。故に意見を聞きに来た。

「おそらく彼らは撤退もしくは攻撃を仕掛けてくるからです。時期については指揮官の思考を読まないといけませんから。はっきりとは申せませんが」

 田中は2つの選択肢を出す。

「敵にとって時間は味方ではありません。サンチャゴに艦隊が押し込められた関係でキューバ=本国間の輸送はかなり円滑です。アメリカ側は時間が経てばたつほど輸送用船舶の傭船も増大するでしょう。ゆえに米軍の戦力は時間がたてばたつほど増大します。」

「ではスペイン側はいち早く決着をつけようと上陸してすぐに仕掛けてくるのではないか?」

 田中はそこで首を横に振る。

「それなら現時点でも大規模な襲撃がないのは遅すぎますね。それに上陸する時点でキューバ独立派からの情報から襲撃を受けにくい領域への上陸を敢行していると思われます。襲撃を防止する策が成功しているとみなせるかもしれませんね。先ほど教えてくださった兵力を考慮すれば攻撃に出るという選択肢は低いと思います。」

「となれば撤退。手を出すな…か。」

「正確には明らかな戦略的な目的を持たず、『敵がいるから攻撃する』という意識で攻撃するのであれば危険なのでそれよりは手を出さないほうがいいという考え方です。敵は敗走しているわけではありません。下手すれば追い打ちを警戒している敵の罠にはまりかねませんので。」

「戦略的な目的に思い当たる事象はあるか?」

「一つだけあります。彼らの戦略はできるだけ多くの兵力をかき集めてサンチャゴに籠城することでしょう。敵軍の撤退もその目標のための行動です。敵軍を拘束、殲滅もしくは削ることを目標とするのであれば問題はないでしょう。純軍事的にはね。」

「純軍事的?」

「戦場だけ考えていたらそれで十分というものです。しかし、戦争は外交の延長です。外交や国内世論をも見なければならない。勝報がもたらす影響は無視できません。」

「そうか…わかった。」

 ルーズベルトはその場を離れる。

「能力はある…だがいまだ決断力はない…あと情報が不足しているぞ…。時間は我々に味方ではないのだがね…。」

 そのつぶやきを聞く者はいなかった。


 第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)

 1898年6月24日

 ラス グアシマスの戦いは史実通りの戦局だった。撤退中のスペイン軍1500に対して 1750の米軍が攻勢を仕掛けた。

「正面・左翼の第10(黒人部隊)、第1騎兵隊は大丈夫だろうか?」

 第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)は自軍右翼から敵左翼の攻撃のために迂回中だった。彼らはジャングルをかき分けて進む。

 道ですらまともに整備されていないジャングルの道である。各部隊は性急な行軍で疲労がたまっている。特に第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)は最後に到着したために開戦までの休息期間が短かった。

「兵が脱落している…」

 ジャングルにおける無理な行軍…兵たちは徐々に減ってゆく。

「荒木…厄介なことになったぞ…奴らが牛歩を使わんといいがな。」

「牛歩?まさか戦闘参加を怠けるということか?」

「ありえないことではない。無理な作戦、それに私と中佐の話は聞かれている。それが連隊中に回っていれば…」

「最悪だな。」


 正面 第10騎兵隊

 正面で堂々とスペイン軍と射撃戦で殴り合っている第10騎兵隊は黒人兵を主力とした正規軍である。

「糞!!スペイン軍め、打ちすぎだ。くたばれ!!」

 真正面であるがゆえにその攻撃は双方熾烈だった。

 そしてそこでは装備の違いが大きく出た。

 スペイン軍の主力小銃は全てモーゼル1893(別名スパニッシュ・モーゼル)だった。世界で最初期にクリップ装填(エンブロック式)を実用化したモーゼルのGew88に技術的な共通点ある銃で、装填速度、銃弾の威力共に米国製小銃に勝っていた。

 その一方、米国の主力小銃はスプリングフィールドM1873とスプリングフィールドM1892だった。スプリングフィールドM1873は1873年に採用された旧式銃である。それまで米軍で運用された雑多な小銃をすべて置き換える目的で製造されたものである。

かつての南北戦争で製造された前装式のライフル銃を後装式改造した代物の最終型で、改良途中で採用された小銃含めすべての小銃を一掃した。技術レベルとしては日本の村田銃よりも古い。それもそうだ。旧式小銃を無理やり改造した代物だ。そして発射薬は黒色火薬を使用している。黒色火薬を使用した場合、煙のせい射撃地点がばれやすく、そして射撃数が多ければ射撃に支障が出るほどの状況になる。

