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日清戦争 -15 帰国と生

更新忘れてたー

 広島 日本海軍艦 巡洋艦 筑紫

 田中は悩んでいる。例の朝鮮人は見つかりにくいであろう外洋上で処分した。見つかる確率があっても奇跡。傷口から少量の血液が漏れ出るような状況であったから、匂いを嗅ぎつけてサメが寄ってきて証拠隠滅してくれるだろう。だが、その先…このような非道な犠牲を強いてまで手に入れた…作り出した情報をどのように生かすか

「東郷艦長の判断は国際法に準じているのであれば高陛号の撃沈は違法性がない上に清国が英国旗を盾にしたという印象操作もできる。その情報に上乗せできれば…。」

 と軍医の森鴎外に耳打ちはした。

 しかし、古志大隊長の死が病死であるという形で報道されている。だがそれは海軍の初戦豊島島沖海戦と、田中が所属していた大島旅団の初戦である牙山の戦いの勝報によりかき消されていた。

「新聞社に情報を流すか?」

 秋山と呼ばれた海軍士官が聞く。知り合いがいるようだ。

「軍事機密流出になると思う。政府の公式発表でないと、隠していたことと疑われ、正当性が失われる…それにこの状況でそんな新聞記事見出しにでも据えない限り見ない。見出しは政府発表が優先されると思われます。」

「しかし…。」

「ともかく…東京に行くしかあるまい。」


 時を遡り 28日

東京 

「東郷は国際法を順守したうえで英国商船を撃沈しました。当面、英国は騒いでおりますが、それを理解した時点で冷静になることでしょう。」

 高陛号撃沈の報に接し、騒然とした政府の中で落ち着いていたのはのちの海軍大臣山本権兵衛だった。

 しかし世界の大国である英国を怒らせることを恐れた政府は当然

「陸軍の進撃と中止させろ!!」

 と主張するものがいる。

 そこに言葉を挟むは陸軍総参謀長川上操六

「清国が英船を人質や盾にしようとしたようにしたという想像をさせる情報があればよいのでは?」

 川上が差し出した電報と、それに付随するメモを読んだ政府首脳は焦った振りを始めたのであった。


 東京7月31日

「川上参謀長本当にただの一等卒にお会いになるのですか?」

「くどいぞ。彼は宣伝にちょうどいい人材だ。それに例の件の事実上の発案者だ。朝鮮からの有益な情報を複数送るよう進言したそうだからな。政府公式発表と彼が出す証言の矛盾点がないようにするすり合わせが必要だ。」


 同刻田中

(まさか陸軍の重鎮が会いに来る⁉だがこれ以上のチャンスはない。直訴してやる。)

 彼は左腕の添え木をさする。直後、待たされていた部屋の扉が開く。参謀たちが入ってくる。

「第9混成旅団(別名大島旅団) 所属の田中義三一等卒であります。このような姿で申し訳ございません。」

「腕の傷はそこまで深手ではなかったという話ではなかったか?」

「このほうが直りが早いとの診断であります。いち早く戦場に戻りたいと思いまして。」

「腹の傷の養生が先じゃ。」

 参謀たちが笑う。

「古志大隊長の真相を直ちに公表…ブン屋に乗せてください。」

「…」

「公表すれば内外問わず世論は祖国日本の味方になるでしょう」

「…」

「清国は英船を盾にしたのです。この襲撃行動も清が朝鮮人の家族を盾に日本の輜重部隊を襲わせたという方法にすることもできます!!」

 発言には驚きの表情が出る。これが彼が生み出した情報だ。情報証言者を口封じして。海では英船を人質にした。陸では清国民衆を人質にしたという情報を各国にぶつける

 これで清国のこの戦争に対する大義名分は瓦解する。国内世論も清の非道を怒りに変えて大きな力となるだろう。

「今回の戦で最大の奮戦をした第3大隊に関しては『亡き大隊長に捧げる勝利』という見出しが有効です。敵をだますにはまず味方から。古志大隊長の死を病死と公表したことについてはこれで対処できます。」

「…」

「参謀長…」

「…」

「答えてください!!大隊長の死の真相を公表するのかしないのか!!」

 叫ぶと数瞬の間をおいて腕の添え木を抜く。添え木は鞘と刀身に分かれ、鞘が地面に落ちる。ナイフ程度の長さしかない日本刀。いわゆる短刀と呼ばれる代物であるが、最大刃渡り30㎝よりもはるかに短い代物である。

「待て!!」

 川上が周りの部下を制する。部下の手には軍刀、拳銃がいつでも使えるようにしている。内、軍刀持ちは川上の前に出る。

 武器の射程、得物の大きさからしてまず川上自身に危害を及ぼす恐れがない。たとえ投擲されたとしても、軍刀持ちが対処する。その瞬間田中は得物を失う。

 それがわかっているからこその制止だ。圧倒的有利は揺るがない。

「この状況では脅しは成立しないぞ。なぜなら…」

「その程度のことわかっています。」

 川上が説明しようとすると無礼にも田中がその言葉を遮る。

「だから…脅し方はこうです!!」

 田中が刃物の向きを変える。向きは首元。

「待て!!」

 刃物が刺さる前で止まる。

「話を最後まで聞き給え、君の意見は既定路線なのだよ。ま、君がそこまで読んでいること、その上でその策をより効果的にする意見を持っていたことに驚いただけなのだ。」

「既定路線…」

「君が提案した電文『自決ヲ宣伝大義名分トスベキ』を我々は取り入れた。だが、その後の情報でそれをより効果的にする状況ができた。その状況と大隊長の死の時期のずれをごまかすために一時病没と公表した。」

「高陛号撃沈…」

「ここで会うのは君が新聞社に伝える内容にずれがないようにするためである。」

「…」

「さてと話をしようか」


 冷静さを欠いてやらかしてしまう主人公。

 30年後このことを回顧して

「認めたくないものだな若さゆえに過ちというものは」(笑)


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