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日清戦争 -35 冬季攻勢

 次で…戦争は膠着するかな?

 戦局はあっという間に史実通りに進む。清国軍には負け癖の如く撤退をする。


 第2軍は大連・旅順をあっさりと占領した。


 第1軍は千山山脈の突破に動く。清国軍は若干抵抗するとすぐに逃げ出す。そのためにあっという間に千山山脈の突破とその先の拠点 『海城』 の占領に旅順陥落前には成功した。しかし予想された通り、兵站は滞る。そして『海城』陥落前についに第1軍司令官山縣有朋は解任された。表向きは体調不良が原因だが、その実は本国の命令から逸脱する行為が目立ったことにある。後任は第5師団長野津道貫中将。第5師団は奥保鞏中将が後任になる。奥は日露戦争では薩長閥で占められた各軍司令官の中で唯一佐幕派藩出身であるにもかかわらず、軍司令官に任命されたほどの人物である。そして日本初の皇族・薩長出身者以外での元帥にもなる。


 本来、作戦中の指揮官の入れ替えは避けるべき行為であったろう。山縣有朋も本国には病の快方を連絡していた。


 そのような状況でも『海城』は陥落した。これは第3師団長の桂太郎の成果というよりは清国軍の指揮の低さに起因するだろう。日本兵は国民兵である。この戦争に勝たなければどうなるかを考える。


 それにこの当時の兵隊の多くは農家の次男以下の家を継げない人間が多い。彼らが立身するには軍での活躍は大きな比重を占める。田中義三も農家の3男。同様の立場であった。一方、清国は雇われ軍人。しかも多くが被支配民族である漢民族の兵士が多い。報酬と命を常に意識している。それは戦局が不利になれば逃げだすという判断を生む。


 だが、それは命令である可能性もある。兵力を決戦まで温存し、日本軍の兵站が伸びきるまで待つ可能性だってある。


 実際、『海城』は度々清国による攻撃を受けることになる。


 この時、第3師団は『海城』から撤退し、防衛線を下げるという選択肢があったがそれを取らなかった。撤退は清国軍の増長を生むと考えたためである。


 この時にはすでに第2軍は当初の作戦目標である旅順の占領は成功していた。そこで第1軍は第2軍への支援を要請した。


 しかし、第2軍は第2軍で考えていることがあった。それが威海衛の占領である。


 この双方を本国の大本営が調整した。


 元々第2軍全力での威海衛占領は輸送力の問題から不可能だった。だから第2軍への増援条件に第2軍を2手に分けた。威海衛を攻略する第2、第6師団と遼河平原方面を牽制する第1師団に。


 兵站面の問題は第1師団にはあまりなかった。日本軍の軍政は大きな問題を生じさせなかった。むしろ、行軍に際して国内でも略奪行為が横行する清国軍よりもはるかに良好である。更にある程度の貨幣経済が浸透している清国国内では物資購入や人夫の雇い入れも朝鮮国内よりは楽に行えた。


 そのような中、旅順虐殺事件という報道が諸外国になされた。日本軍が民間人を旅順で虐殺したというものだ。日本はあり得ないことと火消しに走る。


 このことを聞いたある若者が再び新聞を操作した『清国軍は民間人と区別がつかない兵士を運用ス。』

 見出しはこれである。同時に『この作戦民間人への犠牲を生む非道な作戦である』との見出し。そしてその理由を文章化している。


 これまでも清国軍の非道は報道されつくしている。日本への非難記事は一転。調査不足を指摘される記事に変貌すると再び清国への非難記事に変動する。


 初春。雪解けが泥濘を生むために双方の行動に支障がでる季節。だが、この先は日を追うごとに台地は乾燥し、遼河平原での決戦になる季節。


 すでに威海衛は陥落。日本はついに黄海の清国軍海上戦力のほとんどを掃討した。あとは少数の水雷艇だけであろうが、これなら少数の護衛だけで輸送船は十分遼河平原への兵站物資の輸送が可能になる。更に低性能な船の輸送任務への投入が可能になることでの兵站改善。


