日清戦争 -3 平穏の地
1894年 6月11日昼 大鳥 圭介
「少尉。君の隊はどうだ?陸軍の体面だけを考えて新兵ばかり20名押し付けられた」
「一人。一番若いのにいろいろ気が付くという若造がいます。」
「田中義三一等卒か。」
「まともに教育を受けておれば十分士官として使えると考えます。戦死はさせられない部下ですね。」
「至急電報を送りたいです。『ケンニチカンジョウキガショウバイノケッカヒドシ』です。」
「なるほどな…田中一等卒の意見か。」
「はい。」
「見事だな。最小の電文で裏の意味を与えるとは。文に美しさはないが、実務上問題はない。わかった。」
「田中が言うにはこの動きには何者かの策動があると読んでいます。なんでも情報は伝える側の利益が含まれている。それを読んでみなければならないとのことです。」
「つまり日本人への反感によって利益を得る人間がいるということか。」
「はい。」
「もう手遅れだな。だが、今後の戦略に生かすべきだな。」
「閣下。この戦争が終わり次第なのですが、私は彼を…」
「戦じゃと?」
「田中はそう申しております。それよりも推薦の件は」
「確かにそうじゃ。それに同意じゃの。賛成じゃ。若もんが未来を創るんじゃ。」
「ありがとうございます。」
第5師団隷下 混成第9旅団所属 先遣隊
「農民の反乱が治まったのにこれ以上いる必要があるんじゃろうか?」
一人の兵士がつぶやく。兵役中の志願兵だ。その場の気に中てられて志願したようだ。兵役中に戦争が起きれば真っ先に戦場送り。ならば兵役中を何とか乗り切れば戦死の可能性は大いに下がる。
「今回の戦を避けられたとしてもまた戦が来る。朝鮮が近代化しなければな。」
「田中…」
「朝鮮の近代化がなければまた同じようなことが起き、戦になる。問題を先送りにするだけ。それは清も同じことだ。」
「戦争になって真っ先に死ぬのは俺らなんだぞ!!」
「次の戦争で死ぬのは誰か?俺らじゃなくて弟やガキどもそしてここにいる日本人だ。」
「しかし、戦は」
「戦の下準備はできよう。少尉殿に予想戦場への偵察を進言しよう。」
と周りを見渡すと少尉がいた。話を聞いていたようだ。田中は気が付いていなかったが。存在を認知すると早速、
「予想戦場に対しての工作を始めるべきです。」
「工作じゃと?」
「例えば…」