 無煙火薬の開発により技術的な遅れが見え始め、スプリングフィールドM1892への更新が行われているが、この時点では配備が遅れている。

 そして当時のアメリカ。人種差別政策こそ形の上では南北戦争で捨てた。だが、差別意識はいまだ根強く残っている。

 そのような中では黒人部隊がどう扱われるか…資料はない。だが米国の汚点だ。後世、徹底的に削除しただろう。

 この戦争では最新鋭の小銃の配備の遅れという形で現れた。

 そして最新鋭のスプリングフィールドM1892でも運用面でも問題はあった。この小銃はクリップ装填こそできないが連発銃であった。合計6発の銃弾を装填できた。クリップ装填は戦場における装填時間をはるかに短くすることができた。

 スプリングフィールドM1892はそれができなかった。単発銃よりはましである。だが、弾薬消費量と命中率の向上を企図して長距離射撃の際には単発銃と同じような運用するように1発ずつ装填、射撃を繰り返すように教育されており、銃本体もそのようにする無駄な構造があった。そしてその問題が表面化していないこの時点では1発射撃することに装填を繰り返す運用をしていた。

 ゆえに実質的には単発銃としての運用が強いられた。連発銃と単発銃の射撃速度の差は正面では圧倒的な差を生んだ。

 威力、弾数ともにスペインは勝っている。

「耐えろ!!敵の銃撃は激しい分、弾薬消費は激しいはずだ!!正確なる狙撃を心掛けろ確実に敵兵力を削るんだ。」

 だが射撃数が多いということは兵士が持つ弾薬が尽きるのも早いということだ。

 撤退中の軍隊であれば弾薬類も最低限。後方から弾薬の補充は期待できない。

 敵を撃ちながら徐々に後退するのがセオリーだろう

 膠着した銃撃戦に変化を生んだのは米軍右翼からの銃撃開始だった。


 第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)

「うてぇ!!」

 米軍右翼を迂回行動をしていた第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)はついに初陣を迎える。敵と接敵した兵は射撃を開始する。

 史実でも第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)はスプリングフィールドM1892の保有率が多い部隊だった。

 だがこの世界戦ではさらに良い装備を与えられていた。民生用として生産されており、その中でもっとも有名なのはレバーアクションとしては最大級の威力を誇るウィンチェスターM1895だった。

 ウィンチェスターM1895は史実でも私物を持ち込む兵士はいた。だが、この世界では違った。

銃の供出に関してのプロパガンダが行われていたためにある程度の銃が第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)に届けられた。そのうちまともに使えると評価されて残された(使えないと判断されたものははじめから選考から外され、どれでも届いたものは送り返された)銃の多くがウィンチェスターM1895だった。ウィンチェスターM1895はレバーアクション方式であるがために軍用小銃として標準的なボルトアクション方式よりも速射性が高い。更にはクリップ装填が可能だった。少なくとも速射性はモーゼル1893に勝っていると言えよう。

 だが威力は負けている。そもそもレバーアクション方式は構造上威力の高い弾薬を扱いにくい。ウィンチェスターM1895は軍用弾級の威力を持つ弾を運用できる例外的な銃だ。だが民生用として生産されていたウィンチェスターM1895には様々な弾薬を使用するモデルがあった。その中にはスプリングフィールドM1892に劣る低威力な弾丸を使用するモデルもある。一応、米陸軍に採用してもらうことを前提にスプリングフィールドM1892と同じ30-40クラグ弾を使用するモデルも生産されたが戦前の製造数は少ない。戦争に際して不足する銃器調達のために1万丁ほどの生産が予定されているが間に合うかはわからない。存在したとしてもある事情から第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)以外に回された。

 だが速射性の利益を上回る問題点がある。様々な弾薬を使用するモデルがあり、それをかき集めて運用している関係上、弾薬の共通性が乏しかった。弾薬補充の複雑化を生んだ。

 いくら性能がよくても補給を混乱させるようでは運用は難しい。スプリングフィールドM1873以前(改造の研究過程で雑多な銃弾が開発され、補給を混乱させた。ゆえにスプリングフィールドM1873以外の小銃を全て退役させて弾薬を標準化した)でも問題視されたほどなのだ。特に南北戦争から軍歴を重ねるジョセフ・ウィーラー少将(第5軍団遠征軍の騎兵部隊を統括する人間)は問題視した。最悪、その混乱の被害を最小限に食い止めるためにウィンチェスターM1895などの米軍標準弾を使わない小銃は第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)に押し付けられた。

 そこで弾薬供給の問題を解決したのは田中だった。事前から配備小銃の弾薬をすべて把握する方策を考案、予備弾薬の備蓄体制を整えることにより供給の安定化に成功している。そして銃の速射性の高さから速射性だけは米西戦争中の合衆国1の部隊になる。