 日本は晩春以降に行われると想定される決戦に際し、よい条件で決戦が望める状況になるべく。決戦前に攻勢に出る動きを見せた。


 そこには第5師団も参加することになる。



 2月19日に行動を開始した第5師団は3月2日には当初の予定通り『鞍山站』にて第3師団との合流を果たす。


 この2個師団の攻撃目標は牛荘。という町である。


「久しぶりの実戦だ。着弾観測を確実に。」


 臨時気球隊の久々の実践である。皆張り切っている。


 だが戦局はある意味気球にとって最悪な方向に進む。圧倒的に有利な戦力差を持つ清国軍はさらに守備という有利な条件で待ち構えていたが、それでもまた敗走を始める。


 だがその敗走先が問題だった。その敗走先その一つが牛荘の街中。つまり民間人がいかねない領域だった。

 砲撃による攻撃はできない。民間人を巻き込む可能性がある。


「市街地以外に撤退する敵軍に対して砲撃を優先。弾種は榴散弾。徹底的に砲撃して追撃してください。退路は1つだけ。各軍に連絡してください。そこが狩場です。」


 だが、日本はこれまでより気球の運用に洗練化していた。


 気球隊は冬の寒空の中、鍛錬・改修と務め、上昇可能高度(上空の気流と地上から延ばされる縄の長さが影響) を向上させる。


 同時に工兵隊は平壌戦から導入された電話を野戦電話として昇華。各軍司令部、一部砲兵隊、気球などをつないだ連絡網を構築する。


 この時、それが活躍した。遼河平原には大きな山がない。そのために山頂に気球を配置することによる高度稼ぎが不可能になる。


 だが気球の操縦人員の練度向上・設備の向上に伴う上昇可能高度の上昇はその高度稼ぎを不要にした。


 それは同時に索敵距離の向上を生む。状況の把握。それにとって気球は最大の効力を生む。


田中「友軍誤射の可能性は低い。打ちまくれ。」


 砲兵も長距離の射撃では精度が低下する。よってあまり精度を気にしなくてもよい榴散弾による砲撃。これの物量によって撤退中の兵士を殺傷する。


 史実のこの戦闘に対しては様々な評価がある。この戦闘は苛烈な市街地戦に突入したが、それは一部歩兵隊によって退路を断たれたことにより、退路を選べずに市街地に逃げ込んだ。退路をわざと開けてそこに押し出す様な勝利が得られたのではないかというものだ。


 だがそれはそれで問題だ。撤退に成功した兵士はその先で再度の戦力化を受けるだろう。ここで包囲、殲滅することは戦略上の好機になる。


 今回の作戦行動はいずれ行われるであろう清国軍との決戦に際しての戦術的優位を確保する前哨戦である。その戦略的有利の代表は数の利を得ること。そのためには拠点だけでなく、戦力そのものを削る必要がある。これを削る機会は逃してはいけない。


「仮に市街地戦に陥っても清国側の動きを口実にできる。清国側が市街地戦に持ち込み、市民に犠牲が出たという印象操作を取ることができる。」


 田中はこのように冬季の膠着時に立見尚文の目の前で語った。いや語ってしまった。直後、立見にぶん殴られることになった。立見は弱者を犠牲にする策を是としていなかったためである。幕末どのように武士が死に、その家族が自決していくのを見てきた彼にとって弱者を巻き沿いにする戦は許せる存在ではなかった。だか彼も彼にとっての歴史を見てきた。戦争はきれいごとではない。


 だが、戦局は結果的に弱者を盾にする戦に移行する。路を砲撃された清軍はその退路をあきらめ、市街地に逃げ込んだ。


 そこのころ立見尚文本陣では田中義三が今後の戦略について話し合っていた。(気球隊の位置が立見尚文のそばにあった)


田中「市街地を完全に包囲すべきです。市街地に残存した清国軍を撃滅すれば撃滅を狙えます。」


立見「それでは清国軍の徹底抗戦を生むぞ。市民の犠牲が生じることになる。夜間、あえて一部の包囲を緩めれば奴らは夜間のうちに逃げ出すだろう。それで市街地戦を防げる。」


田中「清国側に降伏を打診。それを拒否されたことを市街地戦への攻撃はある意味正当化されます。捕虜を取らないでも軍務につかない旨の宣言と刺青を入れたうえで開放すべきです。少なくともどなたかが交渉に行くべきでしょう。」


立見「どうやるんだ。使者が殺害される恐れがあるんだぞ。」


田中「各所に連絡を。気球の係留索 (海軍出身の気球操縦手が気球のロープをこのように呼ぶのでこの名称が固定された) を放し、南に向けて漂流させます。そこからビラをまき、降伏を勧告。係留された気球は南部に展開中の部隊に拾ってもらいます。ガスを抜きつつ気球からも係留索を下してもらえば行けるかと。降下すれば行けるかと。」


立見「ビラはどうする?」


田中「謄写版を使用して量産すれば行けます。紙でなくとも気球隊の補修部品にある布を使用すれば散布は可能です。」


立見「謄写版なんてあるのか?」


田中「気球隊の人員教育のために使ったものの残りを備品の中に混ぜてあります。」


 とりあえず立見は上に気球による降伏要請の散布を具申。散布することは決定された。

 だがその散布は明朝と決まった。そして包囲には穴があった。清国軍はその穴から夜のうちに逃げ出していった。


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