日清戦争 -2 貧困の国
1894年
朝鮮半島で発生した農民の反乱はのちに東学党の乱といわれる内乱となった。
朝鮮王朝はこれを国内で鎮圧することができず、宗主国である。清王朝に派兵を求めた。
日本はこれに対抗して1885年に締結された天津条約を口実に居留民保護を名目に朝鮮へ戦時編成混成旅団8000を派遣した。
行軍完了後の居留民保護部隊 出向第9旅団先遣隊
朝鮮首都 漢城 11日朝
「貧しいな…」
行軍する集落は荒れている。朝鮮人からの視線がひどい。
「朝鮮王朝の腐敗は目を覆いとうなる。と聞くが、それがこれなのか?」
行軍中の仲間がつぶやく。
「だけじゃないと聞いている。」
「なんじゃ?田中一等卒。(出兵に伴い臨時昇進。戦死の前渡しかと冗談で言い、周りを困惑させる。なお、この時期には戦死による特進の風習はなかった。)」
「広島の商店から聞いている。腐敗だけじゃなくて貿易赤字もひどい。」
「貿易赤字?」
「想像してほしい。日本はいろいろなものを外国から買っているだろ?」
「確かに。呉に海軍の鎮守府だっけ?できたけど、海軍の船はみんな外国で作られたもんじゃったな」
「そして日本も外国にモノを売っとる。生糸とかな。」
「ほー」
「金で考えてみて軍艦のほうが生糸より高ければどうなる?」
「金が外国に行ってしまう。」
「金がなくなれば?」
「軍艦を買えなくなる。」
「それが嫌なら?」
「たくさん生糸を売る。」
「まあそうなるな。でも朝鮮は売る物がない。そうなれば食っている米を売るしかない。」
「ほいじゃあこの国の人は自分たちの食べる分を売っとるということかの?」
「そうだ。そしてその米を買っているのは日本人。朝鮮人たちの視線は自分たちの飯を奪ってゆく略奪者を見ているようなものです。」
それを聞いた周りの兵士たちは周りに対して驚きの視線を向ける。
「軍規では略奪を禁じているその理由の一つを知っているならその恐ろしさがわかると思います。」
その発言が彼らの恐怖を増長させる。
「今回の出兵、輜重に関してきわめて重要ですね。報告書には『朝鮮国内の日本人への嫌悪感情飢餓商売の結果酷し、悪化原因となる物資徴発は避けられたし。』という表題を追加すべきと愚考いたします。通信料を考慮して電報には『嫌日感情飢餓商売の結果酷し』で送りましょう。それだけでわかるはずです。」
田中は教育課程で教官に毎度質問を繰り返しており、教官にはその頭の良さを好まれている。軍規の意味についても自分自身の意見を教官に質問しているので同期生のレベルアップにもつながっている。その影響は古参兵にも与えられており、それをも考慮に入れ、志願者の中でも理解度の高い人間が選抜されています。その結果、当時としては高度な会話が成立しています。