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日清戦争 -35 冬季の炎

 この話でようやく日清戦争を事実上の休戦状態に持ち込めました。というかかなり急ぎ目の進行。申し訳ございません。

 日本軍の動きは史実以上に明確に清国側の継戦能力を破壊しています。次からは戦後編?戦後になるのかな一応、下関条約は締結しているから戦後になるのだろうか…。

 3月7日 田中義三

 5日、ほとんど逃げ出した清国軍のうちいまだ牛荘市街地に残った残存兵力の掃討戦を完了させた。いや掃討と言えるだろうか。一部兵士は自ら投降してきた。

 気球の降伏勧告が一部役に立ったということだろう。ただし、文字の読める兵士が少なかったためにほとんどの清国兵は日本兵の掃討戦に倒れ、市街地戦での犠牲者はほとんど史実と同じ程度だった。

 次の目標は田庄台。こちらは黄海に接する渤海にそそぐ遼河沿岸の都市である。

 付近の営口と共に遼河平原の水運を担っている港湾都市である。

 

 だが田中は主力よりも先に動いていたある意味非道の作戦を実施するためである。

 

 この作戦は第5師団の提案ではなかった。すなわち、師団長の奥 保鞏も田中の事実上の師 立見尚文も知らぬことである。

 だが、立案者は田中である。

 その立案がどのルートで上に知らされることになり、それを許可したのが誰であるか。それは気球による降伏勧告の散布にさかのぼる。

 気球による降伏勧告の散布は季節風を利用して気流の上流からあえて漂流させて下流の部隊に向けて垂らしたロープにて回収してもらう。その間に降伏勧告のビラを散布する。

 その回収には各所に配置されている部隊すべてに動員をかけた。包囲状態に近いので回収できないことはなかった。その際に田中は第3師団長桂太郎に接触した。その時はただの雑談だった。

田中『気球の回収。ありがとうございます。』

桂 『ウン。これで多少の降伏が出てくれれば我々も楽なのだが。』

田中『それは無理でしょう…ここで降伏するような連中であればすでに夜間の間に逃げ出しているはずです。戦う意思があるから残っているのであって彼らには強い士気があるかと。』

桂 『そうか…』

 いつもニコニコしておりそれがあだ名にもなっている桂の顔がゆがむ。

田中『しかし、士気が高いということは清国兵のうちで熟練の部類に入る兵士たちの可能性が高いかと。そのような兵をここで殺せば逃げ癖のある兵士ばかり残ることでしょう。下手に練度の低い兵が彼に触発されるよりはましです。』

桂 『そうか。そうだよな。物はいい方向に考えなければな。』

田中『しかし、市街地戦は…どのような戦になるのでしょうか?住民への犠牲者も多いかと…思いますが』

桂 『そうだな。民間人のいる領域へ進軍するのだから巻き添えを食らうことも多い。ま、逃げ出している人間も多いが…』

田中『巻き込む恐れがあるから積極的には戦えない。ということですか…』

桂 『そうだ。流れ弾の可能性もあるから射撃よりも着剣する必要がある。だがそうなると、清国側の刀剣に負ける場合も出てくる。射撃戦よりも分が悪いがやるしかない戦なのだ…。』

 田中は顎に手を当てる。その様子を桂は見ている。

桂 『どうした?』

 田中は手に持っていた用箋挟何かを書き始める。しばらくしてそれをやぶり取り、内容を見せる。

 しばらく彼らは筆談で会話をする。

 しばらくして2人はメモを燃やす。


 その日の夜、野津道貫第1軍司令官と桂太郎第3師団に呼び出された

 7月6日、遼東半島方面より進出中の第1師団が渤海沿岸の港湾都市『営口』を陥落させる。その報が届いた直後、再び2人に田中は呼び出されたった1日で立案されたとある計画を命じられる。

