日清戦争 -28 黄海本番
日本艦隊は第1遊撃隊、本隊の二手に分かれ、清国艦隊を攻撃する。第1遊撃隊4隻、本隊残存5隻。計9隻だ。日本側には戦闘開始から複数の脱落、戦線離脱艦を生んでいる。清国側は被弾したが、沈没、戦線離脱した艦はない。本隊総数10隻、別動隊総数4隻。
素人目には日本艦隊不利と見えるだろう。しかし、現実は違う。日本側の離脱艦は足手まといと言える性能しかない船がほとんどだった。戦力自体は低下したが、戦力の運用効率ははるかに向上した。
特に第1遊撃隊は敵に勝る速力にて常に有利な位置をしめようとした。
清国艦隊には第1遊撃隊の旗艦である吉野以外より高速艦は存在した。だがそのような船も他の低速艦と合わせての行動を強いられた。
高速艦を生かし切れていない。日本は高速艦を生かし切った。これは日本の伝統戦術になる。
この中、驚くべきことが起きた。
清国軍艦 済遠 の逃走である。日本艦隊…特に清国艦隊西…この海域から見て清国海軍基地旅順方面に展開していた第1遊撃隊がある意味隙を作ったような形である。その隙をついて済遠が逃げる。
それにつられて一部の艦も逃走を始める。この時の済遠の被害は軽微。逃走する理由が清国艦にはわからなかった。
だが、それにつられて逃走する艦、戦力が分散したために攻撃が集中。沈没する船が出始める。
第1遊撃隊は逃走艦の追撃に移り、本隊は逃走しなかった敵艦…清国艦隊旗艦定遠、その同型艦鎮遠に対する攻撃を継続する。
その中、日本艦隊旗艦松島に清国艦隊で最も威力のある砲弾 定遠級主砲30.5㎝砲弾 が命中した。命中箇所は速射砲が集中している艦前部。砲弾の装薬にも誘爆。大爆発を起こした。
砲員の多くが死傷した。この被害を受けた松島の死傷者数は黄海海戦に参加した日本艦隊最大のものだった。
だが、装甲に覆われた司令部の人間はそれがわからない。継続砲戦を命じる。
甲板では砲員の生き残りや他部署の人間が集まり、生き残った砲の再使用が行われている。
しかし、被害は甚大。事態は遅ればせながら司令塔にも伝わる。そしてさらなる被弾が松島を襲う。
被弾は操舵に関する領域に損害を与える。今までのような行動は不能になった。艦隊行動に影響が出る上に、次の被弾次第では爆沈してしまうだろう。
不菅旗を掲げる。松島も戦線離脱する。そのための行動だ。
すでに清国艦隊はもっとも装甲の厚い定遠級2隻以外が戦線を離脱する行動に移りつつある。
足の速い第1遊撃隊は逃げ出した船の追撃をする。
だが、分散して離脱する清国艦隊の全艦の撃沈は不可能であった。日本側の制海権を得るために清国艦隊を殲滅するという戦略目標は果たすことはできないということに等しい。
日本側の砲兵器は清国艦隊でもっとも装甲の厚い定遠級に致命的な損害を与えることはできない。艦上部構造物を燃やし戦闘能力を奪うことができても沈没までもってゆくことができそうにない。
その一方、清国側の砲撃は日本艦に致命的な損害を与えるだけの威力を秘めていた。
実際、被弾した松島は水兵たちの決死のダメコンにより、弾薬庫を死守。爆沈を免れている。当たり所の運や水兵たちの奮戦がなければ松島は爆沈していてもおかしくはない。
そのことをこの時点で最も知るのは松島座乗の指揮官級。特に伊東中将は主力艦の損失を恐れた。
この戦争で日清双方の国力…海軍力が衰えれば列強の餌食になるという判断だ。
このとき松島が上げた戦闘中止の旗は妥当であろう。これに従い、遊撃隊も戦闘を中止した。
日本艦隊には大損害を受けた艦は存在するが、沈没した船はない。一方清国艦隊は最終的に沈没・損失艦5隻を生んだ。損害だけ見れば一般的に日本艦隊勝利と言える結果だった。




