日清戦争 -19 平壌の戦2
平壌 南東 第9混成旅団
「平壌を落とすには西、北からの攻撃が重要だ。南と東は河川による防御が厳しい。だが我々が攻勢をかけないと敵は兵力を西と北に回してしまう。攻めるしかない。船の用意はできているな。」
と言いつつも第9旅団は地形的要因や旅団長大島義昌少将の失策により苦戦する。
北西 朔寧支隊および元山支隊
平壌は河川もあり、攻撃口が限られている城塞都市である。その状況では攻撃正面になるであろう地域には優秀な将軍が配置される。双方ともにである。
清側は左宝貴 1851年の太平天国の乱に参戦した経験すらある齢50代の老将。
史実では平壌戦以前より、近代軍である日本軍との力量の差を理解しており、これまで戦ってきた敵と比較して死を覚悟すらしていたほどの人物である。
日本側の指揮官 朔寧支隊 を率いていた立見尚文少将は戊辰戦争の幕府軍側で実際に戦っていた人物であり、新政府軍を散々苦しめた。
最終的に幕府軍の敗北により、投降したが、西南戦争をはじめとする旧士族階級の内乱に際して明治政府の要請により明治陸軍に参加した。特に西南戦争では西郷隆盛の死の原因 (戦傷による自決) を作った部隊を率いていた。
このような経歴から薩長の派閥政治をきわめて嫌っている。
「早いのぅ!!わしらの準備が整わんじゃないか!!」
輜重兵や人夫で臨時編成した特務部隊と同行する老人が叫ぶ。開戦から数時間で清国側の前衛陣地を陥落させたからだ。
「島津の爺さん。ごたごた言って居る前に移動する!!敵に近い高地が開いたんじゃ。あっちのほうが敵陣地内部を見やすい」
「気嚢に揚気を入れてしもうたんじゃ!!」
「じゃったら浮かせたまま移動するんじゃ。みんな縄を持て!!放したら爺さんどっか行っちまいぞ!!」
周りの人夫が気合の声を上げる。
「工兵隊も電線敷設を急がせてください。本陣に砲兵と本陣の移動を要請してください。」
内容を聞くと伝令兵が走る。周りの人夫たちも綱を引いて走る。
「まるで凧揚げじゃわい…」
その様子を回顧した人夫の一人はそう語ったという。周りの男たちが少年のように目を輝かしていたとも語ると同時に
西 第5師団主力
「平壌城西側にある山地を夜間に占領できなかったことは痛かった。」
第5師団主力は史実でもこの世界でも作戦開始には数時間遅れた。これは作戦に大きな影響を与えた。
平壌城は山の地形を利用した城塞都市である。そのため攻撃側も地形を上手く使わなくてはならない。
事前偵察の結果、西側の防御の要点は山と平野。山から高低差を利用した射撃で平原を血で染める。
山から見下ろす形になる平原を昼間に進む行為はただの射撃の的になる行為である。だからこそここを夜間通過し、山を占領。橋頭保として城塞攻めに移行する必要があった。
しかし、作戦開始の遅れはそれを不可能とした。第5師団主力が戦場に到達したのは日が昇ってからのことだった。
これでは平原を昼間に進むことになる。
「明日にします?」
史実と比して物資に余裕がある日本軍にはその選択肢があった。
「他の部隊の手前もある。消費弾薬、損害次第では明日戦えない部隊も出てくる。それに食料も無限ではない。明日にしても時間差による各個撃破の恐れが高い。仕掛けないわけにはいかない。」
「確かにそうですね。」
兵士たちが的になりかねない平地を進む。当然敵からは銃弾の雨が降り注ぐ。
東 第9旅団 前線
正面からの攻撃を担当する第9旅団は敵の城塞に阻まれていた。旧来の日本城塞でいえば城壁や堀の外にある馬出に相当するであろう陣地に阻まれている。
「弾を持ってきたぞ――」
弾切れした兵士が敵弾の射撃を受けない民家陰で待機していたところに後方から人夫が弾薬をもって届けに来る。史実では補給弾薬すら不足していたので補給すらなく戦っていたことと比較して雲泥の差だったろうが、兵士にとってはより危険な地域に継続配置されることを意味している。どちらがいいのかはわからない。
「大島旅団長からは『敵の有効射程外から狙い打て』との指示だ。敵の射撃精度の低さを考慮しろとのことだ。」
「もっと早くその判断をしろ!!無謀な突撃でいくらの兵士が死んだと思っているんだ。」
「だが、これでまた戦える。」
「確かに敵はへたくそじゃったな。いくら弾があっても当たらなかったら意味がない。」
人夫とともに来た伝令兵(彼も弾薬の輸送をしている) が大島少将の命令を伝える。その場にいた指揮官級の兵士がその命令に対しての一言付けている。
「諸君!!弾薬は少ないんだ!!1発必中を心掛けろ。敵弾の当たらない距離は我々が指示する。」
「砲兵隊は陣地(馬出) と橋(平壌―馬出間の) に対し攻撃をかけろ!!歩兵の支援を忘れるな。」
第9旅団は史実以上の激戦にあり。
北東 清国軍 指揮官 左宝貴
「なんじゃあの球体のものは!!宙に浮いておるぞ!!」
日本に突破された前線陣地からの敗兵を収容した平壌北部では高台に陣取る左宝貴が戦場を見渡している。その戦場に理解しがたいものがあった。
「籠に人がおる…」
左宝貴は目を凝視させて宙に浮く球形にぶら下がっているかごの中を正確に評価した。
「何の役に立つ!!ただのこけおどしよ!!徹底的に敵歩兵をたたけ!!」
持ってきたの気球でした――