 同時に気球隊の所属が第1軍直属(それ以前は第5師団直属だった)に変更される。

 ただし気球隊の主力を放置して田中は第3師団から極秘裏に選抜された数名と共に先発した。あまり知られたくなかったことから通訳の士官を除きすべてがただの兵士だった。


 第1師団 司令部 

向野 堅一 山地 元治第1師団師団長

 向野 堅一は第1師団師団長の山地 元治に呼ばれる。昼間なのに人払いされている。この2人しかいない。

向野「山路師団長殿。どのような命令ですか」

山地「第1軍の野津司令官からの命令が出た。伝令兵も知らされない極秘任務のようだ。私は内容を見た。君は内容を確認し次第、これを焼却。作戦行動に入ってくれ。」

 向野は内容を見る。

向野「敵の駐屯地に近づかない分、偵察よりは楽な任務かと。作戦そのものは非道ですが。本当に野津閣下の作戦案ですか?文字も若いように見える。」

山地「わからん。誰の作戦案かもな。私もそれしかわからん。」

向野「もしかしてこの現地合流者がわかっているかもしれませんね。彼らは至急、牛荘城方面より、営口方面へ向かってきているとのことですか。」

山地「そうだ。だが日本語を話すなよ。すべては作戦書のハンドサインのみでの会話だ。あちらの面々は喉をやられた朝鮮人奴隷という設定だからな。文字も読めないことになっている。」

向野「では早速営口に向かいます。必要物資の買い出しと彼らとの合流に動きます。」


 田中義三率いる特務部隊

「ということだ。君たちはこれから一切言葉を発してはいけない。たとえ殴られたとしても声を発してはいけない。叫び声までだな。」

 田中義三は夜間、平原を疾走する馬車の中で部下として預けられた兵士たちに作戦内容を話すと同時に命じる。

「一等軍曹殿。それは…」

「やるしかないのだ。勝つためには。これが失敗に終われば牛荘のように多数の日本兵の戦死者を生むだろう。我々はそのためにこれを行う。かの町はどうせそうしなければならない町だ。敵の物資輸送拠点になる。残念だが結末は決まっている。」

「しかし…その」

「責任はわれらにはない。責任は民が残っているのにそれをした清国軍の責任となる。」

「それでもです!!」

「この戦争勝たねばならんのだ。この戦争は日本が列強に飲まれないための戦争だ。清国に負けてみろ。日本はあっという間に列強の植民地だ。汚くとも何とでもいい。勝たねばならん。」


 3月9日 田庄台に第1・3・5師団が到着。日本側総兵力1.9万、清国2万戦力は互角。

 日本側は各地に師団から抽出した守備隊を置いているがために3個師団にしては兵力が少ない。

 田庄台は南東面を川に面している。この川による水運が行われる町だ。この川を正面とするのであれば正面から進撃するは第3師団、すでに渡河を行った第1第5両師団はそれぞれ西と北方向から田庄台を攻める。

