米西戦争編-2 準備と開戦
サーバー整備と仕事の関係で今あげました。
3月9日 合衆国議会は軍費の追加を可決。
日本大使館 秋山真之
「本当にアメリカがスペインと戦争する事態になるとは思わなんだ。」
とある外交官が歩きながら話す。
「アメリカ人の気質を考えればキューバに味方するのは当たり前です。私より長くこの国にいる外交官がわからないのは心外です。」
秋山は嫌味を言う。ここ最近、大使館で集められた資料を見て開戦の判断をできなかった外交官に対する嫌味である。
「本国からも至急観戦武官の増員がなされる。無論、米本国方面とフィリピン双方にだ。だが本命は本国。スペインの主力艦隊が展開するキューバだ。秋山君。君は先乗りしている状況だ。増援の観戦武官を先導する役目がある。重要な役割だ。覚悟してくれ。」
外交官は嫌な顔をすると秋山にお役目の重要性を告げる。
「わかっていますよ。私は先導役。私がこの数カ月行う活動で彼らが活躍出来るかが決まる。」
「列強はもう一つの戦いに注目している。観戦武官が何をこの戦争から学び取るのかという戦を。」
「わかっていますよ。陸軍から派遣される将校の一人は友人です。頼まれごとはすでにされています。既にマハン大佐経由で米海軍上層部に食い込む算段をしています。私がまず先導できるのは彼らに学ぶ環境を与えることです。よりいい位置で学ぶ機会があれば他者よりも得られる情報は多いはずです。」
「そうか。日本からの急派組の一人からの提案電文も来ている。イギリスから転戦して来る柴少佐は砲兵将校らしい。提案内容との一致も見られるだろうから提案については彼に任せる。」
「内容はその友人から来ています。というかその友人からの提案でしょう。船の手配を急ぎます。一応資料を見てみて搭載できそうな船は旧式艦のテキサスだけと思われます。」
「そうか。準備は任せる。」
太平洋航路(日本―シアトル) 日本郵船貨客船
田中義三をはじめとする観戦武官の第1陣は太平洋航路の貨客船に乗り込む。
この当時の貨客船には通信設備はない。つまり、田中ができることはない。
「田中…士官学校時代と全く変わっとらんな。」
せいぜい雑談ができる程度だ。
「荒木…何もしないよりはましだ。わしらは戦場に行くのだ。にわか仕込みでも生き残るすべはあったほうがいい。」
田中は荒木に本を差し出す。
田中義三と共に米国派遣の列に乗るのは史実では派遣されていない荒木 貞夫だった。この当時は任官前の曹長待遇である。
ただし曹長待遇では体面が悪いので米国到着時期をもってこちらも少尉になる。野戦任官だ。階級章もすでに持ち込んでいる。通常の士官学校生である荒木には例外はあまり通用しない。そもそも少尉任官前に米国派遣組に選ばれていること時点で例外的なのだが。田中を理解してやれる人間の少なさゆえにこの人事になった。
「マラリアの本だな。お前の書いている内容とは全く違うようだが私に軍医にでもなれというのか?」
だがこんなもの持っているということは彼はその知識を持っていることに等しい。そして誰かに読ませる目的があったということであり、それを渡した時点でだれに読ませたくて持ってきたかはわかる。
「野戦治療と現地で起きる可能性のある戦病についての知識ぐらいはあっても損はないだろう。暇しているくらいなら知識を取り入れろ。それが己や他者の命を救うことになるやもしれん。」
確かに船旅の間は読書のチャンスでもある。
「お前は何をしている。」
だが田中は常に何か書きものをしている。書いているものはその時々によって違いがある。だが今回も何かの図面のようだ。
「戦争には必要な物だ。」
「また具体的には言わんのだな。ま、俺は読み物でもして知識を蓄えることとしよう。中学も行っていないお前に知識面で負けるのは癪だからな。先輩士官はもちろん、船医あたりにも話を聞こうか。船医は何もなければ暇しているだろうから」
だが、荒木は本を読みつつ驚くことになる。マラリアについての本には最新研究についての資料も挟まれており、その資料と共に彼が持ち込んだある物資についての納得と理解することになる。
「また一杯食わされた。」
理解したときに荒木はそうつぶやいたという。
日本 東京大崎
二宮「なあ。この手紙どう思う?」
大崎に横浜から届いた手紙。その内容についての問いかけに2人は悩む。
山田「気球用の救命胴衣か…。確かに必要であるが、気球の落下速度は遅い。だが君の方はおそらく落下速度は速すぎて生存は難しいだろう…」
二宮「確かに必要だな。それに用途の一つを見てみろ。彼の所属を考えれば確かに考えそうなことだ。あとから考えてみればな。」
山田「本当に一杯食わせるのが上手いなあいつは。」
二宮「では現状使える素材で考えて作ってみるか。新しい素材について頼めるか山田。ゴムの専門家さん」
アメリカ合衆国 海軍省 次官室
「確かに有用な提案だ。受けよう。だが私はその担当者になることはできない。」
秋山真之は観戦武官の受け入れ先についての交渉に海軍省を訪れている海軍省のトップはどうやら無気力らしく、事実上の支配者は次官であった。ゆえに交渉の窓口はその次官となった。
「提案の受諾ありがとうございます。しかし担当者が変わるとは?」
「この戦争がはじまり次第私は次官を辞して戦場に出るつもりだ。既に友人たちには声をかけている。陸軍の義勇兵を編成するつもりだ。君の提案の一つはそれで実現しよう。何。元々そのつもりだったのだから問題はない。1人2人増えてもな。」
その海軍次官。名をセオドアルーズベルトといった
シアトル
「相変わらず手紙が多いな。」
田中義三は太平洋航路の貨客船から降りる。現地にはすでに大使館の人間が来ている。首都ワシントンへの移動は大陸横断鉄道で移動する予定だ。
その手には多数の手紙。船旅の間に書き上げたものらしい。
「これも仕事だ。俺は遠隔だけどいろいろな仕事があるから。これで電話が個人で持ち運べる大きさになっていたら電話を常にしているかもしれないな。電報も届いているぞ。」
荒木の問いに対して冗談を言う。手紙は乗ってきた貨客船の帰りの便に乗って本国に送られる。
「今度は何をしているんだ?」
「ひ・み・つ」
じゃれ合っている。軍機もあるから聞いても答えてもらえないだろうにわかっていいて聞いている
「むかつくな―――」
「はっは同じことができる立場まで出世したまえ――。というのは冗談でいえることと言えないことはあるんだよね。言えることや伝えられることは伝えているだろ」
「確かにな」
直近ではマラリアの本が代表例だ。
「外交官さん。鉄道の時間はまだあるよね。」
「まあ、そうだが…」
「では本屋にでも行こうか。予定通り荷役は終わらないだろうし人員は先乗りしよう」
「その荷役のほとんどは君の調達物資なんだけどな。」
1898年3月26日ウィリアム・マッキンリー大統領
スペインへアメリカへの敵対行為の中止要求。
スペインは拒絶及び抗議。
同月28日アメリカ海事審判所、メイン号の沈没が機雷の爆発が原因と発表さらなる米国の開戦世論が沸騰する。
4月11日大統領 議会へキューバに対する介入への承認を求める。14日には下院 311対6、上院 42対35 にて可決。
4月20日、アメリカ最後通牒。キューバからの撤退をせねば武力攻撃する。スペイン宣戦布告とみなし大使を退去。対米宣戦布告。
4月22日米主力艦隊 フロリダ、キーウエストより出港キューバの海上封鎖作戦を開始。
4月27日米アジア艦隊香港より出港。




