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日清戦争 -32 助攻の策

 

 1894年10月23日 鴨緑江

 日本陸軍第1軍は多大な苦労をして朝鮮と中国の国境である鴨緑江と言われる川まで進出した。

 戦闘行為において渡河作戦は攻撃側に不利に働く。川を超えるには浅いところを選んで川の流れに逆らって進軍するか、既設もしくは応急の橋、小さな船を使用してのピストン輸送をしなければならない。

 水中という移動に時間がかかる領域で長期間砲火を浴びることや移動の際に兵力が集中するのでそこで集中砲火を受ける。たとえ渡れたとしても川の向こうだけを見れは孤軍。適切な後攻めなくしては包囲殲滅の危険すらある。

 第1軍が行う鴨緑江渡河作戦その先鋒は双方の本隊が布陣している領域から距離の離れた上流に布陣していた佐藤大佐が率いる連隊だった。つまりは平壌で名将立見尚文と共に平壌北東部より清国の名将左宝貴と正面切って戦った旧元山支隊である。

「また貸し出されですか…」

 その付近に佐藤大佐は陣を敷く。砲兵隊の指揮をしやすいように付近には砲兵隊が配置されている。そして、そこにまた彼らはいた。

 臨時気球隊。海軍より操縦士として予備役編入されていた士官と再び砲兵から士官を観測員として迎えた。だが気球に関してはいずれもシロウト。実質的な指揮は経験のある下士官兵と民間技術者になる。技術者には指揮権はない。だからこそ今回の場合、信用できる下士官とのつながり、下士官に協力してなすべきことをやるしかない。

 今回の場合、信頼できる下士官とは気球隊の再建時に唯一(ほかの下士官を配備すると先任関係及び年齢で自由な指揮権を事実上喪失する恐れが高いから) 再配備された下士官。それが田中義三だった。

「田中君。」

 気球隊の位置は砲兵隊よりも佐藤大佐の連隊司令部に近い位置に置かれている。むしろ、佐藤大佐の本陣内にあるといってもいい状況だ。だからこそ直接声をかけてこられる距離にある。

「わかっています。敵陣の動きは確実にとらえます。精密なる支援砲撃で歩兵隊の渡河を確実にします。」

「そうだ。その通りだ。信号旗を垂らせ。突撃命令だ。」

「了解!!」


 気球

「まさか再び国家に奉仕できる時にこんな代物を任されることになるとはな。」

 操縦をする海軍からの出向軍人がつぶやく。

「石黒サン…私と同じ任務を帯びた私の先任者は平壌で戦死しました。操縦はお任せしているのです。集中してください。先の戦いでも戦局を変えた気球はあなたの腕にかかっているのですから。」

「すまんな若造。だがな海の風と陸の風は違う。あの地上の若造がこれを扱っても同じことになるかもしれん。」

「ですが、田中二等軍曹にも私にも先導気球で風を見ることなどできません。それが見られるのですからその分は操縦適性があると思います。少なくとも返品された方々よりは。」

「そうか。国家の役に立てることを喜べだな。ここに来られなかった連中のためにも!!」


 佐藤大佐

「対岸の敵軍。渡河地点での迎撃射撃を行う模様。位置座標は!!」

 田中が気球から伝えられた情報を黒板でメモしたうえで掲げながら叫ぶ。

「砲兵に直接伝えて榴散弾で支援してやれ。」

 付近では佐藤大佐の部下が地図にある駒を動かす。

「石黒サンは歩兵隊の動きを見てください。少尉殿は敵砲兵を探してください。敵砲兵も味方砲兵への攻撃を行う可能性があります。」

 電話で上空の気球に伝える。

「田中二等軍曹殿。どうしてそのような指示を?」

 ついてきていた一般人が聞いてくる。新聞記者である。

「敵も我々も山地に司令部陣地を置いている可能性が高い。山地を見てみてください。あの山林で敵の位置が見えると思いますか?」

「いいえ。わかりません。」

「我々も敵の砲兵も同じです。山林に隠しています。だからこそ一撃目をするまで砲兵の位置がわからないのです。」

「ではなぜ砲兵を探すのですか?」

「敵にあれがありません」

 田中は上空の気球を指さす。

「我々はあれから敵を見て砲撃することができます。清国軍にはありません。だから清国砲兵はこちらを直接視認してないと砲撃できないんです。いくら砲を隠していても射撃するときには敵から発見される可能性が上がるのです。だからこそ砲撃前に発見して先手を打ち、攻撃をつぶす。そうでないと歩兵に余計な死人が出る。」

「なるほど…」

 記者がメモを取るがその後ろから声がする。

「田中君。余計な死人ではないぞ。本来死人になるはずだったものを救うことになる。あれは本来予定外の代物だからね。」

 佐藤大佐の部下の一人である。事実上佐藤大佐の発言に近いかもしれない。

 直後、一つの清国砲兵陣地と思われる地点が判明する。やはり山林に一角。

「榴散弾では樹木に威力を減衰されかねないと思われます。」

佐藤大佐に報告を入れる。

「榴弾で数発撃ちこんでやれ。牽制だ。」

「了解。」

 だが砲撃した地点ではないところからの砲撃。

「空振りか!!」

 田中が叫ぶ。だが周りの視線は不審なものを見る目だ。当時野球は一般的なものではない。

 だが日本の砲兵が砲撃地点を砲撃するとはじめ砲撃した地点からの砲撃が来る。だが射撃速度、精度は悪そうだ。どうやらダメージが入っている影響のようだ。

「敵の砲兵陣地にそれぞれ役割分担をしたうえで砲撃継続を具申します。」

「やってやれ。砲兵を沈黙させないと一撃が怖い。」


 そのころ前線では敗走中の清国歩兵に代わり、機動力のある騎兵が前進する。

 どの国でも騎兵は精鋭である。教育に時間がかかるからこそ、損失を忌避する。損失しないようによい装備が回される。それがさらに騎兵の精鋭化を増進する。

 日本歩兵の主力は単発式の村田銃。清国軍の精鋭部隊は輸入品の複数発をまとめて装填できる連発銃。

 騎兵隊の数が劣っていてもここの戦闘能力では勝っている…はずだった。

 ここで圧倒したのは日本側の射撃精度だった。日本側は装填に時間がかかる制約上、1発に対する集中力が違った。

 さらに日本側には利点がある。清国騎兵は馬に乗っている関係上大きな的になる。

 腕のいい射手と大きな的。その勝利は偶然ではない。

 渡河の拠点橋頭保の確保は終わった。ここで佐藤支隊の司令部が渡河を開始する。

「気球隊と砲兵は(短時間での) 渡河できんだろ?進軍も歩兵に比べて遅い。作戦通り砲兵と共に下流の第1軍総司令部に帰還してくれ。」

 佐藤大佐は渡河と進軍の妨げになる砲兵とその護衛、気球隊を切り離す。しかも川による安全を確保された領域での進軍は安全確保の斥候が不要な分、速度が上がる。

「うまい。佐藤大佐が主戦場に到着する前に砲兵隊と気球は本隊に合流できているということですね。」

 気球隊に随伴する新聞記者に説明すると記者は驚きとともに理解する。

「半分正解です。正確には作戦開始に間に合うようにです。佐藤大佐の本隊、我々双方とも主戦場に上流側側面を叩く。ということで手伝ってくださいね。」

 笑顔で荷物を新聞記者に押し付けるのであった。


 石黒さんは1892年ごろの海軍の大規模なリストラでリストラされた人物という設定です。

 そして史実よりも1日佐藤大佐の攻撃開始が早まっている。


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