 田中義三が抜けた気球隊は第3師団正面に展開した。

 この戦は日清戦争がこの後硬直することを考えると事実上最後の決戦となった。

 7:40まず火を噴いたのは双方の砲兵だった。徹底的な砲撃だった。

 第3師団は特に気球による観測砲撃が有効な支援砲撃となって敵に被害を与える。これは第3師団にとって追い風になる。

 気球隊の配属は第3師団だけは敵前の渡河という犠牲が多い戦術をやることからの措置である。

「敵砲兵弾薬誘爆及び砲員死傷により沈黙多数。」

 気球隊からの報告を聞いた第3師団長の桂は2人呼んだ伝令の内1人に突撃を命じる。

「突撃だ――!!」

気球隊に聞こえてくる叫び声は佐藤正大佐の叫び声だ。若き猛将の卵は自らを先頭に走りだした。


 田庄台 市街地 民家の屋根の上 田中義三

 みすぼらしい服装をした男が屋根の上から南東を見ている。目を凝らす先には気球だ。

「あれに人が乗っているのか⁉遠くてよくは見えんな。」

 周りには田庄台から逃げ出さなかった人間が同じように戦場の方向を見ている。砲撃音が周りにこだまするが、まだ戦闘の音は近くない。

 その時である。気球が輝いた。不規則なリズムだ。どうやら太陽光を何かが反射して光っている。

 みすぼらしい男が屋根から降りる。別のみすぼらしい男たちに目配せをする。

 その男たちはそれに小さく首を縦に振る。

 彼らは悠々と歩きだす。その先には荷車。見た感じは多数の木製の箱が載せられている。

 彼らは荷車を移動させながらその箱を路地裏にひっそりと置きその場を離れることを繰り返す。彼らは空になった荷車を捨てて何処かに消えていった。


 0900ごろそれは始まった。外部での砲戦が清国側不利に進み、士気の低い兵士たちが田庄台市街地に逃げ込み始めたころだった。田庄台の市街地から同時多発的にボヤが起きた。戦闘中の混乱。乾燥した冬の風、消火に必要な水の供給源である河川付近が戦場であり接近が困難である状況。そして逃げ込んでくる兵士たちによる混乱。ボヤは取り返しの利かない規模へ拡大する。すなわち大火災出る。

 その様子を真っ先にとらえたのは気球だった。

「敵は田庄台の占領を防ぐため住民がいるのに町ごと燃やす気か⁉」

 叫んだのは気球の操縦手の元海軍軍人。その眼には怒りを覚える。彼も自称薩摩隼人だ。幕末、薩英戦争の折、英国は薩摩を砲撃した。そして鹿児島の市街地のほぼすべてが全焼した。だがこの時、向こう見ずな薩摩にしては珍しくは冷静に対処。薩摩の砲撃開始前に住民は安全なところまで避難させている。

 結果的に人的被害は意外や意外、英国艦隊側に薩摩以上の損害を出した。艦隊もわざわざインドまで回航しての修理を強いられる艦が出た。

 そのことを知る薩摩人にはこのことは怒りを呼び起こすには十分な事である。

 だがその真実を知れば彼はどのような表情をしたかはわからないだろう。

「突撃やめ。射撃戦で逃げ遅れた敵兵を撃て。逃げ出した住民を救助せよ。」

 現場指揮官は独断でその判断を下す。突撃すれば火にまかれる可能性が高い。退路を断たれた清国兵の死闘を招くやもしれない。ならば射撃で確実に殺すが吉。

 清国兵を殺しつくしたのちに逃げ出した住民を救助する。それが現場指揮官たちの大半が下した決断だった。

 日本軍は追撃を中止した。いや正しくは不可能且つ必要がないがためにやらなかった。市街地の大火に逃げ出した清国兵が巻き込まれたためだ。

 

 この最終決戦において清国軍は史実になかった大火により多大な被害を受けた。日本側はその損害について具体的な数値を記録することは不可能と歴史書には断じた。清国兵と判断できる遺体が史実と同じ程度の1000体程度埋葬できただけであり、それ以上の判別不明な大量の遺体…桁が一つ違う程度の数がまとめて埋葬されることになる。史実では戦闘完了後に住民を追い出して市街を焼いたがこの世界では住民ごと焼いた。当然この焼死体には住民が含まれている。何しろ住民の一部は日本軍に保護されているのだから。なお消火も日本軍のバケツリレーである。焼け石に水だが。


「首尾は?」

「作戦通り敵本陣が撤退できる位置から出火させました。清国軍の上層部は下からの信用を失っているかと思います。」

「だろうな。逃げるために火をかけて時間稼ぎのために前線将兵の退路を断たせたと思われかねんからな。」

「実際、我々は追撃していません。彼らの狙い通りと思わせられるでしょう。捕虜に吹き込んである程度の数、解放してやってもいいでしょう。それで清国軍は疑心暗鬼に陥ってこちらを攻める余裕はない。」

「本当にえげつない策だったが、我々の介入は察知されていないよな。」

「出火地点に我々が存在していない以上それを気取られるとは思いませんな。それに時限発火具は全て営口で調達しました。営口でだれでも購入できる代物ですので足がつく可能性は低いですしそもそも証拠は消し炭ですので。」

「わかった。言っておくがこれは機密だ。関係者も全員この後呼び出している。隔離はしているんだろ絶対に外に漏らすな。」

「了解。」


 えーどのような方法で時限出火させたのかそれは『憂国のモリアーティー』原作漫画で旧モリアーティー家の屋敷を全焼させた火元、蝋燭+少量の水です。箱はそれを隠すためのもの。これなら見つかっても怪しいが具体的な内容は出火するまでは判別が困難。そして焼け跡には証拠は残らない。

 ようやく漫画家らしいところが少しだけ。


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