 だがそこまでの錬成にはこの時期には至っていない。速射性にかまけて銃弾をばらまくだけの部隊だ。その代価はすぐに支払うことになる。

「連隊長が撃たれたぞ!!」

第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)初代連隊長のレナード・ウッド大佐が撃たれたとの叫び声。射撃戦ではいくら弾幕ができても命中しなければ意味はない。だがその実は新聞記者のエドワード・マーシャルという男と見間違えたのだ。

 現代でいえば戦場を知らないド素人のマスコミ関係者がのこのこと戦場に出てきて邪魔をしたということになるだろうか。

 だが、この事態がある男を奮い立たせる。

「連隊長の代理として私が指揮を執る。」

 副連隊長のセオドアルーズベルト中佐だった。だが彼もまともな士官教育を受けた身ではない。そばに駆け寄るは田中義三。

「各員しっかり狙って打て。弾切れを起こすなよ。弾切れをしたら畳みかけられるぞ。」

 まるで腹話術である。ある兵士が田中に声をかける補給担当だから何とかしてもらえると思ったらしい

「なんだともう弾を打ち尽くしただと⁉貴様背嚢はどうした捨てただと⁉愚か者予備弾薬を捨てたに等しいぞ!!拾いに行け!!他のバカ連中が捨てた背嚢も回収しろ!!戦域突入前に荷物をデポ(一時的に荷物を置いてゆくこと)させたのを無駄にするつもりか!!拾いに行け!!本日の貴様の仕事はそれだ!!」

 愚か者第1号は後方に走る。

 だが、後方から遅れていた兵たちが到着すると、その兵たちは射撃に参加する。だからこそ弾薬切れをおこしても戦力低下にはなりにくい。だが最大火力による精神的な衝撃は低下する。だらだらと長い銃撃戦が続くことになる。


 その後増援の第9騎兵隊(黒人部隊) が来援するも彼らも行軍による疲弊がたまっていた。比較的苦戦しがちで、早着できそうな領域に走る。それはちょうど第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)と第10騎兵隊の間だった。戦局は五分に持ち込めたがそれ以上の追撃をする余裕はなかった。


 米軍が再度の交戦を企図して準備をしている間にスペイン軍は撤退した。


 第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)

「ウッド大佐ご無事でしたか」

 第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)はスペイン軍の撤退の後、野営地に戻ってきたそこには死んだと思われていた人間の姿があった。

「私が撃たれたという誤報があったようだ。ローズベルト中佐」

 ウッド大佐はこの時点で兵に嫌われていた。ウッド大佐は第1合衆国義勇騎兵(連)(ラフ・ライダーズ)の練兵の際に騎兵としての運用を主軸に練兵したが、そもそもキューバにほとんど馬は輸送されず、歩兵としての運用となる。輸送力不足による上からの命令であったが、それに対しての交渉をしたのはウッド大佐。兵たちには馬を連れてこれなかった責任はウッド大佐にありと判断され、嫌われていた。

「どうやらそうであります。指揮権はお返しします。」

「そうしてくれ。田中少尉物資は?」

「他部隊と共用できない弾薬類を上げますと深刻ですね。今回の作戦前に背嚢の中身のデポと弾薬の補給を実施しましたが、背嚢を捨てる愚か者が出ました。残弾は今回の規模の交戦2回分という感じです。敵の装備の鹵獲にも失敗しましたし、正直厳しいですね。

 今後の対策を考えていますが兵たちの意識改革のために中佐の許可を取って懲罰訓練中です。」

 レナード・ウッド大佐は周りの兵士を見る。皆腕立て伏せ…かなり時間をかけて。回数は愚か者の人数分だ。しかも連帯責任。

 その時には上官からのネチネチとしかお叱りの言葉が続く。大佐はその様子から目をそらすしかできない。


 米軍は少し休息を挟み、前進を再開する。

 数日後、遠征軍の騎兵部隊のトップであるジョセフ・ウィーラー少将が病に倒れた。

 その穴埋めにレナード・ウッド大佐の上官が任を引き継ぐと大佐もその穴埋めに出世した。

 その結果、今回の戦いで代理の指揮を執ったローズベルトが大佐に昇進して連隊長に出世することになった。


 米国内では勝利と報道された。だがその実は勝利という基準のあいまいな言葉で表現できるものではない。

 だが、後退と撤退、敗走の差異もわからぬ一般人にとってはそれで十分だった。



 セオドアルーズベルト 親戚のフランクリンのほうが有名だからあまり知られてないのかな? 

 一言。のちの大統領。ポーツマス条約の立役者。


 なお次回25日は更新を予定。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 米西戦争を扱った作品自体こちらが初めてなのでこのターンを興味深く読んでます。 [気になる点] > ルーズベルトはその場を離れる。 >「能力はある…だがいまだ決断力はない…あと情報が不足して…
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